みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第3部 恋するウサギはくじけないっ!

第30話 ホモォ……

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 い、今起こったことを、ありのまま話すぜ?

 夜、人気の居なくなった公園でむさ苦しい男達に囲まれながら、下半身ギンギンの男に握手を求められている現在。

 何を言っているのか分からんと思うが、俺も何を言っているのか分からん。

 分かることは、目の前の鷹野という男が発情期のワンちゃんよろしく、物凄く興奮しているということだけ。

 そりゃ周りの男達がどれだけシリアスをぶっこもうが、リーダーのリーダーが独立愚連隊が如く硬くそそり立っていたら、シリアスなんて霧散しますわな。

 だというのに、何故だろう?

 俺の中の危険アラートが、鳴りやまないんですけど?



「あ、あの……おたくのリーダー大丈夫ですか? 主に頭の方なんですが……」

「はうわっ! 喧嘩狼とまた会話してもうたわ! アカン、ワシのお股がキャンプファイヤーしそうぜよ!?」

「タカさん、落ち着いてください。もうキャンプファイヤーしています。あと喧嘩狼がちょっと引いています。もう少し言動には気を付けてください」



 テントマン鷹野の隣に居たスキンヘッドの長身が、こっそり耳打ちをするが、ごめん全部聞こえているわ。

 あと「ちょっと」じゃなくて「かなり」引いていますよ?

 なんだろう?

 この鷹野という男を見ていると、お尻の穴がキュッ! と引き締まるんだが……魔法か何かかな?

 なんて思っていると、俺の全身を鷹野の舐めるようなネチっこい視線が襲う。

 その瞳はまさに、お気に入りグラビアアイドルの新刊を前にした男子中学生のようであり、おやおやぁ~?



「アカン、アカンわ……。夢にまで見た喧嘩狼が、目の前にる。それだけで、もう射精しそうぜよ!」

「だ、誰か!? 誰か助けてっ!? 変態です! それも度し難いほど変態です! ちょっ、こっちくんな!? あっち行け!」

「あぁっ!? 喧嘩狼に嫌われてしもうた……。悲し過ぎて……イクッ!?」



 んほぉぉぉぉぉっ♥♥♥ と獣の如き嬌声をあげながら、ビクンビクン♪ と身体を震わせる鷹野。

 いやぁぁぁぁぁぁっ!?

 助けて芽衣ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!

 心の中で同じ変態にSOSを発信。

 頼む、この想い届いてくれ!



「ふぅ。やっぱり生の喧嘩狼は最高ぜよ! ワシのお尻がひと際トロピカルして、つい思わず軽くイッてしもうたぜよ! おいノブッ! 替えのパンツを頼む!」

「はい、タカさん」



 ノブと呼ばれた例のスキンヘッドは、どこからともなく新品のトランクスを取り出すなり、鷹野にそっと手渡した。

 そしてパチンッ! と指を1つ鳴らすと、周りにいた男達が鷹野を囲い、肉壁のカーテンとなって鷹野がパンツを着替えるための壁となった。

 この手馴れた動き……はっはーん?

 さてはコイツら、場慣れした変態だな?



「申し訳ありません大神様。鷹野に変わり、わたくしがご説明してもよろしいでしょうか?」

「えっと、あんたは?」

「はい、わたくしは九頭竜高校2年、大和田おおわだ信愛のぶちかと申します。親しき者からは『ノブ』の愛称で呼ばれております。以後お見知りおきを」

「あぁ、これはご丁寧にどうも。森実高校2年の大神士狼です、こちらこそよろしくお願いします」



 ペコリッ、とお互い頭を下げる。

 なんだコレ……?

 まるでこれからお見合いでも始めようかという雰囲気に、軽く戸惑ってしまう。

 嫌だよ俺、男とお見合いだなんて!

 というか鷹野ソイツとお見合いなんて、貞操の危険を感じるから、絶対に嫌なんですけどっ!?



「ところであの……おたくのリーダー大丈夫ですか? その……お股のパッキンが、ぶっ壊れているように見えますが?」

「大丈夫です、問題ありません。タカさんは『九頭竜高校のオシッコピッチャー』として、後輩に親しまれているくらい校内では信頼を置かれています」

「それ、バカにされていますよね?」



 しかも物凄い勢いで。

 大丈夫なの?

 そんな男がおまえらの頭で、本当に平気なの?

 と思っていると、どうやら顔に出ていたらしく、大和田は「大丈夫です」と小さく頷いた。



「確かにタカさんのお股はゆるゆるですが、実力は本物です。それはココにいる全員が理解しています」



 よほど鷹野ヘンタイのことを信頼しているのだろう。

 言葉の節々から、鷹野ボッキングに対する敬愛が溢れ出ているように聞こえてたまらない。

 まぁただ、そのくだんの鷹野は、今現在も、いそいそとパンツを履き替えている最中なんだけどね?

