みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第6部 俺が『最強』になった理由《ワケ》

第10話 機動戦士トラミ ~恥球の魔女~

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『ランジェリー大神』事件から2週間が経った、7月の中旬。

 寅美先輩と花丸INポイントノートのお題をクリアし続けて、はや4カ月。

 この4カ月、色んな事もあったが、気がつくと、花丸INポイントノートのお題も残り僅かとなった、今日この頃。

 昨日から夏休みということもあり、俺と寅美先輩は、早朝から森実駅前に集合して、今日も今日とて、花丸INポイントノートのお題に挑戦していた。

 ちなみに、今日のお題は『スーツを着込んで記念撮影』だ。



「じゃあさっそく、撮影していくか。寅美先輩、そこの噴水の前に、立ってクレメンス」

「…………」
「寅美先輩? どったべ、元気ないけど?『あの日』?」

「……シロー君。昨日、オイラが『スーツなんて高価なモン、持ってないべさ。どうしよう?』って言ったとき、シロー君、『俺が所持しているから、持って行くわ。大丈夫、男女兼用のヤツだから』って、言ってくれたの、覚えてるっぺ?」

「??? 覚えてるけど?」



 それが? と、カメラ片手に小首を捻る俺。

 そんなプリティな俺に向かって、寅美先輩は、何かをこらえるような口調で、今の自分の姿を見下ろした。



「なら……『コレ』は何だべ?」
「何って、寅美先輩が『持ってこい!』って言った、スーツだけど?」
「……確かにオイラは『スーツを持って来て欲しい』って、お願いしたべ。けどっ!?」



 寅美先輩は手に持っていたビームライフの銃口を俺に突きつけて、太陽に吠えた。



「誰が『モビルス●ツ』を持ってこいと言ったべさ!?」



 そう言って、白い悪魔――ガ●ダムの衣に身を包んだ寅美先輩が、ビームライフルの銃口で俺の頬をグリグリしてきた。

 何が気に入らないのだろうか?



「あれ? 俺の作ったスーツ、気に入らなかった?」

「いやコレ、シロー君の手作りだっぺか!? クオリティー高いべな、おい!?」



 って、そうじゃなくて! と、このクソ暑い中、いつものようにハイテンションではしゃぐ寅美先輩、

 ほんといつも元気いっぱいだなぁ、この子。

 ニュータイプか?



「スーツと言えば、モビルス●ツだろ?」
「違うっ! 普通スーツと言えば アレを連想するべさよ!?」



 ビシッ! と、寅美先輩がちょうど俺たちの横を通り過ぎようしていた就活生を指さした。
 こんなうだるような暑い中、リクルートスーツに身を包んだその人は、額に汗をかきながら、スタスタと歩いていて……ふむ。



「まぁ『リクルートスーツ』も『モビルス●ツ』も、同じ戦闘服だし、大差ないだろう」
「いや、片方、服じゃないべさ!? ロボットだべさ!?」

「まぁまぁ先輩っ! 細かい事は気にすんなっ! チャチャッと記念撮影して、クーラーのいた部屋に移動しようぜ?」



 そう言って、俺がカメラを構えた瞬間、ビームライフルを天高く持ち上げ、ポーズを決めてくれる寅美先輩。

 この女、存外ノリノリである。



「じゃあ撮るぞぉ~? 某有名マンガの戦闘民族で、葉菜類ようさいるいの名前を関するキャラクターのトレンドマークはぁ~?」
にぃひざ~っ!」



 ――パシャッ!



「よし、綺麗に撮れた」
「ねぇ、シロー君? かけ声、どうにかならなかったべ?」



 トコトコと、俺の元まで歩いてくる寅美先輩を横目に、いま撮ったばかりの写真を確認する。

 うん、カッコよく撮れてる!



