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第6部 俺が『最強』になった理由《ワケ》
第11話 出雲愚連隊
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少年を無事、交番へ送り届けたその日の午後。
俺と私服に着替えた寅美先輩は、大神家のリビングに集まって、例の花丸INポイントノートを机の上に開いていた。
「急にシロー君の家に集合だなんて、どういうことだべさ?」
「いやなに、花丸INポイントノートを少し進化させようと思ってさ」
「進化?」
こてんっ? と首を捻る先輩に、俺は力強く頷いた。
「おうよっ! 手術したら先輩の病気も治るんだろ? だったらさ、改めて寅美先輩が今まで諦めていたことを、このノートに記入していって、夏休み明けの手術後に、みんなで叶えていこうぜ!」
「諦めていた願いを……」
「そうっ! 題して『夢は続くよ、どこまでもっ! ネオ花丸INポイントノート』計画だっ!」
「た、タイトルがダサいッ!?」
ネーミングセンスが皆無だっぺ……と、俺の計画を大絶賛してくれる寅美先輩。
ふふふっ、先輩ったら、ほんとツンデレさんなんだから♪
そろそろデレを見せてくれても、いいんだゾ☆
「この約4カ月、色々あったけどさ? あと残っているお題は『料理をする』『プールへ行く』『おつかいに行く』の3つだけじゃん? なら、今月中には花丸INポイントノートのお題は全部クリア出来そうだし、なら新しいお題を自分たちで考えてみようぜっ!」
「新しいお題を、自分たちで……」
「ちなみに今、『これやってみたい!』とか『アレやっみてたい』とか、希望ある?」
「そ、そんな急に言われても……」
寅美先輩は「う~ん? う~ん?」と便秘3日目の姉ちゃんのように、分かりやすく頭を抱えて、うんうん唸り始めた。
ちなみに我が家では、この状態の姉ちゃんを、少し触れただけでも八つ当たりされる危険性を孕んでいる事から、別名『ニトログリセリン』と呼んでいる。
「う~ん? ――あっ、そうだっ!」
「おっ、何かイイお題でも思いついた感じで?」
「だべっ! オイラ、森実高校へ入学したいっ!」
「もりみこうこう~? なにそれ? 親孝行の進化系?」
「何で受験生のシロー君が知らないんだべか……?」
何故か呆れた瞳で俺を見てくる寅美先輩。
もしかしたら、惚れられたかもしれない。
「シロー君の近所にある、県立の進学校だべよ」
「県立、進学校……あぁっ! あの丘の上にある、お坊ちゃん高校かっ!」
ようやく寅美先輩がナニを言いたいのか理解した俺は、ぽんっ! と両手を叩いた。
「えっ? 寅美先輩、あのお坊ちゃん高校に行きたいの? マジで?」
「だって、あそこの女子の制服、すっごく可愛いんだべ? 1度は着てみたいと思うのが、乙女心ってヤツだっぺよ!」
「な~る、そういう理由ね」
確かに、あそこの女の子の制服はすこぶる可愛い。
とくに夏服とか、うっすらと背中のブラの線が見えそうで、我々、健全な青少年に超能力の目覚めを促してくれる素晴らしい1品だ。
あのデザインを考えたデザイナーには、ぜひとも『大神士狼エロデミー賞』を受け取って貰いたい。
「そういえば、シロー君はどこの高校へ行くんだべか?」
「俺? 俺はまぁ、近所で行ける所ならどこでもって感じかな。ただまぁ、学力的に『九頭竜高校』へ進学しそうな感じではあるけど」
「げぇっ!? 九頭竜高校って、全国の手のつけられないバラガキ達が集まる、男子高校じゃないっぺか!?」
「別に場所なんてどこでもいいんだよ。ドブ川に住もうが、清流に住もうが、前にさえ泳げば、魚は立派に育つんだから」
正直、学校や肩書きなんかには、微塵も興味がないっていうのは本音だ。
自分の名前と同じで、親がどんな立派な名前をくれようが、ぶっちゃけ大した意味はないと思う。
意味があるのは、俺が今まで歩んできた『道のり』そのもの。