 う~ん、なんとも締まらない光景だ。



「しかし、まさかあの喧嘩狼が進学校に通っていようとは……道理でどれだけ探しても見つからないハズです」

「そういや俺を探してたんだっけ、おまえら? じゃあなんで関係ねぇ奴らまで巻き込んでんだよ? 俺に用件があるなら、まっすぐ俺の所にだけ来いよ。やり方が陰湿だぜ?」

「森実高校の生徒たちのことを言っているんですが? 彼らはアナタをおびき寄せるですよ」



 撒き餌? と俺がたずね返すと、大和田はあっけらかんとした表情で「はい」と肯定した。



「タカさんの過去と情報から、アナタは義理人情に厚い人だと推測できたので、運よくアナタのお友達を病院送りに出来れば、アナタの方からわたくしたちに接触してくるだろうと踏んでの判断です」

「……今日、初めて話すけどさ? 俺、おまえのこと嫌いだわ」
「そうですか? それは残念です」



 表情ひとつ変えずにシレッ、と言ってのける大和田。

 シロウ・オオカミの「生理的に受け付けない」人間の欄に、大和田信愛の名前が加わった瞬間であった。



「それで? 無事に俺のもとまでたどり着いたわけだが、何が望みだよ……? って、そんなの聞かなくても分かるか」

「えぇ。アナタが持っている『西日本最強』の座をいただきに参りました」

「『西日本最強』って……俺は別にそんな大層な人間じゃねぇよ」

「ご謙遜を。あの西日本を収めていた伝説の喧嘩屋集団『出雲愚連隊いずもぐれんたい』を、おひとりで倒してしまったクセに」

「別に倒してねぇよ。アレは勝手にあいつらが解散したの」



 ただ俺と総長アイツのタイマンが、その直前にあっただけ。

 つまり、タイミングが悪かっただけなのだ。

 おかげで俺1人であのチームを潰したみたいな風評被害が広がってしまって……その後の事後処理がどんだけ大変だったことか。

 ほんと負の中学時代である。

 だというのに大和田は『この恥ずかしがり屋さんめ♪』と言わんばかりに肩を竦めてみせて……なんか腹立つな、その態度?



「真実はどうであれ、アナタが当時『西日本最強』だった出雲愚連隊の総長を倒したのは事実。わたくし共はアナタが継承し守り続けてきた、その『西日本最強』の座が欲しいんですよ」

「別に守ってきたつもりもねぇし、そんなもんが欲しけりゃ、無料タダでくれてやるよ」

「ダメダメ! ワシは喧嘩狼とバチバチにりあいたいのっ!」

「ということですので、大神様には今からわたくしたちと喧嘩していただきます」



 物腰は丁寧のくせに、有無を言わさぬその口調。

 ますます気に入らねぇ。



「嫌だって言ったら?」

「断れば、わたくしたちの頭である鷹野のスカイツリーが収まらず、下半身ギンギンのまま夜の町を闊歩かっぽすることになりますが、それでもよろしいのでしょうか?」

「別に構いませんが?」



 あのさ? 脅迫するにしても、やり口は選ぼうぜ?

 ソレおたくのリーダーが変態であることを、街の人たちに告知しているだけだよね?

 俺、痛くもかゆくもないんですけど?

 ほんとコレ、脅迫か?



「あぁ~っ、まどろっこしい! もう我慢できんぜよ!」



 辛抱しんぼうたまらん! と、女体を前にした発情期の男子高校生のような声を皮切りに、男達の肉のカーテンから、小さな弾丸が俺に向かって飛びこんできた。

 人間弾丸こと鷹野は、的が絞れないように小さな身体をさらに小さく丸め、あっさりと俺の懐にもぐり込む。

 そのままバネ仕掛けのオモチャのように、体全体を使って、俺の顎めがけてアッパーカットをり出してきた。



「ッ!? コイツ!?」



 衝突の寸前、なんとか両手で鷹野の拳を受け止める。

 だが、ちっこい体のどこにそんな力を秘めていたのか、そのまま『ふわっ』と2、3サンセンチほど、俺の体が宙に浮いた。

 コイツ、変態のクセにパンチが重てぇっ!?



「おぉ~、さすがは喧嘩狼。ワシの不意打ちにもアッサリ対応してきたぜよ! んん~、たまらん! またたぎってくるぜよ!」

「うげっ!? 近づくんじゃねぇ、テントマン!」



 ブォンッ! と鷹野の死角から、右の上段回し蹴りをお返しする。

 った! と確信した刹那、鷹野はほんの少しだけ身を縮めて、最小限の動きで俺の右足を回避する。



「うげっ!?」



 ま、マジかよ!?

