みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第5部 嵐を呼べ オカマ帝国の逆襲!

第13話 おねぇオネェお姉ぱーんつ!

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こんな所ファミレスで会うなんて奇遇ね、色男」



 パチンッ☆ とウィンクを飛ばしながら、ごくごく自然に俺の隣の席に腰を下ろすオカマ姉さん。

 その視線は、相変わらず俺の身体を舐めるように、ねっとり見渡してきていて……すごく居心地が悪いです。

 女性専用車両に乗り込んだリーマンとか、こんな気持ちなんだろうか?



「やっぱりあたし達は、運命の赤い糸で結ばれているのかしら?」

「アッハッハッハッハッ! だとしたら、我が身命をしてでも、引きちぎってやる所存ですよ!」

「や~ん、男らし~い♪ やっぱり、あたしの好みだわぁ❤」



 スリスリと、俺の身体にマーキングするかのように、オカマ姉さんの身体が密着してきて……母さん、もう僕は限界です。心が折れそうです。

 どうして俺は『アッチ』方面の男からしかモテないのだろうか?

 そんなに前世で悪いことした、俺?

 心の中で1人頭を抱えていると、オカマ姉さんの視線が俺から横に滑り、対面に座る芽衣の姿を捉えた。



「あらっ? あのときのウェイトレスちゃんも一緒なのね。ホットドック・セット、美味しかったわ。ありがとう」

「いえいえ。喜んで貰えたのなら、嬉しいです」



 にこっ♪ と背後に桜の花びらを散らせながら、外行き用のエンジェル☆スマイルを顔に張りつける女神さま。

 う~ん、相変わらず精神状態が心配になるレベルの変わり身の速さだよなぁ。

 この数秒前まで、よこたんと一緒になって、メバチ先輩を睨んでいたのは嘘のようだ。

 ――って、あぁっ!?

 ヤバいっ!?

 よこたんがヤバいっ!?

 そう、オカマ姉さんは、どういうワケか、ラブリー☆マイエンジェルよこたんの身柄を欲しがっているのだ!

 ヤベェ! 最悪のタイミングで、オカマ姉さんと爆乳わんが遭遇しちまった!?

 ど、どどどど、どうしようっ!?



「あとの2人は初対面よね。初めまして、あたし、獅子本レオン。ピチピチの18歳よん♪」

「魚住メバチ……。同じく18歳、高校3年生……」

「あら、同い年だったのね。よろしく♪ それで――」



 オカマ姉さんの視線が魚住先輩から、とうとうマイエンジェル☆よこたんの方へと移ろう。

 も、もうダメだぁ!? 

 俺の魂の叫びなど、もちろん気づかないオカマ姉さんは、上機嫌でメバチ先輩の隣に視線を移し……ギョッ!? と目を見開いた。

 メバチ先輩の横、よこたんが座っていたハズの席に……何か居た。





 身体はJKなのに、頭部だけ白い悪魔というか――機動戦士がそこに居た。






「えっ、なにあれ?」



 至極当然の疑問が、オカマ姉さんの口からまろび出る。

 そんな俺たちの横を、子ども連れの母親はスタスタと歩いて行く。



『お母さん、お母さんっ! 今、なんか居たよ! ヒーローが居たよっ!』

『ん? どうしたの? アンパンのヒーローでも居たの?』

『ううんっ、違うよ? 顔をもぎ取ったら最終回になる方のヒーローが居たのっ!』



 キャッキャッ! と嬉しそうにわめく少年の手を引いて、親子連れは遠のいて行く。

 なんとも言えない空気が、俺たちの間にただよっていた。



「…………」
「えっとぉ……アナタは?」
「スレ●タ・マーキュリーです」



 無言を貫くよこたんの代わりに、芽衣がシレッと別人のプロフィールを紹介し始める。

 オカマ姉さんは困惑しつつも、あまり深入りしない方がいいと判断したのか「そ、そう。素敵な名前ね」と、明らかに社交辞令な言葉を口にしながら、苦笑を浮かべていた。

 うん、気持ちは分かる。

 そりゃ、公衆の面前でガ●ダムのマスクを被る女に、なんて声をかければいいんですか? って話ですよ。



(おいおい、よこたんっ! なんだ、そのイカしたマスクは!? 俺も欲しいんですけど?)

(め、メイちゃんが『急いで被れ!』って渡してきたんだよぉっ! 何コレぇ!?)



