好きなのに理由って必要ですか? と彼女は言った

なつのさんち

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付き合うのに好き以外の理由が必要ですか?

「この度は大変申し訳ございませんでした!!!!」

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 コンコンコンッ、病室の扉がノックされる。そっと胸から私を離し、ティッシュで私の顔を拭いてくれて、目でいいかと聞いて来た。
 私が小さく頷くのを確認してから、柊人しゅうとさんが答える。

「どうぞ」

「し、失礼します!」

 入って来たのは3人組みのうち、私の事を彼女だと嘘を付いた人以外の2人。善意から柊人さんに襲い掛かった2人だ。その2人は柊人さんの意識が戻っているのを確認すると、床に頭を擦り付けるように土下座をした。

「すみませんでした! 事情も知らず手を出して申し訳ないです!!」

「怪我させてしまってごめんなさい! ホントすいません!!」

「いいよいいよ、2人は悪気があった訳じゃないって殴られる前から知ってるよ。でも殴る前にちゃんと確認してほしかった。
 次から確認して、それで本当にストーカーや誘拐なら女の子を守ってあげてね」

「「「えっ!!?」」」

 柊人さんの口から出た言葉が信じられず、私達は揃って驚きの声を上げた。まさかすぐに許すなんて思いもしない。私も、この2人も。

「柊人さん、いいの?」

「いいんだ。確認をしなかったのが落ち度であって、悪気があってやった訳じゃない。友達の彼女を助けようという気持ちは大切だと思うんだ。
 まぁ手を出すのはやり過ぎだけどね」

 そしてまた笑う。ホントにこの人は、人に対して怒るという事を知らないんじゃないかと不安になる。
 でも、そんな優しい人だからこそ、私がしてしまった事を許してくれて、なおかつ好きだと言ってくれるのだろうと思うと複雑だ。
 でも、とっても素敵だと感じるのも事実で。

「ほら、いつまで土下座してんの。座ってよ、まだ聞きたい事があるんだから」

 土下座したままの2人に椅子をすすめ、柊人さんが尋ねるのは、ここにいないもう1人の事だった。

「俺の大事な彼女を自分の彼女だって嘘付いた奴は何してんの?」

 一切怒りの感情が乗っていない、軽口を言うような口調で尋ねる柊人さん。
 あ、その説明してなかった。柊人さんの意識が戻った事で嬉しくて、さよならしなきゃって悲しくて、許してもらえてまた嬉しくって、全く意識の外にあった。

「あ~……、あいつはちょっと今安静中なんス。鼻の骨が折れてるんで、痛み止め飲んで横になってますね」

「鼻の骨? 何で折れたの?」

 あ~、と2人がまた言い淀む。仕方ない、私が代わりに説明しようか。彼女だしねっ!

「柊人さんは覚えてないの? 私を柊人さんから引き離そうとしたあの人を押し飛ばしたんだよ。で、そのままあの人は床に仰向けで倒れて、柊人さんが覆い被さるように鼻に頭突きしたの。それで、グシャッて」

 あ、想像しただけで痛い。お父さんに聞いた事がある。鼻が曲がったまま骨がくっつかないように、鼻の穴に棒を突っ込んでベキッ! って形を直すんだって。
 うわぁ痛いっ!! でも自業自得だよね、自分が付いた嘘からこうなってんだから。って私が言うのは違うか……。

「うわぁ……」

 痛そうな表情の柊人さん。いやいや、柊人さんはもっと言ってもいいくらいだと思うよ?

「すんません、あいつも一緒に謝りに来るつもりだったんですが、親父さんの迎えが来たんで今状況説明中なんス。俺らもある程度説明したんで、先に謝りに来たんス……」

 コンコンコンッ、またもノックの音。私が立ち上がり、病室のドアを開ける。

「この度は大変申し訳ございませんでした!!!!」

 またも土下座。それもピッチリと着込んだスーツ姿での土下座。左手で嘘を付いた例のあの人の頭を床へと抑え付けている。あの~、その人鼻を骨折してるんですよね……?
 振り返って柊人さんの表情を窺うと、ゲンナリとした顔でため息を付いていた。



 先ほどの2人に対する接し方と変わらず、決して怒らず、そしてわざとではないとはいえ、鼻の骨を折ってしまった事を詫びる柊人さん。例のあの人は顔面包帯グルグル巻きでホラーサスペンスに出て来そうな雰囲気。もう出て来る言葉はごめんなさい、二度としません、申し訳ない、など謝罪の言葉ばかり。
 まぁ言い訳のしようもないよね。嘘付いただけなら笑い話だけど、友達が柊人さんに殴り掛かるのを止められなかったんだから。

「もういいです、大丈夫です。それよりも鼻大丈夫? 意識なかったから狙った訳じゃないんだけど、俺もごめんなさい」

「とんでもない! 元はと言えばコイツが原因です。よくよく言って聞かせますので……」

 のようなやり取りの後、4人は帰って行った。



「はぁ、疲れた……」

「お疲れ様。ねぇ、聞いていい?」

 うん、と頷いた柊人さんの目を見つめながら訪ねる。

「何であんなにすんなり許せるの? 悪意があった訳じゃないのは分かるよ、でも痛い思いしたじゃん。知らない人に殴られるとか、すごい怖かったはずだよね?」

 あ~、と呟き、ぽりぽりと頬を掻く。そしてふふっ、と笑ってから柊人さんが答えてくれた。

「もしさ、俺のいない所で冬花が知らない誰かに襲われるとするじゃん。いや、そんな事ないに越した事はないんだけどさ。その時、たまたまあいつらがいたらさ、今度こそはって助けてくれそうじゃない?」

 それにさ、と私の言葉を待たず続ける。

「こういう時にさ、俺はちゃんと身体が動くんだなって分かったし。冬花を守ろうと身体が動いたんだよ。いざって時に、冬花を守るんだって勇気振り絞って前に立てたんだ。それが分かっただけでもすんごく嬉しくってさ。
 俺すげぇって、愛の力すげぇって思ったんだ。それを教えてくれたのはあいつらだからさ、悪い所ばっかり見ててもね。プラスで考えようかなって、思ったんだ」


 嘘がキッカケの勘違いとはいえ、お互いが私を守ろうとした結果の一件。友達の彼女の為に行動したあの人達と、自分の彼女の為に行動した柊人さん。柊人さんは、人の為に行動出来る人と知り合いになれた事、そして私を守る為に身体が動いたという経験を得た事をプラスと捉え、結果良ければ全て善しとするつもりみたいだ。
 すごい、私の彼氏は、すごい。

「それでも、心配したんだから……」

「あぁ、ごめんね。心配掛けちゃった事は悪いと思ってる」

「ホントに?」

「ホントに」

「じゃあ、キスして、安心させてほしいな……」

「えっ!? う、うん、分かった……」

 ベッドから身体を起こし、柊人さんが私の肩に手を添える。力は入れず、そっと触れる程度のその手は、大きくてとても逞しい。温かいその手に触れられ、安心する。良かった、柊人さんに大事がなくて……。
 目と目が合い、ゆっくりと近付いて来る柊人さんの唇。そっと目を閉じて……。



「はぁ……、まさか自分の病院で娘がチューする日が来るとはなぁ……」

「「あらあら、まぁまぁ」」


 チュッ! 見られても関係ないもんねっ!!!


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