風の聖女は護れないっ! ~聖女の力を分けた結果、聖女は“あほの子”になった~

笹色 ゑ

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 体が熱い。

 これまで貯めていた魔力が、全身に駆け巡るのを感じる。

 まるで末端の細胞の一粒にまで魔力が満ちるような感覚がする。体を形作る無数の箱の中に、魔力が詰め込まれていく。それでも箱が足りなくて、魔力が漏れ出ていく。

「アリア、アリアっ!」

 泣くように誰かの名前を呼ぶ。

 前の彼は私の世話をしながらいつもそんな顔をしていた。けれど、それとは対照的にとても安堵していたのを知っている。

 私も、それが嫌ではなかった。

 私の手の代わりになり、髪をとかし、体を清め、食事を与える。私が求めない限り、頑なに自分から体を重ねることはなかった。

 今の彼は、前の彼とは似ていないのに、そんなところは従順だ。

 最初の彼は、あんなにも自分勝手だったのに。

「アリアっ」

「ヴァーナード、チョーカーだ。魔力特性を下げている可能性があるっ」

 誰かの声が割り込んだ後、ふっと、楽になる。

 人の子が産んだ身体は脆くて、魔力が溢れると潰れてしまう。今回は、とても幸せだったから、それでもよかったけれど、流れが正常になって、眠くなっていく。

 ヴァーナードにぎゅっとされている。

 熱くて気分が悪くてしんどかったけど、ヴァーナードが抱きしめてくれたからスッと楽になった。

「ゔぅー。ヴァーナード、苦しい」

 抱きしめられるのは好きだけど、潰されてしまう。腕を叩くと、力が緩んだ。

「アリアっ、大丈夫か?」

 過去一番くらい心配顔のヴァーナードがいる。

「えっと、多分、もう平気」

 抱き寄せているヴァーナードから力が抜けて安堵している。

「よかった……このまま、死ぬんじゃないかと」

「んっとね。私、今死んでも、幸せだったよ」

 安心させようと出た言葉だけど、ヴァーナードの顔色がさっと悪くなった。

「冗談でも、そんな、事を……言わないでくれ。お前には、幸せだったと思いながら、老衰で死んで欲しい」

 ロウスイが、幸せな死に方なのかは知らないけど、ヴァーナードは私と一緒にいたいのはわかった。

「ヴァーナードが一緒なら。もうちょっと頑張る」

 ヴァーナードがいないなら、あんまり長生きはしたくない。


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