名前や学校、肩書き何かは、俺という存在を彩るためのスパイスなだけで、俺という人間を作っているワケではない。……と、勝手に思っている。
まぁ、所詮は人生経験の少ない小僧の戯言だ。
深く考える必要はないゾ☆
「むぅ~……。どこでもいいんだったら、シロー君もオイラと一緒に森実高校へ進学しようべっ!」
「えぇ~っ? 今から勉強するのメンドクセェよぉ~」
「大丈夫っ! シロー君なら絶対に出来るべっ!」
一体どこからそんな自信が湧いてくるのか、寅美先輩はしきりに俺を森実高校へ進学するように誘ってくる。
う~ん、森実高校ねぇ……。
「まぁ、寅美先輩がそこまで言うなら考えとくわ。でも、あまり期待はすんなよ?」
「だべっ! 今はそれで結構だっぺ!」
寅美先輩は嬉々とした表情で、花丸INポイントノートに新しいお題を書き込んでいった。
『シローくんと一緒に森実高校に進学する』
……いつの間にか、俺の進路が先輩によって書き換えられていた件について。
「あとは、そうだべなぁ。跳び箱5段を跳べるようになりたいし、水切りを連続10回出来るようになりたいべなぁ。あっ! あと沖縄っ! 沖縄に行きたいべっ!」
「沖縄なら、修学旅行で行けるぞ?」
「マジだっぺか!?」
やったーっ! と喜色満面の笑みで、花丸INポイントノートにどんどん新しいお題を追加していく寅美先輩。
え~と、なになにぃ?
『跳び箱を5段跳ぶ』『水切り10回成功させる』『沖縄に旅行する』『ネッシーを見つける』かぁ。
ネッシー、どうやって見つけようかなぁ……?
「そうだっ! シロー君もやりたいこと書き込んでいくべさ!」
「俺も? いいの?」
「だべっ! もうこのノートはオイラとお兄ちゃんと、シロー君のモノなんだから、当たり前だべよ!」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
寅美先輩が書き込んだ新しいお題の横に、俺のやりたい事を記入しようとするのだが……う~ん?
いざ『やりたい事を書け!』と言われたら、案外なにも思いつかないんだよなぁ。
いやほんと、何も思いつかんわ。
『彼女をつくる!』『ハーレムをつくる!』『異世界に転生する!』くらいしか思いつかんわ。
……けっこう思いつくな、俺?
「シロー君は、なにがやりたいんだべか?」
わくわくっ! といった様子で俺とノートを見返す寅美先輩。
困った、この雰囲気じゃ『ギャルのパンティーおくれっ!』と書くのも気が引けるし……。
あっ、そうだっ!
ピコーンっ! と頭の上に豆電球を光らせながら、俺はスラスラとノートにやりたい事を綴っていった。
『先輩と先輩の兄貴を、無事に会わせる!』
「よしっ! 目下の俺のお題はこれだな!」
「シロー君……」
「さぁ寅美先輩っ! まだまだ余白は腐るほどあるんだし、どんどん書き込んでいくぞっ?」
「ガッテンだべさ!」
おーっ! と2人仲良く拳を天井に向けて突き上げていると、唐突にリビングの扉が、何者かによって開かれた。
「おうおう、何だが騒がしいが、どうしたおまえら? 発情期か?」
この残念な物言いは間違いない。
姉ちゃんだ。
俺と寅美先輩は扉の方へと振り返りながら「おかえり」と口にしようとして……固まった。
俺たちの視線の先、そこには。
「うーす、ただいまぁ。あぁ~、クソッ! 身体がベタベタするぜ。気持ちワリィなぁ、もうっ!」
そう言って、乙女戦線の革ジャンを着込んだ姉ちゃんが、顔中を血まみれの状態で、鬱陶しそうに眉根を寄せた。
「いや、おまえがどうしたっ!?」
「あぁんっ!? お姉さまに向かって『おまえ』とは、どういう口の利き方してんだ愚弟!? またテメェの顔面をマッシュポテトと見分けがつかない位にボコボコにしてやろうかぁ? あぁん!?」
「ひぃぃぃっ!? す、すいませぇぇぇぇんっ!?」
一瞬で沸点を超えたらしい我が家の不良債権が、『確実に何人か殺してるよね?』と堅気の人間とは思えない鋭い眼光で弟を睨んでくる。ひぇっ!?