 ドン引きしていてるオカマ姉さんを尻目に、素早くジェスチャーで意思疎通を行う、俺とよこたん。

 どうやら、あの機動戦士のマスクは、芽衣の指示によるモノらしい。

 おそらく、オカマ姉さんが喫茶店にやって来たときから『こんなこと』があるかもしれない! と思い、用意していたのだろう。

 流石は女神さまである。



(あのお兄さん(?)にナニを聞かれても喋るな! って言われたんだけど……誰なの、あの人? メイちゃんとししょーの知り合い?)

(知り合いっていうか、う~ん……?)




 チミを連れ去りに来たオカマさんだよ♪ とは口が裂けても言えないし、なんて答えようか?

 と、1人頭を捻っていると、ポケットに入れていたスマホから『兄さん、電話です』と、年下クール系幼馴染み美少女の声が俺の耳朶を叩いた。



「おっとぉ。失敬、電話だわ」



 俺の隣を不法占拠していたオカマ姉さんに断りを入れ、席を外す。

 店の外へ移動している間にも『兄さん、電話です』と、我がスマホが俺の名前を連呼してきて……どんだけ俺が欲しいんだ! このスキモノ淫乱マシーンめっ!

 ――と、悪態をつきながら、携帯の画面に視線を落とした。

 着信者は……大和田信愛おおわだのぶちか、俺の未来のお兄ちゃんからだった。

 これはイカン!? 

 俺は慌てて兄上の電話に出るべく、スマホの通話ボタンをタップした。



「お待たせしました、あにあにっ! 未来の義弟おとうと、シロウ・オオカミ、ただいま参上☆」

『んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ❤❤❤』



 ピッ! と無言で通話を切り、天を仰ぐ。

 あぁ……今すぐこの両の耳をそぎ落として、新しい耳と交換したい。

 というか、数秒前のウッキウキ♪ な自分をぶん殴ってやりたい。

 前にも似たようなことがあったというのに……学習しないなぁ、俺。

 ブルーな気持ちのまま、握りこんでいたスマホに視線をおとす。

 我がスキモノ淫乱マシーンは、『兄さん、電話です』と俺を催促さいそくしてくるばかりだ。

 正直、出たくないこと山のごとしだったが、いつまでもこうしてはおれんし……しょうがない。

 俺は覚悟を決めて、再び通話ボタンをタップした。



「もしもし?」

『ハァ、ハァ❤ ひ、酷いやないか喧嘩狼? すぐ通話を切るやなんて……興奮してまうやろ❤』

「酷いのは、おまえの声と態度だわ。分かるか? いきなり耳元で男の嬌声きょうせいを強制的に聞かされた俺の気持ちが? もはや恐怖だぞ?」

『ハァ、ハァ、んふっ❤ どうしたんや、喧嘩狼?【言葉責め】やなんて、今日はサービス精神旺盛やないかっ! ワシへのサプライズか?』

「無敵かコイツは?」



 スピーカー越しから、ハードゲイこと鷹野翼の熱っぽい息遣いきづかいが聞こえる。

 まるで殺人鬼が最高の獲物を見つけたときのような、興奮を抑えきれない呼吸音だ。



『タカさん。話が進まないので、スマホを返してください』
『えぇ~?』
「そ、その声はっ!?」



 俺がいかにしてこの難局を乗り切るか、思考を巡らせていると、まるで深い闇に差し込んだ一筋の光のように、我が魂を救済する声がスマホから聞こえてきた。

 聞き間違えるハズがない。

 我らが妹、大和田信菜ちゃんの兄上にして、俺の未来のお兄様である――



「信愛お兄ちゃんっ! ご無沙汰しておりますっ!」

『誰がお兄ちゃんですか? 絶対に信菜さんは嫁には出しませんからね?』



 我らがタマキン兄さんこと、大和田のおにぃの辟易へきえきした声が肌を撫でる。

 まったく、兄者も素直じゃないんだから♪ 

 本当は未来の義弟の声が聞きたくて、電話してきたんでしょ?

 大丈夫だよ、あにあにっ!

 俺が信菜ちゃんと結婚マリッジしたら、毎日この美声を、お兄たまにお届けしてあげるからね♪



『なんでしょうか、今すごく不愉快な気分になったのですか? ……まぁいいでしょう、さっさと本題に入りましょうか』



 本題? と俺が訊ね返すと、お兄ニャンは神妙そうな声音のまま。



『先日の文化祭の件は、ありがとうございました。おかげ様で信菜さん……妹を無事に救い出すことが出来ました』

「いえいえっ! 兄上のためなら、苦じゃありませんよ?」

『……その謝礼というわけではありませんが、1つ、大神様に伝えておきたい情報があります』

「おっ? なんですか? 俺がそっちに住むか、それとも信菜ちゃんが我が家に住むかのお話ですか?」

『……大神様は【シックス・ピストルズ】と呼ばれる6人の男たちを知っていますか?』



 はは~ん?

