みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第3部 恋するウサギはくじけないっ!

第23話 恋は下着返却のあとで

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 司馬ちゃん家でデッド・オア・ライヴを繰り広げた、翌日の早朝にて。

 俺がいつもように2年A組の教室へとやってくると、熊本ちゃん率いる2年A組の女子生徒たちが、教室の後ろで「いらっしゃいませぇ~っ♪」と声を揃えてお辞儀の練習をしていた。



「うぉっ、なんだコレ!? 大神士狼ファンクラブか? 出迎でむかえご苦労っ!」
「大神ちゃ~ん。バカなこと言ってないで、早く扉閉めてよぉ」



 他のクラスの子に見られちゃう~、と不満タラタラな表情の熊本ちゃんにそう言われ、慌てて教室のドアを閉める。



「熊本ちゃん、ナニコレ? 俺を出迎えるために、みんなでスタンバってたの? ありがとう!」

「そんなワケないじゃ~ん。ほらぁ、ウチのクラスの出し物って『おにぎり屋さん』でしょ~? だからぁ、今の内にみんなで接客の練習をしておこうかと思ってぇ~」

「接客の練習? こんな朝から? メチャクチャ気合入ってんじゃん」
「そりゃ気合も入るよぉ~。今年はクラス対抗戦だからねぇ~」
「クラス対抗戦?」



 なにそれ? と俺が可愛らしく小首を捻ると、熊本ちゃんが『オドロキッ!』と言わんばかりに目を見開いた。



「あれれぇ~? 大神ちゃん、生徒会なのに知らないのぉ~?」
「そう言えば、士狼にはまだ伝えていませんでしたよね」
「あっ、会長ぉ~。おはよぉ~」



 妙に間延びした熊本ちゃんの声に導かれるように背後に振り返ると、そこにはプリントの束を持った芽衣が、ぽつねんと立っていた。

 芽衣は「よいしょっ」と言いながら、プリントの束を俺に手渡しつつ。



「教職員の方々と協議した結果、今年の森実祭はクラスの出店に対して人気投票を行い点数化、さらにミス・コンテスト、ミスター・女装コンテストの点数も加点して、1位になったクラスには豪華賞品と特典を出す方式にしてみたんです。ちなみにコレが豪華賞品と特典の種類です」



 そう言って猫を被った芽衣は、俺に手渡したプリントの束の1番上をペラりと手に持ち、我が眼前へと差し出してきた。

 え~と、なになに?




1つ、今年度一杯は、クラスに据え置きの冷蔵庫を設置する。

1つ、同じく今年度一杯は、クラスに据え置きの電子レンジを設置する。

1つ、今年度における持ち回り掃除の免除。

1つ、遊園地『ポメラニアン』の無料入場券。




「へぇ~、今年の森実祭は気合入ってんなぁ」
「本当は今朝、通達するハズだったんですけど、どこからか情報が漏れちゃいましてね」



 苦笑を浮かべる芽衣の視線の先には、やる気に満ち溢れている我らが2年A組女子一同の姿があった。



「据え置きの冷蔵庫、欲しいよねぇっ!」
「んだんだっ! これは絶対に1位取らなきゃでしょっ!?」
「掃除免除も大きいよねっ!」



 キャァァァ~☆ と、初めてエロビを目撃した男子小学生のように、キャピキャピ興奮し始める女性陣。

 う~ん、うるせぇ♪

 動物園かな、ここは?



「ウチのクラスはぁ~、まだぁ~、ミスター・女装コンテストの出場者は決まってないけどぉ、ミス・コンテストは会長が出てくれるからぁ、優勝は間違い無しでしょ~? つまりぃ、ウチのクラスがぁ、今現在ぃ、優勝に1番近いのぉ~」

「なるほど。だから、みんな気合入れて早朝練習してんのね」



 そういうことぉ~、とポワポワした声音で再び練習に戻る熊本ちゃん。

 その流れで芽衣も女性陣の輪に加わるべく、俺から距離をとった。



「さて、これから忙しくなりますよ士狼。あっ、そのプリントの束は朝のホームルームで渡すので、教卓の上に置いておいてください」
「うぃ~」



 りょうか~い、と朝練に加わる芽衣を横目に、俺はプリントの束を持って教卓の前まで移動する。

 そのまま教卓の上にプリントの束を置いて、自分の席に戻ろうとして、ハタと気がつく。

 ありり?

