みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第5部 嵐を呼べ オカマ帝国の逆襲!

第10話 古羊クラブは、裏切り者を許さない

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「諸君、わたし達は『誰』だ?」

「「「「「女神! 女神! 女神! 女神!」」」」」

「では諸君は『誰』だ?」

「「「「「信者! 信者! 信者! 信者!」」」」」

「よろしいっ! それではこれより『古羊クラブ』臨時集会を行うっ!」



 バッシャーンッ! と冷水を顔面に浴びせられ、俺の白濁していた意識が、湖面こめんに浮かび上がるように急浮上する。

 そのまま「ハッ!?」と目を覚ますと、反射的に起き上がろうとして。


 ――ギチィ。



「な、なんだコレ!?」



 清潔そうなベッドの上で、両手足をロープで拘束されていることに気づき、変な声がまろび出る。

 ど、どういう状況だコレ!?

 混乱する頭のまま、必死にロープを外そうと身をよじるが……クソ、ダメだ!?

 暴れれば暴れる程、荒いロープが肌に食い込んで痛いっ!



「おはよう、ししょー。よく眠れたかな?」
「よ、よこたんっ!? ちょうどよかった! この縄をほどいてくれ! ……あれ、よこたん? どこ行くの? ねぇっ!?」



 にゅっ! と、よこたんが俺の顔を覗きこんできたので、これ幸いとばかりに助けを求めるが……何故か天使のような笑みを頬にたたえながら、暗闇の中へと消えていくマイエンジェル。

 代わりに『とある少女』のよく通る声が、俺の肌を打つように、天から降ってきた。



「目を覚ましたようですね、士狼。いいえ、背信者」
「そ、その声は芽衣っ!?」



 弾かれるように声のした方向へ顔を向けると……そこはカルト教団の集会場だった。

 暗幕で仕切られてはいるが、芽衣たちがともしている赤い蝋燭ろうそくの弱々しい光と、薬品の独特な匂いで、ここが保健室あることは何となく分かる。

 分からないのは、ニッコリ♪ と微笑む古羊姉妹の背後で、妙に殺気立った、頭部に紙袋装着のブリーフ1丁の男たち――『古羊クラブ』が居ることだけ。

 な、なんだ?

 今、俺の身に、一体ナニが起ころうとしているんだ?



「お、おい、おまえら!? コレは何のマネだ!? イタズラにしては、度が過ぎるぞ!?」



 ちょっとしたテロ組織を前に、俺が大いに狼狽うろたえていると、芽衣が妙に上機嫌な声で。



「ねぇ士狼? 魚住先輩と何かイイ雰囲気で話していたようですけど、ナニを話していたんですか?」

「な、なにって、普通に世間話だよ」

「ししょー? ししょーはね、自分が思っているほど、嘘が上手くないんだよ?」



 よこたんの言葉に、芽衣が小さく首肯しゅこうする。



「そういうコトです。さぁ、ナニを喋っていたんですか? ……ダンマリですか、そうですか。なら、しょうがありませんね。ナンバーナイン。士狼が、喉が渇いたと言っています。喋りやすくなるように、たらふくお水を飲ませてあげてください」
御心みこころのままに」

 という声と共に、№9ことアマゾンと、金属のバケツとジョウロを持った幾人いくにんかの『古羊クラブ』が俺に近づいてくる。

 おいおい、使いこなしてるんだけど芽衣ちゃん!?

 変態共を、まるで自分の手足のように使いこなしているんだけど芽衣ちゃん!?

 会長やってるときよりも、イキイキしてるんだけど芽衣ちゃぁぁぁぁんっ!?



「ま、待てアマゾン!? いったいナニを――うぷっ!?」



 問答無用! と言わんばかりに、アマゾンが分厚いタオルを俺の顔に被せてくる。

 唐突に視界を奪われた俺の五感が、ソレを補おうと鋭敏化する中、ちゃぷんっ♪ と水の音が真上から聞こえてきた。

 
 ……水?


