世界で俺だけが幼馴染の事を知らない

なつのさんち

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Main story

妹にとっても幼馴染

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「正座」

「何でだよ……」

「いいからっ!!」

 伊千香いちかの部屋へ引きずり込まれて床に正座しろと指を差される。
 母さん曰く年頃の女の子ってのはやっかいらしいから、ここは兄として妹の指示に従うか。
 いや、俺も年頃の男なんだが。まぁいいや。
 しかしそのまま素直に従うのもやはり面白くない。正座ではなく胡座をかいて座る。伊千香は何も言ってこないので、雰囲気で正座と言いたかっただけだろう。

「お兄ちゃん、本っ当にはなちゃんの事、知らないのね?」

 俺の目の前で腰に手を当てて仁王立ちしている伊千香に向けて頷く。
 羽那子は伊千香のベッドに腰掛けてクッションを抱き締めている。そのクッションくれよ、尻が痛い。

「ん~~~!
 ……忘れたのではなく、あくまで知らない、と」

 頷く。

「何でそんなにはっきり分かるの? 忘れたと、知らないの違いは何なの!?」

 そんなに怒られても俺にもはっきりと言葉には出来ない。
 ただ、元々知っている事柄を忘れた時のもやもやとした感覚ではなく、真っ新な状態。初めて見る人、初めて会った人という感覚で羽那子と対面したから、恐らく知らないで合っていると思う。

「明確には伝えられないけれど、知らないんだと思う。
 でも伊千香や父さん母さん、学校の友達の反応を見る限り、俺と羽那子が幼馴染みであるという事は理解したし、受け入れてる。
 羽那子には申し訳ないなと思うけど……」

「それよ!!」

 それ?

「じゃあ何で何の躊躇いもなくはなちゃんの事、羽那子って呼び捨てにするの?
 お兄ちゃん、初対面の人を呼び捨てにするような性格じゃないと思うんだけど」

 ……そう言われれば、そうかもしれない。

「でもみっきーは初めて会った時、美紀みきって呼び捨てにするって言われたって話してたじゃん」

 羽那子が美紀の名を口にすると、伊千香の眉間の皺を寄せる。

「お兄ちゃんはその美紀って子が好きなの!?」

 いやいやちょっと待て、声を荒げるな。妹にあの女の事が好きなのかとか聞かれるの、滅茶苦茶居心地悪いぞ。

「あのなぁ伊千香。知り合いだったとはいえ、俺は美紀の事を全く知らないんだよ。出会ったキャンプ合宿をきっかけにして、本人の性格が変わってるから余計にな。
 俺が知っている美紀はもっと大人しくて内気で、あんな活発なイメージじゃなかった。
 だからほぼ初対面と言ってもいいくらいなんだよ。
 俺からすれば羽那子も美紀も、同じ日に知り合ったも同然だ」

 自分で説明しながら気付く。羽那子の主張は的を射ている。
 昨日初めて出会った二人の女の子。同じスタートライン。距離感は同じだ。

「多分だけど、いっくんも旅先で一人だし仲の良い友達を作りたかったんだよ。だから呼び捨てで呼び合おうぜって言い出して距離感を一気に縮めたんじゃない?
 それとは別に、あたしの名前を聞いたのはいっちゃんや伊千子いちこちゃんから色々と関係性とか付き合い方とかを説明されてたから、空気に吞まれて呼び捨てにせざるを得なくなったんじゃない?」

 言われればそうかもしれない。あの雰囲気の中、藤村ふじむらさんとは呼べないわな。

「……そう言えばお兄ちゃん、はなちゃんの事は『はな』って呼んでたもんね」

 少しずつ、少しずつではあるが伊千香も俺の現状を受け入れる姿勢になってきたようだ。

「でもね……、私は嫌だよ! だって、お兄ちゃんははなちゃんと付き合ってて、これからも一緒にいて、ずっとずっと私とも一緒だと思ってたんだよ!?
 はなちゃんは私にとっても大事な幼馴染みなんだもん! それなのに突然現れた人がもし、お兄ちゃんの新しい彼女とかになったら、私とはなちゃんの関係はどうなるの!!?」

 けれど、急激な環境の変化には耐えられない。戸惑いを隠せない。

「いっちゃん……」

 俺と羽那子はやっと、伊千香が何を恐れているのかに気付いた。

「あたしといっちゃんは何があっても、ずっとずっと仲の良い幼馴染みだよ」
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