時には諦めも必要です

りすい

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16.それはゆっくりと蝕む

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「それでは、今日も頑張りましょう!」

朝日を浴びた髪がキラキラと輝いている。
目の前にはにこやかな笑みを浮かべるサフィール。
朝イチイケメンはなかなかに心臓への負担が強い。
急に増えた心拍数に心臓が軋む音が聞こえた気がして胸を押さえる。

「…?ミヤシロ様?如何なさいましたか?」
「いえ、ちょっと、光の反射が…お気になさらず。大丈夫です。」

不思議そうな表情で小首を傾げる姿も、さらに痛みを増加させるだけなのでぜひやめて欲しいところではある。
悪化の一途をたどる予感がするので、無理やり話題を切り上げ魔術の練習を始めようと声をかける。

「そうですね。でも無理は禁物ですので、何かあればすぐにお声がけくださいね。」
いつもより少しだけ低くなった声に驚き思わず顔を見上げると、眉間に皺を寄せた険しい表情をしていた。
んーなんだか少し機嫌が悪そう…?

声といい表情といい、今までの中性的な雰囲気で優しい彼とイメージが合わずパチパチと瞬きを繰り返す。

驚いている私に気がついたのか、ふっと笑い表情を緩めた彼にほっと息をつく。
知らぬ間に方に力が入っていたようだ。
何となくサフィールにつられて微笑む。

「笑顔が戻ってよかった。楽しい魔術のお時間ですからね。しっかり楽しみましょう。ほら、昨日のおさらいから始めましょう」

言われた通りに手を突き出し掌を上に向ける。
おさらい、という事は水を出せ、ということだろう。
昨日の練習を思い出し、魔力を練り流れる水をイメージする。

昨日は手首で詰まってしまったんだっけ?と思い出した時には魔力は手首をこえ、手のひらから水が溢れていた。
昨日と違い湧き水のように溢れてくる水は量が控えめで跳ね返って私たちが濡れてしまうような事はなかった。

が、この後どうしたらいいのか分からず水が出続ける右手に左手を添え、お椀のような形にして少しでも溢れ出る水が落ちないように努力するも意味無く指の隙間から水が落ちていく

泣きそうになりながらサフィールを見上げると、彼は優しく微笑んでいた。

「ミヤシロ様は本当に優秀ですね。こうもあっさり水を出せるようになるとは」
「いや、あの、出せたのは良いんですけどこれ、どうしたら!」
「焦らなくても大丈夫ですよ。昨日と同じです。流れる水を止めれば良いんです。ね?」

ここをポイントにしましょうか。と言いながら彼が私の手首に触れる。
触れた場所に意識がいったからなのか、きゅっと掴まれたように溢れていた水が止まった。

「さて。今日はこの水を丸い形に保ってみましょうか。」

私の手のひらにたまった水を指で優しくつつき、そのままつっと上に上げた。
水はまるで無重力空間にいるかのようにゆるゆると蠢きながら丸い形で宙に浮いた。

私が頷くのを見て、再び水の塊を手の中に戻してくる。

「最初から浮かせる必要はないですからね。球体をしっかりイメージして。さっきとは違って手のひらから魔力を出すイメージで…」

言われるがままにイメージをする。
が、水は少し蠢く動きを見せるだけでその形を変えることはない。

んーんー唸りながら試行錯誤するもなかなか変化がない。ずっと考えながら息を詰めているからか段々と視野が狭くなってくるような気持ち悪い感覚がある。
でも今気を抜くと集中が切れてしまいそうで眉を寄せ気持ち悪さを耐える。
んーー?丸い水の塊。球体。
手のひらの水溜まりの真ん中が、ボールを押し付けたように凹む。

いや、違う。逆なんだわ…
絞り出した結果が望むようにいかず、思わずがっくりと力が抜ける。
手のひらから水も全てこぼれ落ちてしまい、手には何も残っていない。

あーあ。上手くいかない。
何となく切ない気持ちでぼーっと手のひらを見つめる。

「うーん。僕とした事が、止め時を見誤りましたね。大丈夫ですか?目や頭に痛みは?」

見つめていた手のひらの上に大きな白い手が重ねられ自分の手が隠れる。
中性的な人でもやっぱり男の人だから手は大きいんだぁなんて呑気に考える。
何かを質問されているのは分かっているが思考がまとまらない。

重ねられていた手に、私の手を包み込むように力を加えられた。
優しく引っ張られ釣られるように顔をあげると心配そうに表情を歪めたサフィールがいた。

…?何をそんなに困った顔をしているんだろう?
きょとんとして首を傾げると、さらに優しく引っ張られる。

「今日はもうここまでにしましょう。」

ちょっと気持ち悪くて思考がまとまらないだけだ。もう少ししたら落ち着くだろう。まだ大丈夫だという意思を込めて小さく首を振る。

「ダメですよ。ちゃんと喋れもしない状態なのに続けることを許可するはずがないでしょう。私がもっと早く止めるべきでした。すみません。」

ほら、行きますよ、という声とともに感じる浮遊感に
あぁ、これ、お姫様抱っこだ。すごーい
なんてどこか他人事のように考える。

支えるために触れられている部分からふんわりと柔らかな温かさが流れてくる。
温かさが体を包み込んだと思った時には私の意識はフェードアウトしていた。
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