肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

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出会い

私、死んでなんかいないんです

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 大学で真鍋まなべさんに呼び止められた。そう言えば最近見掛けなかったな、とその時に思った。

「改めて答えさせてもらいますっ……!」

 相変わらずの無表情。でも少し顔が紅潮している真鍋さんの顔。白い肌がほんのり赤く染まっていて、まるで湯上がりのような眩しさを感じる。
 昔、子供だった頃、公園で走り回って遊んでいたみなちゃんも、あんなほっぺたの色をさせていたっけ。

「私もっ、あの頃からっ……。
 先輩の事、のーの事が、好きでしたっ」

 上擦った声を何とか落ち着けようと、努めて平坦に発せられた言葉。無表情なのに、真鍋さんがとても緊張しているのが伝わって来た。

 それにしても……。

「真鍋さん。今、のーって、言った……?」

「えっ!? はいっ。
 私は昔、先輩の事を、“のー”と呼んでいました、よね?」

 真鍋さんが昔、僕の事を、のーと呼んで、いた……?
 僕の事をのーと呼んだのは、後にも先にもみなちゃんだけだったはずだ。
 僕と真鍋さんは、どこで出会った? どこで出会っていた? そして、どこで別れた……?
 先日声を掛けられたのが出会いではないのか?
 僕と真鍋さんは初対面ではなかった? あれは再会だった?
 何故覚えていない? 僕は真鍋さんの事を知らないと思っていた。
 覚えていなかった?

 真鍋さんは、誰だ……?

「あっ、そっか。誤解を解いていませんでしたね。好きだったって言われて舞い上がって、今の今までその直前の言葉を忘れていました……。
 私、死んでなんかいないんです。亡くなったのは、母の方で」

 亡くなったのは、母? 死んでなんか、いない……?
 何かとんでもない事を言われている気がする。僕の大事な何かが変わってしまうような、そんな何かが告げられるような気がする。
 背中がじんわりと熱く火照って来た。つつつっと汗が流れる。最近では背中に汗を掻く事なんてなかったのに。
 
「母親同士が仲が良くて、互いの家を行き来して遊んでいて。
 子供だけで遊べるようになってからは、毎日のように公園で遊んで。日が沈みだして、夕暮れ空になった頃に母達が迎えに来て」

 真鍋さんの声を聞くと、そのままその情景が思い浮かぶ。そりゃあそうだ。実体験なんだから。
 でも、何でその事が真鍋さんの口から出て来る?

「のー……。いえ、先輩が小学校に上がられて、前ほど頻繁には遊ばなくなって。それと時を同じくして、母が亡くなったんです。
 それで、父1人では私を育てられないからって、父の地元の関西へ引っ越したんです」

 あぁ、遠くに行ってしまったんだね。
 遠くに、行ってしまった……?

「先輩のお母さんは、先輩を気遣って私が遠くに行ったと説明した訳ではなく、そのままの意味で遠くに行ったと話されたんだと思います。
 先輩は当時、小学校2年生だったのかな? 私の母が亡くなったと伝えるにしても、原因は何だと聞かれれば答えにくかったんだと思うんですよね」

 答えにくい、死因? 分からない……。

「母は、妊娠中の急変で亡くなったんです。妹と共に」

 妹。

「生まれるはずだった娘と、妻と。同時に亡くして、父もどうしていいか分からなかったそうです。父の実家へ半ば無理矢理帰らされて。
 だから、先輩のお母さんもあまりの突然の事でちゃんとした状況を把握されてなかったんじゃないでしょうか。
 これは私の想像ですが、母が亡くなっただいぶ後に事情を知ったんじゃないかと。恐らく落ち着いた頃に父から連絡をしたのだと思います。電話か、もしくは手紙で。
 母の地元も父と同じでしたから、お葬式は向こうでしたそうなので」

 母親同士が仲が良く、その仲の良い真鍋さんのお母さんが亡くなって。それで、真鍋さんはお父さんの地元へと引っ越してしまった。

『遠くに行ってしまったのよ』

 分かる。辻褄は、合う。でも、おかしいじゃないか。

「真鍋さん、何で僕と再会した時に、憑いてますよなんて、言ったの?」

 そう問い掛けると、無表情が崩れてバツの悪そうな表情を浮かべる真鍋さん。そうだね、感情は表に出すべきだけど今はそれどころじゃない。早く答えてほしい。

「その……。私の事、分からないんだって。忘れられてるんだって思ったら悲しくなって。
 咄嗟に変な事、言っちゃったんです」

「それで女の子が憑いてるって?」

「はい。
 でも、5歳の女の子って言えば、私の事を連想して、思い出してくれるかもって、思ったんですけどね」

「じゃあさ、今君の背中におぶさって、肩に顔を乗せている女の子は、誰なのかな?」

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