「ち、千和お姉ちゃんっ!? お、お顔に血がっ!? 血がっ!?」
「おう寅美、いらっしゃい。って、血? ……おぉ、ほんだ」
「だ、大丈夫だっぺか!?」
「なぁ~に、問題ねぇよ。これ全部、返り血だしな」
「か、返り血……?」
「おう。なんかよぉ、ここ最近、あたしらのシマに『出雲愚連隊』とか名乗るシャバ増どもが喧嘩を売りに来ててよぉ。そいつらを駆逐したときに飛び散った、ケチャップだなコレ」
そう言って、弟には絶対に見せない朗らかな笑顔で寅美先輩に笑いかける姉ちゃん。
……顔面、ケチャップ(隠語だよ☆)まみれのままで。
もういいから、はやく風呂に入ってくんねぇかなぁ、この人?
ケチャップ臭いんだけど?
「い、出雲愚連隊っ!? い、出雲愚連隊ってアノ!? だ、大丈夫だったんだべか!?」
「いずもぐれんたい~? なにそれ? 出雲大社の親戚?」
「し、知らないんだべか、シロー君!?」
マジでっ!? と言わんばかりに、驚きに満ちた瞳で俺を見てくる寅美先輩。
ちょっ、そんな情熱的にコッチを見ないで? 孕みそうだ♥
子どもの名前は『タカ』でいいかい?
そう、秋田県が生んだ英霊、加藤さん家の『タカ』さんから頂いたのさ♪
俺が我が子の未来に想いを馳せていると、寅美先輩が信じられない!? と言わんばかりに、口をひらいた。
「出雲愚連隊。数年前から西日本を中心に暴れまわってる喧嘩屋集団で、今や西日本最大派閥のヤバいチームなんだっぺよ!?」
「へぇ~。寅美先輩、詳しいな。なに? そういうヤンチャ系に、興味あるの?」
「いや、出雲愚連隊なんて、有名過ぎて逆にチープに聞こえるほど超有名な喧嘩屋集団じゃないべさかっ! 逆になんでシロー君は知らないんだべか!?」
「いや『なんで』と言われましても……興味なかったし。それに、そんなヤベェチームが居ようが、姉ちゃんならワンパンで沈めるだろし? なぁ?」
俺は何故かその場で服を脱いで下着1枚になり始めた姉ちゃんに、視線を向けた。
出雲愚連隊だが何だか知らんが、ウチのバーサーカーに喧嘩を売るとは、なんとまぁ無謀な連中である。
どれくらい無謀なのかと言えば、尻フェチ1000人の趣味嗜好を、脚フェチに無理やり変えるくらい無謀である、と言えば分かりやすいだろうか。
まぁ当然だよね。『お尻に顔を埋め隊』を『彼女のふくらはぎをペロペロし隊』にコンバートさせるだなんて、どんな錬金術師にも不可能だ。
あのエルリ●ク兄弟だって匙を投げるに違いない。
「あたぼーよっ! ……と、言いたい所だが、ちょっとそう上手く事が運びそうにねぇなぁ」
「なんで?」
いつもの自信満々の態度とは打って変わって、姉ちゃんは渋い顔を浮かべながら、キッチンの方へと移動して行く。
……パンツ丸出しのまま。
「いやぁ、向こうに1人、厄介なヤツが居てなぁ。下手をしたら、あたしより強いかもしれん」
「えっ!? 姉ちゃんより強い人間が、この世に母ちゃん以外に居んの!?」
マジでっ!?
どんな化け物だよ、そいつ!?
キッチンの流し台でバシャバシャと顔についた返り血を洗い落とす姉ちゃんを、マジマジと見つめてしまう。
この我が家が誇るデンジャラス・ビーストより強い人間が、身近に居るだと?