 マジで一体ナニをする気だ? 

 心の中で首を傾げていると、生ぬるい水が顔にかけられた。

 バッシャーン! と一気に――ではない。

 チョロチョロチョロ……と、ゆっくり。

 されど途切れることなく、一定の水量でぶっかけてくる。

 おかげで水は俺の顔を覆っているタオルをこれでもかと濡らし、息をすれば鼻や口から水が入ってくる始末だ。

 これが何とも……いやらしい。

 いやね? 無理をすれば、呼吸が出来なくもないのねコレ。

 タオルに含む水気ごと吸い込めば、空気は吸える。

 が、水気を含んでいる以上、吸えば吸うほど呼吸は苦しくなり……チクショウッ!

 どうして俺がこんな目に!?



「そこまでっ! では、タオルを取ってください。どうですか、士狼? 喋る気になりましたか?」
「ちなみに、今ので30秒だよ」
「次は40秒です。それでも喋らなければ、その次は……もう分かりますね?」
「ねっ、ししょー? 楽になろ? もう全部しゃべって、楽になろう?」



 慈愛に満ちた声音で、よこたんが俺に語りかけてくるのだが、どうしても俺にはソレが悪魔の囁きのように思えてならない。

 なんせコイツらには、かつて俺と鹿目ちゃんのデートを、幾度いくどとなく邪魔してきた、輝かしい経歴があるのだ。

 もし今、メバチ先輩のお家で、お勉強という名の『お家デート』の詳細を口にすれば……その先は火を見るよりも明らかだ。

 どれだけ苦しかろうが、絶対に口を割るわけにはいかないっ!

 俺は確固たる決意を胸に秘めながら、キッ! と暗闇の向こうに居る双子姫を睨みつけた。



「い、嫌だッ! 先輩との思い出は、俺だけのモノだ! あの素晴らしい思い出を、おまえらにけがされてたまるかっ! あの思い出は、誰にも渡さな――」

「じゃあ次は40秒だね、メイちゃん?」
「えぇっ。とても心苦しいですが、しょうがありませんね」



 みなさん、お願いします――芽衣の優しげな声と共に、再び俺の顔にタオルが被せられる。

 そのまま間髪入れずに水をぶっかけられるが……甘いなっ!

 さっきは油断したが、俺の鍛え抜かれた肺活量にかかれば、40秒間、息を止め続けることなんぞ、真夏のビーチで水着ギャルをナンパすることよりも簡単だぜっ!



「カウント、スタートです。1、2、3……」
「ししょー、苦しい? 苦しいよね? もう全部喋っちゃお? それで楽になれるよ?」



 絶対に喋ってなるものかっ! と自分を鼓舞し続けること30秒。

 この狂乱の宴にも、ようやく終わりが見えてきた。

 あと10秒我慢すれば、俺の勝ちだっ!

 あと10秒ぉぉぉぉぉっ!



「31、32、33――そう言えば洋子、今、何時ですか?」
「ちょうど1時だよ、メイちゃん」
「ありがとう、洋子。そうですか、1時ですか。――2、3、4、5……」



 と、『時そば』スタイル……だと!?

 もう完全に終わると油断していた俺の口から、呼気が溢れ出る。

『時そば』とは、1杯の『かけそば』から始まる最高のエンターテインメント叙事詩じょじしであり、囚われのお姫様を救い出すべく、勇者『かけそば』が世界を股にかけて大冒険する、血湧き肉躍る、究極のヒロイック・ファンタジーのことだ。……違うか? 違うな。



「10、11、12、13――」
「ブハッ!? ゴホッ!? し、死ぬっ!?」



 カウントが、終わらないっ!?

 首をなんとか曲げて、水の軌道を逸らそうとするも、ガッチリと何者かの手で首周りを固定されてしまい、逃げるに逃げられない!

 そこに、容赦なく水が入り込んできて……なんだ、なんだ?

