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第5部 嵐を呼べ オカマ帝国の逆襲!
第14話 開発済みなキミと、未開発なオレが、お付き合い(意味深)されかける話。
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「……ただいま」
「あら、随分と長電話してたわね、色男? ――って、その様子から見るに、もしかして、あたしの正体、バレちゃったかしら?」
大和田の兄上との密談を終え、芽衣たちの居る席へと戻ってきた俺を出迎えてくれたオカマ姉さんが、ペロッ! とお茶目に舌を出した。可愛くない……。
「正体……?」と首を捻るメバチ先輩とよこたん(ガ●ダムマスク着用)を尻目に、芽衣の瞳に鋭さが増した。
その様子から見るに、芽衣の方も薄々オカマ姉さんの正体に勘づいていたっぽい。
まったく、薄いのは芽衣の胸元とオカモトさん家のコンド●ムだけで充分なのにな。
「姉さん……アンタ【猫脚】なの?」
「あちゃ~、やっぱりバレちゃったかぁ~。もうちょっと、色男と――喧嘩狼とイチャイチャ♪ したかったんだけどなぁ」
名残惜しそうにそう呟きながら、小さく肩を竦めるオカマ姉さん。
「それじゃ、改めまして。あたしは【東京卍帝国】の7人の大幹部【シックス・ピストルズ】が1人、【猫脚】の獅子本レオン。ちょっと刺激的な大人なお姉さんよ~ん♪」
「なるほど。確かに刺激的なオカマなお姉さんだ」
「オカマじゃねぇ!? オネエだっ!」
ギロリッ! とドスの効いた声音でオカマ姉さんに睨まれる、ひぇっ!?
怒ったオカマほど、怖いモノはないよぉっ!
「落ち着いてください、獅子本さん。一応ここ、ファミレスですよ?」
「あ、あら、ごめんなさい。あたしとしたことが、うっかりうっかり☆」
仲裁に入った芽衣の言葉に、正気を取り戻すオカマ姉さん。
オカマ姉さんが「すぅ~はぁ~」と、何故か俺の股間の近くで大きく深呼吸をしているのを尻目に、芽衣が確認するかのように口をひらいた。
「士狼の正体を知っていたんですね。いつからですか?」
「んん~? そうねぇ。初めて会ったときに、あたしがタケルと――部下とキスしたときからね。あたし、キスした男の記憶やら情報が、何となく分かるタイプの女なの」
そう言って、何故か俺にウィンクを飛ばしてくるオカマ姉さん。
気がつくと、俺は芽衣の横に無理やり腰を下ろし、彼女にしがみついてガタガタッ!? 震えていた。
こ、怖いっ!?
このオカマ姉さんが怖いっ!?
ごくごく自然に男とキスするのが当たり前な常識と、確実に俺の唇を狙っているであろう、あのねちっこい瞳が怖いっ!?
芽衣にしがみつく俺を見て、メバチ先輩とよこたんが「むっ!」と頬を膨らませたのが分かったが、正直、それどころじゃなかった。
一瞬でも隙を見せたら、このオカマ姉さんに喰われるぞ!?
気を引き締めろ、俺!
……いや『尻の穴』的な意味じゃないよ?
勘違いしないでね?
「士狼の正体を知っていてなお、接触してきたということは……何か目的があるんですよね?」
「ウェイトレスちゃんは、可愛い顔して抜け目がないわねぇ。本当はゆっくりじっくり仲良くなってから、聞き出そうと思ったんだけど……しょうがないわね」
オカマ姉さんは苦笑を浮かべながら、歌うように、そのテカテカの唇を動かした。
「あたしの目的は『古羊洋子の捕縛』と『喧嘩狼の討伐』。……だったんだけど、ちょっ~と事情が変わったわ」
「事情が変わった?」
「えぇ」
芽衣の言葉に、ニッコリ♪ と頷くオカマ姉さん。
そんな2人を横目に、よこたんガ●ダムが「っ!? っっっ!?!?」と、激しく狼狽していた。
うん、いきなり自分が狙われていると分かったら、そりゃ慌てるよね。
本当はムダな心配なんぞ、1ミリもかけたくなかったが、こうなってしまっては仕方がない。
あとでよこたんにも、ちゃんと事情を説明しなくては。
なんてことを考えていると、オカマ姉さんがズイッ! テーブルに身を乗り上げ、俺を見つめてきた。
「ねぇ、あたしと取引しない?」
「と、取引?」
「そう、取引。『古羊洋子の捕縛』は、あたしが『上』にかけあって、中止にしてあげてもいいわよ」
「ま、マジでっ!?」
「マジマジ♪」
オカマ姉さんからの思いもよらない提案に、反射的に食いついてしまう俺。
おいおい、この人、良い人……いや良いオカマかよ?