……ちょっと興味が沸いてきた。
「誰々? その姉ちゃんより強いホモ・サピエンスは?」
「う~ん? 向こうのチームの総長。コイツがマジで厄介でよぉ。もう『メタルスライムか!?』ってツッコミを入れちまうくらい、攻撃が当たらねぇんだよ」
「に、『西日本最強の男』のことだべなっ!」
「あぁ~、確かに。なんかそんな風に言われてたなぁ、アイツ」
「西日本最強の男?」
俺が可愛く小首を傾げると、寅美先輩は「これも知らないんだべかぁ!?」と、もはや驚きを通り越して呆れた瞳で俺を見てきた。
俺の美貌に見惚れているのかもしれない。
「出雲愚連隊は、西日本最強の男が治める、西日本最大派閥のチームなんだべよ?」
「名前はなん言ったけなぁ? 確か、たつ、たつ……竜田揚げ? みたいなイントネーションのヤツだったハズ」
「美味しそうだね?」
西日本最強の竜田揚げか……香ばしそうだ。
そんな事を考えていたからだろうが。
ぐぅ~。
と、我が腹の虫がリビングに轟かんばかりに大音量で、リサイタルを開催し始めた。
「おっ、もうこんな時間か。そろそろメシにするか。寅美も食ってくだろ?」
「だべっ! あっ、そうだ! 千和お姉ちゃんっ! お昼、オイラが作ってみても、いいっぺか?」
寅美先輩は残り3つとなった花丸INポイントノートの次のお題、『料理をする』を姉ちゃんに見せながら、おねだりするように上目遣いで尋ねだした。
寅美先輩には妙に優しい姉ちゃんは、ニカッ! と笑みを深めると、その頭を「いい子♪ いい子♪」するように、ガシガシと撫でまわし始める。
「おうっ、好きにすりゃいい!」
「やたっ!」
「そんじゃま、あたしは風呂に入る。愚弟、寅美がケガしないようにちゃんと見てろよ? もし寅美がケガしたら、そのときは……分かってるな?」
「へ~い」
念入りに弟に釘を刺した姉ちゃんが、意気揚々と脱衣所へと移動していく。
……数十分後、寅美先輩にGОサインを出したことを、死ぬほど後悔するハメになる事も知らないで。
俺と私服に着替えた寅美先輩は、大神家のリビングに集まって、例の花丸INポイントノートを机の上に開いていた。
「急にシロー君の家に集合だなんて、どういうことだべさ?」
「いやなに、花丸INポイントノートを少し進化させようと思ってさ」
「進化?」
こてんっ? と首を捻る先輩に、俺は力強く頷いた。
「おうよっ! 手術したら先輩の病気も治るんだろ? だったらさ、改めて寅美先輩が今まで諦めていたことを、このノートに記入していって、夏休み明けの手術後に、みんなで叶えていこうぜ!」
「諦めていた願いを……」
「そうっ! 題して『夢は続くよ、どこまでもっ! ネオ花丸INポイントノート』計画だっ!」
「た、タイトルがダサいッ!?」
ネーミングセンスが皆無だっぺ……と、俺の計画を大絶賛してくれる寅美先輩。
ふふふっ、先輩ったら、ほんとツンデレさんなんだから♪
そろそろデレを見せてくれても、いいんだゾ☆
「この約4カ月、色々あったけどさ? あと残っているお題は『料理をする』『プールへ行く』『おつかいに行く』の3つだけじゃん? なら、今月中には花丸INポイントノートのお題は全部クリア出来そうだし、なら新しいお題を自分たちで考えてみようぜっ!」
「新しいお題を、自分たちで……」
「ちなみに今、『これやってみたい!』とか『アレやっみてたい』とか、希望ある?」
「そ、そんな急に言われても……」
寅美先輩は「う~ん? う~ん?」と便秘3日目の姉ちゃんのように、分かりやすく頭を抱えて、うんうん唸り始めた。
ちなみに我が家では、この状態の姉ちゃんを、少し触れただけでも八つ当たりされる危険性を孕んでいる事から、別名『ニトログリセリン』と呼んでいる。
「う~ん? ――あっ、そうだっ!」
「おっ、何かイイお題でも思いついた感じで?」
