3 / 17
出会い
そう言えば
しおりを挟む(桜もすっかり散ってしまったね)
(暖かくなったと思ったらすぐにまた寒くなってさ、これが三寒四温って言うやつなのかな)
(このお餅、中にみたらしが入ってるよ、噛んだらじゅわって口の中に蜜が広がって美味しいよ)
(そう言えば君と一緒におやつを食べた事もあるだろうね。君はどんな顔をして食べていたかな)
(君の顔、思い出せなくてごめんね)
「先輩?」
「んっ? あぁ、真鍋さん。こんにちは」
いけないいけない。またあの子に語り掛けてしまっていた。
目の前の美人な後輩、真鍋さん。5歳くらいの女の子が憑いていますよと真鍋さんに声を掛けられて以来、たびたび見えもしない女の子に向けて語り掛けてしまう自分がいる。
大学のキャンパス。ベンチに1人で座ってお餅を食べている僕を見た真鍋さんは、僕の事をぼっちなんだなと思うだろうか。
何と思われようが僕にはそれなりに仲の良い友達がいるから別にいいんだけどね。
「お隣、いいですか?」
手でどうぞと勧めると、ちょこんと頭を下げて隣に座って来た。律儀な良い子だ。
「これ食べる? 友達から旅行のお土産だって貰ったんだ。美味しかったから買ったんだって。友達が」
さり気なく友達いるよアピール。
真鍋さんはお礼を言いながら、お餅の入っている箱に細い手を伸ばす。
「そうそう、そのお餅はね……」
ぱくり。真鍋さんは一口でそのお餅を頬張り、もきゅもきゅと言い表したくなるような仕草で噛んでいる。
あれ? みたらしがとろっと出て来た事に驚かないのかな。僕なんて最初はビックリして、でもそれが癖になって黙々と食べ続けていたんだけど。
「おいしいですよね、この小餅」
小餅。あ、箱にみたらし小餅って書いてある。そっか、真鍋さんはこのお餅の事を知っていたのか。
「真鍋さんはこのお餅、食べた事あるんだね。やっぱり誰かからのお土産?」
一瞬何を言われているのか分からない、というような仕草でこてんと小首を傾げ、そしてあぁと思い当たったように口を開く。
だからね、真鍋さん。もうちょっと感情を表に出そうよ。一つ一つの仕草はとても品があって綺麗なんだけど、無表情だからどうしても冷たく見えるんだよ。
何て言ったっけ。あぁ、そうそう。氷の微笑って感じだろうか。いや、微笑すらも浮かべていないんだけど。
「私、関西に住んでいたんです」
「へぇ? 真鍋さん、関西出身だったんだ。イメージがなかったよ」
「いえ、出身というか、生まれはこちらです。小さい頃に引っ越して、それが関西だったんです。
大学進学を機にこちらへ戻りたくて」
なるほど。親の都合か何かで引っ越しをしたけれど、生まれ故郷に帰りたかったんだろう。やはり地元には思い入れを持つもんなのだろう。
僕は生まれてからこの方、一度もここを離れた事がないから分からないけどね。
「そうなんだ、それでこの大学を受験した訳なんだね。
どうだい? 久し振りに帰って来た生まれ故郷は。変わっていたかい?」
「いえ、街自体はあまり記憶にないんですよね。引っ越しをしたのが5歳の時だったもので」
無表情、そして抑揚のない口調でそう言う真鍋さん。その無表情は何もない表情ではなく、努めて何かを押し殺しているが故の無表情なのではないだろうかと、僕にはそう見えた。
街自体は記憶にないのに、何故地元に戻りたいと思ったんだろうか。何か、大事な思い出でもあるんだろうか。
それにしても、5歳か……。
そうそう、5歳と言えば。
「実はね、僕の後ろにいるという女の子に心当たりがあるんだよ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる