みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第5部 嵐を呼べ オカマ帝国の逆襲!

第1話 大神士狼と真夏のナンパ大作戦っ!

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 なつやすみ――この僅か5文字が宿す魂の熱量は、計り知れないモノがある。

【夏休み】というこの言葉を聞いただけで、おそらく日本人は全員漏れなくソワソワ♪ してしまうことだろう。

 もちろん古き良き日本人である俺、大神士狼も例外ではない。

【春休み】や【冬休み】では、まず感じることが出来ない、満ち満ちたエネルギーを感じるその言葉に、人はどれだけの希望を馳せることが出来るのか……。

 いや、多くは語るまい。

 街中を歩く多くの者たちの顔に、笑顔という名の太陽が輝いている。

 それだけで、説明は充分だ。

 基本的に夏休みが来れば、ほぼ毎年例外なく、神様の悪意という名の小粋な謀略と策略により、割りと結構深刻な生命の危機にひんするシチュエーションに、半ば無理やりおちいる俺だが、それでも夏休みは大好きだった。

 トラウマもたくさんあるが、楽しかった思い出も山ほどあるのだ。

 さてさて、そんなワクワク☆ドキドキの夏休みと聞いて、まず真っ先に思い出されるのは、やはり小学4年生のときにやった自由研究発表会だろうか。

 他の小学校はどうかは知らないが、俺たちの通っていた小学校は、第4学年から夏休みの宿題に、自由研究が追加されることになっていた。

 どこのクラスも初めての自由研究というコトで、やる気とクオリティが格段に高かった。

 が、あえて断言しよう。

 そんな各クラス及び他学年の追随を許さないレベルで俺たち4年1組の自由研究は全国規模で見ても群を抜いてハイレベルだったことを!

 夏休み開けの2学期2日目の1発目の授業にて、赤城あかぎちゃんの『若者のセックス離れについて』という大人の女性アピールでもしたかったのか、ネットで拾ってきたであろうモザイクが薄い性行為の写真を大量に資料に仕入れ、小学生という免罪符をフルに活用してもギリギリアウトな発表が開幕ブザーとなり、自由研究発表会がスタート。

 彼女に続け! と言わんばかりに、テレビ番組でよくやっている自由研究に使える科学の特番を丸写しどころか、番組自体を参考資料として、そのまんま公開した秋山くんが、鮮やかに先陣を切って行く。

 その彼の作った道を、御両親がヤのつく自由業の方々である川田ちゃんの『誰でも簡単に出来る、足がつかないマネー・ロンダリングの方法』が駆け抜けていき、さらにその後ろを板野くんの『スポーツ選手が起こした不祥事100選』という大胆な内容が追随していく。

 そこへ、ご両親が新興宗教にハマった大崎くんの『イエス・キ●ストは絶対神【けるたん】の舎弟であった』などという、世界の半分を敵に回しかねない研究発表が、展開のバリエーションに幅を持たせていく。

 時折『警察にポケモ●バトルを仕掛けてみた』や『ペンタゴンをハッキングしてみた』等の挑戦的自由研究が良い味を出し、教室のカオスをさらに加速させたのは言うまでもないだろう。

 そんなあるしゅ、神々の戦いの中において『子猫の観察日記』などという絶望的な備えでいどみにかかった我が友、猿野元気のたぐいまれなる勇気も忘れてはいけない。

 そして満を持して登場したのが……そうこの俺、大神士狼だ!

 俺は後に後世へと語り継がれる事となった伝説の自由研究、『哺乳類ほにゅうるいの生殖活動ポイント』という名のタイトルの青姦スポットを、みんなの前で発表した。

 夏は股と心が緩い変態が多い、この時期だからこそ出来る、究極の自由研究タイトルだ。

 気候、時間、体位、プレイ内容等々。

 事細かに、モザイク無しの性行為写真も添えた渾身の1作が、声高らかに発表されていく。

 気がつくと、クラスの男子たちが魔法でも使ったかのように全員前かがみになり、女子の視線がゴミ虫を見るような目に変わっていた。

 そして俺は、史上初の学校側からの『受け取り拒否』というえある名誉を授かり、歴史に名を刻んだのであった。

 ちなみに『自由すぎる……』とコメントを残した担任の先生に、我が研究内容を没収されたが、その数日後には、何故か担任の先生がPTA総会に呼び出されて、辞職に追い込まれるという、子どもにはよく分からないイベントが発生したが……まぁそれはまた別のお話。

 さて、そんな淡い恋の記憶――でも何でもない――どうでもいいコトを、何故今思い出しているのかと言えば……。

 え~と……なんでだっけ?



「おい大神? 朝っぱらから人を駅前に呼び出しておいて、意味不明なことを喋りだしたかと思ったら、なにワケの分からん場所に着地しとるんじゃ、おまえは?」



 話の着地点を見失っていた俺の鼓膜を、野太い男の声が不愉快に揺らす。

 視線を横にズラすと、そこにはジーパンにTシャツという、ラフな格好をした我が残念な友人代表、三橋倫太郎こと『アマゾン』が呆れたような視線で俺を見据えていた。



「ったく、こちとら『ロシア人美女の脇のエロさについて』の自由研究を進めるのに忙しいっていうのに……用が無いならは帰るぞ?」



 そうごうの深いことを口走るアマゾン。

 時刻は朝の午前9時過ぎ。

 先日、無事に森実高校の文化祭も終わり、夏休みを迎えた俺は、『とある理由』で我が友アマゾンを森実駅前に集合させていた。

 踵を返そうとする我が友人の肩を、力強く抱きしめながら、俺は真夏の太陽にも負けないくらいの弾けんばかりの笑みを浮かべてみせる。



「まぁまぁっ! 落ち着けよマイケル? 今のは軽い冗談さ☆」
「誰がマイケルだっ!?」
「あぁ、すまん。マイケルは俺の心に住む妖精さんだったな」
「……おまえと話してると、頭がイカれそうで怖いわ」



 何故かサイコパスを見るような眼つきで、俺から距離を取ろうとするアマゾン。

 そんな我が友人の残念な顔面をしっかり見据えながら、俺は小鳥が歌うように声帯を震わせた。



「なぁ、アマゾン? 俺たち、高校2年生になって、もう3カ月は経つじゃん?」
「そうだな。それが?」

「3カ月も経つのに……どうして俺たちには甘酸っぱい青春や、運命の出会いがやって来ないんだ? おかしいだろ!? あの元気アホでさえ彼女が出来たというのに、何故俺たちには出来ない!? なぁっ!?」

「おいおい、大神……」



 アマゾンは軽く肩を揺すって、



「まったくもって、その通りだ」



 力強く頷いた。



「『高校に上がれば彼女が出来る』――その言葉を信じて早1年。最初の頃は彼女が出来ないのも『ははーん、さては妖怪のせいだな?』と自分に言い聞かせていたが、それももう限界だ!」

「よく言った、アマゾン! そうだっ! この世の中、運命的な出会いや、ロマンチックな恋など存在しない。月9のヒロインのような女の子はこの世に存在しないし、パンを食べながら登校しても美少女転校生とも出会わない。ましてや空から女の子は降ってこない。全ては幻想、全てはまぼろしなんだ!」



 駅前の衆人観衆の中、周りの歩行者の目を気にすることなく、俺とアマゾンは世界に喧嘩を売るように声を張り上げる。

 俺たちに彼女が居ない……そのふざけた幻想をぶち殺すようにっ!



