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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟むそんなことを話しながら屋敷に帰るとリーフェたちが迎えてくれた。ニコロは既にサディアスさんの屋敷に帰ったみたい。いつかサディアスさんの屋敷にも遊びに行ってみたいなぁと思いつつ、邪魔しちゃ悪いなぁとも思ってしまう。
だってサディアスさんからすれば何年越しの成就なのか。積もる話もあるだろうし、今はやめておいたほうが良いよな、きっと。
「ルード坊ちゃん、ヒビキさま。馬車の手配はどういたしますか?」
「……じいやに任せる。そこら辺は好きにしていい」
「かしこまりました。では、こちらで手配致しますね」
じいやさんが恭しく頭を下げて、おれらは寝室に向かった。なにをしようかな、と考えていると、ルードが服を着替えてラフな格好になると、脱いだ服から紙を取り出した。なんだろう、と思っていると、刺繍の図案のようだ。
「これは?」
「クリスティ嬢から渡された。この刺繍を入れて良いかと。ヒビキに見せてから答えようと思って、持って来た」
そう言われて渡された刺繍の図案とルードを交互に見て、シャノンさんすごいなぁと心から思った。花、なんだろうけど……こんな花あったっけ? それとも、シャノンさんが考えた花?
「私とヒビキのイメージした花、らしい。見事なものだな」
「やっぱりこれシャノンさんの考えた花!? すごっ!」
「刺繍糸は金色と銀色を使うらしい。……ヒビキはどう思う?」
「え、良いと思いますけれど……。なにか問題があるんですか?」
ルードは「いや」と首を横に振る。そして、おれを見るとぽんぽんと頭を撫でた。そして優しい眼差しでおれを見ると、すっと視線を図案に移す。
「――『ホシナ』の家紋になる花だ」
「……!」
そっか、これから貴族になるから家紋の花が必要になるのか……! 思わずじっと刺繍の図案を見る。
「本当は結婚する前に苗字を変えられることは滅多にないんだ。今回は特例みたいなものだな」
「なんだか不思議な感じがしますね……。この世界でおれの苗字が継がれていくのかぁ……」
図案をじっと見ながらそんなことを口にすると、ルードが黙ってしまった。どうしたんだろうと思ってルードの顔を見たら口元を押さえて頬を赤く染めていた。おれが首を傾げると、ルードはふっと表情を和らげてそれからおれをぎゅっと抱きしめた。
「無自覚なのもすごいな」
「ルード?」
「いや、なんでもない」
どこか弾んだように聞こえるルードの声。おれ、そんなに喜ばせるようなことを言ったんだろうかと自分の発言を振り返り――あ、と思った。
苗字が継がれていくってことは、ルードとおれにコウノトリが来るってことじゃん……! 午前中にニコロとじいやさんとそんな話をしていたから、つい出てしまったのかもしれない。
「……もし……、もしも、コウノトリが来たら……。私は、ちゃんとした親に、なれるだろうか……」
メルクーシン家を思い出しているのか、寂しさと不安を纏った声をしていた。おれはぎゅっと彼の服を掴んで、それから、出来るだけ優しい声になるようにゆっくりとルードに語り掛ける。
「ルード、ルードは、どんな親になりたいですか? 正直、おれもちゃんとした親になれるかはわかりません。でも、ルードと一緒なら大丈夫なんじゃないかなって思うんです。だって、ルードはおれのことをたくさん愛してくれているでしょう? えっと、だからおれは、その愛をコウノトリが運んで来るかもしれないおれらの子どもに与えたいなって。それに――おれらの子なら、きっとみんな可愛がってくれると思いますし……。ええと、だから……っ、ルードが愛情深い人だって、おれは知っています。その愛情はきっと、子どもにも伝わると信じたいんです……!」
纏まりのないおれの言葉を最後まで聞いて、ルードはおれから躰を離すと、こつんと額に額を当てた。そして、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私は――、私は、子どもを愛せる、親になりたい……。傍にいて、寄り添い合う家庭を、ずっと夢見て来たんだ」
