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Main story
源六と寿々音
しおりを挟む「ねぇ何で!? 何ではなちゃんが美紀さんを近付けようとする訳!?」
「えー? だって仲良くした方がいいじゃん」
「何だ何だ、どうしたどうした」
勉強会が終わってみんなが帰り、我が家のダイニングでの夕食。今日は定時で仕事を終わらせた父も一緒に食卓を囲んでいる。
「絶対におかしいよ! 新しい友達よりも幼馴染みの方が大事でしょ!?」
「どっちも大切にしたいかなー」
「それは人によるんじゃないのか?」
父さんが伊千香と羽那子のやり取りに入ろうとするが、あまり相手にはされていない。
そもそも父さんに対して事情を説明しようという気が伊千香にはないと思う。
対する母さんは知らん顔で食べている。年頃の娘はやっかいだと話していたので、自ら話題に入って行こうとしないのだと思う。
俺も母さんに倣って食事に集中する。
「お兄ちゃんはどうなの!? どう思ってるの!?」
矛先をこちらに向けないでほしいと思っています。
「伊千香、もう少し抑えなさい」
母さんがたしなめてくれる。ありがたい。俺だって年頃の男だからな。妹にキツく言われればそれなりに返してしまうだろうから、ちゃんと止めに入ってくれると助かる。
「何だ、伊千郎とはなちゃんの話なのか?
あれだ、青春というやつだ。いいなぁ、父さんの幼馴染みは男だったからな。
男同士と違って男女だと分かり合えない部分は絶対に出て来るだろうから、しっかりと話し合いなさい」
父さんがうんうんと頷いている。父さんの幼馴染み? 聞いた事ないな。
「父さんの幼馴染みって誰? 俺が会った事ある人?」
伊千香からの問い掛けをスルーするべく父さんの話に乗ってみる。これで有耶無耶にしてしまおう。
「……何言ってるんだ? 父さんとはなちゃんのお父さんは幼馴染みじゃないか。伊千郎も知っているだろう」
すごく不思議そうな表情で言われた。
なるほど。羽那子に対する記憶がない分、それに付随する情報も欠落している、と。
欠落なのか、それとも元々ないのかは別として。
伊千香は俺の顔を呆然と見つめて来るし、羽那子はテーブルの小鉢をぼんやりと見つめている。
話題をぶった切る事に成功はしたが、あまり良い形ではないな。
「お兄ちゃん……。そっか、まぁそうだよね」
妹よ、そんな目で見るな。
ええい、ついでだ。羽那子の両親について詳しく聞こう。
「羽那子のお父さんは父さんと同い年なの?」
「いや、源にぃの方が一つ上」
げんにぃ……?
「あー、藤村源六がはなちゃんの父親。
そして藤村寿々音さんが母親。
何で今さらお前に源にぃ達の説明をしないといけないのか……。
母さん、やっぱり病院に連れてった方がいいんじゃないか?」
「……もう少し様子を見ましょう」
源六と寿々音。聞き覚えがない名前だし、顔も出て来ない。
「ついでだから教えとくか。
源にぃは夢だったテレビ製作会社の社長をしてて、寿々音さんはそれを手伝っている。
伊千郎も何度か現場に遊びに連れてってもらったはずだがな」
そんな事があれば絶対に忘れないだろう。
というか、何で羽那子は俺が聞いた時にそう言わなかったんだろうか。
「あー! 私も連れてってもらったんだ。確かお兄ちゃんとはなちゃんと三人でテレビに映ったのがDVDで残ってるはず」
「いつの話だ?」
「お兄ちゃんもまだ小学生だったと思うよ? ご飯終わったらみんなで見ようよ!」
という事で夕食を終え、片付けを終えてから五人でリビングへ。父さんが焼いたDVDをデッキに挿入し、上映会開始。
バラエティ番組で商店街を歩く芸能人が歩いている人達にインタビューするというコーナー。
まだ小さい子供、俺と伊千香と羽那子が道の端に立ってアイスクリームを食べていた。
「おいしいですか?」
「「「おいしいです!」」」
「そっかー、良かったねー」
そう言って羽那子の頭をよしよしと撫でる眼鏡の男。たったそれだけの出演だった。
「この人あんまり印象良くなかったなぁ。おじさんの娘って紹介されてるから、はなちゃんだけ撫でて機嫌取ってたんだよ」
撮影秘話まで覚えている伊千香。そんな大した秘話でもないけど。
何気ないシーンで父さんが一時停止ボタンを押して、テレビ画面を指差す。
「これが源にぃで、こっちが寿々音さん」
一瞬見切れているだけで、カメラ目線でもなく正面を向いている訳でもない。
「へー」
としか言いようがなかった。
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