どうやら俺は、オカマ姉さんを少し勘違いしていたらしい。
「あ、ありがとう姉さん! すげぇアライグマ助かるっ!」
「いいのよぉ、お礼なんて☆」
俺の態度にオカマ姉さんは満足気に微笑みながら、
「そ・の・か・わ・りぃ~♪ 喧嘩狼、あなたを頂戴☆」
「えっ? う、うん? どういうこと?」
「んもうっ! 察しが悪いわねぇ?」
オカマ姉さんは、恋する乙女のように、ねっとりとした熱い視線を俺に向け、バカでも分かるようにハッキリとこう言った。
「喧嘩狼。あなた、あたしの彼氏――ダーリンになりなさい」
「「「ダメっ!」」」
瞬間、俺がコメントするよりも先に、女性陣から否定の声が吹き上がった。
「それは絶対にダメです、許しません」
「話にならない、論外……」
「そ、そもそもっ! シシモトさんは、ししょーを倒しに来た人なんだよね? それが何で、ししょーを彼氏にするって話になるのかな!? 意味分かんないよ!?」
女性陣からの嵐の如きブーイングにも、オカマ姉さんは笑顔を崩すことなく、いつの間にか注文していたミルクティーで唇を潤した。
流石は我が道を征くオネェ、メンタルが超合金だ。
最強か、このオネェ?
「そうね、確かにあたしは喧嘩狼を倒しに来たわ。噂の『消える悪魔の右足』と、あたしの【猫脚】、どっちが上なのかハッキリさせるためにね」
でもね? と、オカマ姉さんはうっとり♪ とした表情で俺を見据えながら、ハッキリとこう口にした。してしまった。
「てっきり、黒髪短髪で中肉中背、毒にも薬にもならない塩顔の、今にも異世界に転生して玉座にふんぞり返りながら、女の子を侍らかしていそうな、貧弱な男の子を想像していたら、まさかのあたしの好みドストライクなマッチョが現れるんだも~んっ! そりゃ、女なら彼氏にしたくなるでしょ?」
んふっ❤ と、鼻息を荒げながら、にっちゃ……り♪ と耳まで裂けんばかりに口角が吊り上がり、邪悪に微笑むオカマ姉さん。
この世の邪悪を煮詰めたような笑みを前に、俺は確信した。
俺の貞操が危ない、と。
瞬間、ガタガタガタガタッ!? と、俺の意志に反して身体が勝手に震え始める。
「あら大丈夫、色男? そんな打ち捨てられた子猫みたいに震えちゃって? どこかのホテルで休憩する?」
「け、結構ですっ! ま、間に合ってますんで!」
「そう? それじゃ、お家まで運んであげるわ♪」
「ちょっ!? ウチに来る気ですか!?」
「安心して、ちょっと寝るだけだから。……あなたのムスコと」
俺の貞操が危ないっ!
オカマ姉さんが肉食獣を彷彿とさせる瞳で、俺の下半身をロックオン☆ したその瞬間。
――ブチィッ!?
と明後日の方向で、何かの切れる音がした。
刹那、ビリビリと全身の毛穴という毛穴に、無数の小さな針で刺されたかのような、痛いまでの圧迫感が俺を襲ってきた。
な、なんだ、このプレッシャーは!?
「寝る……? 喧嘩狼と? このワシを差し置いて……?」
「ゲッ!? た、鷹野っ!?」
俺たちのテーブルの前、そこには、さっきまで俺と電話していたハズの森実が誇るハードゲイ、鷹野翼が、血走った瞳でオカマ姉さんを凝視している姿があった。
な、なんでここに変態がっ!?