「きっと、なれます。おれたちなら、きっと。みんなも協力してくれると思います」
「――そうか、……そうだな。そうなら、嬉しい」
ここの人たち優しいし、きっと協力してくれる。子ども、かぁ……。正直まだ本当に来てくれるかはわからないところだけど、もしも来てくれたなら、いっぱい可愛がっていっぱい愛したい。もちろん、悪いことをしたら叱るし、良いことをしたらたくさん褒める。――おれの家族が、そうしてくれたように。
「……それに、コウノトリが来るのは結婚してから、でしたよね。まだおれは結婚出来ない年齢だし、子どもは結婚してから考えても良いんじゃないでしょうか。ルードの心が、ちゃんと子どもが欲しいって思えるまで……」
「……ヒビキは、私のことを随分と尊重してくれるんだな……」
「尊重って言うか……、だっておれ、ルードが好きだから。好きな人の望みを叶えたいって思うのも、幸せにしたいって思うのも、自然なことなのでは……?」
「……私一生、ヒビキに敵わないかもしれない……」
「えええ?」
額に額を当てたままそんなことを話すおれらに、蔦が「なんの話してるのー?」とばかりに伸びて来た。おれとルードは蔦を撫でて、小さく笑い合う。ぐぅ、とおれのお腹が鳴った。おれがお腹を押さえると、ルードがふっと笑って、「ご飯食べに行こうか」とソファから立ち上がる。そして、おれに手を差し伸べてくれた。おれはその手を取って立ち上がり、一緒に食堂に向かった。
夕食はビーフシチューだった。ふわふわのパンと、パリパリのバケットが用意されていた。ここでもマルセルさんのパンへの拘りがわかる。どっちも食べたけど、おれはパリパリのほうが好きだった。ビーフシチューと一緒に食べるとパリパリのバケットが口の中で柔らかくなっていく感覚が楽しい。味も美味しいし。
ルードはどっちが好きだったかな、と彼を見ると、ふわふわのパンを手にしていたからそっちのほうが好きなのかなぁと思った。
マルセルさんの作るパンはどれも美味しいから、本当にパンが好きなんだなぁとしみじみ思う。もちろん、他の料理も美味しいんだけどね!
ご飯を食べた後、書庫に向かって本を読んだ。ルードは書庫に空いている棚があることに気付いて、「……増えるのか、本」と呟いた。どうやら書庫はじいやさんが好きにしているみたいだ。
じいやさんは一体どんな本を追加するのか……それもちょっと楽しみではあるんだよね。
「子どもの頃はベッドからほぼ動けなくて、よくじいやたちに絵本を読んでもらっていたんだ。楽しい話、悲しい話、絵本は色んな世界を見せてくれた」
懐かしむようにそう言うルードの表情は、どこか物悲しそうに見えて、おれはそっとルードに抱き着いた。背後から抱き着いて、ぐりぐりと頭を擦りつける。
「ヒビキ?」
「……前に、じいやさんがルードについてきたのはお目付け役って言っていたことを思い出したんですが、じいやさん、お目付け役というよりは、ルードの保護者としてついてきたんじゃないかなぁって」
ルードに対して、一歩引いたような態度を取っていたじいやさんだけど、メルクーシン家でのことを話したら静かに怒っていたように見えた。それだけじいやさんはルードのことを大切に思っていてくれているんだ。
「それを聞いたのは、まだこっちの世界に来てから間もない時だったから、じいやさんたちの事情を知らなくて……。そのまま鵜呑みにしていたんです。今は、リーフェに聞いて事情を知っていますが、右も左もわからないおれに気を遣ってくれていたんだなぁ、と。……じいやさん、優しい人だから」
「……教える時はスパルタだけど?」
「……それは否定しませんけどね!」
特にテーブルマナーは厳しかった。文字の読み書きは優しかったけど。
「……そんな優しい人たちに育てられたルードが、子どもの愛し方を知らないとは思えないんです。だってルードは愛されることを知っているから。ってことを、さっき伝えられなかったなぁって思って」
おれの拙い言葉でどのくらいルードに届くかはわからないけれど、ルードはおれの腕を解くとおれのほうを向いてぐっと腕を引き寄せ、ぎゅうっと抱きしめた。おれもルードの背中に腕を回して抱き着く。
ルードの胸の中が、一番落ち着く場所かもしれない。
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