肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

文字の大きさ
10 / 17
再会

再会(混乱)

しおりを挟む
 大学へ通って数日。のーはすぐに見つかった。
 小さい頃の面影を残した顔付き。大人しめの服装。背丈は普通。
 念の為、名前が確認出来るまでは接触しなかった。けど、割と友達に声を掛けられていたのですぐに彼がのーだって確定する事が出来た。

 そしてついに、声を掛けようという段階。
 踏み出す、その一歩が出ない。怖い? うん、怖い。
 遠くから見ている限りでは、恋人はいなさそう。ううん、大学の学生が恋人とは限らないけれど、そんな話題も友達との会話に出て来ないし。
 ってこれ普通にストーカーやないかっ! というセルフツッコミを入れつつ。それでもなかなかに一歩を踏み出す事が出来ないでいた。
 こんな事をしてちゃダメだ。すぐにでものーに声を掛けて、私の事を忘れていたらいたでいい。これからの関係を築けばいいだけの事だもの。

 実は私、先輩の幼馴染みなんですよ。
 一緒に遊んだ仲なんですよ。
 思い出せませんか?

 そんな風に詰め寄って、彼が罪悪感を感じればそこを攻めちゃえばいい。そんな感じでまた私達の関係を作り上げて行けばいいんだもん。
 そう思いながらも、でもやっぱり一歩が出ない毎日を過ごした。

 気付けば大学での友達も出来て、私は私の日常を過ごしていた。
 あれ? 私、普通に大学生してるやん。わざわざここまで来た理由、何やってん。
 またまたセルフツッコミを入れつつ、そっと彼の背中を見やる。

「またあの人の事見てるの? 声掛ければいいのに」

 なんて友達からからかわれるまでになっている。

「うっさいな、ほっといてんか」

「あー、また出てるよ? 関西訛り」

「訛りて言わんといてくれる!?」

 これは訛りではない。方言である事に間違いないけど、訛ってる訳じゃないのに!
 と言うと、みんなが困った顔をしてうんうんと頷く。可哀想な子を見るような目つきになるので、私はこれ以上言わないようになった。

真菜まなの事良いなぁって言ってる男、結構いるんだから。そのうちどんどん誘われるようになると思うよ?」

 う~ん、確かに男の人から声を掛けられる事もある。でも、それを断る口実を作る為に、彼との再会を遂げるというのも変な話で。
 いやいや、どちらにしても彼に声を掛けたいのに変わりないんだ。ならば、早い方がいいだろう。


 それからもうしばらくした後、その日はやって来た。彼の事を少し離れた場所で窺っていると、向こうからこちらへと歩いて来た。
 よし、今だっ! と思って話し掛けるタイミングを図っていたけど、彼が目の前に来て、そして私の横を通り過ぎても口から声を発する事が出来なかった。
 ダメだ、これじゃあ今日も彼と話す事が出来ないな。そう思って肩を落とした。振り返って、彼の背中を見つめて、ため息を吐いた。

「あのっ」

 えっ!? 自分でもビックリした。意図せずに声が出てしまった。そして何より、その声に反応して、彼が振り向いてくれた。
 のーが、私の方を見ている。何故が私は目を合わす事が出来なかった。突然の事過ぎた。何で声が出たのか自分でもよく分からない。
 本当に自分の声だったろうか。もう一度、声を出してみる。

「あのっ……」

 やっぱり自分の声だっ!? いやビックリしてるけど表情には出したらアカン! 自分で声掛けて自分でビックリしているなんて、ただの変な女になってまう。
 努めて無表情。何でもないで~みたいな顔しとかんと。

「えーっと、僕に用かな?」

 答えた!? のーが私に返事した!! マジか、マジや。いやいやいや。
 どうしたらええの!? ヤバイ、声を掛ける事ばっか考えて、何をどうやって喋るか全く考えてへん事に今気付いた。
 アホちゃう!!? 私は何の為に関西に引っ越したんや(混乱)
 そうや、私はこの時の為にこの生まれ故郷に帰って来たんや。
 目の前にのーがいる。
 私はのーを指さして、あなたに会う為に帰って来たの。そう伝える……。

「何か付いてた?」

 のーは右肩をパンパンと払った。
 いやいやいやコントやないんやから! 勘違いコントみたいなノリせんでええから!!
 っと、声に出したらもろ関西人やん。口から先に生まれたみたいな、ボケられたらツッコミ入れんと死んでまう民族みたいに見られてしまう。
 無表情、感情を表に出さずに首だけを左右に振る。まるで京のお公家さんみたいに。

「ホコリが付いてるから声を掛けてくれたんじゃないの?」

 ホコリて。ベタやな。
 いやそうやなくって。

「違います。その……、ついてるんです」

 何で!? 何が付いてんの!!? おかしい、今日の私はおかしい。このままやったら最低な再会になってまう。
 何とかせんと。ある日突然引っ越しした、5歳の女の子やった私ですって言いたいだけやのに!!

「5歳くらいの、女の子」

 それだけ言うても伝わらん! しっかりしてよ私の口!!
 のーの顔を見たら、すごくビックリした表情してる。あれ? 何でだろう……、おかしいな……。
 あっ、私が言った事ってそのまま聞けば幽霊に取り憑かれてるって警告する謎の女みたいなキャラになってない!?

 んんん~~~、もうこうなったら行けるとこまで行こう! ほんで何でやねん、ってツッコまれてオチ付けて終わらせよう。
 それから実はあの時の幼馴染みなんですよ。って名乗れば何とかなるやろ!! ってか頼むし何とかなって!!!

「肩に顔を乗せて、おんぶされているような格好です」

「マジで……?」

 受け入れた!? ツッコミでも否定でもなく信じた!!?
 そこはもっとこう、何かあるやん!!

「マジ、です」

 マジ、Death !!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...