 なんか珍しく、元気が難しい顔で自分の席に、座り考え事をしてんぞ?



「おいーす、元気。どったべ、そんな難しい顔をして? 発情期か?」
「あっ、相棒。……実はな、ちょっと困ったことになってしもうてのぅ」

「困ったこと? なんだよ? ハッ!? も、もしかしてウチのクラスが森実祭でやる『おにぎり屋さん』で、女の子たちに制服エプロンとは別に着て貰おうと思っているコスプレ・シリーズの輸入が、とどこおっているのか!?」



 オプションをつけることによって女の子が制服エプロンではなく、ナース服、チャイナ服、メイド服を着てくれる夢のサービスを野郎共の間で秘密裏に進めているワケだが……まさか、我らが計画にトラブルでもっ!?

 なんて思っていると、元気は神妙そうな面持ちでフリフリと首を横に振った。



「ちゃうちゃう、計画はすこぶる順調や。そうやのうてな? 実はワイも今朝、聞いたばかりなんやがな? 何でも昨日の夜、マイハニーの家に泥棒が侵入したらしいんや」

「へ、へぇ~? そ、そうなんだぁ」



 ピクッ!? と頬の筋肉が強ばる。

 お、落ち着けシロウ・オオカミ。

 まだ慌てるような時間じゃない。

 俺は元気に気取られないように、いつも通りクールで知的な笑みを浮かべて、さも「今、初めて聞きました」といったていで口を開いた。



「そ、それで? 司馬ちゃんにケガとかはなかったのかよ?」
「ケガは無かったんやが……ちょっと大変なモノを盗まれてのう」
「大変なモノ?」



 昨日盗んだ大変なモノと言えば、彼女の『心』以外だと……うさみんが持って帰った司馬ちゃんのパンティーだよな?

 おいおい? 

 確かにパンティーはとんでもなく大切なモノだが、元気が深刻な顔をするほどのモノか?

 コイツ、どれだけ自分の彼女のパンティーを大切に思っているんだよ、変態か? ……あぁ、変態だったわ。



「実はワイが誕生日プレゼントに渡した下着を盗まれたらしくてなぁ。ハニー、今朝から落ちこんどんのや」

「へ、へぇ~」



 罪悪感で窒息しそうだ。

 や、ヤバいぞ、うさみん! 

 おまえコレ、司馬ちゃんのパンツを盗んだことが元気にバレたら、確実に友情ブレイクどころか、初恋ブレイクだぞっ!?

 というか、なんでコイツは出来立てホヤホヤの彼女に、パンツをプレゼントしてんだよ?

 なんだこの男は、変態か? ……あぁ、変態か。
 
 脳裏に我らがロリ巨乳の泣き顔がよぎる。

 と同時に「邪魔するぞい!」と、まさかのご本人うさみんが教室へとやってきた。
 
 た、タイミング悪スギィッ!? 

 この空気の読めなさ……ダメだコイツ。

 永遠にメインヒロインになれないタイプの女の子だわっ!



「ワガハイが来てやったぞ愚民ども! ん? どうした我が終生のライバル、猿野よ? 難しい顔をして、ポンポンでも痛いのかぇ?」

「いやぁ、お腹は大丈夫なんやが……困ったことになってのぅ?」
「困ったことじゃと?」



 キランッ! とロリ巨乳の瞳が輝き、その表情がニチャッと邪悪に歪む。

 きっと元気の困りごとを解決して、好感度を爆上げようとか考えているんだろうなぁ……。

 そんな俺の予想はやはり正しかったようで、うさみんはその小さな身体とはアンバランス過ぎる豊かすぎる胸を「触って♪」と言わんばかりに、元気の方に突き出しながら、自信満々に口を開いた。



「いいじゃろう! 今日は気分もイイし、キサマのしょうもない悩み、このワガハイが解決してやろうぞ! どんなバカげた悩みなんじゃ? 言ってみるがよいっ!」

「実は昨日の晩、どこぞの変態クソ野郎にワイのマイハニー葵ちゃんの下着が盗まれたらしくてなぁ」

「……ほ、ほぉ~?」



 ピシッ!? と、うさみんの顔が固まった。

 赤色→黄色→青色と、まるで信号機のようにコロコロと顔色が変わっていく様は、一種の芸術品を見ているかのようだった。

 へぇ~、人間ってピンチに陥るとマジで顔色が変わるんだぁ♪

 シロウ、おどろきっ!



「絶対に許さへんからな、変態めぇ。ワイの愛しのマイハニーを怖がらせただけやなく、私物まで盗んで行きよってからに……。必ずワイがこの手で捕まえて、豚小屋にブチ込んでみせるっ!」

「は、犯人が変態かどうかは、早合点しすぎじゃと思うがのぅ。ほ、ほらっ! 帰る家を間違えたとか、そういうお茶目なヤツかもしれんぞい?」

「いいや、ワイには分かる。犯人はとんでもないド変態やっ!」

「…………」

(バカ泣くな!? コッチ見るなっ! バレるだろうがっ!)



 想い人にド変態扱いされて、泣きそうな顔になる、うさみん。

 待て待て!?

 今ここで泣くのはマズイ!

 泣くのはマズイぞぉ!?

 引っ込め涙ぁ! と念を送るが、俺の頑張りむなしく、うさみんの頬に一筋の涙が流れ落ち――



「猿野くん、少しお話いいですか?」



 ようとした寸前、うさみんを庇うように、芽衣が元気の前に身を割り込ませた。

 ナイス! さすがは俺たちの生徒会長だぜ!



「うん? どうしたんや古羊はん?」

「いえ、その司馬さんのお家に下着泥棒が侵入した件について、ちょっとお話しをうかがいたいなと思いまして。他の生徒達の安全を守るという意味でも、わたしたち生徒会も協力させてもらえないでしょうか?」



 シレッ、とした様子で『わたしたちは猿野くんたちの味方ですよぉ♪』と口にする犯人。

 す、スゲェ……。

 さすがは猫かぶりの生徒会長さまだぜ。

 表情1つ変えずに、澄ました笑顔で相手から情報を引き出そうとしていやがる。

 頼もしいと同時に、何か怖いわ……。

 俺、一生コイツに口喧嘩で勝てる気がしないんですけど?



「きょ、協力してくれるんかいな、古羊はん!?」
「もちろんです。生徒の安全を守るのも、生徒会の仕事ですから」

「さすがは古羊はんやで! 古羊はんがおったら、鬼に金棒やっ! こりゃもう犯人は捕まったも当然やな!」

「ふふっ。そう言っていただけると、わたし達としても誇らしい気持ちになりますね。では、ここでお話しするのもアレですから、生徒会室まで移動しましょうか?」



 了解や! と豪快に笑いながら教室を後にする芽衣と元気。

 退室の瞬間、芽衣がチラッと俺にだけ視線を寄こし『後のフォローは任せたわよ』とアイコンタクトを飛ばしてきた。

 俺は親指を突き立て「任せろ!」と返事をしつつ、思い出ポロポロ、涙ポロポロしているロリ巨乳に声をかけた。



「ふぃぃ~、助かったぁ。おまえなぁ、あのタイミングで泣くんじゃねぇよ? 元気に疑われるだろうが」

「だって、だってぇ~っ! 猿野にっ! 猿野に嫌われたぁぁぁぁ~~~っ!?」

「泣くな、泣くな! 大丈夫だからっ! 元気のヤツも、まだ犯人が俺たちだってことには気づいていないみたいだし、今日中に例のブツを司馬ちゃんに返せば、問題ないハズだ!」



