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第2章 敵はホンノー人にあり
1【改革は、世界を変えつつある】
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<<王立アカデミー校長フリット視点>>
近年のキンコー王国の発展は、目覚ましいものがある。
我が教え子であり、ナーラ公爵夫人のユーリスタ君が行政改革を担当する様になってからだ。
農村の開発から始まったナーラ大公爵領内での改革は、米と小麦の2期作による食糧生産量の倍増、塩・砂糖・香辛料等の特産品の開発等農村の生活水準を大幅に改善した。
米と小麦の2期作は、王国内の食糧備蓄量を安定させた。
また、国が主要作物の取り引き価格を調整する様になってからは、買占めや売り惜しみによる、供給不足の問題もほとんど無くなり、王国全体の食糧事情も改善された。
これまで、他国からの輸入に頼っていた塩・砂糖についても王国内での生産方法が確立し、国の専売にする事で安価に安定した供給量を確保できる様になった。
香辛料等の特産品については、王国内での流通のみならず、今後は輸出による外貨獲得に貢献するだろう。
戸籍の整備は、人の流入流出を正確に把握でき、各領地の経営を容易にし、結果的に税収アップに繋がった。
下水道の整備や集合住宅による生活環境の改善は、単に生活環境だけでなく、スラムの縮小、流行り病の抑制等に貢献した。
また、大陸全体で制定された特許システムにより、開発者の権利が守られると同時に、他国であってもその公開された技術を合法的に利用できる事となり、新しい技術や仕組みが大陸全体に広がりつつある。
挙げればキリが無いが、今も多くの改善が平行して実施されている。
ナーラ大公爵領では、庶民の為の学校が作られ始めた。
改革を目の当たりにした村民が、教育の重要性を理解し、子供を教育したいと考え出したからだ。
もちろん、誰でも通えるように無償になっている。
我がアカデミーとしても歓迎すべきことなので、教師を育成する為の特別講座の設置や教師派遣等で協力させて頂いている。
幸いなことに、我がアカデミーの研究会の1つである「次世代の農村を考える会」は、この改革の初期から参画させて頂いており、改革に賛同し、卒業後もこの改革に携わりたいという生徒が後を絶たない。
既に50名程度の卒業生がなんらかの形で改革に携わって、頑張っている。
「次世代の農村を考える会」の生徒責任者は、生徒会長でもあるリザベート・ナーラ君だ。
この一連の改革を企画、推進しているユーリスタ公爵夫人の養子であり、赤いイナズマのライアンとマリアン君の子供である彼女は、アカデミー入学前からこの改革の中心にいる。
ユーリスタ公爵夫人の影のブレーンと云われるマサル殿と共に、最初のハーバラ村から、現場での実務を担っていた。
今年卒業になる彼女は、間違いなく王国初の女性官僚として、任に就くことになるだろう。
そういう意味では、この一連の改革は、女性の社会進出の門戸を大きく広げたとも言える。
ハーバラ村の村民の中にも、他領に改革の実務の責任者として任を受ける者も出てきており、これまでの貴族主体の社会システムが変わりつつあると言えるのではないだろうか。
<<マサル視点>>
ユーリスタ様と一緒に進めた行政改革は、順調に動き出し、俺が直接手を出さなくても大丈夫になって久しい。
今は、ユーリスタ様のブレーンとして、各地から上がってくるイレギュラーな問題等の対応策を考えたりしている。
ハーバラ村のフレディ村長から依頼を受け建設した小学校は、読書き計算ができる子供や若者を輩出している。
彼等は、自分達で工夫して特許を取得できる様な発見や発明を行い、村の収入増に貢献している。
それを見た他村からも学校建設の依頼が増え、王立アカデミーのフリット校長の協力を得て、教師の育成を急いでいるところだ。
改革を始めて3年が経ち、ナーラ大公爵領の税収、外貨を合わせた収入は、始める前の3倍になり、キンコー王国全体の収入も、2倍近くになった。