 今、確実に視界の外から蹴り込んだハズなのに、ソレを避けるか普通!?

 鷹野の超絶反射神経に、思わず目を見開いてしまう。



「別に驚くことじゃないぜよ。ワシは喧嘩狼と戦うために、この4年間ずぅぅぅぅぅ~……っと! 腕を磨いてきたんやで? これくらいの蹴りを避けるなんざ、朝飯前ぜよ」

「もう晩御飯どきです、タカさん」

「ノブッ! 余計なことは言わんでいいわい! 今、ワシのカッコいい所なんやから!」



 俺の間合いから距離をとり、味方と漫才をしはじめる鷹野。

 コイツ、バカげた発言と態度と性癖だが……確かに強い。

 刹那、カッ! と体中の血液が沸騰したように熱くなる。が、



『こんな時期にウチの生徒が他校生と問題を起こしたら、確実に今年の森実祭は中止になるわ』

「あっ」



 芽衣の言葉が脳裏をよぎり、外れかけた理性に待ったをかけた。

 そうだ、こんなところで問題を起こしたら、せっかくのみんなの努力が無駄になっちまう。

 落ち着け、俺。

 刹那的な感情で、全部を無駄にするな。

 行き場を無くしたエネルギーを熱い吐息に変換し、何とか己の衝動を制する。



「それじゃ、お互い挨拶も済んだことやし、本格的にヤリ合おうか?」
「上等だ……あっ!」



 俺は心底驚いたような声音を挙げながら、鷹野の後ろへと人差し指を向けた。

「へっ? な、なんや!?」と鷹野を始め、九頭竜高校の全員が俺から視線を切り、自分たちの背後へと振り返る。

 その瞬間、『韋駄天のシロウ』と言われた俺の健脚が火を吹くかのごとく動き出し、あっという間にクズ高の連中を置き去りにして、公園からスタコラサッサ♪ と逃げ出していた。



「なんや? お月様しか無いやないかい……って、居ない!? 喧嘩狼が居ない! まさか、お月様に連れて行かれたんかっ!?」

「落ち着いてください、タカさん。喧嘩狼ならアソコです。どうやら逃げられたみたいですね」

「な、なんやとぉ!? おいコラ、帰ってこい! ワシと戦え喧嘩狼ぃぃぃぃぃっ!?」



 鷹野の絶叫を振り切るように、さらに身体は加速する。

 闘争本能を逃走本能で塗り替え、夜の町を豪快に笑いながら駆けて行く。



「フハハハハハッ! 唯一抜きん出て並ぶ者なしっ! 俺を止められるモノなら、止めてみな!」

「なんだアイツ!? なんで笑いながらあんなスピードで走れるんだよ!?」
「つーか速っ!? 足速っ!?」



 背後でクズ高たちが何かを言っていたが、俺は構わず走り続けた。

 いいかお前たちに足りないモノ。

 それはっ! 情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!

 そして何よりもぉぉぉぉっ!

 速さが足りな――(中略)


◇◇


「どうでしたか? 喧嘩狼は見つかりましたか?」
「はぁ、はぁ……。す、すみません、ノブさん。あまりにも足が速くて、見失ってしまいました」



 士狼が居なくなった公園で、大和田に申し訳なさそうに頭を垂れる、クズ高の男子生徒。

 そんな男子生徒の肩を優しく叩きながら「もう結構です」と、後ろへ引き下がらせる。

 正直、あの『出雲愚連隊』に単身で乗り込んでいった喧嘩狼が、この場面で大逃げするとは、頭の隅にすら考えていなかっただけに、大和田も完全に油断していた。



「さすがは喧嘩狼といったところですかね。わたくし達の考えをアッサリと覆していくとは……。いやはや、一筋縄ではいきませんねぇ」

「おいノブッ! 感心しとる場合やないで!? せっかく喧嘩狼と再会できたのに、逃げられちまったやないか! どうするんや!? ワシはもうアイツと喧嘩しとぉて、ウズウズしとるっちゅうのに!」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいタカさん。こんなこともあろうかと、もうすでに手は打ってありますから」



 大和田が荒ぶる鷹野を慰めていると、彼のスマホに連絡が入った。

 ポケットからスマホを取り出し、連絡内容を確認するなり、大和田は満足気な顔でうんうんと頷いてみせた。



「安心してください、タカさん。明日は喧嘩狼の方から、わたくし達に会いに来るハズですから」

「ほんとか!? 信じてええんやな!?」
「はい、もちろん」



 やったぁ! と無邪気な笑みを浮かべる鷹野の横で、大和田はニンマリと笑みを深めた。



「任せてくださいタカさん……明日は楽しいパーティーになりそうです」



 そう答えたクズ高の悪魔は、至極楽しそうにスマホの画面に視線を落とした。
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