 出来る限り優しくフォローしてやったのに、どういう訳かジロリッ! と、うさみんに睨まれる俺。



「な、なんだよ、その目は?」
「ぐすんっ。もとを正せば、キサマが司馬家に侵入しようと言い出したのが、悪いのじゃろうが!」

「あぁん!? 誰のためにここまで協力してやっていると思ってんだ、このアマ!? その無駄にデカイ乳首を引きちぎるぞ、テメェ!?」

「ち、乳首はデカくないわい! ただおっぱいが大きいというだけで! って、何を言わすんじゃ、このスケベ!」

「自爆っ! 今は明らかに自爆だろ!?」



 それに嘘はよくねぇぞ、うさみん。

 俺の妄想の中では、おまえの乳輪は500円玉サイズくらいあったぞ!

 まぁ綺麗なサーモンピンクではあったがな!

 ちなみに古羊姉妹は10円玉サイズだったよ☆

 って、今はそんなことはどうでもいいか。



「まぁ待て、うさみん。こんな不毛な言い争いをしている場合じゃないぞ? 今は一刻も早く、司馬ちゃんのパンティーを返却しなければ」

「返却と言ったって、どう返せばいいのじゃ? あの泥棒猫にも、バレるワケにはいかんじゃろ?」
「そんなもん、司馬ちゃんの鞄にこっそり忍び込ませるに決まってんだろうが」
「1号、それはかなり難易度が高いぞい?」



 そんなことは百も承知だ。

 なんせ司馬ちゃんは1年生、俺たちは2年生だ。

 ただでさえ上級生というだけで注目を集めるのに、そのうえ衆人観衆の中、司馬ちゃんの鞄にパンティーを忍ばせる胆力と言ったら……もう想像に難くない。

 だが、俺には1つ、とびっきりの策があるっ!



「おいおい、もう忘れたのかよ、うさみん? おまえが発明した『透明人間になれる』薬をよぉ? アレ飲んで、さっさと司馬ちゃんのパンツを返しに行こうぜ?」

「……すまんな1号。アレはこの間使った分で、もう品切れじゃ。予備もない。作る材料も……ない」



 さて、万策尽きたワケだが?

 ほんとこの女は、万事においてタイミングが悪すぎる……。



「チクショウっ!? それでもやるしかねぇんだよ、俺たちはよぉ!」

「のう? 今思いついたんじゃが、普通に司馬葵のロッカーとか、下駄箱に忍ばせるんじゃ、ダメなのかえ?」

「ダメだな。司馬ちゃんは1年のアイドルだから、荷物が盗まれるロッカーは決して使わないし、下駄箱はラブレターでいっぱいだ。パンティーの入る隙間はない」



 中々に凄まじい発言だが、本当なのだから仕方がない。

 これは元気から聞いたんだが、小学校高学年の頃から司馬ちゃんは、自分のロッカーに物を置かないようにしているらしい。

 なんでもロッカーに物を置いて帰った翌日は、山賊が通ったかのように私物が綺麗さっぱり無くなっているからだそうだ。

 それ以来、司馬ちゃんは自分の荷物は毎日持って帰るようにしているとのこと。

 まったく、この世の中、変態が多くて困ったものだ。



「大丈夫だ、司馬ちゃんのパンティーは必ず俺が返却してみせる。この命に代えてもな!」
「やっすい命じゃのう」
「誰のためにやっていると思ってやがる、クソアマ?」



 知り合いじゃなければ、瀬戸大橋から紐なしバンジージャンプをやらせているところだ。

 かくして一悶着ありつつも、俺たちの新たなる挑戦が、切って落とされたのであった。
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