100年生きられなきゃ異世界やり直し~俺の異世界生活はラノベみたいにはならないけど、それなりにスローライフを楽しんでいます~

まーくん

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ムーン大陸でも国造り

スマルさんの想いは尊いのです

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いくつかの冬が巡り、また新たな春の匂いが漂うこの頃。

いつものように外の世界を観察するスペルさんの姿があった。

あのサナキスとの戦いで自分の無力感を感じたスペルさんは、俺が戻ってくるまでに、外の世界を少しでも良いものにしようと頑張ってくれていたらしい。

それは兄スマルさんの願いでもあり、中の世界に留まることを決意した時に自身で決めたことでもある。

スぺルさんはほとんどの時間を外の世界の観察に費やしてくれている。





既に外の世界では700年近い月日が流れており、一つの国にまとまってからもかなりの時間が過ぎている。

安定した平和が齎されている現在、スぺルさんは退屈してるんじゃないかと思った俺は、スマルさんがいる観察室に向かった。

観察室は塔の3階にあり、元々は家電量販店のテナントのようなところだ。

俺がこの世界を復元した際に一緒に復元されたビデオモニター類も壁一面に並んでおり、外の世界のあちこちを映し出している。

スぺルさん達が中の世界に残ると決めた時に外の世界を観察出来るようにと、クルステさんがこのモニターに外の世界の各地を映せるようにしてくれたのだ。

モニターの数は大小合わせて約30。

そこには大陸中をカバーするように網羅されたカメラが定期的に切り替わり、様々な場所の風景を映しだしていた。

その内の一つを見つめているスぺルさん。

「スぺルさん、どうですか外の様子は?」

「ああ、ヒロシ殿か。いや実に平和だぞ。

こんなに平和が続く世界はあまり聞いたことが無いくらいだな。」

「それは良かったです。スぺルさんがいつも観察してくれているおかげですね。」

「いうほど何もしていないが。

兄上との約束でもあるし、ヒロシ殿が命をかけて作り、兄上やその他当時の王族が懸命に育てた世界だしな。

俺にはその意思を継いでいく責任があるのだ。」

「スぺルさん、もう充分じゃないですか?

既に外の世界は完全に自立して、今ではクルステさんのお告げもほとんど必要無くなっています。

もうスぺルさんが負い目を感じる必要も無いと思いますよ。」

「……そうか、そうかもしれんな。

何かトラブルがあったとしても、それは既に外の世界で解決すべき問題で、わたしが介在するべきものではなくなっているのかもしれん。」

毎日モニターを観察しているスぺルさんには俺には分からない思いがあるのかもしれないな。

「ヒロシ殿」

「はい?」

「せっかくの機会だから、お言葉に甘えて、少し外の世界に行って来ようと思っているんだ。」

「気分転換に良いかもしれませんね。

ただ早い目に帰ってきて下さいね。

外の世界は時間の流れが早いから、気が付いたらすぐにおじいさんになっちゃいますよ。」

「分かった。ヒロシ殿、ちょっと行って来る。」

近くのコンビニに行くような軽い感じでスペルさんは出て行った。

そして、スペルさんが戻ってくることは無かったのだ。

スペルさんが出て行ってから2日、外の世界では半年が経っていた。

俺とシルベスタさんは観察室のモニター越しにスペルさんを見ていた。

スペルさんは元インディアナ神国の教会で貧しい人達に炊き出しをしている。

昨日から見ているので、少なくとも3カ月以上は炊き出しをしていると思う。

そしてスペルさんの横には女の人がひとり。

どことなくスマルさんの中性的な面影がある。

歳の頃はスペルさんと同じくらいか。

「シルベスタさん、スペルさん、昨日からずっとこの調子なんです。」

「ヒロシ君、あの女性はスマル殿の直系の子孫にあたる巫女だ。

スペル君は、ここで兄であるスマル殿の子孫をずっと見つめて来た。

手を貸すわけでも無く、ただただ、見守っていたのだ。

それがスマル殿の遺言でもあったからな。

『民を見よ。我らは民を護りし一族。我が一族には構うなよ。』ってな。」

なるほど、それでスペルさんはあのモニターを食い入るように見つめていたのか。

シルベスタさんの言葉は続く。

「彼女は不治の病に侵されているらしい。

スペル殿が前に言っていた。

ただ彼女は自分の身体が動く限りは炊き出しをやめないだろう。

彼女に親兄弟はいない。子供もいない。

恐らく彼女がスマル殿の最後の子孫となると思う。

スペル殿は彼女の最期を看取ることと、あの炊き出しを続けていく道を選んだのだろう。」


そんな……

俺は言葉を出しかけて、それを飲み込んだ。

スペルさんの一族は民を護ることを使命とした高貴な血筋なのだ。

兄スペルさんの意志を受け継いで代々民のために、民に寄り添って生きてきた子孫達をスペルさんはどういう想いで見てきたのだろう。

そして、その血筋が絶えることが決まった今、スペルさんが選んだものがそこにあるのなら、ここは笑って見送ってあげるのが、本当の友なのだろうか。

スペルさんの最期を俺は冷静に看取れる自信が無かった。



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