「だべっ! オイラ、森実高校へ入学したいっ!」
「もりみこうこう~? なにそれ? 親孝行の進化系?」
「何で受験生のシロー君が知らないんだべか……?」
何故か呆れた瞳で俺を見てくる寅美先輩。
もしかしたら、惚れられたかもしれない。
「シロー君の近所にある、県立の進学校だべよ」
「県立、進学校……あぁっ! あの丘の上にある、お坊ちゃん高校かっ!」
ようやく寅美先輩がナニを言いたいのか理解した俺は、ぽんっ! と両手を叩いた。
「えっ? 寅美先輩、あのお坊ちゃん高校に行きたいの? マジで?」
「だって、あそこの女子の制服、すっごく可愛いんだべ? 1度は着てみたいと思うのが、乙女心ってヤツだっぺよ!」
「な~る、そういう理由ね」
確かに、あそこの女の子の制服はすこぶる可愛い。
とくに夏服とか、うっすらと背中のブラの線が見えそうで、我々、健全な青少年に超能力の目覚めを促してくれる素晴らしい1品だ。
あのデザインを考えたデザイナーには、ぜひとも『大神士狼エロデミー賞』を受け取って貰いたい。
「そういえば、シロー君はどこの高校へ行くんだべか?」
「俺? 俺はまぁ、近所で行ける所ならどこでもって感じかな。ただまぁ、学力的に『九頭竜高校』へ進学しそうな感じではあるけど」
「げぇっ!? 九頭竜高校って、全国の手のつけられないバラガキ達が集まる、男子高校じゃないっぺか!?」
「別に場所なんてどこでもいいんだよ。ドブ川に住もうが、清流に住もうが、前にさえ泳げば、魚は立派に育つんだから」
正直、学校や肩書きなんかには、微塵も興味がないっていうのは本音だ。
自分の名前と同じで、親がどんな立派な名前をくれようが、ぶっちゃけ大した意味はないと思う。
意味があるのは、俺が今まで歩んできた『道のり』そのもの。
名前や学校、肩書き何かは、俺という存在を彩るためのスパイスなだけで、俺という人間を作っているワケではない。……と、勝手に思っている。
まぁ、所詮は人生経験の少ない小僧の戯言だ。
深く考える必要はないゾ☆
「むぅ~……。どこでもいいんだったら、シロー君もオイラと一緒に森実高校へ進学しようべっ!」
「えぇ~っ? 今から勉強するのメンドクセェよぉ~」
「大丈夫っ! シロー君なら絶対に出来るべっ!」
一体どこからそんな自信が湧いてくるのか、寅美先輩はしきりに俺を森実高校へ進学するように誘ってくる。
う~ん、森実高校ねぇ……。
「まぁ、寅美先輩がそこまで言うなら考えとくわ。でも、あまり期待はすんなよ?」
「だべっ! 今はそれで結構だっぺ!」
寅美先輩は嬉々とした表情で、花丸INポイントノートに新しいお題を書き込んでいった。
『シローくんと一緒に森実高校に進学する』
……いつの間にか、俺の進路が先輩によって書き換えられていた件について。
「あとは、そうだべなぁ。跳び箱5段を跳べるようになりたいし、水切りを連続10回出来るようになりたいべなぁ。あっ! あと沖縄っ! 沖縄に行きたいべっ!」
「沖縄なら、修学旅行で行けるぞ?」
「マジだっぺか!?」
やったーっ! と喜色満面の笑みで、花丸INポイントノートにどんどん新しいお題を追加していく寅美先輩。
え~と、なになにぃ?
『跳び箱を5段跳ぶ』『水切り10回成功させる』『沖縄に旅行する』『ネッシーを見つける』かぁ。
ネッシー、どうやって見つけようかなぁ……?
「そうだっ! シロー君もやりたいこと書き込んでいくべさ!」
「俺も? いいの?」
「だべっ! もうこのノートはオイラとお兄ちゃんと、シロー君のモノなんだから、当たり前だべよ!」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
寅美先輩が書き込んだ新しいお題の横に、俺のやりたい事を記入しようとするのだが……う~ん?