 さては俺の言葉は完全無視して、強引にでも自分の話を進める気だなぁ?

 まぁ、そういう強気なところも嫌いじゃないので、大人しくあにぃに「いや、知らない」と伝えてあげる。



『今や東日本最強の喧嘩屋集団と言われている【東京卍帝国】はご存じですよね?』

「知ってる、知ってる」



 何故かよこたんに懸賞金をけた、ヤベェ奴らだろ?



『その【東京卍帝国】を支える6人の大幹部、それが【シックス・ピストルズ】です。1人1人が一騎当千の【東京卍帝国】の中において、別格の強さを誇るモンスター達ですね』

「ふむふむ。それで? その【シックス・ピストルズ】とやらが、何か問題でも?」

『大問題です』



 お兄たまは、頭痛をこらえるかのような声音で、ハッキリとこう言った。



『どうやら今、【シックス・ピストルズ】の1人である【猫脚】が、森実町もりみちょうに潜入しているらしいんです。しかもその目的は――』

「あぁ~……俺とよこたん、だろ?」



 大和田の兄やんの言葉を奪うようにつぶやいた俺の言葉に、おにぃは驚いたように息を飲んだ。



『気づいていたんですか?』

「まぁちょっと、色々あってさ。でもそっかぁ……。俺の方はどうにかなるにしても、そんなヤベェ奴がよこたんを狙い始めたかぁ……」



 正直、ただでさえオカマ姉さんで手一杯だというのに、そんなヤベェ奴まで動きだしたら、俺たちの夏休みが終わってしまう。

 始まったばっかりだというのに、終わってしまう。

 それだけは何としても回避したい、今日この頃です。



「兄者。悪いんだけどさ、その【猫脚】ってヤツの特徴を教えてくんない? ソレっぽい奴には、近寄らないようにするから」

『構いませんよ』



 大和田の兄様は、その富士の雪解け水のような清らかなる魂が反映したかのような声音で、俺にその【猫脚】とやらの外見的特徴を教えてくれた。



『身長は190センチ後半のせ形』

「ふむふむ」

『黒髪を黄色に染めた、マッシュルームヘアーをしていて』

「ふむふむ」

『身体のラインがハッキリと分かるほどの、ピッチピチのライダースーツを着用しています』

「ふむふ、むぅ……?」



 あ、あれ? 

 お、おかしいな?

 お兄たんの言う人物が、どうしての『あの人』を連想してしまうんだけど……俺の気のせいかな?

 俺は店の中で芽衣たちと楽しそうにガールズトーク(?)に花を咲かせているオカマ姉さんを見やりながら、小さく首を振った。

 いやいや、あの人じゃないよぉ~っ!

 あの人は、ただの通りすがりのハードゲイであって、その【猫脚】って人じゃないよ!

 絶対違うよ!

 仮に【東京卍帝国】の刺客だとしたら、あいつら、とんでもねぇ生物兵器バイオへいきを送り込んできたことになるからね?

 世界中の誰よりも、テロリストになるからね?

 うん、絶対違うよ!

 ないな~い、それだけはな~いっ!

 ……ない、けど一応確認だけはしておこっか?



「ねぇ、おにぃ? その【猫脚】って人なんだけどね? もしかして……男の子が好きな男の子だったり、する……?」

『よく知ってましたね? そうですよ、基本的にはタカさんと同じタイプの人間です』

「そっかぁ……。もしかして、その【猫脚】さんは【オネェ】だったりしますか?」

『やはり【猫脚】の実力は、あの喧嘩狼でさえ無視できるモノじゃなかったですか。そうですね。彼、いや彼女は、世間一般的には【オネェ】と呼ばれる人種に分類されます』



 背筋に嫌な汗が止まらない。

 ……い、いやいやっ!?

 違うよ、他人の空似だよ!

 そうだよ、そうに違いないよ!

 なんせこの世には、自分とソックリな人間が3人は居るって言うし、それが【オネェ】ともなれば、なおさらだよ!

 ほら、よく言うだろ?

【オネェ】を1人見つけたら、30人は居ると思えってさ?

 30人も居たら、そりゃ似ている奴なんて1人や2人居るよ!

 全然、普通のことだよ!

 うん、問題なし!

 まったく問題なしっ! 

 アハハッ! と、ご機嫌に笑う俺にトドメを刺すかのごとく、大和田の兄上の美しい声音が、俺の鼓膜を震わせた。







『ではちゃんと伝えましたからね? 【猫脚】――獅子本レオンの情報は』
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