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season2
141話:看板がある理由
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先に進むと、また紅葉の木の根元に看板が立っていました。
『鞍馬山に配属希望です』
『鞍馬山は現在、新規募集をしておりません』
「配属希望って、会社か何かか?」
「ですかねぇ?」
そんなことを言いながら山道を歩いて行きますと、次の看板がありました。
『下駄の鼻緒が擦れて足が痛いです』
『履く前に下駄の鼻緒をよく揉み解してから履きましょう。絆創膏を支給しますので活用してください』
「これって全部、誰かの質問と回答なんだな」
「はぁ、はぁ……そうですね。ところで……少し休憩しませんか」
「なんだ、もうバテたのか。ジェルは体力無いなぁ」
看板に気をとられて気付いていませんでしたが、振り返って見てみるとなかなかに急な山道なのです。
「どうりで、息が切れるはずですよ……」
しかし、この看板たちは何なのでしょう。
わざわざ誰も来ない山奥で、いちいちこんなQ&Aを書き連ねる意味が本当にわかりません。
ワタクシ達は持参した水分をとり、呼吸を整えながら看板の内容を振り返りました。
とりあえずわかったのは「鼻が伸びなくて悩み、鞍馬山に配属希望の下駄を履く何者かが居て、それをサポートする存在がある」ということです。
「お兄ちゃん、さっぱりわかんねぇんだけど」
「とりあえず看板は他にもありそうですし、行ってみましょうか」
こうしてワタクシ達は看板に導かれるまま、山頂へと続くと思われる道を登り続けたのです。
「おや、道が分かれてますよ」
一方は急な山道で、もう一方は比較的なだらかなように見えます。
「どっちに進めばいいんだ?」
「できれば、あまりキツくないルートだとありがたいのですが」
どちらに行くか相談した結果、ワタクシの体力に合わせてなだらかな道を行くことにしました。
もちろんその先にも看板はあります。
『隠れ蓑(みの)が盗まれたり燃やされたりしないか不安です』
『盗難に関しては、随時調査いたします。現在、難燃性の物を開発中です』
「長い鼻、鞍馬山、下駄、隠れ蓑……なるほど、わかったかもしれません」
「えっ、マジか」
「残念ながら、埋蔵金の暗号では無さそうですが。その代わり珍しい方に出会えるかもしれませんね」
「そうなのか。あっ、あっちにも看板があるぞ!」
アレクが指差した山頂には白い看板らしきものが見えました。
「くっ……坂が急でとてもつらい……」
「ほら、お兄ちゃんの手掴んでいいから、頑張れ」
ワタクシはアレクに手を引っ張ってもらいながら最後の力を振り絞って、山頂へ到達しました。
視界が開けて、汗をかいた首筋に風が吹き抜けます。
「ハァ、ハァ……疲れた…………」
「ジェル、よく頑張ったな。ふぃ~、風が気持ち良い~」
「最後の看板は――」
『トミ子さん、栄作さん、洋平さん今日もお疲れ様でした。師匠に花丸スタンプをもらって帰りましょう』
「トミ子、栄作、洋平⁉」
「あの下の看板にあった名前ですね。しかし師匠に花丸スタンプとは……」
どういうことか考え込んでいると、バサバサと大きな鳥が羽ばたくような音がして、びゅぅぅぅと風が吹きぬけました。
「ふむ、見慣れない人間であるな」
その声に振り返ると、下駄を履き山伏の姿をした、真っ赤な顔に長い鼻の男性が立っていました。
その姿は山に住むという天狗に違いありません。
「あなたは、天狗さまでいらっしゃいますね」
ワタクシの問いに、男性は手にしている錫杖をガシャンと鳴らしてうなずきました。
「いかにも。この天狗の修行場に、見慣れない人間がやって来たので様子を見に来たのだ」
「天狗の修行場?」
聞けば、ここは見習い天狗たちが修行の為に登り下りしている山なんだそうです。
「なるほど。一番最初に見た看板は、その見習い天狗たちの名前だったんですねぇ」
「なぁ、天狗さん。だったら他の看板は何の為なんだ?」
「ご意見箱に寄せられた見習い達の意見に対する、上位の天狗達の回答だ。一人前に育つまで手厚く支援するのが上位の役目なのでな」
「要はスーパーとかに貼ってある「お客様の声」みたいなもんか」
「アレク、そのたとえはどうかと思いますが」
「他の道にも看板はあるので、もし興味があれば見て行くと良い。ではさらばだ――」
天狗はそう言い残して消えました。
それからアレクが“他の看板も見に行きたい”と言い出したのですが、ワタクシはもう体力の限界で、これ以上確認する気にはなりませんでした。
「謎の看板の正体は天狗の仕業だった、なんて誰も信じないでしょうねぇ」