「これにて今日のお題は完了っ! この写真は後で現像して、先輩に渡すわ」
「いや、いらな――ありがとう……」
「なぁ~に、良いってことよ!」



 ガ●ダムのマスクのせいで、表情は分からないが、おそらく喜んでくれているのだろう。



「そんじゃま、どこかコンビニでも寄って、アイス買って帰ろうぜ?」
「だべ。じゃあオイラは、ちょっと着替えてくる――あっ」
「うん? どうした寅美先輩? って、おい!?」



 寅美先輩は俺の制止を無視して、いきなり明後日の方へと走り出す。

 ガションッ! ガションッ! と、心の中で歩行音に擬音をつけながら、先輩の行方を目で追うと、銅像の前で4歳くらいの男の子が、今にも泣きそうな顔で辺りをキョロキョロと見渡していた。

 あれは……迷子かな?



「どうしたべ、ぼく? 迷子だっぺか?」
「ぐすん……うん――うぇっ!?」



 今にも目尻から涙がこぼれそうだった男の子は、寅美先輩に声をかけられるなり、一瞬で涙が引っ込んでいた。

 気持ちは分かる。

 なんせ、いきなり連邦の白い悪魔に声をかけられたのだ。

 もう何て答えたらいいのか、分からないのは当然だろう。

 っとぉ、そんな事を言っている場合じゃねぇな。

 俺は寅美先輩と同じく、迷子の男の子の所まで駆け足で近寄ると、男の子の目線に合わせるように膝を折った。



「おう坊主。もしかして迷子か? 迷子なら交番まで連れて行ってやるぞ?」

「っ!? う、うわぁぁぁぁぁぁ~~~~~~んっ!?!?」



 瞬間、せきを切ったかのように、男の子がギャン泣きし始めた。

 ちょっ、これ!?

 俺が無理やり連れ去ろうとしている風に見えない、大丈夫!?



「びぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~んっっ!?!?」
「あ~あ。シロー君が怖いから、泣いちゃったべさ」
「えっ、俺のせい? 俺のせいなの?」



 心なしか周りを歩いていた歩行者の瞳が『事案発生か?』と、どことなく俺を責めているような気がしてならない。

 い、いけない!?

 このままじゃ、心優しき寅美先輩の心と、俺の犯罪の無い輝かしい経歴に傷がついてしまう!?

 俺はこの窮地きゅうちを脱するべく、素早くポケットからスマホを取り出すと、悲しみの涙に溺れる男の子を救うべく、音楽のラインナップから『とあるヒーロー』の力を借りようと、急いで曲を探した。

 そう、みんな大好き『ア●パンマンのマーチ』だっ!

 これを聞けば、どんな少年少女だって、1発で泣き止むことけ合いだっ!



「よし坊主っ! 今から歌が流れるぞ? ヒントは、アンパンのヒーローだ」

「えっ!? そ、それって……もしかしてアンパンマ――ッ!?」



 迷子の男の子の期待に応えるように、俺はにっこり♪ 微笑みながら再生ボタンをタップした。




 ――も、●、あ、が、れ♪ も●あがれ~♪ 燃●上がれ~♪ ガ●ダム~♪




「「「…………」」」



 ヤッベ☆

 顔をもぎ取ったら最終回になる方のヒーローが出てきちゃった♪



「「「…………」」」



 ア●パンマンのマーチとは似ても似つかぬ雰囲気を前に、迷子の男の子の涙は引っ込み「ナニコレ……」と小さくつぶやく。

 そんな男の子の言葉に、全員真顔。

 3人とも神妙な面持ちで、俺のスマホに視線を落とした。

 何とも言えない気まずい沈黙。

 止まらないガ●ダム。

『行けよ、行けよ 行けよ~♪』と歌いながら、俺たちの脇を走り抜けていくオッサン。

 どうしよう?

 今さらア●パンマンのマーチを流したところで、もうどんな感情で聞けばいいのか分からないよ、俺……。



「……とりあえず、交番に連れて行くべ?」
「……うん」



 思考停止しているのか、素直に俺と寅美先輩の手に引かれて歩き出す男の子。

 こうして俺たちは男の子を引き連れて、交番へと歩き出した。

『飛べ! ガ●ダム』を響かせながら、ガタイに良いリーゼントの男と、連邦の白い悪魔が、少年の手を引いて、足並みを揃えて行進する姿に、周りの歩行者は『何事だ!?』と目を見開いていた。

