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第五章
104.そもそも、絵の中の賢婦様がどうして、修道士を殺す必要があるんだよ?
しおりを挟む頷いたヨハネが、アンジェロ、サライと順に指差す。
「お前ら、ユディトに襲われたろ?」
「どこがおかしい?殺戮マシーンみたいな女なら、殺しが正常だろ?」
「殺戮マシーンじゃねえ。賢婦サマ」
「どこが」
サライが毒づくと、ヨハネは、
「ユディトは信仰厚い寡婦。街がアッシリア軍に包囲されたから、民衆を守るために敵陣に乗り込んでいった。そして、色と酒で将軍の首を、スパンッ」
アンジェロが「ん?」と首を傾げる。
「つまり、ルールの元に動いているってこと?」
「おお、アンジェロ。賢いな」
「ユディトさんが今まで殺してきたのは、修道士。サライのおじいさんが殺されて、そのルールがおかしくなったってこと?」
と更にアンジェロ。
「そもそも、絵の中の賢婦様がどうして、修道士を殺す必要があるんだよ?」
とサライは反論する。
「特定屋。ボクに皮肉を言う前にまず調べろよ。絵のことになると、全然、頭が働かなくなるんだから、お前は」
「うっせえな」
警察のデータべ―スを漁る。
「殺されたのは全員、ドメニコ会派の修道士だ。ここって、清貧をモットーとするとこだっけ?」
「ああ、そうだ。かなり古い宗派だ」
とヨハネが答える。
「で?」
とサライは聞き返した。
ヨハネが、目を丸くした後、瞬きを数回した。
「でって?は??はああああああ???ここまで来てもわかんないのかよ?ドメニコ会派だぞ?」
サライはアンジェロの顔を見た。
首を傾げられる。
ヨハネが片手で両目を覆った。
「お前ら、本当に馬鹿!ドメニコ会派と『ユディトの帰還』を描いた絵描きは大きな接点があるんだよ。ちょっと貸せ」
ヨハネが再びサライのパソコンを奪い「ボッティチェリ 後期作品」と検索。
掘っ立て小屋みたいな場所で羽の生えた天使らが天から垂れ下がる草を掴んでぐるぐる回っている絵が出てきた。
「何だこれ?」
「だから、ボッティチェリの後期作品だっつの!」
「本当に同一人物の作品か?絵が乾いている」
貝殻の上に立っている女だって、田畑を剣を持って召使いに生首が入ったバスケットを持たせ歩くユディトだって滴るような潤いがあった。
「お!いいとこ突いてくるようになったじゃないか、サライ。そうだよ。ボッティチェリはドメニコ会派によって別人にされたんだ。簡単に言うと洗脳された」
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