ワタクシは苦笑いしながら、家に帰る為の魔法陣を描き始めたのでした。
『鞍馬山に配属希望です』
『鞍馬山は現在、新規募集をしておりません』
「配属希望って、会社か何かか?」
「ですかねぇ?」
そんなことを言いながら山道を歩いて行きますと、次の看板がありました。
『下駄の鼻緒が擦れて足が痛いです』
『履く前に下駄の鼻緒をよく揉み解してから履きましょう。絆創膏を支給しますので活用してください』
「これって全部、誰かの質問と回答なんだな」
「はぁ、はぁ……そうですね。ところで……少し休憩しませんか」
「なんだ、もうバテたのか。ジェルは体力無いなぁ」
看板に気をとられて気付いていませんでしたが、振り返って見てみるとなかなかに急な山道なのです。
「どうりで、息が切れるはずですよ……」
しかし、この看板たちは何なのでしょう。
わざわざ誰も来ない山奥で、いちいちこんなQ&Aを書き連ねる意味が本当にわかりません。
ワタクシ達は持参した水分をとり、呼吸を整えながら看板の内容を振り返りました。
とりあえずわかったのは「鼻が伸びなくて悩み、鞍馬山に配属希望の下駄を履く何者かが居て、それをサポートする存在がある」ということです。
「お兄ちゃん、さっぱりわかんねぇんだけど」
「とりあえず看板は他にもありそうですし、行ってみましょうか」
こうしてワタクシ達は看板に導かれるまま、山頂へと続くと思われる道を登り続けたのです。
「おや、道が分かれてますよ」
一方は急な山道で、もう一方は比較的なだらかなように見えます。
「どっちに進めばいいんだ?」
「できれば、あまりキツくないルートだとありがたいのですが」
どちらに行くか相談した結果、ワタクシの体力に合わせてなだらかな道を行くことにしました。
もちろんその先にも看板はあります。
『隠れ蓑(みの)が盗まれたり燃やされたりしないか不安です』
『盗難に関しては、随時調査いたします。現在、難燃性の物を開発中です』
「長い鼻、鞍馬山、下駄、隠れ蓑……なるほど、わかったかもしれません」
「えっ、マジか」
「残念ながら、埋蔵金の暗号では無さそうですが。その代わり珍しい方に出会えるかもしれませんね」
「そうなのか。あっ、あっちにも看板があるぞ!」
アレクが指差した山頂には白い看板らしきものが見えました。
「くっ……坂が急でとてもつらい……」
「ほら、お兄ちゃんの手掴んでいいから、頑張れ」
ワタクシはアレクに手を引っ張ってもらいながら最後の力を振り絞って、山頂へ到達しました。
視界が開けて、汗をかいた首筋に風が吹き抜けます。
「ハァ、ハァ……疲れた…………」
「ジェル、よく頑張ったな。ふぃ~、風が気持ち良い~」
「最後の看板は――」
『トミ子さん、栄作さん、洋平さん今日もお疲れ様でした。師匠に花丸スタンプをもらって帰りましょう』
「トミ子、栄作、洋平⁉」
「あの下の看板にあった名前ですね。しかし師匠に花丸スタンプとは……」
どういうことか考え込んでいると、バサバサと大きな鳥が羽ばたくような音がして、びゅぅぅぅと風が吹きぬけました。
「ふむ、見慣れない人間であるな」
その声に振り返ると、下駄を履き山伏の姿をした、真っ赤な顔に長い鼻の男性が立っていました。
その姿は山に住むという天狗に違いありません。
「あなたは、天狗さまでいらっしゃいますね」
ワタクシの問いに、男性は手にしている錫杖をガシャンと鳴らしてうなずきました。
「いかにも。この天狗の修行場に、見慣れない人間がやって来たので様子を見に来たのだ」
「天狗の修行場?」
聞けば、ここは見習い天狗たちが修行の為に登り下りしている山なんだそうです。
「なるほど。一番最初に見た看板は、その見習い天狗たちの名前だったんですねぇ」
「なぁ、天狗さん。だったら他の看板は何の為なんだ?」
「ご意見箱に寄せられた見習い達の意見に対する、上位の天狗達の回答だ。一人前に育つまで手厚く支援するのが上位の役目なのでな」
「要はスーパーとかに貼ってある「お客様の声」みたいなもんか」
「アレク、そのたとえはどうかと思いますが」
「他の道にも看板はあるので、もし興味があれば見て行くと良い。ではさらばだ――」
天狗はそう言い残して消えました。
それからアレクが“他の看板も見に行きたい”と言い出したのですが、ワタクシはもう体力の限界で、これ以上確認する気にはなりませんでした。
「謎の看板の正体は天狗の仕業だった、なんて誰も信じないでしょうねぇ」
ワタクシは苦笑いしながら、家に帰る為の魔法陣を描き始めたのでした。
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