世界は私に甘すぎる

ゆきもち

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 お母様に頼まれて、お爺様に向けた手紙を書いている。
 父の元へ嫁いできた母は時々自分の顔を見せに実家へ私を連れて帰ることがある。次の休暇もその予定で、こうして伺いを立てるために私が手紙を書くことは少なくない。いまだ10歳の誕生日を迎えていない私は子供用の万年筆でちまちまと文字を書いている。お爺様はたいそう私をかわいがってくれているみたいで、この手紙も喜んで受け取ってくれているらしい。お爺様のもとへ帰ると、毎食御馳走がテーブルに並び、三時のおやつはとびきりにおいしいケーキがだされる。抱き上げられたり、頭を撫でられたり、めちゃくちゃに可愛がられる。普段以上に甘やかされるせいで、お爺様の所から帰ってくるといつも数キロ体重が増えていて、泣きながら私は運動するようになった。脂肪によりこの美貌が失われるのは嫌だ。「太ったってユーフィは可愛いよ」と両親が言う。なんだってこの世界は私に甘すぎるんだ。それじゃあ「悪役令嬢」まっしぐらじゃないかと、せめて自分だけは自分に厳しくしようと気を引き締めた。運動の一環として最近は剣術を習い始めた。此れだけ可愛ければ自衛の手段はあった方がいい。女の子に習わせることに両親は抵抗があったみたいだが、ここは渾身の「甘え上手」で口説き落とした。やっぱり世界は私に甘い。
 手紙が書き終わり、それを持ってお母様の部屋へ向かう。扉を開けると私と同じようにお爺様へのお手紙を書いている母がいた。私に気づいた母は私を部屋に招き入れ、膝の上をポンポンと叩いた。お母様に近づくと脇に手を差し込まれ、私を持ち上げて膝の上に乗せた。
「丁度、私も書き終わるところよ」
 書記机の上に置かれた便箋を折り、私が渡した手紙と一緒に封筒の中へしまう。蝋で封を閉じ、白い便箋を窓の方へ掲げた。
「見ててね」
 お母様に言われた通り封筒を凝視していると、白い光が封筒を包み、鳩が現れた。お母様の手にとまっていた鳩は、開け放たれた窓から羽ばたいていった。
「すごい!どうやったの!」
「そう難しい魔法じゃないのよ」
 お母様は丁寧に「伝書バトの魔法」を私に説明してくださった。紙を鳩に変えて任意の相手へ手紙を届ける魔法らしい。やり方を教えてもらい、私は便箋を1枚貰った。「誰に手紙を届けたいか」を強く思い描き、紙が鳩になるよう魔力を注ぎ込む。手の中の紙はキラキラと輝き始め、お母様が作った鳩より一回り小さな鳥になった。小鳥は羽ばたくと私たちの頭上で旋回し、お母様の手のひらに降りた。お母様が小鳥に触れると小鳥は再び光って元の封筒の姿へ戻った。魔法が成功したことを知り私は喜びの声をあげた。家庭教師から基礎魔法の使い方を習っていたとはいえ、初めて挑戦した魔法が発動したことに興奮と喜びが沸き上がる。
「あらあら!私の子ってやっぱり天才じゃないかしら」
 そういいながら、お母様は私の頭を撫でてくださった。私はでろんと顔を緩ませて、なでなでを享受していたが、ハッと気が付き口を締めた。いけない、いけない、自分に厳しくしなければ。
「ちゃんと鳩が生まれるまで練習しますわ!」
 その日は、ひたすら「伝書バト」を練習し続けた。夕方になっても完成しきれず、蝋燭をつけて夜遅くまで熱中した。まさか、母も召使たちも私のことを「勤勉で真面目ないい子」と噂していることなど知らず、鳩が出来上がったことに喜んでいたのだった。
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