肩に顔乗せ笑う子は……?

なつのさんち

文字の大きさ
17 / 17
この子はだあれ?

だから、つまりは、したがって。

しおりを挟む
 そう言って、おばあさんが戻って行った。見える人には見える、という事か。
 小さい頃からお前は思い込みの強い子供だから気を付けないよと言って育てられて来た僕だけど、今回はそうじゃないと分かった。

「やっぱりいるんだな。僕だけに見えている訳じゃないんだ、みなちゃんは」

 ホッとしたあまり、ポツリと独り言を零してしまった。でもまぁいいか。今さら変な目で見られても関係ない。みなちゃんはいる。それでいいじゃないか。
 ある意味開き直って、目の前の3人を見る。驚いた表情のまま固まっている江藤えとうさん。その隣でにこやかにしている真鍋まなべさん。真鍋さんは大学でかなり怯えていたというのに、この喫茶店に入ってからは打って変わって機嫌が良さそうだな。パフェ、そんなに好きなのかな?
 そしてその肩に顔を乗せ、真鍋さんの耳に口元を近付けているみなちゃん。みなちゃんもご機嫌さんのようで、真鍋さんの耳にちょっかいを出しているようだ。
 大学でも真鍋さんの耳に息を吹きかけてビックリさせていたし。何故か真鍋さんはみなちゃんが見えないのに、吹きかけられた息には反応していたな。どういう仕組みなのかと幽霊を相手に考える事ではなさそうなので、そういうもんなんだと思っておこうか。
 そんな2人のやり取りを眺めていると、不意に真鍋さんがふふっと笑って、口を開いた。

「妹も、嬉しいって、思ってるみたいです」

「「んっ!?」」

 思わず僕と江藤さんの声が揃った。今、何て言ったのかな……?
 と問い掛けたいところだけれど、言葉を放った本人が目をまん丸にして驚いている。自分が何を言ったのか、自分の声が耳から入ってから認識したようなタイムラグを感じる反応の仕方。

 真鍋さんの名前は、真菜まなさん。僕が幼馴染みだと思い込んでいた幽霊の女の子は、みなちゃん。
 僕が名前を思い違いしていたのだと思っていたけれど、今みなちゃんは僕ではなく真鍋さんに取り憑いていて、そして真鍋さんの口から出た“妹”という言葉。
 真鍋さんには見えていないらしいけれど、声は聞こえている。繋がりが、あるという事なのだろうか。

「えーっと、真菜? 妹って、誰の事かな……?」

 江藤さんが思いっ切り作ったような笑顔で真鍋さんに問い掛ける。違うよね? 言い間違えただけだよね? ねぇ、そうだと言ってよ! と訴えるかのような瞳。
 江藤さんが真鍋さんにそう問い掛けるたびに、真鍋さんの肩に乗っているみなちゃんの顔が険しくなって行く。僕だけがその表情の変化を眺めている。

「えっと……、えへへっ」

 江藤さんからの圧を感じてか、真鍋さんが話をはぐらかそうと笑顔を見せた。その瞬間。

 ガシャン!

 テーブルに置かれたグラスが倒れ、江藤さんが頼んだアイスラテが江藤さんの方へ零れた。

「「えっ……!?」」

 テーブルからボトボトと江藤さんの方へアイスラテが流れて行っているが、江藤さんも真鍋さんも反応出来ないでいる。
 僕は見ていた。みなちゃんが手を伸ばし、江藤さんのグラスをわざと倒したところを。
 その表情は唇を尖らせ、嫌な事をされたからちょっとした仕返しをしてやろうとしている子供、そのままの表情。

「あらあらあら、ほらボーッとしてないでそこをどいた方がいいわ。はいタオル、これ使ってね」

 すがさず先ほどのおばあさんがタオルを何枚か持って来て下さった。もしかして、今の場面をおばあさんも見ておられたのだろうか。

「ちょっとおいたが過ぎるわね。でもだからって悪さばっかりするって訳でもなさそうだし、怖がる事はないと思うのよねぇ……」

 テーブルを拭きながら、困った顔をされるおばあさん。おばあさんから見ても、みなちゃんが悪霊というような悪い存在には見えないようだ。
 ソファーから立ち上がり、自分の服をタオルで拭く江藤さん。未だに先ほどの出来事が処理し切れていない様子。おばあさんからタオルを受け取ってソファーの汚れを拭いている真鍋さんも、何が起こったのか理解出来ていないような表情だ。

「一応伝えると、みなちゃんが手を伸ばしてテーブルにあったグラスをわざと倒したんだ。きっと、妹って誰だった言われた事が、気に食わなかったんだろうね」

 真鍋さんの口から妹も喜んでいるというような言葉が出て。
 江藤さんが妹って誰の事だと口にした。
 その事が気に食わなかったみなちゃんが、テーブルのグラスを倒した。

 だから、
 つまりは、
 したがって。

「みなちゃんは、真鍋さんの妹だって、事なのかな?」

 そう考えるのは、無理があるだろうか?

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...