風の聖女は護れないっ! ~聖女の力を分けた結果、聖女は“あほの子”になった~

笹色 ゑ

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59 火急の知らせ

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 魔法は普通、魔力を持つ者がコントロールして力を発現させる。

 まだ解明がされていないことが多く、今の学説がいつか覆る可能性もある。今、まさに学説を揺るがすような事象を観測した。

 スオウ男爵には、できるだけ淡々と説明したが、この結果が出た時にはついて来ていた研究員と徹夜で議論したほどだ。

 本当ならば一枚確保しておきたいところだが、信頼を失う可能性を考え、手に入れた三枚を差し出した。

 二枚は同様の効果だが、一枚は弱かった。理由は劣化版のコピーだったことのようで、耳で聞いてわかるレベルで音質が悪かった。

 魔力量別に確認した結果、属性と魔力量、それに体調によって効果に違いがあった。

 一番左右したのは睡眠不足の有無。普段から不眠のものは一瞬で寝落ちした。とても爽快に目覚めたとのことから、その者が一番このレコードの返却を残念がっていた。ただ、慣れるのか睡眠不足が解消されたからか、効果は減っていくようだった。

 次いで風属性と水属性、それに炎属性には効果が比較的はっきりと出たが他の属性には効果はあるが三つの属性よりも緩やかだ。

 ただ、例外として僕には効果が薄かった。魔力量が一定値より高ければ効果が薄い可能性があるが、これは僕以上の魔力量の人が周りにいないから仮説でしかない。

「それで、アリア嬢を保護した方がいいと言うのでしたら引き受けますが、奔放な方のようですから、完全に安全の保障はできませんが……」

「………それは、まあ」

 スオウ男爵が、苦く納得した顔を顔された。

 口にはしないが、少し父の面影を見てしまった。母はたまにどうしてそうなったと言うことに巻き込まれる人だ。それに振り回されるが、結果的に言えの利益になって今は無駄に多大な資産を持っている。

「どのような関係かは存じ上げませんが、アリア嬢の存在自体が大切ならば、ご自身で守るのが一番安心だと思いますよ。今私が保護すると言っても、研究に参加と言いつつ利用することが前提になってしまいますから」

 それまで控えていた気配が薄い男へスオウ男爵が目線を向けた。それだけですっと退席する。何か命じたのか、人払いのためかはわからない。

「私では、アリアにはふさわしくないのです」

 人生相談くらいは聞いてあげよう。

「こちらはそれほど爵位が重要ではないと聞きました。現に長らく婚約もされて、収入もかなりあると思いますが?」

 アリア嬢がふさわしくないと言われれば納得もできるが、彼がふさわしくないと言うのは理解ができない。

「……そういった事ではなく、人としてです」

 母が、侯爵夫人とか無理とたまに癇癪を起すが、そんな感じだろうか。

「ナツメ殿であれば、家柄も人格も能力も足ると」

「評価いただけたのは嬉しいですが。残念な知らせを一つ。私は公爵家を継がず、母のもつライラック伯爵を継ぎたくて水の大量生成技術を開発したいんです」

 公爵と伯爵はブルームバレー国では大きな違いがある。

 スオウ男爵が求めるだけの庇護は伯爵では与えられない。

「ふさわしいかどうかはわかりませんが、結局はスオウ男爵の能力と、アリア嬢の気持ちの問題だと思いますよ。少なくとも、アリア嬢はあの行動に怒っていましたから」

 まあ、キレるのも理解はできるが貴族令嬢としてはどうかと思う。貴族基本感情をあらわにしないものだ。

 あの時に投げ捨てた黒い魔法石のチョーカーについて聞くのはもう少し信頼関係を築いてからの方がいいだろう。少なくとも、アリア嬢を害するために付けさせているとは思えない。

「アリアのレコードに関してはこちらでも研究をしますが、ソレイユ家の魔力の基礎研究には興味がありますから、魔法陣の研究と共にできればと考えています。いかがですか」

 その後少し話して提案がされる。

「もちろんです」

 研究の成果やそれに対する金銭の発生時などは後日契約書を作ることで同意する。

 ソレイユ家は研究を金にしてきた。目的は金ではないが、金がなければ研究ができない。その点はおばあ様たちが上手く役割分担をしていた。

「ヴァーナード様。至急知らせが」

 さっき退席した男がノックの後、答えを待たずに入ってくる。

「アリア様が、王宮に連れていかれたと連絡が」

 耳打ちした言葉だが、聞こえてしまった。そしてスオウ男爵は苦い顔をしていた。


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