混乱する俺を他所に、鷹野は静かにブチ切れながら、オカマ姉さんを見下ろした。
「なんや嫌な予感がしたさかい、喧嘩狼のフェロモンを追ってココまで来てみれば――キサマ? 人が唾をつけている男に手ぇ出すとは、いい度胸ぜよ。覚悟は出来とるんやろうなぁ? おぉ?」
「ヤダ、怖い☆ あなたは確か、九頭竜高校の番長さんよね? 副長からは、あなたには『まだ』手を出すなって、言われているんだけど?」
「ソッチの事情なんぞ知るかっ! キサマはワシを怒らせた……その口を引きちぎり、2度と喧嘩狼の前に立てないようにしてやるわっ!」
こんなに激昂するハードゲイを見るのは、何気に初めてだったので、つい呆気とられて何も言えなくなってしまう。
とりあえず、今、言えることは『誰がテメェの男だ?』くらいである。
オカマ姉さんは全身から怒気を発する鷹野を楽しそうに眺めながら、カップに注いてあったミルクティーを一気に呷ると「ごちそうさま」と言って、席を立った。
「そっちが喧嘩を売ってくるなら、しょうがないわよね。いいわよ。その喧嘩、買ってあげる」
「よく言った、それでこそ男ぜよ」
「あたしは女よ」
バチィ! と、視線を交差させるオカマ姉さんとハードゲイ。
2人とも、どこまでも不遜な態度でニヤリッ! と微笑みながら、相手を挑発するように口をひらく。
「アタシが勝ったら、そこの色男のジョイスティック、いやアナログスティックはあたしのモノよ」
「上等や。ワシが勝ったら、ホワイトハウス並みのセキュリティを有する喧嘩狼のお尻は、ワシのもんぜよ」
「望むところよ」
「望まないで!? 勝手に望まないで、2人ともっ!?」
おいぃぃぃっ!?
ナニご本人の意志を丸っきり無視して、俺の下半身の所有権を主張しているんだ、コイツら!?
俺の下半身は俺のもんだっ!
というか、なんで俺の下半身が優勝賞品みたいな扱いになってんの?
意味分かんないんですけど!?
俺の魂の叫びは、どうやらハードゲイ達には伝わっていないようで、2人は睨み合いながら、小さく頷き合った。
「ここやと店に迷惑がかかる。ついて来い」
「OK。それじゃ色男、3日後に答えを聞きに行くから、楽しみにしててね?」
オカマ姉さんはそう言い残すと、ハードゲイと共に、さっさとファミレスをあとにした。
残された俺たちは、というよりも俺は、ハードゲイ達を見送るのもそこそこに、慌てて芽衣に泣きついた。
「ど、どどどど、どうしよう芽衣ちゃぁぁぁ~んっ!? このままじゃ俺、オカマさんのお嫁さんになっちゃうよぉ~っ!?」
「落ち着いてください士狼、そこは『お婿さん』では?」
「いや、ツッコんでいる場合じゃないよ、メイちゃん? このままいったら、ししょー、本当にシシモトさんの恋人にされちゃうよ?」
「泣いている大神くんも、カワイイ……」
何故か俺の泣き顔を見て、ぽっ! と頬を染めるメバチ先輩。
いや、そんな呑気なコトを言っている場合じゃないんですよ先輩!?
俺の下半身の金太郎飴が、オカマ姉さんにチュ●パチャプスされようとしているんですよ!?
事は緊急を要するんです、真面目に考えてくださいっ!
いや、マジで!?
「チクショウぉぉぉぉぉっ!? 俺は一体どうすればいいんだぁぁぁぁぁっ!?」
「わわわっ!? な、泣かないで、ししょー? だ、大丈夫だよっ! タカノくんが勝ったら、シシモトさんの恋人にならなくてもいいみたいな事を言ってたし、ここはタカノくんを信じて待ってみようよ?」
「アイツが勝ったら勝ったで、俺の『お尻』という名のプリズンがブレイクされるんだよ!? 童貞よりも先に、処女を失うんだよ!」
「あっ、そっか……」
うっかり☆ と言った表情で口元を押さえる、よこたん。
か、可愛いじゃねぇか……。
いや、今はほっこりしている場合じゃないっ!
