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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

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 翌朝、目覚めるとルードの姿はなくて、ナイトテーブルの上に『行ってきます』と一言書かれていた。おれはベッドから抜けてクローゼットを開け、服を着替えると簡単に身支度を整えて、ふと光合成している蔦を思い出して「おはよ」と声を掛けて撫でる。蔦は嬉しそうにぱちゃぱちゃコップの中で泳いでいた。ルードが水をかえてくれたみたい。

 ちょっとの間撫でて、それから寝室から出て行く。その時にじいやさんに会った。



「おはようございます、ヒビキさま」

「おはよう、じいやさん。……大丈夫、ですか?」



 おれがそう聞くと、じいやさんはふふっと笑っておれの頭をくしゃりと撫でた。メルクーシン家に仕えていたから、男爵に降格したって聞いてどう思ったんだろう……? 複雑だったりするのかな、そう思って聞いてみたけど、じいやさんはただ優しく微笑むだけだった。



「バグは直さないといけませんでしょう?」

「……へ?」



 バグ? この世界にもバグってあるの? とばかりに目を瞬かせると、じいやさんは「それでは」と頭を下げて去ってしまった。……メルクーシン家が正常じゃないことはわかるけど……いや、あの人たちはあの人たちなりに正常のつもりだったのかもしれないけれど。



「ま、いいか」



 じいやさん、割と晴れ晴れとした表情を浮かべていたから、おれは気にしないことにした。さてと、朝ご飯食べたらなにをしようかなぁと考えていると、ニコロの姿を発見した。リーフェがキラキラとした瞳でニコロに話を迫っている。



「おはよう、ニコロ、リーフェ」

「おはようございます、ヒビキさま」

「おはようございます、ヒビキさま。ヒビキさま、ニコロが、ついに!」



 興奮状態のリーフェに、ニコロが「離せって!」って手を振り解こうとしている。ニコロのほうが力強いだろうに、リーフェのことを振り払わないところに優しさを感じる。



「うん、ついに恋人になったね。おれも話を聞きたいから、朝食食べたら中庭でお茶飲みたいな~」

「かしこまりました、お茶菓子もご用意します!」

「あ、こら、リーフェ! ……はぁ……」



 物凄いスピードでリーフェが去っていった。おれはちろりとニコロを見ると、ニコロは手のひらで顔を覆ってため息を吐いた。これはもう、リーフェの質問攻めからは逃れられないだろう。

 ぽん、と慰めるように背中を叩くと、「ヒビキさまも道連れですからね」と言われた。……リーフェに話していないこと……。あ、プロポーズ……。ふたりしてかぁっと顔を赤らめる。リーフェの興味がニコロにだけ向かないかな、なんてことを考えながら食堂に向かって、軽く朝ご飯を食べてから中庭へ向かった。

 中庭は既にリーフェがお茶とお菓子を用意していて、ニコニコとおれを迎えてくれた。そして、おれがニコロを呼びだすと渋々という感じでニコロも中庭に来た。お菓子に気付くと一瞬目を奪われたようで……すぐにハッとしたようにお菓子から視線を逸らす。リーフェの用意したスコーンは確かに美味しそうだけどね……。本当、甘いもの好きだなぁ。

 椅子に座ると、すかさずリーフェがお茶を淹れてくれる。三人分のカップにお茶を淹れて、リーフェも座る。そしてパンっと両手を叩いてそのまま頬の横に持っていき、にっこにこの笑顔で、



「さぁ! 惚気大会開催です!」



 と言った。――の、惚気大会? とおれとニコロが目を丸くすると、リーフェは一口お茶を飲んで喉を潤わせ、興味津々という眼差しをおれらに向けた。



「まずはニコロ! ついに結ばれたのね? おめでとう!」



 持参していたのかクラッカーをパンっと放った。誰にも向けていないから被害はないけれど、いつの間に用意していたんだろう。



「おまえ、それいつから仕込んでたよ……」

「ニコロとお茶する機会があればやろうと思って、ポケットに入れたままだったの」

「リーフェは一番応援してたもんね……」



 サディアスさんを。口に出さずにそう言えば、ニコロは「はは」と乾いた笑いを浮かべている。それでも、ちょっと照れが混じっているように見えるのは、気のせいじゃないだろう。



