みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第3部 恋するウサギはくじけないっ!

第32話 バカが全裸でやってくる!?

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 猿野元気が目を覚まして最初に目に入ったのは、見知らぬ天井であった。



「……知らない天井や」



 と呟いて、内心テンションが爆上がりする。

 かつて大神家で見た某ロボットアニメに出てくる主人公の台詞を言える日が来ようとは、今日まで生きてきて本当によかった。

 元気が感動のあまり身体を震わせようとした瞬間、ズキンッ! と頭に鈍い痛みが走った。


つうっ!?」
「サルノくんっ!?」
「よかった……目が覚めたんですね」
いたたた……んっ? 妹はんに、古羊はん? ――って、うぉっ!?」


 鈍く痛む頭を無視して、声のする方に顔を向けた瞬間、元気はギョッ!? と目を見開いた。

 自分の視線の先、そこには、両手足をロープで縛られ床に転がされている古羊姉妹の姿があった。

 2人とも特に目立った外傷はないが、どこか酷く疲弊しているように見えた。

 が、問題はそこではない。

 そう、彼が驚いたのは。



「で、デカイ……ッ!?」



 思わず呟いてしまうほど、彼女の――古羊洋子の巨乳は驚異的であった。

 横向きのまま、両手を後ろで拘束されているせいで、背を逸らし、胸を突き出すような形となった彼女のソレは、グラビアアイドル顔負けのセックス・アピール以外の何物でもなく……彼女のおっとりした雰囲気を相まって、とんでもないエロスを醸し出してた。

 なんだアレは!? 

 鏡餅か!?

 着崩れた制服の胸元が、今にもポロリしそうで目が離せない。

 いい、実にいい。

 ややふっくらしているが、ぽっちゃりといワケではなく、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込む。まさに男の理想のドスケベボディと言えるだろう。

 今ここに2年A組の知識人バカどもが入れば、彼女のお胸のカップ数について徹夜で討論を開始し始めたに違いない。



「……どこを見ているんですか猿野くん?」
「ッ!? い、いや、ここは一体どこかいのぅと思って!」



 心なしか殺意が迸っている芽衣にニッコリ♪ と威圧され、慌てて首をキョロキョロさせる元気。

 だが、その瞳はベテランの狙撃手よろしく、洋子のデカパイに釘づけである。

 そんな元気のいやらしい視線に気づかないニブチンな爆乳わんは、1人だけシリアス全開で小さく唇を動かした。



「多分どこかの倉庫だとは思うんだけど……」
「おや? ようやくお目覚めですか? おはようございます」



 思考の海を高速バタフライしていた元気の頭上から、やけにキザったい男の声が落ちてくる。

 元気は一旦思考を切り替え、ブラックホールが如き吸引力を発する洋子のパイパイから視線を外すと、100人あまりの真っ白な制服を身にまとった男子学生たち――九頭竜高校のやからたちが3人を取り囲むように、遠巻きに眺めていた。

 男達の輪の中から、明らかに他の輩とは雰囲気が違うスキンヘッドの男が、カツカツと革靴を鳴らしながら元気のもとまでやってくる。



「誰や、おまえ?」



 無作法に尋ねながら、元気は自分の置かれている状況を整理しようと、必死に五感を働かせて情報を集め出す。

 芽衣たちと同じく、両手足はきつく縛られ、床に寝転がされるような形で居るため、自然とスキンヘッドの男を見上げる形となった。



「『誰や、おまえ?』とは、また無作法ですね。まあいいですけどね。わたくしは、そこの九頭竜高校の頭を張っている鷹野翼の参謀とでもいいましょうか。名を大和田信愛と申します。以後、お見知りおきを」