「前門のオネェ、肛門の――違う、後門のハードゲイ。退くも地獄、進むも地獄……。俺はどうしたらいいですか先輩?」
「ぷるぷる震えてる大神くんも、カワイイ……。杏仁豆腐みたい……」
「あの先輩っ!? 俺の泣き顔を見て『うっとり♪』するの、やめてくれませんか!? コッチはそれどころじゃないんですよ!?」
だ、ダメだ!?
よく分からんが、先輩、俺の泣き顔を見て興奮していらっしゃる。
これじゃ使い物にならない、というより怖い……。
なに、あの先輩の目?
お気に入りのオモチャを見つけた、女王様の目をしてるんだけど?
もしかして先輩、アッチ系だった?
ヤベェ、なんか先輩も怖くなってきた!?
「どうしよう芽衣!? もう頼みの綱は芽衣しか居ないんだよぉ!?」
「どうどう。落ち着いてください士狼? 大丈夫ですから、わたしにいい考えがあります」
「ほ、ほんとにっ!」
縋るような俺の視線に、メバチ先輩と同じ女王様の瞳をしながら「えぇっ」と頷く芽衣。
もう芽衣が、ただの女神さまにしか見えない。
流石は女神さまだっ!
ここ1番というとき頼りになるのは、やはりこの女しか居ない!
芽衣は涙でドロドロになった俺の顔を見据えながら、にっこり♪ と微笑み、
「ようは3日後に獅子本さんが答えを聞きに来るんですよね? なら、話は簡単です。3日後のこの時間に、士狼がこの街に居なければいいんですよ」
「それはつまり、オカマ姉さんの居ない場所へ避難すればいいってこと?」
「そういうことです。ですので士狼?」
芽衣はハッキリと、上機嫌な口調で、俺に向かってこう宣言した。
「――今から、わたしの水着を買いに行きましょうか?」
……いや、なんで?
「あら、随分と長電話してたわね、色男? ――って、その様子から見るに、もしかして、あたしの正体、バレちゃったかしら?」
大和田の兄上との密談を終え、芽衣たちの居る席へと戻ってきた俺を出迎えてくれたオカマ姉さんが、ペロッ! とお茶目に舌を出した。可愛くない……。
「正体……?」と首を捻るメバチ先輩とよこたん(ガ●ダムマスク着用)を尻目に、芽衣の瞳に鋭さが増した。
その様子から見るに、芽衣の方も薄々オカマ姉さんの正体に勘づいていたっぽい。
まったく、薄いのは芽衣の胸元とオカモトさん家のコンド●ムだけで充分なのにな。
「姉さん……アンタ【猫脚】なの?」
「あちゃ~、やっぱりバレちゃったかぁ~。もうちょっと、色男と――喧嘩狼とイチャイチャ♪ したかったんだけどなぁ」
名残惜しそうにそう呟きながら、小さく肩を竦めるオカマ姉さん。
「それじゃ、改めまして。あたしは【東京卍帝国】の7人の大幹部【シックス・ピストルズ】が1人、【猫脚】の獅子本レオン。ちょっと刺激的な大人なお姉さんよ~ん♪」
「なるほど。確かに刺激的なオカマなお姉さんだ」
「オカマじゃねぇ!? オネエだっ!」
ギロリッ! とドスの効いた声音でオカマ姉さんに睨まれる、ひぇっ!?
怒ったオカマほど、怖いモノはないよぉっ!