いざ『やりたい事を書け!』と言われたら、案外なにも思いつかないんだよなぁ。
いやほんと、何も思いつかんわ。
『彼女をつくる!』『ハーレムをつくる!』『異世界に転生する!』くらいしか思いつかんわ。
……けっこう思いつくな、俺?
「シロー君は、なにがやりたいんだべか?」
わくわくっ! といった様子で俺とノートを見返す寅美先輩。
困った、この雰囲気じゃ『ギャルのパンティーおくれっ!』と書くのも気が引けるし……。
あっ、そうだっ!
ピコーンっ! と頭の上に豆電球を光らせながら、俺はスラスラとノートにやりたい事を綴っていった。
『先輩と先輩の兄貴を、無事に会わせる!』
「よしっ! 目下の俺のお題はこれだな!」
「シロー君……」
「さぁ寅美先輩っ! まだまだ余白は腐るほどあるんだし、どんどん書き込んでいくぞっ?」
「ガッテンだべさ!」
おーっ! と2人仲良く拳を天井に向けて突き上げていると、唐突にリビングの扉が、何者かによって開かれた。
「おうおう、何だが騒がしいが、どうしたおまえら? 発情期か?」
この残念な物言いは間違いない。
姉ちゃんだ。
俺と寅美先輩は扉の方へと振り返りながら「おかえり」と口にしようとして……固まった。
俺たちの視線の先、そこには。
「うーす、ただいまぁ。あぁ~、クソッ! 身体がベタベタするぜ。気持ちワリィなぁ、もうっ!」
そう言って、乙女戦線の革ジャンを着込んだ姉ちゃんが、顔中を血まみれの状態で、鬱陶しそうに眉根を寄せた。
「いや、おまえがどうしたっ!?」
「あぁんっ!? お姉さまに向かって『おまえ』とは、どういう口の利き方してんだ愚弟!? またテメェの顔面をマッシュポテトと見分けがつかない位にボコボコにしてやろうかぁ? あぁん!?」
「ひぃぃぃっ!? す、すいませぇぇぇぇんっ!?」
一瞬で沸点を超えたらしい我が家の不良債権が、『確実に何人か殺してるよね?』と堅気の人間とは思えない鋭い眼光で弟を睨んでくる。ひぇっ!?
「ち、千和お姉ちゃんっ!? お、お顔に血がっ!? 血がっ!?」
「おう寅美、いらっしゃい。って、血? ……おぉ、ほんだ」
「だ、大丈夫だっぺか!?」
「なぁ~に、問題ねぇよ。これ全部、返り血だしな」
「か、返り血……?」
「おう。なんかよぉ、ここ最近、あたしらのシマに『出雲愚連隊』とか名乗るシャバ増どもが喧嘩を売りに来ててよぉ。そいつらを駆逐したときに飛び散った、ケチャップだなコレ」
そう言って、弟には絶対に見せない朗らかな笑顔で寅美先輩に笑いかける姉ちゃん。
……顔面、ケチャップ(隠語だよ☆)まみれのままで。
もういいから、はやく風呂に入ってくんねぇかなぁ、この人?
ケチャップ臭いんだけど?
「い、出雲愚連隊っ!? い、出雲愚連隊ってアノ!? だ、大丈夫だったんだべか!?」
「いずもぐれんたい~? なにそれ? 出雲大社の親戚?」
「し、知らないんだべか、シロー君!?」
マジでっ!? と言わんばかりに、驚きに満ちた瞳で俺を見てくる寅美先輩。
ちょっ、そんな情熱的にコッチを見ないで? 孕みそうだ♥
子どもの名前は『タカ』でいいかい?
