風の聖女は護れないっ! ~聖女の力を分けた結果、聖女は“あほの子”になった~

笹色 ゑ

文字の大きさ
69 / 156

69

しおりを挟む


 アリアは面倒事を持ってくる。

 商売のための交友も派閥争いも受けて立つが、誰が王になるかの派閥争いはごめんだ。

 ヒュミライザの離宮に行ったあと、王宮へ出向き言い訳をさせられる。これまでは国王との接点は納税程度だったというのに。

「ヴァーナード?」

 今はその元凶が屋敷だけでなく会社にも出没するようになった。

 アリアが社長室にやってくるとドアからのぞき込んでいる。

 優秀な社員は、通してもいいときしかここには入れない。今は簡単な確認をしていただけだ。来客などはない。

「何か用か?」

 入出許可をすると、アリアが入ってくる。

「ちょっと時間があったから」

 入ってくると勝手に茶を淹れて勝手に茶菓子を並べて座った。

「ヴァーナードも休憩する?」

 二人分の茶があるのはわかっていた。ため息をつき諦めて不味い茶を飲む。

 話して置くこともある。

「前に揉めた王妃がいただろ」

「えっと、女王様?」

「ああ」

 対して興味がなさそうだ。アリアにとってはもう過去の事なのだろう。

「ああ、その人から夜会の招待が来る」

「歌う?」

「歌わなくていい。ただの招待だ。私も同席する」

「そっか……」

 ちょっと残念そうにアリアが返す。

「……歌わせないからな」

「………だめ?」

 上目遣いにアリアが聞いてくる。

 わかっている。

 アリアは歌うのが好きだ。歌を聞かせるのも好きだ。

「音楽専攻を受けた結果……、レコードが王妃の手に渡り、ユナの腕が切り落とされかけた。それでもまだ人の前で歌いたいか?」

 事実を突きつけると、アリアが目に見えてしょんぼりする。

 そんな顔をされても許可はできない。

 ほだされた結果があれだ。

 アリアにはのびのびと生きて欲しいが、その結果危険になるのならば、少しばかりは我慢をしてでも安全に暮らして欲しい。

「えっとね、夜会とか……行っちゃダメってなってたけど、行っていいの?」

「王妃から直接招待されれば、不参加は難しい」

 アリアには社交界には出していない。卒業パーティに関しては言わば予行演習の場だ。それですら婚約破棄を言い出してやらかした。とても出せない。

 王妃が回復を示すための夜会だ。正直、出たくないしアリアを出席もさせたくない。

「夜会用のドレスも用意させる」

「うん……。えっとね。ちょっと楽しみ」

「……」

 暢気なアリアにため息が出る。

 学校に通うようになった時点で、アリアの美貌は隠しようがなかった。いや、目が悪い事を知っていれば手立てはあったろう。そして、あの歌だ。

 ただ上手いだけでも問題だが、精神作用を考えればあまりに価値が高すぎる。

 唯一の救いは、アリアに強制させられないことだ。誘拐しても歌を歌わせることはできない。

 だが、方法がないわけではない……。そんなことは絶対にさせるつもりはないが。

「アリア、夜会用に礼儀作法の教師も呼ぶ。ユナにも上流階級の作法をついでに習わせるからさぼるなよ」

「ゔ、はぁい」

 ユナを付けて置けば逃げ出しはしないだろう。

 これでも一応は貴族令嬢だ。最低限は教育されているが、いかんせん元が馬鹿だ。もう一度確認させなければ不安で連れていけない。

 そもそも、マナーができていたとしても、不安でしかないというのに。

「ご主人様、アリア様の学校の定期試験がありますから、そちらの学習時間もご配慮いただけると」

 シファヌが差し出口ですがと付け足した。

「もうそんな時期か……。メイドの仕事は免除するから、代わりにテスト対策の勉強もするように」

「ふ、ふぇん」

 勉強すれば、そこまで酷い点にはならないのだ。馬鹿ではないのに



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

前世を越えてみせましょう

あんど もあ
ファンタジー
私には前世で殺された記憶がある。異世界転生し、前世とはまるで違う貴族令嬢として生きて来たのだが、前世を彷彿とさせる状況を見た私は……。

処理中です...