「受け身のままではいけない、そんな姿勢では彼女は出来ない! 男だったら、本当に欲しい物は、自分の手で勝ち取るものだ!」

「なるほど、オレ様を呼んだ主旨は分かった。つまり、今から彼女を作って、この夏をエンジョイするべく、しこたま足掻あがこうぜ! と、そういうワケだな?」

「理解が早くて、マジあらいぐまタスカル」



 俺たちは友情を再確認するように、グッ! と固い握手を交わし合う。

 そのとき、俺たちが握り合ったのは、相手の手ではなく、紛れもなく『青春』そのものだった。



「しかし大神よ? もうすでにモテない男にとっての『鬼門』と呼ばれている夏休みは到来しているぞ? 一体どうする気だ?」

「色々考えたんだが、やはりここは手堅く、街を歩くお姉さま方をナンパしようと思う」



 性欲旺盛おうせいな肉食系お姉さまを狙っていけば、ワンチャンいけるだろう。

 とくに清廉潔白な穢れの無い魂が、顔から滲み出ていると言わんばかりのイケメン臭を放つこの俺なら、お姉さまに声をかけた瞬間『もう辛抱たまんねぇっ!?』と服を脱ぎ捨て、大人の遊園地にお持ち帰りされることは明白。

 なんなら声をかける前に、お姉さま方の股間は、自動ドアよろしく勝手に俺を出迎えてくれるに違いないっ!

 ということを力説しようとした矢先、アマゾンが「ナンパかぁ……」と気乗りしない声をあげだした。



「どうしたアマゾン? ビビってんのか?」
「いやぁ……オレさ? ナンパとかしたことねぇから、どうやったらいいのか分かんねぇんだよ」

「マジか? ったく、これだから最近の同世代は……。しょうがねぇなぁ。そんじゃま、俺が軽くお手本を見せてやるよ」

「……大丈夫かよ?」

「安心しろ。自慢じゃないが、攻略してきたギャルゲーは500本以上、落とした女はその数倍の百戦錬磨の俺様だぞ? ナンパなんて、チョチョチョイのチョイさ!」

「全然『チョチョイ』になってないぞ、恋愛マスター?」




 ふふっ、豊富な経験から瞬時にキャラの属性を見抜き、シナリオを先読みし、完璧なフラグ管理のもと、隠された選択肢を心眼で見抜くことが可能な俺に、落とせない女はいない!(二次元限定)



「よし、攻略してくる!」
「ほんと発言が残念なんだよなぁ、コイツ」

「へへっ♪ とうとう俺も彼女持ちかぁ~。もう熱烈なディープキスぶちまかしてくるから、楽しみにしておけよ?」

「初対面の女にディープキスなんて……それもうちょっとしたテロリズムだぞ?」



 アマゾンが何か言っていたが、俺は構わず獲物の選別に入った。

 う~ん、誰がいいかなぁ……おっ?

 あの三つ編みおさげのなんか、いいんじゃないか?

 よし、キミに決めた!



「おい、アマゾン! 帰ってきたら俺の顔、スマホで撮影してくれ。一仕事終えたおとこの顔をしているハズだからさ!」

「へいへい」 



 不安そうな顔を浮かべるアマゾンをその場に置いて、俺は近くに居た同い年っぽい女の子に声をかけた。




「へーい、そこの可愛い子ちゃ~んっ! ちょっと俺とお茶しなぁ~い?」
「……? ……へっ? えっ!? わ、ワタシですか?」



 ちょこ~っと芋っぽい、まるぶちメガネをかけた女の子がキョロキョロと辺りを見渡し、自分が声をかけられていると分かるや否や、驚いたようにオロオロし始めた。

 ふむ……見た目は教室の隅に居そうな影の薄い文学少女だが、磨けは光る素材と見たっ!



「そうそう、チミチミ♪ 可愛いねぇ~、誰か待ってんの?」

「えっと……アナタは?」

「俺は大神士狼って言うんだ。名前に狼が入っているけど、別に君を食べたりとはしないからね☆」

「は、ハァ……?」



 メガネちゃんは、困惑したように気の抜けた返事を――ハッ!?

 い、いけない!?