 そう言ってスキンヘッドの男こと、大和田信愛の視線が1人だけ椅子に座っている小さな男――鷹野翼へと向かう。

 鷹野は元気の様子にまったく興味を示すことなく、「のぅ? 喧嘩狼はまだぜよ?」と子どものように足をパタパタと動かしていた。

 大和田が「もう少しですよ」と鷹野をたしなめている間に、元気はようやく自分たちが置かれている現状を正しく理解した。



「あぁ、なるほどのぅ。おまえら……敵やな?」

「ほぉ? この状態で取り乱さないとは、よほどのおバカさんか、それともキモが座っているのでしょうか?」

「ワイのアホな親友のおかげで、こんな窮地きゅうちは慣れっこなんでのぅ」
「親友とは喧嘩狼のことですよね? やはりあなたを餌にしてよかった」



『餌』という単語を聞いて、元気の脳裏に昨夜、士狼と別れてからのやりとりが鮮やかにフラッシュバックした。

 そうや、確か相棒と別れて古羊はんの家に向かおうと公園を出たところで、後ろから何者かに思いっきり頭をブン殴られて気を失ったんや。

 おそらく鉄パイプか何かの金属で殴られたのだろう。

 今も後頭部がズキズキと鈍い痛みを放っていた。

 色々と腑に落ちないが、分かったことが1つだけある。



「……そういうことかいな。ワイらをダシにして、相棒を呼び寄せようって魂胆やな?」
「おやっ? 見た目の割には、頭がよく回るんですね」



 えらいですね~、と小馬鹿にした態度が余計に元気の癪にさわる。

 それでも元気は、怒鳴り散らすことなく冷静に。



「アンさんは見た目通り、おバカそうやのう」



 と言い返してやった。

 途端に大和田の笑顔が固まる。

 が、それも一瞬のこと。

 すぐさま顔に笑みを張りつけ、さらに元気に近寄りながら、ジィ~ッ! とズボンのチャックに手をかけた。



「そんなに頭を使っていたら、お熱いでしょう? 今、冷却してさしあげますよ」



 そう言って大和田は、社会の窓から自分の分身をボロンッ! と取り出した。

「ふへっ!?」と短く悲鳴をあげて目を逸らす洋子を尻目に、大和田は。



 ――ジャボジャボジャボッ



 元気の頭に向けて、用を足し始めた。



「ふぃぃぃぃ、どうですか? 涼しくなりましたか?」
「……おかげさまで、たいへん涼しゅうなりましたわ。あんがとさん」



 ビショビショになった顔を拭くことも出来ず、大和田の用が終わるまで、ジッと耐える元気。

 この瞬間、大和田は元気の心の中にある『絶対に許さないリスト』入りを果たした。



「大和田はんって言ったっけ? ワイは優しいからな、1つだけ忠告したるわ」
「忠告ですか? 別に結構です」
「まぁまぁ、そう言わんと聞いてぇな。絶対に損はせん話やさかい」



 汚物を見下す視線を向ける大和田に、元気は精一杯の空元気の笑顔を浮かべて、言ってやった。



「今すぐ全員、ここから逃げた方がええで? 相棒が来る前になぁ」
「逃げる? 面白いジョークですね」



 ドッ!? と倉庫内が、男達の笑い声で満たされる。

 だが元気だけは笑わなかった。

 ただジッ、と大和田をまっすぐ見据え続けた。



「忠告はしたからのう」



 元気がそう告げた途端。



 ドドドドドドドドッッ!?

 ――うぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!



 と、地鳴りと共に、野太い野郎共の声が、空き倉庫の空気を激しく振動させた。

 それは津波のように徐々に大きく、力強くなり、心なしかコチラに向かって来ているような気がしてならない。



「な、なんですか? この不愉快な声と地鳴りは?」
「た、大変です大和田さんっ! 大変なコトになりましたっ!?」



 大和田が眉根をしかめていると、空き倉庫の外で見張りをしていたマスク男が、慌てた様子で彼のもとまで駆け寄ってきた。

 その顔は何やら酷く怯えきっていて、仮にも九頭竜高校に通う男がしていい顔ではなかった。



「なんて顔をしているんですか。それでもウチの生徒ですか?」
「す、すみません……。で、でもっ! あのっ!」



 マスクをつけた男は、もつれそうになる舌を必死に動かしながら、今しがた自分が見た……見てしまったあの『光景』を、この場に居る全員に伝えようと、声を張り上げた。




「あ、頭に紙袋を被り、純白のブリーフ1枚のみを武装した、ゴリッゴリに仕上がったマッチョを先頭に、同じ格好をしたブリーフ共が、コチラに向かって急速接近中っ! その数、およそ300っ!」

「「……はぁ?」」



 そのあまりにアホらしい報告に、大和田はおろか『我関せず』を決め込んでいた鷹野でさえ、素っ頓狂な声をあげる始末だった。

 コイツは一体ナニを言っているんだ?

【Z世代】の弊害へいがいを思わせるマスク男の発言に、この場に居た人間全員が鼻で笑おうとして……固まった。

 なんせマスク男の言っていることが、本当であることを証明するかのように。



 ――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 ――双子姫バンザぁぁぁぁぁぁぁぁイ!



 男たちの野太い雄叫びが、大和田たちの居る空き倉庫をこれでもかと揺らしたのだから。



「め、メイちゃん……」
「なんだか嫌な予感がしますね……」



 どこか悪霊めいたその叫び声に、洋子と芽衣は不安を埋めるように、器用に身体を寄せ合う。

 そんな慄く2人を尻目に、元気は1人肩を竦めながら。



「あら残念。忠告が少し遅かったようやのぅ」



 顔が強ばる九頭竜高校の男たちを舐めるように見渡しながら、元気は1人だけニヤッと邪悪に微笑んだ。


「さぁ、パーティーの始まりや。楽しんでいってや」


 彼がそう告げた途端、開くはずがない倉庫の扉が『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴッ』と音を立てて開いていく。

 そして地獄のかまの蓋が開くように、扉の外から現れたのは。






 ――頭に紙袋を被ったブリーフ1枚の、狂った出で立ちをした男たちであった。
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