みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第2部 聖なる愚か者の行進

第27話 どうあがいても、双子姫が俺の恋路を邪魔してくる件について

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 鹿目ちゃんとお昼を一緒にした、その日の放課後。

 俺は彼女と一緒にテスト勉強をするという口実を理由に、学校の近所にあるファミレスへと足を運んでいた。

 テーブルを挟むように俺の対面へと座っているのは、もちろん愛しのマイ・スイート☆ハニー(予定)の鹿目ちゃん。

 そして、その両隣には。



「……なんで、おまえらも居るわけ?」

「あら、わたしたちが一緒だと何か不都合な点でも?」

「うぅぅ~……」



 またもや呼んでもいないのに、古羊姉妹がハッピーセットよろしく、くっついて来ていた。

 相変わらず人懐っこい作り笑いを浮かべる芽衣と、何故か小さく唸りながら俺を忌々いまいましそうに睨みつけてくる、よこたん。

 ほんと何度俺の恋路を邪魔すれば気が済むんだ、コイツらは?

 もう逆に俺のこと好きなんじゃねぇの? と、思えてくるほどの執拗さだ。

 なんなの? 俺のこと大好きなの? ツンデレなの?

 ……そう考えたら可愛いじゃねぇか、コイツら。



「まぁまぁ、そう睨まないでくださいよ士狼。これは鹿目さんのためでもあるんですから」

「えっ? わ、ワタシですか?」



 唐突に話題を振られて困惑する鹿目ちゃんに、芽衣は優雅な仕草で頷いた。



「えぇ、そうです。確か話によれば、テスト範囲で分からない問題を教えて欲しいそうですね?」

「なんで知ってるの、芽衣ちゃん? おまえ、そのとき居なかったよね?」

「は、はい……。ワタシだけじゃ分からないので、大神センパイに教えて貰おうと……」

「あぁ~。それはムチャってヤツだよ、シカメさん」

「ちょっと、よこたん? 本人を前に失礼じゃない、その言い方?」



 至極納得したって声音に、納得できない。



「洋子がこう言うのも無理はありませんよ、士狼。あなた、2年生の勉強にすらついていけてないのに、1年生の勉強を教えることが出来るんですか?」

「ば、バカにすんなよ! 1年の問題くらいチョチョチョチョイ、チョイだよ!」
「センパイ……全然チョチョイになってないです……」



 鹿目ちゃんの心配げな眼差しが、俺に突き刺さる。

 くぅぅぅっ!? 余計なことを言うんじゃねぇよ!

 せっかく知的でクールな先輩としての立場を確立して、鹿目ちゃんに『センパイ素敵っ! 抱いて!』と言わせて、大人の階段をエスカレーターで登る計画がパァになるじゃねぇか!



「わかりました。そこまで言うなら士狼に問題です」

「な、なんだよ?」

「そう身構えなくても、1年生なら誰でも解ける簡単な問題ですよ」



 そう言って、芽衣は天上に向けて、その彫刻刀のような綺麗な人差し指をピンッ! と突き立てた。




「問題。わたしたち高校生前後の時期は、発達上なんと呼ばれているでしょうか?」

「そんなの楽勝だわ、『発情期』だろ?」

「答えは『思春期』です」

「……ケアレ・スミスか」

「いや、ししょー? 純粋に間違えただけだよね? 普通に間違えただけだよね? あとソレを言うなら『ケアレス・ミス』だよ」



 う、うるせぇな!

 ちょっと緊張して、言い間違えただけなんだよ! 

 冷静になっていたら普通に解けたからね、いやマジで!