そう、秋田県が生んだ英霊、加藤さん家の『タカ』さんから頂いたのさ♪
俺が我が子の未来に想いを馳せていると、寅美先輩が信じられない!? と言わんばかりに、口をひらいた。
「出雲愚連隊。数年前から西日本を中心に暴れまわってる喧嘩屋集団で、今や西日本最大派閥のヤバいチームなんだっぺよ!?」
「へぇ~。寅美先輩、詳しいな。なに? そういうヤンチャ系に、興味あるの?」
「いや、出雲愚連隊なんて、有名過ぎて逆にチープに聞こえるほど超有名な喧嘩屋集団じゃないべさかっ! 逆になんでシロー君は知らないんだべか!?」
「いや『なんで』と言われましても……興味なかったし。それに、そんなヤベェチームが居ようが、姉ちゃんならワンパンで沈めるだろし? なぁ?」
俺は何故かその場で服を脱いで下着1枚になり始めた姉ちゃんに、視線を向けた。
出雲愚連隊だが何だか知らんが、ウチのバーサーカーに喧嘩を売るとは、なんとまぁ無謀な連中である。
どれくらい無謀なのかと言えば、尻フェチ1000人の趣味嗜好を、脚フェチに無理やり変えるくらい無謀である、と言えば分かりやすいだろうか。
まぁ当然だよね。『お尻に顔を埋め隊』を『彼女のふくらはぎをペロペロし隊』にコンバートさせるだなんて、どんな錬金術師にも不可能だ。
あのエルリ●ク兄弟だって匙を投げるに違いない。
「あたぼーよっ! ……と、言いたい所だが、ちょっとそう上手く事が運びそうにねぇなぁ」
「なんで?」
いつもの自信満々の態度とは打って変わって、姉ちゃんは渋い顔を浮かべながら、キッチンの方へと移動して行く。
……パンツ丸出しのまま。
「いやぁ、向こうに1人、厄介なヤツが居てなぁ。下手をしたら、あたしより強いかもしれん」
「えっ!? 姉ちゃんより強い人間が、この世に母ちゃん以外に居んの!?」
マジでっ!?
どんな化け物だよ、そいつ!?
キッチンの流し台でバシャバシャと顔についた返り血を洗い落とす姉ちゃんを、マジマジと見つめてしまう。
この我が家が誇るデンジャラス・ビーストより強い人間が、身近に居るだと?
……ちょっと興味が沸いてきた。
「誰々? その姉ちゃんより強いホモ・サピエンスは?」
「う~ん? 向こうのチームの総長。コイツがマジで厄介でよぉ。もう『メタルスライムか!?』ってツッコミを入れちまうくらい、攻撃が当たらねぇんだよ」
「に、『西日本最強の男』のことだべなっ!」
「あぁ~、確かに。なんかそんな風に言われてたなぁ、アイツ」
「西日本最強の男?」
俺が可愛く小首を傾げると、寅美先輩は「これも知らないんだべかぁ!?」と、もはや驚きを通り越して呆れた瞳で俺を見てきた。
俺の美貌に見惚れているのかもしれない。
「出雲愚連隊は、西日本最強の男が治める、西日本最大派閥のチームなんだべよ?」
「名前はなん言ったけなぁ? 確か、たつ、たつ……竜田揚げ? みたいなイントネーションのヤツだったハズ」
「美味しそうだね?」
西日本最強の竜田揚げか……香ばしそうだ。
そんな事を考えていたからだろうが。
ぐぅ~。
と、我が腹の虫がリビングに轟かんばかりに大音量で、リサイタルを開催し始めた。
「おっ、もうこんな時間か。そろそろメシにするか。寅美も食ってくだろ?」
「だべっ! あっ、そうだ! 千和お姉ちゃんっ! お昼、オイラが作ってみても、いいっぺか?」
寅美先輩は残り3つとなった花丸INポイントノートの次のお題、『料理をする』を姉ちゃんに見せながら、おねだりするように上目遣いで尋ねだした。
寅美先輩には妙に優しい姉ちゃんは、ニカッ! と笑みを深めると、その頭を「いい子♪ いい子♪」するように、ガシガシと撫でまわし始める。
「おうっ、好きにすりゃいい!」
「やたっ!」
「そんじゃま、あたしは風呂に入る。愚弟、寅美がケガしないようにちゃんと見てろよ? もし寅美がケガしたら、そのときは……分かってるな?」
「へ~い」
念入りに弟に釘を刺した姉ちゃんが、意気揚々と脱衣所へと移動していく。
……数十分後、寅美先輩にGОサインを出したことを、死ぬほど後悔するハメになる事も知らないで。
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ちょっと大人な体験談です。
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少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
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