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出会い
いやいやいや
しおりを挟む「実はね、僕の後ろにいるという女の子に心当たりがあるんだよ」
無表情だけどどこか感情を抑えているように見受けられる女の子。真鍋さんがその無表情をやや険しい表情へと変化させ、僕を見つめる。
長い前髪の奥、赤茶色の瞳が少し揺れているように見て取れる。幽霊に取り憑かれていると教えてくれた真鍋さんにはちゃんと伝えておかなければと思っていた。
「心当たり、ですか……?」
「うん。昔ね、小さい頃に家の近所に住んでいた女の子じゃないかなって思うんだ。
多分僕より年下で、母親同士が仲良かったから僕達もよく遊ぶようになったんだろうね。公園で2人で遊んでたのを思い出したんだ」
真鍋さんはお餅には手を付けず、じっと僕の思い出話を聞いてくれる。サラサラと、彼女の黒髪が風に棚引いている。美しいと思った。
「僕が小学校に上がったのがきっかけだと思うんだけどね、その子と遊ばなくなったんだ。学校で出来た友達と放課後遊んだり、慣れない宿題に四苦八苦したり。
そうこうしている内に、すっかりその女の子と遊ばなくなったんだ。気恥ずかしさもあったと思うんだけどね。一度時間が空いてしまうと、ね」
そう。きっと初めの頃は覚えていた。女の子の事。でも、小学校での集団生活で男女の違いを意識し、女の子を友達としてではなく女の子として見てみて、どこか子供なりに意識してしまって。
だから、改めて会いに行くのが、一緒に遊ぶ事が恥ずかしいと思ったのだと思う。
全く、男ってヤツは……。と、そう思わなくもない。
「そしてしばらく経って、僕は思い立ってよく2人で遊んでいた公園に行ってみたんだ。まぁ会える訳ないよね。
少し寂しい気持ちを抱えたまま家に帰って、母親に聞いたんだ。あの子どうしてるかな? って。
そしたらね、遠くに行ったって、言われたんだ……」
そこで僕は話を切る。お餅のお供にしていたペットボトルの緑茶をグビリと飲み、喉を潤す。
ふぅ、こんな話を出会ったばかりの真鍋さんにするとは思ってもみなかったな。いや、その女の子を見つけてくれたのは彼女なのだから、これは当然の展開かな。
僕が一呼吸置いているのを、真鍋さんは小さく首を傾げて見つめ来る。どこか不思議そうな表情。もっと感情を出しても良いと思うんだよね。
別に僕を気遣う必要なんてない。気付いた時にはもう終わってしまっていた話。
大きく深呼吸をしてから、僕はまた話し出す。
「子供心に思ったんだよ。あぁ、その女の子は亡くなったんだなって。母親は僕を気遣って、遠くに行ったって言い方をしたんだなって」
「いやいやいや、何でやねんっ」
ん? ぼそっと、真鍋さんが何か言ったような気がするんだけど、聞き取れなかった。
「いえ、何でもありません。で、まだ話の続きはありますか?」
「あぁ、えぇと……。
そうそう、遠くに行ったと聞かされてね。それ以上母親に聞き返せずに、別の部屋で1人泣いたんだ。
その時に、その女の子の事が好きだったんだって気付いて、ね。気付くのが遅過ぎた初恋だよ。
でね? その時に、その公園に女の子の幽霊がいたんじゃないかなって思うんだ。もしかしたら、その日からずっと、僕の背中にその女の子がおぶさっていたんじゃないかなって」
自分では見えないし、女の子も僕の背中に乗っているだけで僕に何もしないし、言っても来なかったし。
真鍋さんに見つけてもらうまで、この女の子は誰にも悪さをしなかった。だから、僕はこれからもこの女の子を背負って生きて行くんじゃないかなと思うんだ。
だって、初恋の人だから。この子が自分で離れて行くまで、僕はこの子をおんぶし続ける。だって、好きだった女の子なのだから。
もう、あの時のようにこの子を忘れたりなんてしない。もう、1人ぼっちにはしない。
「ねぇ、真鍋さん。今この子がどんな顔をしているか、教えてくれないかな?」
そう尋ねると、真鍋さんの顔は真っ赤に染まっていた。
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