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しおりを挟むひどい目に遭った数日後、王の戴冠と婚姻の儀のために貴族の末席として参加する。
ユナが王妃につくことはユナよりもこちらに目が向いている。
いろいろあって、ユナはユナ・ハールヒット侯爵を継ぐが王妃になることから侯爵の領地は一度国に返還された。その後、私が男爵から侯爵に昇爵し、元ハールヒット領を渡されることになった。
私が爵位欲しさに妹を売ったとか、傀儡がどうという品のない噂も出ている。
いろいろと面倒が多い中、爵位を上げるつもりはなかったが仕方ない。
会社も粛清をして少しは楽になるかと思ったが、仕事はいろいろと忙しい。
それでもアリアが幸せそうに家で待っているだけで、どれだけでも頑張れる。
「アリア、大丈夫か?」
胸の谷間はほかの男に見せないためにレースで隠させたが、見下ろすと照明に照らされてわずかに谷間が見える。
今日はエスコートにかこつけて寄り添っているため、香水に混ざってアリアの香りがする。
事前に披露目に対してはいろいろと手をまわしていたが、いくつか不安要素はある。
「えっとね。ユナちゃん、きれいだね」
とても優しい目でアリアがいう。少し嫉妬心すら芽生える自分がいた。
集まった貴族も全員がバカではない。
新国王は以前の王の失態があっただけに、この混乱した中王になろうというものは少ない。新王と縁付くにも少し落ち着いてからのほうがいい。そう情報操作をし、年頃で未婚の上位貴族の娘を下手に嫁がせる不利益を出した。
ユナに対する侮蔑はあれど、将来断罪しやすい元平民の娘と思っているものが大半だ。
私との関係もあって、様子見しているものも多い。
貴族など、有象無象の集まりだ。
今は権威よりも金がものをいう時代に変わってきているというのに。
「スオウ男爵はヴァーナード・アリアディス侯爵に昇爵する」
と戦争に参加したものに対する言葉などのあと、正式にそう発表される。
事前に爵位を上げることは新聞に流していたため動揺はない。少し驚いているのは家名の変更だろう。
ユナが王に嫁いだため、ハールヒットの名を名乗ると考えたのだろうが、全く新しい家とするのだ。
「ヴァーナード、誰かと結婚したの?」
見上げるアリアが問う。
ふわりと風が舞って、近くの婦人のスカートがはためいた。
「アリアは今日からアリア・アリアディスだ。私が別の誰かのところに嫁いだんじゃなく、アリアに似合う家名に変えただけだ」
説明すると、アリアがきょとんとする。
「アリア・スオウは、似合ってなかった?」
別にそこまで似合っていないわけではない。だが、アリアのための名前のほうがいい。
「私の名前にアリアの字が入っていれば、私が誰のものかすぐにわかるだろう」
アリア・アリスティーネの響きも好きだったが、それに近くてアリアの名を含んだ家名にした。
「そっか」
納得したのかアリアがうれしそうに笑う。
「それより、ユナに祝いをするんだろう?」
アリアのお願いに負けて、一曲披露させることにした。姿は見せず、舞台袖で歌わせることで折り合いをつけた。
前回は死屍累々だったが、今回はアリアが歌いたくて歌う。危険なことにならないよう、アリアには効果を減らすチョーカーもつけさせている。完全に効果を消すものではない。ナツメの叔父が調整したものはかなり効果が強く、それを解析して作り直したものだ。
アリアにほかの男が手を入れてものをつけさせたくないという悋気ではない。どちらかといえば技術者としてのプライドだ。
アリアを連れて一度会場を出て裏へ回る。
アリアを連れて移動すると、アリルドが待っていた。
相変わらず、演奏家としてだけは威厳がある。
声に出さずにアリアーと嬉しそうに手を振っている。
予定通りに色々な役職の変更や爵位の剥奪やら昇爵やらが発表され新体制が公表される。
貴族は減らしていく方向であるため基本これから新しい家紋が貴族になることはほぼない。一代限りの名誉貴族はあるだろうが、国を救うような英雄でない限りは難しい。
これからは貴族政ではない国として移行していく。
最後に新国王と新王妃が舞台に上がる。
二人の言葉の前に、アリルドがピアノを弾き始めた。アリルドもピアノも、カーテンで会場からは見えないようにしている。
相変わらずピアノだけは見事で、拡声器を使わずとも、音が響き、ざわめきがピアノの音に制圧され静まる。
長い伴奏のあとアリルドがアリアへ視線を送る。いつもの五月蠅い視線ではなく、とてもまっすぐな目だ。
アリアが小さくうなずくと私から手を放して目を瞑る。
アリアの澄み切った歌は、これから来る変換を肯定している。今を逃せば黒い淀みに支配され、多くの血が流れ文化がなくなる。
革命ではない、これは浄化であると。
実際は農作業で兄弟三人で調子に乗って泥遊びをして、母親に怒られ、父親がとりなし、服のまま川で泳いで服を奇麗にした思い出をうたっているらしい。
アリアの長兄であるアリフォードは詩の才能がある。アリアの稚拙な言葉やストレートすぎる言葉を含みある言葉に変え、聞くものによって全く違う物語になるように整える。
楽曲の最終調整はアリスティーネ家の役立たずであるアリアの父がしているそうだ。彼も音楽家としてだけは鬼才だ。
アリアは本当にいい家に生まれた。
美しいアリアの声がホールに響き渡り、祝福のように広がる。最後、アリルドの指から一音響いたあと、完全な静寂が包み込む。
息の音すら控える中、足音が一つ。
ヴィクタが新国王して、一歩前に出る音だった。
「我々にはもう古き青き血は流れていない。この国を治めていたものは神の加護に胡坐をかき、報いを受けた。我々が同じように報いを受けるか、許されるかの瀬戸際にいる」
唐突に王位につかされた割に、堂々と続ける。
「私が王になることに不満を持つものも不安に思うものもいるだろう。もし、私よりもふさわしいと思うものがいるならばこの場で申し出るがいい」
唐突の言葉にざわつきが起こる。だが声を上げるものはいなかった。
王に反意あるものとされて悠々と生きていける貴族は多くない。
家格が高くとも、経済的に困窮している家は少なくない。国の許可などの規制はあるが領地を売ることができるようになり、もはや領地もない貴族も少なくない。
ヴィクタが今後について話す中アリアが腕の中に戻ってくる。
「へへ」
歌うのが楽しかったのか、抱きついてきたアリアが私を見上げて笑う。
貴族も国王もどうでもいい。
アリアが笑っていられるように利用するだけだ。
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