 きっと、傍から見たら、さぞ素晴らしい景色を皆様にご提供していたに違いない。



「それにしても、よく迷子って気づけたな先輩?」

「いやぁ、たまたまっぺよ。施設ウチの弟たちが遠出した際に、迷子になったときの顔と同じ顔をしてたから『もしかして?』と思っただけだべ」



 何とも言えない雰囲気をぶち破ろうと、寅美先輩とお喋りしながら、交番へと歩いて行く。

 ガ●ダムのマスクを被っているせいで、表情は見えないが、寅美先輩はどこかしんみりとした様子で口をひらいた。



「そういえば、オイラが迷子になったときは必ず、お兄ちゃんが駆けつけてくれたっぺなぁ……」



 そう言って、ムッツリと押し黙ってしまう寅美先輩。

 実はまだ、寅美先輩の兄貴の行方が分かっていないのだ。

 あの恋愛以外なら何でも完璧にこなす人型サイクロプスこと、我が親友、猿野元気がフルにその能力を発揮しているのにも関わらず、先輩の兄貴の行方は一向に掴めていないのだ。

 そろそろ花丸㏌ポイントノートのお題も全部クリアするというのに……。

 ほんと先輩の兄貴は、今どこに居るんだよ?



「確認するけどさぁ、寅美先輩の兄貴の名前は『佐藤虎太郎こたろう』でいいんだよな?」

「だべ……。里親と同じ苗字を使っているハズだから、多分まちがいないっぺ」



 あっ、ヤバい。

 今、先輩、ちょっとへこんでるわ。

 これは無理にでも話題を変えなければっ!



「ま、まぁ、まだ半年以上あるし、絶対に見つかるだろっ! 気にすんな先輩っ!」
「あっ。そう言えば、シロー君には、まだ言ってなかったっぺな」



 先輩はマスク越しで俺を見つめながら、妙に明るい口調で口をひらいた。



「実はオイラ、この夏休みが終わったら入院するんだべさ」
「……えっ? にゅ、入院っ!? 寅美先輩、入院すんの!?」



 そ、それって、もしかして……? 

 最悪の想像が俺の脳裏をよぎり、夏だというのに、指先が冷たくなった。

 そんな俺の顔を見て、寅美先輩はケラケラと笑ってみせた。



「言っておくけど、別に内臓の腐敗が進んでいるからとか、そういう理由じゃないっぺよ?」

「そ、そうなん? じゃ、じゃあ何で?」

「いやぁ、オイラも耳を疑ったんだべが、どうやら内臓の腐敗が遅れていて、奇跡的に手術でどうにかなるレベルに落ち着いたらしいんだっぺよ」



 だから夏休み明けに入院して、9月の終わりに手術をすることになったっぺ!

 と、そう嬉しそうに口にする寅美先輩。

 そ、それって、つまり?



「寅美先輩、助かるの? マジで!?」

「だべっ! だから、そんなに焦ってお兄ちゃんを探さなくても、大丈夫だっぺよ――って、シロー君っ!?」

「おぉぉぉぉっ!? よかったぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っっ!!」



 気がつくと俺は迷子の少年の手を離し、無意味に声を張り上げながら、そこら辺を駆けまわっていた。



「いやぁ、マジかぁぁぁぁぁ~~~っ! もうほんっっっっっっっっと! よかったぁぁぁ~~っっ!! 神様、ありがとぉぉぉぉぉ~~~~っっっ!!」

「おーい、シローく~ん? 戻ってくるっぺよぉ~?」



 ハッ!?

 いっけね☆

 知的でクール、それでいてナイスガイな俺らしくなく、ついテンション爆上がりで喜んでしまった。

 でも、そうか。

 寅美先輩、助かるのかっ!

 よし、こうしちゃいられねぇっ!

 俺は『ハウスッ!』と命じられたワンちゃんのように、すたこらさっさ! と、寅美先輩たちの元まで戻ってくると、キョトンとしている迷子の男の子を小脇に抱えた。



「よっしゃ! すぐお母ちゃんに合わせてやるぞ坊主っ!」

「ちょっ、シロー君!? オイラを置いて行かないで欲しいっぺ!? シローくぅぅぅ~~~ん!?」



 マスク越しに声を張り上げる寅美先輩をその場に、俺は急いで迷子の男の子を交番へと送り届けるべく、大地を蹴り上げた。
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