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第1章 新たな生活を始めようか

ヒロシ、山を買ったってよう1

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海浜公園に遊びに行った3日後、ヒロシは岐阜と長野の県境に山を1つ購入した。

50万坪にも及ぶ広大な広さを誇るこの山は、第2次世界大戦後植林用として国有地としていくつかの所有者から国が買い取り、最近売りに出されていたものの一部であり、それをたまたま広志が買い取ったのである。

競売での落札価格は4億円であったが、エレメントスで得た金を長期間かけて現金化してきた榎木広志にとっては微々たるものであった。

もともと広志の実家は大会社のオーナー一族であり広志自身もその重役であったため、広志が4億円くらいの現金を持っていたとしても世間的には何ら違和感は無かったようだ。

この山、広大な土地ではあるがその資産価値はほぼ0である。
もちろん固定資産税は掛かるのだが微々たるものであり、購入と同時に100年分を前払いしておいた。

周りは全て他の山である国有地に囲まれ、唯一繋がっている村までは細い参道を10km以上走る必要があった。


なぜこの山を購入したのかって?

それはヒロシが自分とミーアの戸籍問題について完全放棄したせいである。

広志と養子縁組をするとか、戸籍を取得するために様々な手段を考えた結果、ほぼ絶望的であることに行きついた。

まず養子縁組の件、海外からの帰国子女を装うにしてもあちら側の戸籍が必要となる。もちろんそんなものはあり得ない。

次に孤児を引き取ったことにした場合、こちらも戸籍が必要であるが、捨て子ということにしておけばごまかせるかも知れない。

だけど問題はヒロシが18歳であるということ。

仮に捨て子を拾って育てていたとしても、18歳まで戸籍登録もせずにほおっておいたというのは不自然すぎる。

何ら教育すら受けさせていないのだし。

そんなことを言った時点で広志は何らかの刑事事件案件で捕まってしまうに違いない。

しかもその捕まるはずの75歳の広志が存在しないのだから、話しはもっと複雑であった。

結局、ヒロシは誰もいないところでミーアと2人で生活することを選んだのだった。



さて、ここは榎木広志の自宅マンションの一室。

「えーとたしか転移の魔方陣はこんな感じだったっけな。」

お昼寝中のミーアを隣の部屋に置いて、ヒロシはぶつぶつ言いながら部屋に敷いた4枚のコンパネに油性マジックで魔方陣を書いている。

実はこのマンションがある一帯は日本でも珍しい魔力が存在する地帯なのだ。

普通の人は魔力の扱いなど知らないから、そんなもの全く関係ないのだが、エレメントスで魔法を使い放題だった広志にとって、この魔力の存在がこのマンションを購入した最大の理由であった。

もちろんヒロシが購入した山も魔力が存在することはいうまでもあるまい。


昔取った杵柄、ヒロシはうろ覚えだった魔方陣を必死に思い出しこうして購入した山に転移するための魔方陣を書いているのだった。

「よし、こんなもんかな。早速テストをしよう。」

コンパネ8枚分に書かれた魔方陣の横には小さな2つの魔方陣。

これはそれぞれ送信と受信の起動用魔方陣であり、大きな魔方陣の上に置いた荷物や人を送ったり、送り返したりできる優れものだ。

「最初はこのデジタルカメラだな。さあ上手く送れるか。」

デジタルカメラを魔方陣の中央に設置し録画スイッチを入れる。

そして成功を祈りつつ、送信用魔方陣に魔力を込めて起動する。

デジタルカメラを乗せた大きい方の魔方陣が淡く光り、次の瞬間デジタルカメラが消えた。

「よし、とりあえず起動はOKっと。次は受信のテストだな。」

5分後、今度は受信用魔方陣に魔力を込めると、送信時同様淡い光の後に、デジタルカメラが現れた。

「受信も成功っと。」

デジタルカメラの撮影した映像を見てみると、そこには鬱蒼とした木々が映っていた。

「おそらく転移場所も間違っていないよね。」

ヒロシが購入した山の中央付近、航空写真で確認した少し開けた場所の位置を転送先に指定していたのだが、まずまず間違いなさそうだ。

「これが空中だったり、どこかの建物内だったら大変なことになるもんな。」

まったくその通りである。

「よし、じゃあ次の準備だ。このコンパネを魔方陣の上に載せてっと。」

ヒロシは2枚のコンパネを魔方陣の中央に並べる。

そのコンパネにも少し小さめの魔方陣が描かれていた。

再度送信用の魔方陣を起動し、その5分後受信用の魔方陣を起動すると、無事に2枚のコンパネは戻ってきた。

「よし、じゃあ次は俺が向こうに行ってみるか。さあ上手くいってくれよ。」

ヒロシは2枚のコンパネと共に魔方陣に立って送信用魔方陣に魔力をこめたのだった。



目の前に淡い光が消えた時、ヒロシは2枚のコンパネと共に山の中にいた。

おもむろにスマホを取り出し衛星GPS機能を使ってこの位置を調べる。

少し思っていた場所とずれているが、ほぼ指定した場所で間違いなさそうだ。

「じゃあここに転移用の小屋を作っておくか。」

ヒロシは地面に向けて土魔法上級を放つ。

すると地震のような揺れの後、地面が隆起し次々とゴーレムが生まれていく。

ヒロシはゴーレムを指揮し、20メートルほど離れた場所に移動させてそこで1m四方の立方体に変化させ、どんどん並べさせていく。

2段積み上げて内部10m四方の石で囲まれた頑強な小屋の完成だ。


そう、ヒロシがこの山を購入した理由のもう1つの理由が、この一帯の魔力量だったのだ。

持ってきた2枚のコンパネを小屋の中央に敷いて固定する。

「さてこれでとりあえずはOKだな。万が一転送してすぐにクマに遭遇なんて洒落なんないもんな。

さあ一旦戻るか。」

設置したばかりの魔方陣に乗ってヒロシはマンションに戻るのだった。



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