9 / 17
再会
生まれ故郷
しおりを挟む
母が亡くなった。お腹の中の妹と共に。
妊娠中の急変だそうで、兆候は以前からあったらしい。後から父に聞かされた。
妊娠すると味覚が変わり、偏食になる人も多いらしい。母は甘いお菓子を常に食べていないと吐き気を催す、いわゆる食べづわりというタイプだったそうだ。
詳しくは分からないけれど、妊娠中毒症により母胎のバランスが崩れて、それが原因で亡くなってしまったんじゃないかなと思う。
あまり父も詳しく話したがらないので、詳細は分からないままだ。
年に数回しか会わない祖父母達に連れられての突然の引っ越し。
変わってしまったように塞ぎ込む父親。
仲の良かったお友達との突然の別れ。
楽しみにしていた妹が生まれて来なかったという、当時の私には理解し難い状況。
そして何より、大好きな母親が亡くなったという受け入れがたい事実。
全てに戸惑い、混乱し、泣いて泣いて泣いた。
母の死で全てが変わった。
割と活発な性格で、おてんばな女の子だった私。塞ぎ込んでからは、大人しくて無口な少女になってしまった。何もせず、ぼーっと部屋の隅に座って過ごしていたらしい。
それでもずっと話さない訳にはいかなかった。関西という土地柄か、すごく構われた。褒めてすかして笑わせてからかわれて。
気付けば自然と笑えるようになっていた。話し方やノリ、話題等はすっかり関西人と同じになってしまった。
元からの性格も相まって、友達も口数も増え、小学校に上がる頃には無口な少女って誰やねんとセルフツッコミを入れられる程に精神は回復していた。いや、むしろパワーアップしていたとも言える。
3歳か4歳の頃、目の色が変だとからかわれて泣いていた事もある。そんな女の子だったのに、今では相手をやり込める事くらい口が回るようになった。
ただ、その分関西人以外からはキツい性格の子だと思われる事も自覚していた。こればっかはしゃーないよね。
小学校・中学校・高校とそれなりに過ごした。友達も多く、気になる男子の1人や2人はいた。
それでも私の中の“のー”はとても大きな存在だった。初恋だからだろうか。
常に一緒にいた。いて当たり前の存在だった。
何より、ちゃんとお別れが出来ていなかったのが大きいと思う。区切りが付いていないから、余計に気になってしまう。
まるで取り憑かれたかのように、私は生まれ故郷へと戻る事が目標になっていた。父が年賀状のやり取りだけ続けていた彼のお母さんからの情報で、彼が地元の大学へ進学した事は知っていた。
私の進路はその時から決まっていた。
大学に無事合格し、一人暮らしする部屋を探した。よく遊んだ公園の近くに決めた。
久し振りに訪れた公園。もしも母の様態が急変せず、無事に元気な妹が生まれていたとすれば、ここでのーと妹と、3人で遊んでいたのだろう。
そう思いながら公園のベンチで座りながら泣いた。母の事、生まれる事の出来なかった妹。
両親から妹の名前は何がいいか聞かれ、候補の中から“かな”を選んだのを覚えている。どんな漢字だったのかは分からないけれど、多分私と同じく菜が使われたんじゃないだろうか。
「みな……」
ポツリと呟く。すでに夕暮れ時。夕日は沈み切っていて、誰もいない公園。私の独り言は行き場もなく消えてしまった。
帰ろうと立ち上がると風がさーっと吹いて、どこからか小さな子供の声を運んで来た。鈴を転がすような笑い声。小さな、女の子のような声。
のーと2人で遊んでいた光景を思い出し、また1人涙を流す。
のーと私。私がこの街に戻って来た理由。でも、今すぐに会うのは勇気が必要。
本当は先に彼のお母さんと再会したいけど、ほぼ初対面に近い、それも好きな人の母親に会いに行くというのはハードルが高過ぎる。
大学でのーと会おう。そうしよう。
もしかしたら彼女がいるかも知れない。
好きな人がいるかも知れない。
それでも、私はのーと会いたい。会って、久し振りって、笑い合いたい。
ずっと好きだったと、今も好きだと伝えたい。
彼は私の事、すぐに思い出してくれるだろうか。
いやその前に、関西弁が出ないように気を付けて話さないと!
関西弁が出ないように標準語で……、大人しい振りをして話し掛けないと。
ヤバイ、すぐにでも会いたいけど会う前に色々と練習せんとアカン気がする。
誰やこの関西女って思われたら嫌やっ!!