このまま各領地の改革が進めば、2倍は確実に超えるだろう。
ネクター国王は、この改革の成功は、マリス様の加護を受けたからだと喧伝してくれた為、マリス様を祀る神殿ややしろが、王国内に多数でき、参拝客が引きも切らない盛況振りだ。
マリス様も大喜びで、最近は毎晩俺の前に顕在化し、遅くまでお喋りしていく。
おかげで、すっかり寝不足だ。
この3年間、改革を妨害しようとする輩も多かった。
貴族至上主義に凝り固まった領主や官僚、キンコー王国への大量の農民の流出に憤った他国領の領主、改革が進んでいる村を逆恨みして攻撃した無能な他村の村長等、挙げればキリが無い。
それらの問題に対し、ひとつひとつ原因の究明と対策、恒久処置を行い、対処している。
おかげで最近では、あまり大きな問題は発生しなくなってきた。
ただ、新しく発生した問題として、ホンノー自治区がある。
ホンノー自治区とは、キンコー王国のコフブ領内にある自治権を持つ区域である。
つまり、キンコー王国内にあっても独立した国として運営されている地域である。
ホンノー自治区は、ホンノー人の支配地域で、厚い結界で囲まれ、他種族はほとんど居ない。
キンコー王国との取引についてもホンノー人の商人か、ホンノー人に認められた商人を介してしか行えない。
その為、ホンノー自治区はキンコー王国内にあっても謎の地域だ。
ホンノー人は、歴史あるキンコー王国よりも古くから彼の地に住んでいると云われているが、記録に残っているわけではなく、実際のところは不明である。
ホンノー人は、異能の力を持っており、過去にこちらから攻めていた時期もあったようだが、その強固な結界と異能の力で、跳ね返しされてしまっていたらしい。
それでも向こうから攻めてくることは無い為、今の状況に落ち着いて、既に200年近くになる。
王国とは、年に2回4月と10月にホンノー自治区の使者が、収穫物を王に献上する為に王都を訪れるのみの関係である。
ホンノー自治区の問題が顕在したのは、昨年10月に王都を訪れたホンノー自治区の使者からの陳情に端を発する………………………
近年のキンコー王国の発展は、目覚ましいものがある。
我が教え子であり、ナーラ公爵夫人のユーリスタ君が行政改革を担当する様になってからだ。
農村の開発から始まったナーラ大公爵領内での改革は、米と小麦の2期作による食糧生産量の倍増、塩・砂糖・香辛料等の特産品の開発等農村の生活水準を大幅に改善した。
米と小麦の2期作は、王国内の食糧備蓄量を安定させた。
また、国が主要作物の取り引き価格を調整する様になってからは、買占めや売り惜しみによる、供給不足の問題もほとんど無くなり、王国全体の食糧事情も改善された。
これまで、他国からの輸入に頼っていた塩・砂糖についても王国内での生産方法が確立し、国の専売にする事で安価に安定した供給量を確保できる様になった。
香辛料等の特産品については、王国内での流通のみならず、今後は輸出による外貨獲得に貢献するだろう。
戸籍の整備は、人の流入流出を正確に把握でき、各領地の経営を容易にし、結果的に税収アップに繋がった。
下水道の整備や集合住宅による生活環境の改善は、単に生活環境だけでなく、スラムの縮小、流行り病の抑制等に貢献した。
また、大陸全体で制定された特許システムにより、開発者の権利が守られると同時に、他国であってもその公開された技術を合法的に利用できる事となり、新しい技術や仕組みが大陸全体に広がりつつある。
挙げればキリが無いが、今も多くの改善が平行して実施されている。
ナーラ大公爵領では、庶民の為の学校が作られ始めた。
改革を目の当たりにした村民が、教育の重要性を理解し、子供を教育したいと考え出したからだ。
もちろん、誰でも通えるように無償になっている。
我がアカデミーとしても歓迎すべきことなので、教師を育成する為の特別講座の設置や教師派遣等で協力させて頂いている。