「いやもう昨日のアシュリーさまとニコロの雰囲気がすごかったわ。すぐにふたりが付き合いだしたってわかったもの」



 うっとりと目を閉じて手を組むリーフェ。確かに昨日のサディアスさんとニコロの雰囲気は柔らかくて、今までのどこか怯えて逃げていたニコロと、必死になって追いかけるサディアスさんの雰囲気とは全然違う。

 そして、リーフェは目を開けてニコロの左手に巻き付いているチェーンのブレスレットを指した。



「そしてそれ。今まで一度もアクセサリーを身につけなかったニコロが! ブレスレット! アシュリーさまからの贈り物でしょう?」



 私にはお見通しよ! とばかりに話すリーフェに、ニコロはスコーンを手にしながら迷うように視線を動かして、イチゴジャムの蓋を開けるとこれでもかとスコーンに乗せた。いくらなんでもそれは乗せ過ぎだ。

 おれもスコーンに手を伸ばしてそのまま食べる。美味しい。けど、口の中の水分が持っていかれるからすぐにお茶を飲む。



「……そうだよ」



 悪いか、とばかりに言って、スコーンを頬張るニコロ。リーフェは目をキラキラと輝かせて「やっぱり!」と声を出す。リーフェもスコーンを手に取ってぱかっと半分に割って、サワークリームとブルーベリージャムを付けて食べた。幸せそうだ。



「そしてヒビキさま、ルードさまにプロポーズしたって本当ですか!?」

「どっから回ってくんの、その情報!」



 話していない、話していないぞ、おれは! リーフェはにこにこと笑って「とある伝手から」と言った。……メルクーシン領に居たんだもんな……そりゃ友人のひとりやふたり居てもおかしくないか……。あのパーティーの中に居たかは知らないけどさ。



「まぁ、うん。したよ、プロポーズ。おれから」

「その後、陛下の前で隊長がプロポーズしましたよね」

「まぁ! 羨ましいわ、ニコロ。二回もルードさまとヒビキさまのプロポーズを見られるなんて!」



 ……昨日三回目のプロポーズを受けたと言ったらどんな反応をするんだろう、リーフェとニコロ。言わないけど。



「でも一回目はメルクーシン家だったから、あの場にリーフェが居たらプロポーズじゃなくて普通に修羅場が始まったと思うぜ、俺は」

「……ヒビキさまから多少お聞きしましたが、本当にヤな人たちですね……。アシュリーさまとおじいさまが味方で良かったです」



 リーフェが明け透けにそう言うもんだから、思わず笑ってしまった。こういう素直なところがリーフェの魅力のひとつだ。



「そう言えば、屋敷の下見に行かれたのですよね。どうでした?」

「ここの屋敷より広いんじゃないかなぁって思った」

「部屋数はこっちのほうが多いかな。ただ、王城の近くだから便利っちゃ便利っぽい。商店街に向かう時に、馬車が必要になるだろうから重い物も買いやすくなるんじゃないか」

「そうねー。ワープポイントがあるとはいえ、重い物の買い物って結構大変だったものねぇ……」

「あと、俺としては孤児院も近くなってくれたからな。通いやすくて良い」

「……それも恩返しなの?」

「それもありますが、ただ単に俺が子ども好きってだけですよ」



 ニコロはきっと良いお父さんになるんだろうなぁと思いながらスコーンを食べる。なにはともあれ、ニコロがこうやって自然体で話してくれるのがなんだか嬉しい。



「サディアスさんとニコロのところに来る赤ちゃんは幸せだねー」



 おれがそう言うと、ニコロは真っ赤に顔を染め上げ、リーフェは追い打ちをかけるように「楽しみですね!」と笑った。

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