「落ち着いてください、獅子本さん。一応ここ、ファミレスですよ?」
「あ、あら、ごめんなさい。あたしとしたことが、うっかりうっかり☆」
仲裁に入った芽衣の言葉に、正気を取り戻すオカマ姉さん。
オカマ姉さんが「すぅ~はぁ~」と、何故か俺の股間の近くで大きく深呼吸をしているのを尻目に、芽衣が確認するかのように口をひらいた。
「士狼の正体を知っていたんですね。いつからですか?」
「んん~? そうねぇ。初めて会ったときに、あたしがタケルと――部下とキスしたときからね。あたし、キスした男の記憶やら情報が、何となく分かるタイプの女なの」
そう言って、何故か俺にウィンクを飛ばしてくるオカマ姉さん。
気がつくと、俺は芽衣の横に無理やり腰を下ろし、彼女にしがみついてガタガタッ!? 震えていた。
こ、怖いっ!?
このオカマ姉さんが怖いっ!?
ごくごく自然に男とキスするのが当たり前な常識と、確実に俺の唇を狙っているであろう、あのねちっこい瞳が怖いっ!?
芽衣にしがみつく俺を見て、メバチ先輩とよこたんが「むっ!」と頬を膨らませたのが分かったが、正直、それどころじゃなかった。
一瞬でも隙を見せたら、このオカマ姉さんに喰われるぞ!?
気を引き締めろ、俺!
……いや『尻の穴』的な意味じゃないよ?
勘違いしないでね?
「士狼の正体を知っていてなお、接触してきたということは……何か目的があるんですよね?」
「ウェイトレスちゃんは、可愛い顔して抜け目がないわねぇ。本当はゆっくりじっくり仲良くなってから、聞き出そうと思ったんだけど……しょうがないわね」
オカマ姉さんは苦笑を浮かべながら、歌うように、そのテカテカの唇を動かした。
「あたしの目的は『古羊洋子の捕縛』と『喧嘩狼の討伐』。……だったんだけど、ちょっ~と事情が変わったわ」
「事情が変わった?」
「えぇ」
芽衣の言葉に、ニッコリ♪ と頷くオカマ姉さん。
そんな2人を横目に、よこたんガ●ダムが「っ!? っっっ!?!?」と、激しく狼狽していた。
うん、いきなり自分が狙われていると分かったら、そりゃ慌てるよね。
本当はムダな心配なんぞ、1ミリもかけたくなかったが、こうなってしまっては仕方がない。
あとでよこたんにも、ちゃんと事情を説明しなくては。
なんてことを考えていると、オカマ姉さんがズイッ! テーブルに身を乗り上げ、俺を見つめてきた。
「ねぇ、あたしと取引しない?」
「と、取引?」
「そう、取引。『古羊洋子の捕縛』は、あたしが『上』にかけあって、中止にしてあげてもいいわよ」
「ま、マジでっ!?」
「マジマジ♪」
オカマ姉さんからの思いもよらない提案に、反射的に食いついてしまう俺。
おいおい、この人、良い人……いや良いオカマかよ?
どうやら俺は、オカマ姉さんを少し勘違いしていたらしい。
「あ、ありがとう姉さん! すげぇアライグマ助かるっ!」
「いいのよぉ、お礼なんて☆」
俺の態度にオカマ姉さんは満足気に微笑みながら、
「そ・の・か・わ・りぃ~♪ 喧嘩狼、あなたを頂戴☆」
「えっ? う、うん? どういうこと?」
「んもうっ! 察しが悪いわねぇ?」
オカマ姉さんは、恋する乙女のように、ねっとりとした熱い視線を俺に向け、バカでも分かるようにハッキリとこう言った。
「喧嘩狼。あなた、あたしの彼氏――ダーリンになりなさい」
「「「ダメっ!」」」
瞬間、俺がコメントするよりも先に、女性陣から否定の声が吹き上がった。
「それは絶対にダメです、許しません」
「話にならない、論外……」
「そ、そもそもっ! シシモトさんは、ししょーを倒しに来た人なんだよね? それが何で、ししょーを彼氏にするって話になるのかな!? 意味分かんないよ!?」
女性陣からの嵐の如きブーイングにも、オカマ姉さんは笑顔を崩すことなく、いつの間にか注文していたミルクティーで唇を潤した。
流石は我が道を征くオネェ、メンタルが超合金だ。
最強か、このオネェ?
