1000年前の恋人が忘れられない吸血鬼の話

もちえなが

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レン編 同居人が吸血鬼だった話

目覚め

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暗闇の中で、一定の電子音が鳴っている。
呼吸するたび、胸が重い。全身に力が入らない。

「……っ」

声を出そうとしても、空気が抜けるだけだった。

「!先生、意識を取り戻しました」

マスクをした人たちに顔を覗き込まれる。

「レナード・フォスターさん聞こえますか? 」

少し顎を引いてうなずく。
 
「SpO₂安定してます」
「じゃあ、今日はこのまま様子見で」

「あなたは交通事故で、救急搬送されました。
今は集中治療室です」

あ、僕、交通事故に遭ったんだ。
衝撃を感じたこと以外あまり覚えていなかった。

「一時、かなり危険な状態でしたが、もう問題ありません。今日一日様子を見て、明日から一般病棟へ移ります。」

「点滴で痛み止めを入れていますが、何かあれば、ナースコールで知らせてください」
「ぁ……」

あの、メイに連絡できますか?
という言葉を発することができず、医者が部屋を出ていく。

メイの目の前で事故に遭ってしまったし、心配しているかな。
そう思いながら、また瞼が重くなり目を閉じた。



「っ、レン!」
「……ぁ……メイ」

次に目覚めたとき、そこは病室だった。

メイがそばに座っていて、僕が目覚めると顔を覗き込む。
簡易の酸素マスクがつけられていて、少し話しにくいけれど、声は出やすくなった。

少しして医者が来る。

「レナードさん、気分はいかがですか?」
「だい、じょうぶ、です」

聴診器で胸を調べて外す。
 
「問題ないですね。ですが、まだ安静にしていてくださいね。酸素は外しましょう。では何かあればナースコールで呼んでください。」
「はい」

酸素マスクを外される。
ところどころ骨折をしているのか、右腕や左足にギプスが嵌められていた。

「お前の服も持って来たよ。あとクロッキー帳も……ってまだ描けないか」

カバンから衣服やタオルなどが取り出される。
その後メイがクロッキー帳とペンケースを渡そうとして、やめた。
 
「ありがとうメイ……その、僕の不注意で、ごめんね」
「何言ってんだよ。元はと言えば俺のせいだ。ごめん」
「はいはい、二人とも悪いってことで」

黒髪の男性が病室に入ってくる。
あ、この人――

「ユエル、さん……」
「え?」

メイとバーから出てきた人だ。
この人がメイの想い人。

「はは、俺はユエルじゃないよ。メイの友人のオリアスだ、よろしく」
「レン、勘違いしてたのか?」

え、友人?じゃあこの人、メイの好きな人じゃないんだ。よかった…。

「あ、すみません…!ぼ、僕は同居人のレナードです。」
「うん、君のことはよーく知ってるよ」
「え、そ、そうですか」

メイの友人なら僕のことを話していても当然か。
ってことは、この人も吸血鬼なのかな。

「レン、オリアスが色々入院の手配をしてくれたんだ。お前のお爺さんにも連絡してある。」
「あ、ありがとうございます!」
「いーえ。それじゃ邪魔者は消えるよ」

オリアスさんはひらひらと手を振って病室を出て行ってしまった。

「レン……ユエルを知ってるか?」
「え……?」

「誰かは知らない。メイが時々口に出すから気になって……。」
「あぁ、なるほど」

「そういえばさ、お前、俺の絵ばっかり描いてただろ」
「えっ……!!み、見たの?」

メイが目を細めて笑う。
一番見られたくない人にクロッキー帳を見られてしまった!
 
「レンは絵が好きか?」

メイは真顔になってじっとこちらに目を向けると、静かな声で言った。
  
「……うん…僕には、これしかないんだ。絵を描くことしかしてこなかったし、それ以外、何をして良いかもわからない。」
「……」

「僕は絵以外からっきしだし、例え就職できなくても、絵はやめないでいると思う」

「……同じだな」
「え?」

メイが悲しそうに微笑むと、服の中からネックレスを取り出した。

「それ……」
「見た?」
「うん、ごめん」

ユエルとメイの名が刻まれた銀の指輪だ。

「ユエルは1000年前に死んだ」
「え……?」

「俺の伴侶だった。形だけのものだったけど」

そういうことだったんだ。
だから、メイはもう会えなくて、泣いていたんだ。

「そして、レンはユエルの生まれ変わりだ」
「えっ?!!」

「昔、吸血鬼がまだ認識されていた頃、ヴァンパイアハンターって仕事があったんだ。信じられないだろうけど」
「……ううん、信じるよ」
 
「ユエルは、ヴァンパイアハンターで、初めて会った時、俺を殺そうとした」
「え?!」
「もちろん、やり返して俺が殺そうとしたんだけど、そしたらあいつ俺を口説き出して――」
 
そうして、メイとたくさん話をした。
メイは昔の話をなんでも話してくれた。

その時のメイは色んな顔をする。
きっとユエル前世の僕にしかしない表情だ。
あぁ、早く絵が描きたいな。
そう思った。

ギプスが取れるまで、しばらくはそんな穏やかな日々が続く。
 
やっと右手のギプスが外せることになって、お医者さんが右手を触りながら問診していく。

「ゆっくり動かしますね。ここ痛いですか?」
「……いいえ」

「ここは?」
「いいえ」

「指をゆっくり握れますか?」
「……できま、せん」

「何も、感じません」

僕には、右手の感覚がなかった。
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