「どうですか鹿目さん。これでもまだ、この男に勉強を教えてもらいたいですか?」

「……会長、お願いします」

「良い判断です」

「あ、あれ!? いつの間にか俺、戦力外通告されてる? クビですか!?」

「はいはい、ししょーはこっちでテスト勉強しようねぇ。人様のテスト勉強を見てあげる余裕なんて、ししょーには無いんだからね?」



 気がつくと芽衣が鹿目ちゃんを、よこたんが俺に勉強を教える流れとなっていた。

 ほんとは文句のひとつでも言ってやりたいところだが、当事者である鹿目ちゃんが真面目に勉強している手前、強くは出られないナイスガイ、俺。

 仕方がないので、よこたんに簡単な日本史の問題を出してもらいながら、大人しくテスト勉強に励むことにした。



「――でね、織田信長は『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』って句をうたったのに対して、豊臣秀吉は『鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ホトトギス』って返したんだね」

「あっ、それは俺も知ってる。すっげぇ有名なヤツだよな」

「うんうん。信長の強引さ、秀吉の積極的な性格をよく表しているよね」



 俺の反応にイチイチ嬉しそうに返事をしてくれる、よこたん。

 よこたんの教え方はペースこそ遅いものの、俺がどうしたら理解できるかと一生懸命に考えて教えてくれているのがヒシヒシと感じられて、俺も頑張ろう! という気にさせてくれるから、ありがたい。

 やっぱりコイツ、人に教える才能があるよなぁ。

 なんて考えているうちに、よこたんが俺にひとつ問題を出してきた。


「じゃあね、徳川家康はこの2人の句に対して、なんて返したでしょうか?」
「『鳴かぬなら 銀河の果てへ 不死鳥フェニックス』だろ? 楽勝だよ」
「ホトトギスは?」


 不正解です、と左右の人差し指でペケ印を作りながら「ブッブー」と唇を尖らせる、よこたん。

 なんだよおまえ、可愛さの擬人化かよ?

 何が「ブッブー」だ、ブッチューしちゃうぞこの野郎?

 こうして簡単な雑談を交わしながら、4人でテスト勉強を開始して1時間弱が経った。

 ふいに集中力が切れた俺に、強烈な尿意が襲ってきた。


「ワリィ、俺ちょっとトイレに……。いや、息子の三者面談に行ってくる」
「普通にトイレでいいですよ……」
「ししょー……。ししょーって、少しデリカシーについて履き違えてないかな?」
「えっと、どうぞ」


 三者三様の返事を背に、俺は息子と対話するべく席を立った。

 誰も居ない男子トイレと呼ばれる談話ルームに移動し、息子と今後のことについて話し合っていると、ギィッ、と背後のドアが開いた。

 どうやら同業者が来たらしい。

 チラッ、と確認すると、そいつは坊ちゃん頭にとっつぁんメガネをかけた男子高校生であった。

 制服から推測するに、県内でもそこそこ有名な進学校に通っていることが見て取れる。

 ここには小便器は1つしかないので、必然的に俺の後ろに並ぶとっつぁんメガネ。


「いやぁ、悪いね? すぐ済むから」


 そう言ってさっさと用を足し終え、とっつぁんメガネと場所を交代する。

 そのままバシャバシャと流水で手を乱暴に洗い。


「あ、あの……」


 と、例のとっつぁんメガネに背後から声をかけられた。

 コイツ用足すの速いなぁ、なんて思いながら「うん?」と首だけメガネの方に振り返る。


「どうした兄ちゃん?」
「えっと、その……。いえ、何でもないです……」


 口をパクパクと動かして、何かを伝えようとするが、すぐさま諦めたように顔を俯かせる、とっつぁんメガネ。

 そのままトイレから出て行こうとするメガネに俺は。


「ちょっと待てよ、兄ちゃん」
「は、はいっ! な、なんですか!?」
「兄ちゃん……ちゃんと手は洗った?」
「あっ……」


 再び俺の背後に並ぶ、とっつぁんメガネ。

 俺はその謎メガネをトイレに残し、さっさと鹿目ちゃんたちが待つテーブルへと戻る。

 それにしても、なんだったんだろうか、あのとっつぁんメガネは?

 俺に何か言いたいことでもあったのだろうか?