「そうね、確かにあたしは喧嘩狼を倒しに来たわ。噂の『消える悪魔の右足』と、あたしの【猫脚】、どっちが上なのかハッキリさせるためにね」
でもね? と、オカマ姉さんはうっとり♪ とした表情で俺を見据えながら、ハッキリとこう口にした。してしまった。
「てっきり、黒髪短髪で中肉中背、毒にも薬にもならない塩顔の、今にも異世界に転生して玉座にふんぞり返りながら、女の子を侍らかしていそうな、貧弱な男の子を想像していたら、まさかのあたしの好みドストライクなマッチョが現れるんだも~んっ! そりゃ、女なら彼氏にしたくなるでしょ?」
んふっ❤ と、鼻息を荒げながら、にっちゃ……り♪ と耳まで裂けんばかりに口角が吊り上がり、邪悪に微笑むオカマ姉さん。
この世の邪悪を煮詰めたような笑みを前に、俺は確信した。
俺の貞操が危ない、と。
瞬間、ガタガタガタガタッ!? と、俺の意志に反して身体が勝手に震え始める。
「あら大丈夫、色男? そんな打ち捨てられた子猫みたいに震えちゃって? どこかのホテルで休憩する?」
「け、結構ですっ! ま、間に合ってますんで!」
「そう? それじゃ、お家まで運んであげるわ♪」
「ちょっ!? ウチに来る気ですか!?」
「安心して、ちょっと寝るだけだから。……あなたのムスコと」
俺の貞操が危ないっ!
オカマ姉さんが肉食獣を彷彿とさせる瞳で、俺の下半身をロックオン☆ したその瞬間。
――ブチィッ!?
と明後日の方向で、何かの切れる音がした。
刹那、ビリビリと全身の毛穴という毛穴に、無数の小さな針で刺されたかのような、痛いまでの圧迫感が俺を襲ってきた。
な、なんだ、このプレッシャーは!?
「寝る……? 喧嘩狼と? このワシを差し置いて……?」
「ゲッ!? た、鷹野っ!?」
俺たちのテーブルの前、そこには、さっきまで俺と電話していたハズの森実が誇るハードゲイ、鷹野翼が、血走った瞳でオカマ姉さんを凝視している姿があった。
な、なんでここに変態がっ!?
混乱する俺を他所に、鷹野は静かにブチ切れながら、オカマ姉さんを見下ろした。
「なんや嫌な予感がしたさかい、喧嘩狼のフェロモンを追ってココまで来てみれば――キサマ? 人が唾をつけている男に手ぇ出すとは、いい度胸ぜよ。覚悟は出来とるんやろうなぁ? おぉ?」
「ヤダ、怖い☆ あなたは確か、九頭竜高校の番長さんよね? 副長からは、あなたには『まだ』手を出すなって、言われているんだけど?」
「ソッチの事情なんぞ知るかっ! キサマはワシを怒らせた……その口を引きちぎり、2度と喧嘩狼の前に立てないようにしてやるわっ!」
こんなに激昂するハードゲイを見るのは、何気に初めてだったので、つい呆気とられて何も言えなくなってしまう。
とりあえず、今、言えることは『誰がテメェの男だ?』くらいである。
オカマ姉さんは全身から怒気を発する鷹野を楽しそうに眺めながら、カップに注いてあったミルクティーを一気に呷ると「ごちそうさま」と言って、席を立った。
「そっちが喧嘩を売ってくるなら、しょうがないわよね。いいわよ。その喧嘩、買ってあげる」
「よく言った、それでこそ男ぜよ」
「あたしは女よ」
バチィ! と、視線を交差させるオカマ姉さんとハードゲイ。
2人とも、どこまでも不遜な態度でニヤリッ! と微笑みながら、相手を挑発するように口をひらく。
「アタシが勝ったら、そこの色男のジョイスティック、いやアナログスティックはあたしのモノよ」
「上等や。ワシが勝ったら、ホワイトハウス並みのセキュリティを有する喧嘩狼のお尻は、ワシのもんぜよ」
「望むところよ」
「望まないで!? 勝手に望まないで、2人ともっ!?」
おいぃぃぃっ!?
ナニご本人の意志を丸っきり無視して、俺の下半身の所有権を主張しているんだ、コイツら!?
