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しおりを挟むアリアは面倒事を持ってくる。
商売のための交友も派閥争いも受けて立つが、誰が王になるかの派閥争いはごめんだ。
ヒュミライザの離宮に行ったあと、王宮へ出向き言い訳をさせられる。これまでは国王との接点は納税程度だったというのに。
「ヴァーナード?」
今はその元凶が屋敷だけでなく会社にも出没するようになった。
アリアが社長室にやってくるとドアからのぞき込んでいる。
優秀な社員は、通してもいいときしかここには入れない。今は簡単な確認をしていただけだ。来客などはない。
「何か用か?」
入出許可をすると、アリアが入ってくる。
「ちょっと時間があったから」
入ってくると勝手に茶を淹れて勝手に茶菓子を並べて座った。
「ヴァーナードも休憩する?」
二人分の茶があるのはわかっていた。ため息をつき諦めて不味い茶を飲む。
話して置くこともある。
「前に揉めた王妃がいただろ」
「えっと、女王様?」
「ああ」
対して興味がなさそうだ。アリアにとってはもう過去の事なのだろう。
「ああ、その人から夜会の招待が来る」
「歌う?」
「歌わなくていい。ただの招待だ。私も同席する」
「そっか……」
ちょっと残念そうにアリアが返す。
「……歌わせないからな」
「………だめ?」
上目遣いにアリアが聞いてくる。
わかっている。
アリアは歌うのが好きだ。歌を聞かせるのも好きだ。
「音楽専攻を受けた結果……、レコードが王妃の手に渡り、ユナの腕が切り落とされかけた。それでもまだ人の前で歌いたいか?」
事実を突きつけると、アリアが目に見えてしょんぼりする。
そんな顔をされても許可はできない。
ほだされた結果があれだ。
アリアにはのびのびと生きて欲しいが、その結果危険になるのならば、少しばかりは我慢をしてでも安全に暮らして欲しい。
「えっとね、夜会とか……行っちゃダメってなってたけど、行っていいの?」
「王妃から直接招待されれば、不参加は難しい」
アリアには社交界には出していない。卒業パーティに関しては言わば予行演習の場だ。それですら婚約破棄を言い出してやらかした。とても出せない。
王妃が回復を示すための夜会だ。正直、出たくないしアリアを出席もさせたくない。
「夜会用のドレスも用意させる」
「うん……。えっとね。ちょっと楽しみ」
「……」
暢気なアリアにため息が出る。
学校に通うようになった時点で、アリアの美貌は隠しようがなかった。いや、目が悪い事を知っていれば手立てはあったろう。そして、あの歌だ。
ただ上手いだけでも問題だが、精神作用を考えればあまりに価値が高すぎる。
唯一の救いは、アリアに強制させられないことだ。誘拐しても歌を歌わせることはできない。
だが、方法がないわけではない……。そんなことは絶対にさせるつもりはないが。
「アリア、夜会用に礼儀作法の教師も呼ぶ。ユナにも上流階級の作法をついでに習わせるからさぼるなよ」
「ゔ、はぁい」
ユナを付けて置けば逃げ出しはしないだろう。
これでも一応は貴族令嬢だ。最低限は教育されているが、いかんせん元が馬鹿だ。もう一度確認させなければ不安で連れていけない。
そもそも、マナーができていたとしても、不安でしかないというのに。
「ご主人様、アリア様の学校の定期試験がありますから、そちらの学習時間もご配慮いただけると」
シファヌが差し出口ですがと付け足した。
「もうそんな時期か……。メイドの仕事は免除するから、代わりにテスト対策の勉強もするように」
「ふ、ふぇん」
勉強すれば、そこまで酷い点にはならないのだ。馬鹿ではないのに
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