「でも、初めて会うつらだったしなぁ。って、あれ?」


 テーブルへ帰ってくるなり、3人とも勉強道具を片付け、帰る準備を済ませていた。


「遅かったですね士狼。待ちくたびれましたよ?」
「えっ、なんで帰る準備してんの、おまえら? テスト勉強は?」
「そう慌てずに、まずは周りを見てください」


 周り? と言われるがまま、グルリッ、と店内に視線を向ける。

 来店したときよりも、お客さんの数が増え、店員が忙しそうに西に東にと駆けずり回っているのが見えた。


「これ以上の長居は、お店に迷惑ですからね。ここらが潮時です」
「あぁ、なるほど。そういうことね」


 よこたんが俺の分の帰り支度を済ませてくれていたようで、彼女から鞄を受け取り、鹿目ちゃんの方に向き直った。


「それじゃ、鹿目ちゃんは駅まで俺が送って行くよ。1人だと危ないし」
「あ、ありがとうございます。助かります」
「いえ、わたしたちも一緒に駅まで送りますよ」


 そう進言してきた芽衣に、俺は小さく首を横に振った。


「やめとけ、もう暗くなるし。2人は大人しく家に帰っとけ」
「大丈夫ですよ、洋子も一緒ですから」
「そうだよ、メイちゃんの言う通りだよ。ボクたちも一緒に見送りに行くよ」
「ダメだ、許さん」


 俺はフルフルと首を横に振りながら、心の底から心配そうな顔を作り、古羊姉妹を見つめ返した。



「俺はさ、心配なんだよ。大事な仲間が、また何か大変なことに巻き込まれたらって思うと……。怖い目に遭ったらと思うと俺は……俺はっ!」

「し、ししょー……」



 よこたんが潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

 どうやら俺の気持ちが十分に届いてくれたらしい。

 感動したように身体を震わせる妹の隣で、芽衣もまた俺の言葉に、そのニセモノの胸を震えさせて――




「――士狼。あなた、鹿目さんと2人きりになりたいだけでしょう?」


「…………」
「あっ、目を逸らした! ししょーが目を逸らしたよ、メイちゃん!?」
「ほら、やっぱり。どうせそんな事だろうと思っていましたよ」



 まるで『キサマの考えてるコトなんぞ、何でも御見通しだ!』と言わんばかりに、ため息をこぼす芽衣。

 そんな芽衣を尻目に、俺は懐から財布を取り出した。

 そしてそのまま2人の手のひらに、そっと100円玉を握らせる。


「士狼、なんですかコレは?」
「頼むっ! 帰ってくれ!」
「「ゼッタイにイ・ヤッ♪」」


 まるで打ち合わせでもしていたかのように、揃って笑顔を浮かべる双子姫。

 うん、可愛いから余計にムカつくね♪


「さてっ! ではお会計を済ませて、ここを出ましょうか?」
「うん。行こっか、シカメさん」
「えっ? で、でもまだ大神センパイが……」


 いいから、いいから! と鹿目ちゃんの背中を押して、レジの方へと消えて行く古羊姉妹。

 その後ろ姿を愕然がくぜんとした様子で見送る俺。

 ほんと、なんで人生ってこんなに上手く出来ていないんだろう?

 と軽く神に呪詛をプレゼントしようかとした矢先、ふと強烈な視線を肌に感じた。

 視線の感じた方向に顔を向けると、そこには例の坊ちゃんヘアーにとっつぁんメガネの男子高校生が、ジーッ! と、俺の方をまっすぐ見つめていた。

 かと思えば、俺の視線に気づくなり、慌てて明後日の方向へ目線を切った。

 まるで「最初から見ていませんよぉ~」と言わんばかりの白々しい態度で、コーヒーをすするとっつぁんメガネ。

 なんだアイツ?

 俺のファンか?


「なにをしているんですか士狼? はやくこっちに来てください!」


 レジの方から芽衣の声が聞こえ、俺は意識をとっつぁんメガネから芽衣たちの方へと切り替える。

 はやく、はやく! と、俺を呼ぶよこたんの声に軽く返事を返しながら、3人のもとへ歩いて行く。

 その間にも、とっつぁんメガネからの粘っこい視線が身体に絡みついてくるのを感じて、思わず眉をしかめてしまう。

 俺は不愉快な視線を振り切るように、ほんの少しだけ歩幅を大きくした。
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