俺の下半身は俺のもんだっ!
というか、なんで俺の下半身が優勝賞品みたいな扱いになってんの?
意味分かんないんですけど!?
俺の魂の叫びは、どうやらハードゲイ達には伝わっていないようで、2人は睨み合いながら、小さく頷き合った。
「ここやと店に迷惑がかかる。ついて来い」
「OK。それじゃ色男、3日後に答えを聞きに行くから、楽しみにしててね?」
オカマ姉さんはそう言い残すと、ハードゲイと共に、さっさとファミレスをあとにした。
残された俺たちは、というよりも俺は、ハードゲイ達を見送るのもそこそこに、慌てて芽衣に泣きついた。
「ど、どどどど、どうしよう芽衣ちゃぁぁぁ~んっ!? このままじゃ俺、オカマさんのお嫁さんになっちゃうよぉ~っ!?」
「落ち着いてください士狼、そこは『お婿さん』では?」
「いや、ツッコんでいる場合じゃないよ、メイちゃん? このままいったら、ししょー、本当にシシモトさんの恋人にされちゃうよ?」
「泣いている大神くんも、カワイイ……」
何故か俺の泣き顔を見て、ぽっ! と頬を染めるメバチ先輩。
いや、そんな呑気なコトを言っている場合じゃないんですよ先輩!?
俺の下半身の金太郎飴が、オカマ姉さんにチュ●パチャプスされようとしているんですよ!?
事は緊急を要するんです、真面目に考えてくださいっ!
いや、マジで!?
「チクショウぉぉぉぉぉっ!? 俺は一体どうすればいいんだぁぁぁぁぁっ!?」
「わわわっ!? な、泣かないで、ししょー? だ、大丈夫だよっ! タカノくんが勝ったら、シシモトさんの恋人にならなくてもいいみたいな事を言ってたし、ここはタカノくんを信じて待ってみようよ?」
「アイツが勝ったら勝ったで、俺の『お尻』という名のプリズンがブレイクされるんだよ!? 童貞よりも先に、処女を失うんだよ!」
「あっ、そっか……」
うっかり☆ と言った表情で口元を押さえる、よこたん。
か、可愛いじゃねぇか……。
いや、今はほっこりしている場合じゃないっ!
「前門のオネェ、肛門の――違う、後門のハードゲイ。退くも地獄、進むも地獄……。俺はどうしたらいいですか先輩?」
「ぷるぷる震えてる大神くんも、カワイイ……。杏仁豆腐みたい……」
「あの先輩っ!? 俺の泣き顔を見て『うっとり♪』するの、やめてくれませんか!? コッチはそれどころじゃないんですよ!?」
だ、ダメだ!?
よく分からんが、先輩、俺の泣き顔を見て興奮していらっしゃる。
これじゃ使い物にならない、というより怖い……。
なに、あの先輩の目?
お気に入りのオモチャを見つけた、女王様の目をしてるんだけど?
もしかして先輩、アッチ系だった?
ヤベェ、なんか先輩も怖くなってきた!?
「どうしよう芽衣!? もう頼みの綱は芽衣しか居ないんだよぉ!?」
「どうどう。落ち着いてください士狼? 大丈夫ですから、わたしにいい考えがあります」
「ほ、ほんとにっ!」
縋るような俺の視線に、メバチ先輩と同じ女王様の瞳をしながら「えぇっ」と頷く芽衣。
もう芽衣が、ただの女神さまにしか見えない。
流石は女神さまだっ!
ここ1番というとき頼りになるのは、やはりこの女しか居ない!
芽衣は涙でドロドロになった俺の顔を見据えながら、にっこり♪ と微笑み、
「ようは3日後に獅子本さんが答えを聞きに来るんですよね? なら、話は簡単です。3日後のこの時間に、士狼がこの街に居なければいいんですよ」
「それはつまり、オカマ姉さんの居ない場所へ避難すればいいってこと?」
「そういうことです。ですので士狼?」
芽衣はハッキリと、上機嫌な口調で、俺に向かってこう宣言した。
「――今から、わたしの水着を買いに行きましょうか?」
……いや、なんで?
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近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
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