1000年前の恋人が忘れられない吸血鬼の話

もちえなが

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レン編 同居人が吸血鬼だった話

吸血鬼

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「いっ……!」
 
強い力で床に押し倒され、頭を打つ。

メイの瞳が赤く光り、瞳孔が開いている。
半開きの口から鋭い八重歯が生え、ひどく恐ろしく、美しい獣のようだった。

驚きと恐怖で声も出せずに固まっていると、ポタポタと水滴が顔に落ちる。

「……め、メイ?」

メイの瞳から大粒の涙が流れ落ちていた。

「ユエル……、ユエルなのか?」
「え……?」

ユエルって誰だろう。
そんな名前の人に出会ったことがない。

でも、苦しそうに声を出すメイが哀れで、胸が締め付けられた。

「俺がユエルの味を間違えるはずない」

震える手で長い前髪をかき上げられる。
コンプレックスだった目が久しぶりに光にさらされて、思わず目を細めた。

「あぁ、月の色だ……。なんで気づかなかったんだろう」

そんなこと初めて言われた。
昔、色素の薄い白い瞳を揶揄されてから、ずっと隠して生きてきた。

でも、メイは、いつも僕を褒めてくれるんだね。

泣いているメイを慰めたくて頬を撫でた。

「ぁ、ユエル、ユエル……!なんで……!お前また人間に生まれてんじゃねえよバカ!」
「え……あ、があ、あああああっ!」

肩に思い切り噛み付かれた。
瞬間的な痛みの後に、少しの気持ち良さが混じる。

「ユエル、ユエル……!」

採血をされているときのような脱力感を感じて、腕をだらっと下ろした。
 
メイが泣いている。慰めたいのに、体に力が入らない。
ユエルと呼びながら泣く姿に、心臓をチクっと刺されたような痛みを感じる。

メイにとって大事な人だということは一目瞭然だった。

メイと少しは仲良くなれたと思ったのに、僕は何も知らなかったんだな。
取り乱しながら呼ぶ名前が、僕の名前じゃないことを、少し苦しく思う。
 
でも、メイが何者でも構わない。
僕の大切なルームメイトなことは変わらないんだから。
だから、メイの抱えてる悲しみを、僕に分けてくれたらいいのに。
 
そう思いながら、意識を手放した。
 

 
「ん……」
「レン…!起きたか?」
「あ……メイ?」

目が覚めると、朝になっていた。
僕は自分のベッドに寝かされていて、ずっと側についていたのか、メイが横の地面に座っている。
 
「ごめん、昨日は取り乱して。身体は大丈夫か?」
「…あ、うん。平気だよ」

メイに支えられて起き上がる。
少しくらっとするが、それ以外は問題なかった。

「今日は休んだ方がいい。ちょっと吸いすぎたから」
「……あの、メイ」
「ん?」

「君は、もしかして、吸血鬼なの…?」

吸血鬼。フィクションでよく登場する存在。
人間の血を好み、太陽を嫌う種族。
そんなものが現実に存在するなんて、考えもしなかったけど、昨日の様子を見てそうとしか考えられなかった。

「……うん。怖い?」

メイが静かに見上げてくる。
瞳はもう赤くなくて、綺麗な紫色だ。
口を閉じていて、牙も見えない。
でも、恐ろしいほど整った顔に、納得がいった。

「ううん、怖くない。」
「そ、良かった」

メイが安心したように息を吐いた。
メイが人間じゃないって知っても全く怖くなかった。
むしろ朝が苦手とか、色々なことに納得がいってスッキリした。

それにしても、貧血ってそういうことだったのか。

「メイは、その、人間の食事を食べても大丈夫なの?」
「あぁ。別に血があれば取る必要もないけど、ステーキとかならちょっとは補給できる。まぁ、あとはレンの料理は美味しいから食べたいな」
「あぅ、そう……良かった」
  
メイに微笑まれるとドキッとした。
思わず目を逸らす。

「でも、血が必要なんだね。だるそうだったしずっと飲んでなかったの?」
「あぁ、今は、同意のない吸血はダメなんだ。輸血用のパックとかもあるけど、あまり好きじゃない。」
「そうなんだ……」

吸血鬼界?にはそんなルールとかあるんだな。
まぁ僕も知らなかったくらいだから、存在がバレないようにするためだろうか。
 
「合わない血を飲むと、逆に気持ち悪くて。でもレンなら血は美味しかった」
「え……」
 
「俺、血飲まないとまた倒れちゃうんだ。
だから、レンの血飲ませてくれない?」
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