世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

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Main story

話し合い

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 一応声を掛けたのだが、あの後も羽那子はなこは目を覚まさずずっと昼寝していた。
 肩を揺すって起こすのも、その身体に触れるのすら躊躇われたので出来ず。
 俺は悶々とした気持ちを抱きつつスマホを見ながら時間が過ぎるのを待った。
 羽那子はいつもの夕飯の時間より少し前にむくりと目を覚まし、俺に声を掛ける事なく階段を降りて行った。
 そしてしばらくしてから階下からの母さんの声に呼ばれ、ダイニングへ向かった。
 そこにはムスっとした顔の伊千香いちかと、それを全く気にしせずに配膳をしている母さんと羽那子がいた。

「…………」

 妹に睨まれる兄というのは実に居心地の悪い思いをするものだなぁと実感。
 今まで喧嘩した事は何度もあったが、こういう雰囲気の険悪な空気感は初めてではなかろうか。
 意味もなく咳払いしたり、必要以上にお茶を飲んだりしてやり過ごす。
 食卓に一人でもこういう人間がいれば場も当然白けてしまい、あまり会話が生まれない。
 伊千香はご飯の最中も俺を見ながらモグモグと口を動かしていた。
 俺をおかずににして飯食ってんじゃねぇんだから。

「……チッ!」

「コラ伊千香。お行儀が悪いわよ」

 母さんもっと言ってやってよ。悪いのは俺じゃないんだっての。
 そしてそれぞれ食事を終え、俺はいつも通り洗い物を始める。

「いっちゃん、話があるの」

「……分かった。お兄ちゃん、お風呂洗っといて」

「はいはい」

 ついに羽那子が動いた。
 伊千香が不機嫌になった直接の原因は、羽那子が俺と美紀みきを仲良くさせようとする行動を取っている事にあると俺は思っている。
 羽那子の真意というか、どういうつもりでその行動を取っているのかを説明すれば、納得はしなくてもその考え自体は受け入れるのではないかと思う。
 羽那子と伊千香はダイニングを出て、階段を上って行ったようだ。伊千香の部屋で話すのだろう。

「年頃の女の子ってのはやっかいなものよねぇ。母さんも心当たりがあるから娘に対してあまりきつくは言えないわ。
 伊千郎、お風呂は母さんが洗っとこうか?」

 そんなとんでもない! あの二人の話し合いに巻き込まれたくないから出来るだけゆっくりと用事を済ませたいのに。

「大丈夫だよ、俺がやるから母さんは休んでて」

「そう? じゃあお願いするわね」


 ダイニングに一人残り、ゆっくり丁寧に食器を洗って行く。父さんから遅くなると連絡があったらしい。ダイニングテーブルに残ったものはラップを掛けて冷蔵庫へ片付けておく。
 洗い物を終えて風呂場へ。スポンジに洗剤を付けて手でゴシゴシと浴槽を洗う。栓をして浴槽の蓋をして、自動湯張りのボタンを押す。
 母さんに風呂の用意が出来た事を伝える。

 さて、二階からは大きな声や物音などは聞こえてこない。どのような話になっているのか分からないが、恐らく本題は済んでいないだろう。
 あの二人が喋り始めたら笑い声や手を叩く音などで割と騒がしいからな、今は真面目でピンと張り詰めた空気感で会話しているのだと思う。
 ……どうしよう。
 足音を立てずに階段を上って行き、ゆっくりと扉を閉めればバレずに部屋に戻れるか?
 しまったな、母さんに断って先に風呂に入れば良かった。
 いや、どちらにしても着替えを取りに自室へ戻らなければならず、その際は必ず伊千香の部屋の前を通る事になる。
 リビングで過ごすか? いやそれも変だ。いつもなら用事を済ませばすぐに自分の部屋へ戻る俺が、一人でリビングで過ごすなんておかしい。
 二人から逃げていると思われると、必要以上に責められるかもしれない。それは避けたい。
 だからといって用事が終わったからと二人の話し合いに参加するのももっと変だ。そもそも俺はその話し合いに呼ばれていないし、参加する必要があるのかどうかも俺には分からない。
 イチかバチか、ゆっくり物音を立てずに自分の部屋へ戻るか……。
 ゆっくり、ゆっくり、一段上るたびに完全に静止して、階上の音に耳を澄ませる。よし、こちらに気付いている気配はない。
 階段を上り切って後は真っ直ぐ廊下を進むだけ。伊千香の部屋の前を通り過ぎる。

ペキッ

 膝の関節が鳴った。

ドタドタバタンッ!

 無表情の伊千香が部屋の扉を開け、俺の腕を掴んだ。
 ホラーかよ……。
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