 ここが地獄の1丁目か?



「わ、わがっだ! 話ず、話ずがらっ!?」
「カウント、止め」



 芽衣の号令により、俺の顔面にぶっかけられていた水が、ピタリと止まる。

 タオルを外された瞬間、猛烈な勢いで咳き込む俺に、芽衣は静かに、されど確固たる決意を秘めた声音で、言葉を投げかけてくる。



「さぁ、魚住先輩との件を教えてください」
「ちょっ、待って? こ、呼吸を整えるから……」
「待ちません。はやく喋ってください」



 鬼かコイツは?

 もはや無慈悲を通り越して、恐怖すら感じるわ。



「ハァ、ハァ……。わ、わかった」



 半ば無理やり呼吸を整え、うっそりと微笑む芽衣に口を開く。



「メバチ先輩に、俺がどんな写真を買ったのか聞かれたから、素直に買った写真を答えただけだ。そのとき、ちょうど目の前に、先輩とのツーショット写真があったから『一緒に買おっか?』って話をしただけだっ! 嘘じゃないぞっ!?」



 その後の『お勉強デート』の話を巧妙に隠しつつ、俺は芽衣の目をまっすぐ見つめ――ひぇっ!?

 な、なんだ、あの暗黒星雲がごとき色合いの真っ黒な瞳は!?

 人間、あんな感情の抜け落ちた瞳が出来んの!? 



「……どう思います、洋子?」
「うん、嘘は言っていないね。『嘘』は」
「というと?」
「本当の事も言っていないと思う。多分、この話には続きがあるよ」



 サーっ! と音を立てて、血の気が引いていったのが分かった。

 どうやって、たった1つの真実を見抜いたのかは分からないが、芽衣と同じ色合いの瞳をしたよこたんが、名探偵さながらの口調で俺を追い詰めてくる。

 飼い犬に手を噛まれるとは、まさにこの事。



「なるほど。では士狼? そのあと、魚住先輩と『ナニを』お話したんですか?」
「い、いや……先輩とはそこで別れて――」
「ダウトだね、メイちゃん」
「では次は50秒です」



 カウント・スタートの合図に、再び顔面にタオルを被せられ、狂乱の宴がはじまった。

 あぁ、そう言えば姉ちゃんが言ってたっけ?

『女は大人気さがしっこ絵本【ミ●ケ!】レベルの違和感を、ナ●トの九尾モ●ドよろしく四六時中感知し続け、男の浮気を一瞬で看破する念能力者だから、隠し事をする際は、某メガネの少年探偵を相手に、完全犯罪を貫き通す気持ちで挑め!』って。

 聞いた当初は『そんなアホな』と鼻で笑って聞き流していたが……何故俺はあのとき、姉ちゃんの言葉をもっと真面目に受け止めなかったのだろうか?

 受け止めていれば、こんな事にはっ!?

 後悔しても、もうカウントは止まらない。

 そして50秒が経つ頃には、泣きの入った俺の声だけが保健室に木霊した。



「ぶはぁっ!? ゴホゴホっ!? ハァハァ……。ご、ごめんなざい……嘘をづぎまじだ」
「素直に謝れるのは、ししょーの美徳だよね」
「では、魚住先輩との『その後』を、話して貰いましょうか?」
「そ、それだけはっ! それだけはご勘弁をっ!?」
「では次は1分です」
「ししょーは本当に、お水を飲むのが大好きだねぇ?」
「ひぃぃぃっ!?」



 俺の悲鳴を押さえつけるように、タオルが顔にへばりつく。

 い、言うもんか!

 例え、この身が凌辱されようと、魂を八つ裂きにされようとも、先輩のお宅訪問の話は、絶対に言わないぞっ!

 何がなんでも、先輩との『お勉強デート』の約束まで、生き残るんだ!

 白濁しかける意識の中、己自身を鼓舞しながら、俺は――
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