幸いなことに、我がアカデミーの研究会の1つである「次世代の農村を考える会」は、この改革の初期から参画させて頂いており、改革に賛同し、卒業後もこの改革に携わりたいという生徒が後を絶たない。
既に50名程度の卒業生がなんらかの形で改革に携わって、頑張っている。
「次世代の農村を考える会」の生徒責任者は、生徒会長でもあるリザベート・ナーラ君だ。
この一連の改革を企画、推進しているユーリスタ公爵夫人の養子であり、赤いイナズマのライアンとマリアン君の子供である彼女は、アカデミー入学前からこの改革の中心にいる。
ユーリスタ公爵夫人の影のブレーンと云われるマサル殿と共に、最初のハーバラ村から、現場での実務を担っていた。
今年卒業になる彼女は、間違いなく王国初の女性官僚として、任に就くことになるだろう。
そういう意味では、この一連の改革は、女性の社会進出の門戸を大きく広げたとも言える。
ハーバラ村の村民の中にも、他領に改革の実務の責任者として任を受ける者も出てきており、これまでの貴族主体の社会システムが変わりつつあると言えるのではないだろうか。
<<マサル視点>>
ユーリスタ様と一緒に進めた行政改革は、順調に動き出し、俺が直接手を出さなくても大丈夫になって久しい。
今は、ユーリスタ様のブレーンとして、各地から上がってくるイレギュラーな問題等の対応策を考えたりしている。
ハーバラ村のフレディ村長から依頼を受け建設した小学校は、読書き計算ができる子供や若者を輩出している。
彼等は、自分達で工夫して特許を取得できる様な発見や発明を行い、村の収入増に貢献している。
それを見た他村からも学校建設の依頼が増え、王立アカデミーのフリット校長の協力を得て、教師の育成を急いでいるところだ。
改革を始めて3年が経ち、ナーラ大公爵領の税収、外貨を合わせた収入は、始める前の3倍になり、キンコー王国全体の収入も、2倍近くになった。
このまま各領地の改革が進めば、2倍は確実に超えるだろう。
ネクター国王は、この改革の成功は、マリス様の加護を受けたからだと喧伝してくれた為、マリス様を祀る神殿ややしろが、王国内に多数でき、参拝客が引きも切らない盛況振りだ。
マリス様も大喜びで、最近は毎晩俺の前に顕在化し、遅くまでお喋りしていく。
おかげで、すっかり寝不足だ。
この3年間、改革を妨害しようとする輩も多かった。
貴族至上主義に凝り固まった領主や官僚、キンコー王国への大量の農民の流出に憤った他国領の領主、改革が進んでいる村を逆恨みして攻撃した無能な他村の村長等、挙げればキリが無い。
それらの問題に対し、ひとつひとつ原因の究明と対策、恒久処置を行い、対処している。
おかげで最近では、あまり大きな問題は発生しなくなってきた。
ただ、新しく発生した問題として、ホンノー自治区がある。
ホンノー自治区とは、キンコー王国のコフブ領内にある自治権を持つ区域である。
つまり、キンコー王国内にあっても独立した国として運営されている地域である。
ホンノー自治区は、ホンノー人の支配地域で、厚い結界で囲まれ、他種族はほとんど居ない。
キンコー王国との取引についてもホンノー人の商人か、ホンノー人に認められた商人を介してしか行えない。
その為、ホンノー自治区はキンコー王国内にあっても謎の地域だ。
ホンノー人は、歴史あるキンコー王国よりも古くから彼の地に住んでいると云われているが、記録に残っているわけではなく、実際のところは不明である。
ホンノー人は、異能の力を持っており、過去にこちらから攻めていた時期もあったようだが、その強固な結界と異能の力で、跳ね返しされてしまっていたらしい。
それでも向こうから攻めてくることは無い為、今の状況に落ち着いて、既に200年近くになる。
王国とは、年に2回4月と10月にホンノー自治区の使者が、収穫物を王に献上する為に王都を訪れるのみの関係である。
ホンノー自治区の問題が顕在したのは、昨年10月に王都を訪れたホンノー自治区の使者からの陳情に端を発する………………………
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