「か、勘違いしないでね? 食べると言っても、いやらしい意味じゃないよ!?」

「大神ぃ~っ? 話しが脱線し始めてるぞぉ~?」



 アマゾンの声援を一身に浴びながら、俺はここぞとばかりに、彼女の乙女心をくすぐるワードをり出した。



「もしヒマなら、俺と一緒にお茶しない? 大丈夫っ! なにもしないからっ! マジで何もしないから! ハァ、ハァ……いいでしょ?」

「いや、あの、そのっ!? わ、ワタシは――」
「――す、すみませんっ!」
「んぁ?」



 文学少女(仮)に声をかけていると、俺たちの間に割って入るように、1つの影が飛び込んできた。

 その影は文学少女(仮)と同じく、前髪パッツンの黒縁メガネをした同い年っぽい男の子で……おっとぉ?

 これはぁ?



「か、彼女は僕の恋人ですっ! な、なな、ナンパはやめてくださいっ!」
「たっくん……」



 文学少女(仮)に『たっくん』と呼ばれた黒縁メガネは、生まれたての小鹿のように両足をガクガクブルブルッ!? させながら、威嚇するように俺を睨んでくる。

 その姿は恐怖を飲みこみ、愛する女性のために奮起する男の……いや漢の姿そのものであり……。

 気がつくと、俺は穏やかな笑みを浮かべながら『たっくん』君の肩をポンッ! と叩いていた。



「フッ……それでいい。合格だ」
「へっ?」

「例え相手が巨大でもあっても、愛する女性ヒトのため立ち向かう。その姿……その姿勢が見たかった。頑張ったな、たっくん」

「っ!? ま、まさかアナタは……僕たちの愛を試すために、ワザと汚れ役をになって!?」



 ハッ!? とした顔を浮かべるメガネカップルに、俺は肩をすくめてみせながら、『たっくん』に微笑んだ。



「俺が見たところ、たっくんよ? 君は恋愛この道を歩き出したばかりの新星ニュービーのようだね?」

「は、はいっ! 今日がデビュー戦でして……」 
「あっはっはっ! そうか、そうか。今日がデビュー戦かっ! それは失礼をした」



 俺は髭剃りのCMにも負けないくらい、爽やかに笑みを浮かべながら、ポケットから500円玉を取り出した。

 そのまま、500円玉をたっくんの手に無理やり握らせ、



餞別せんべつだ、持って行け。……それで彼女と、お茶でもするんだな」
「いいんですか!?」
「もちろんさ。なぁに、気にするな。後輩の背中を押すのも、先輩の務め。……上がってこい、俺の居る遥か『高み』へと、な」
「は、はいっ!」



 ヒマワリのように眩いばかりの笑顔と決意を秘めた瞳をする『たっくん』から視線を切り、俺は彼の彼女にも微笑みを添えてみせた。



「お嬢ちゃん。イイ彼氏さんじゃないか、大切にしろよ?」
「は、はいっ!」
「ふっ。いい返事……いや、いい瞳だ。それじゃ、お節介兄さんはクールに去るぜ。2人とも――良い旅をボン・ボヤージュ

「「あ、ありがとうございましたっ!」」



 ガバッ! と深々と頭を下げる『たっくん』たちに背を向けながら、アマゾンのもとまで堂々と胸を張って引き返す。

 何か言いたげなアマゾンが口を開くよりもはやく、俺はフッ! と短く微笑んで。



「おいおいおいおいっ!? カツアゲされちゃったよ、クソがっ!?」
「ほんとおまえは、期待を裏切らない男だなぁ……」



 何故かほっこりした表情で、しみじみと頷くアマゾン。

 その瞳に映る俺の姿は、もはや負け犬のソレッ!



「彼氏が居るなんて聞いてねぇぞ!? 俺の純情をもてあそびやがって、許せねぇっ!」

「ホントおまえと一緒に居ると、落ち着くなぁ……(パシャパシャパシャパシャッ!)」

「アマゾン、テメェ!? なに写真撮ってんだ! 見世物じゃねぇぞ、クソがっ!?」

「おまえが『撮れ』って言ったんだろうが」



 スマホ片手に激写してくるアマゾンを尻目に、俺は『たっくん』君カップルをけちょんけちょんにけなし続けるのであった。
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