守る者たちの誓い

いぬっぽ

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第1章 出会いと再開

第10話 閉ざされた記憶

夜更け。
 
グレイフェル監獄の詰所に、紙の擦れる音だけが響いていた。

カイは一人、机の上に広げた事件記録に目を走らせていた。

何度も見た資料。それでも見落としていたものがある気がしてならなかった。

 ページをめくる指が止まる。
 一枚の報告書に、他とは違う記載が目に留まる。

 「……銃弾の角度が、当初の証言と違う……?」

事件現場の検証記録。
公式報告では“正面からの発砲”とされているが、
弾道の線は、わずかに右斜め後方からのものを示していた。

 「この位置からなら……監獄の防護柵を越えた角度だ。」

 つまり、内部からの発砲ではない。

 ——外に協力者がいた可能性。

カイの眉間に深い皺が刻まれる。

 (やはり、あの脱獄計画には“外部の影”があった……)

そのとき、ドアが静かに開いた。

入ってきたのは、黒のコートを羽織った男——ダリウス・ローヴァン。

 「……まだ見ていたのか。」
 「眠れなくてな。」

カイは軽く肩をすくめるが、目は資料から離さない。
ダリウスは一歩近づき、机の上の紙を覗き込んだ。

 「その記録……前に見たものと違うな。」
 「再調査報告の写しだ。保管庫の奥に眠っていた。」
 「誰の許可で?」
 「……黙って持ち出した。」

その答えに、ダリウスの表情がわずかに険しくなる。

 「危険だ。上に知られれば——」
 「構わない。」
 
カイの声は冷静で、しかしどこか張り詰めていた。

 「イリアスの死に、“別の発砲者”がいたかもしれない。
  記録が改ざんされている可能性がある。」

その言葉に、ダリウスの瞳が細まる。

 「……確証は?」

 「まだない。だが、弾道と報告の角度が一致しない。
  しかも、当時の当直者リストに“抜け”がある。」

カイは資料を閉じ、深く息を吐く。

 「イリアスは、内部の裏切りだけじゃなく、もっと大きなものに巻き込まれたのかもしれない。」

ダリウスは沈黙したまま、机の端に手を置いた。
その指先がわずかに震えている。

 「……ノアには、何も言っていないな。」
 「ああ。」
 「だが、気付き始めている。」

カイは目を細める。

 「昨日の態度を見ただろう。あいつはもう、“疑っている”。
  イリアスの死が、ただの“事故”ではないと。」

ダリウスは眉を寄せる。

 「ノアはまだ若い。感情で動く。
  あの子が深入りすれば、また誰かが——」
 「分かってる。」

カイの声が低く響いた。
 「……だからこそ、俺たちで止める。」

その決意に、ダリウスは目を伏せる。
そして小さく頷いた。

 「二度と、同じことは繰り返さない。」

静かな誓いが交わされたその時——

廊下の影に、ひとつの気配があった。

詰所のドアの向こう。
僅かに開いた隙間から、息を殺して覗くノアの姿。

彼の瞳は、驚愕と混乱に揺れていた。
 (兄さんの死……改ざん……?)

カイとダリウスの声が、遠くから響く。
ノアの心臓が速く打つ。

 (——何を、隠しているんですか……カイさん。)

ノアは音を立てないように、ゆっくりとその場を離れた。
長い廊下の先、足音が静かに響く。

胸の中で、何かが確実に動き始めていた。
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