100年生きられなきゃ異世界やり直し~俺の異世界生活はラノベみたいにはならないけど、それなりにスローライフを楽しんでいます~

まーくん

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番外編

番外編 オシンさん 2

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遅く起きたその日、オシンはいつものように市場ヘ買い物に行く。

自宅から市場まではゆっくり歩いても5分程度。

店主達のほとんどはご近所さんでもあり、12歳になったばかりのオシンがひとりでも全く問題なかった。

この国では12歳までは義務教育であり、その後は希望者のみ無償で3年間の高等教育を受けることが出来る。

オシンのように工房の一人娘であり、婿取りをして工房の後を継ぐことが決まっている場合、ほとんどは高等教育は受けずに工房の仕事にはいるのが一般的だったし、オシンもそのつもりであった。

休日にこうしてひとりで市場に買い物に来るのも卒業後の予行演習のようなものでオシンは工房の仕事を手伝えることが楽しみでもあったのだ。

「おじさんおはようございます。」

「よー、オシンちゃん、今日もひとりでお買い物かい?えらいねー。」

「あと2カ月で学校も終わりなんです。もう社会人になるんだから、みんなやってますよー。」

「あーそうなんだねー。オシンちゃんもとうとう卒業かい。
ウチの息子も去年卒業したけどさー、家の仕事もしないで遊んでばっかりだよ。
オシンちゃんはほんとえらいよ。」

八百屋のおじさんがニコニコしながら話しかけてきたのでちょっとおしゃべり。

オシンはあんまり勉強が好きじゃないので、もうすぐ工房の仕事を出来るのが楽しみなのだ。

野菜を買って、次に寄った肉屋では豚肉と羊肉を購入する。

工場で作った人工食材の方が安くて栄養があるらしいんだけど、今日は工房の設立記念日だから奮発するんだってお母さんが言ってた。

「最近は人口食材の方が人気があってねえ、なかなか商売が難しくなってきてるんだよねえ。

オシンちゃんちは職人さんも多いし、たくさん買ってくれるから助かるよー。
ほら、これおまけねー。」

「おばさんありがとー。また買いに来るねー。」

肉屋のおばさんがニコニコしながらおまけしてくれた。

オシンは嬉しくって大きな声で「バイバーイ」と言って更に奥へと進む。

「次は何だっけ、えーと、あー布屋さんだ。お母さんがわたし用の前掛けを作ってくれるんだっけ。」

肉屋の7軒隣りにある布屋さんまで軽い足取りのオシンはすぐに到着した。

「おばさーん、お母さんに前掛け作ってもらうんだー。布ちょうだい。」

「やあオシンちゃん。買い物ご苦労さんだねえ。

そうかい、オシンちゃんもとうとう卒業するんだね。それで前掛けを作ってもらうんだ。

よし、うんとおまけしてあげるから、オシンちゃんの好きなのを選んでごらんよ。」

「ありがとうおばさん。ゆっくり見せてもらうね。」

オシンは布探しに夢中で、結構な時間が経ったのも忘れて、店内を「あーでも、こーでも」と歩き回っていた。


「オシン!遅いと思ったら、やっぱりここだったんだね。」

後ろからお母さんの声が。

気が付いたオシンが店の前を見ると少し怒った顔のお母さんがいた。

「もー、遅いから心配するじゃないか。」

「お母さん、ごめんなさい。なかなか布が決まらなくって。」

布探しに熱中するあまり時間が経ったことに気付かなかったオシンは素直に謝って、また布探しに夢中になる。

オシンの空気を読めないのは今更なので、お母さんも布屋のおばさんも苦笑い。

「これ持って帰ってあげるから、布を見つけたら急いで帰ってくるのよ。」

「はーーーい。」

それから小1時間程オシンの布探しは続くのであった。


「オシンちゃんありがとうね。お母さんに綺麗な前掛けを作ってもらえたらいいね。」

「うん、おばさんありがとう。じゃあね。」

オシンは布屋のおばさんに挨拶して店を出る。

すると近くの店から漂う美味しそうな匂いに惹かれてふらふらとそちらへ。

屋台から漂う匂いは人工鶏肉を使った焼き鳥であった。

時間は既に昼前。家に帰ったらご飯が用意されている。

今焼き鳥を食べたくって仕方がないオシン。布屋のおばさんにまけてもらえたので串を1本買うくらいのお金は持っている。

でも食べて帰るときっとお母さんに怒られる。

いくら天然のオシンでもそのくらいの判断はできた。

「だめだよ。さあ家に帰ろう。食べたいけど。」

後ろを向いて1歩を踏み出す。

「さあ、走るんだオシン。焼き鳥は見なかったことにするんだ。でも食べたいけど。」

激しい葛藤の中、オシンの体はあっち向いたりこっち向いたり。

しばらくそうしていたが、「えい!」と気合を入れて走り出す。

「いたっ! あっごめんなさい。」

悩みすぎていつの間にか家でも屋台でも無い方角に無意識に走っていた天然のオシンちゃん。

数歩走ったところで誰かにぶつかってこけてしまう。

「大丈夫かい?」

優しそうな女の人の声にそちらを振り向くとそこには優しそうなお姉さんが心配そうな顔をこちらに向けていたのだった。

これがこれから波乱?の人生を送るかもしれないオシンとクルステの最初の出会いであった。

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