妊娠中の急変だそうで、兆候は以前からあったらしい。後から父に聞かされた。
妊娠すると味覚が変わり、偏食になる人も多いらしい。母は甘いお菓子を常に食べていないと吐き気を催す、いわゆる食べづわりというタイプだったそうだ。
詳しくは分からないけれど、妊娠中毒症により母胎のバランスが崩れて、それが原因で亡くなってしまったんじゃないかなと思う。
あまり父も詳しく話したがらないので、詳細は分からないままだ。
年に数回しか会わない祖父母達に連れられての突然の引っ越し。
変わってしまったように塞ぎ込む父親。
仲の良かったお友達との突然の別れ。
楽しみにしていた妹が生まれて来なかったという、当時の私には理解し難い状況。
そして何より、大好きな母親が亡くなったという受け入れがたい事実。
全てに戸惑い、混乱し、泣いて泣いて泣いた。
母の死で全てが変わった。
割と活発な性格で、おてんばな女の子だった私。塞ぎ込んでからは、大人しくて無口な少女になってしまった。何もせず、ぼーっと部屋の隅に座って過ごしていたらしい。
それでもずっと話さない訳にはいかなかった。関西という土地柄か、すごく構われた。褒めてすかして笑わせてからかわれて。
気付けば自然と笑えるようになっていた。話し方やノリ、話題等はすっかり関西人と同じになってしまった。
元からの性格も相まって、友達も口数も増え、小学校に上がる頃には無口な少女って誰やねんとセルフツッコミを入れられる程に精神は回復していた。いや、むしろパワーアップしていたとも言える。
3歳か4歳の頃、目の色が変だとからかわれて泣いていた事もある。そんな女の子だったのに、今では相手をやり込める事くらい口が回るようになった。
ただ、その分関西人以外からはキツい性格の子だと思われる事も自覚していた。こればっかはしゃーないよね。
小学校・中学校・高校とそれなりに過ごした。友達も多く、気になる男子の1人や2人はいた。
それでも私の中の“のー”はとても大きな存在だった。初恋だからだろうか。
常に一緒にいた。いて当たり前の存在だった。
何より、ちゃんとお別れが出来ていなかったのが大きいと思う。区切りが付いていないから、余計に気になってしまう。
まるで取り憑かれたかのように、私は生まれ故郷へと戻る事が目標になっていた。父が年賀状のやり取りだけ続けていた彼のお母さんからの情報で、彼が地元の大学へ進学した事は知っていた。
私の進路はその時から決まっていた。
大学に無事合格し、一人暮らしする部屋を探した。よく遊んだ公園の近くに決めた。
久し振りに訪れた公園。もしも母の様態が急変せず、無事に元気な妹が生まれていたとすれば、ここでのーと妹と、3人で遊んでいたのだろう。
そう思いながら公園のベンチで座りながら泣いた。母の事、生まれる事の出来なかった妹。
両親から妹の名前は何がいいか聞かれ、候補の中から“かな”を選んだのを覚えている。どんな漢字だったのかは分からないけれど、多分私と同じく菜が使われたんじゃないだろうか。
「みな……」
ポツリと呟く。すでに夕暮れ時。夕日は沈み切っていて、誰もいない公園。私の独り言は行き場もなく消えてしまった。
帰ろうと立ち上がると風がさーっと吹いて、どこからか小さな子供の声を運んで来た。鈴を転がすような笑い声。小さな、女の子のような声。
のーと2人で遊んでいた光景を思い出し、また1人涙を流す。
のーと私。私がこの街に戻って来た理由。でも、今すぐに会うのは勇気が必要。
本当は先に彼のお母さんと再会したいけど、ほぼ初対面に近い、それも好きな人の母親に会いに行くというのはハードルが高過ぎる。
大学でのーと会おう。そうしよう。
もしかしたら彼女がいるかも知れない。
好きな人がいるかも知れない。
それでも、私はのーと会いたい。会って、久し振りって、笑い合いたい。
ずっと好きだったと、今も好きだと伝えたい。
彼は私の事、すぐに思い出してくれるだろうか。
いやその前に、関西弁が出ないように気を付けて話さないと!
関西弁が出ないように標準語で……、大人しい振りをして話し掛けないと。
ヤバイ、すぐにでも会いたいけど会う前に色々と練習せんとアカン気がする。
誰やこの関西女って思われたら嫌やっ!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる