みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第6部 俺が『最強』になった理由《ワケ》

第16話 『お兄ちゃん』はおしまい……?

「お、『お兄ちゃん』っ!? えっ、『お兄ちゃん』っ!? ――って、ことは……えっ!? ま、まさか、この特攻服が、俺たちがずっと探していた!?」

「小娘のアニキや言うんか……」
「おいおい、マジかよ……」



 出雲愚連隊総長――龍見虎太郎の胸の中で、小さく身体を震わせている寅美先輩を眺めながら、俺と姉ちゃんと元気は、驚きに目を見張っていた。

 に、西日本最強の男は、寅美先輩のお兄ちゃん!?

 ま、マジかよ……。

 2つ合わせたら『西日本最強のお兄ちゃん』だぞ!?

 ……あれ、なんだか急に可愛く思えてきたな?

 きっと、幼い妹のために、小さい頃から家事やら何やらをやってきたに違いない。

 全ては妹の幸せのため……うぅ!?

 西日本最強のお兄ちゃん、良い人だよぉ!



「おいコラ愚弟バカっ! 現実逃避している場合か!?」
「ハッ!?」



 スパーンッ! と姉ちゃんに頭をはたかれ、想像の世界へ飛びかけていた意識が、現実世界へと戻って来る。

 お、俺は一体なにを……?



「お、お兄ちゃん……。お、オイラ、オイラ……ッ!」



 今にも泣き出しそうな声で、必死に龍見の兄貴の胸に抱き着く寅美先輩。

 そりゃ、そうだよな……。

 ずっと会いたかった兄貴分に、やっと会えたんだもんな。

 そりゃ嬉しいに決まってるわな。

 思わず俺の方も、もらい泣きしそうになって――



「――邪魔だ。どけ、寅美」
「……えっ? お、お兄ちゃん……?」
「聞こえなかったのか?『どけ』と言ったんだ」



 そう言って、龍見の兄貴は乱暴に寅美先輩を自分から引き離した。

 その瞳は、自分を慕う妹分に向ける目ではなく、昆虫のように無機質で冷たい。

 何とも他人行儀な瞳だった。

 ……はっ?



「お、お兄ちゃん? ど、どうしたべ? な、なんで、そんなコトを言うんだべか?」



 寅美先輩が縋るように、龍見の兄貴へと、もう1度近づいて。



 ――ビュッ! ガッ!




「……へぇ? コレを止めるのか。流石は鉄腕チワワの弟といった所か」

「テメェ……。今、寅美先輩を殴ろうとしたな?」



 虫でも払うかのように、龍見の兄貴が寅美先輩のコメカミめがけて裏拳うらけんを放つ。

 それを間一髪で受け止めた俺を、龍見の兄貴は興味深そうに見つめてきた。

 俺はそんな龍見の兄貴の視線が、不愉快で、つい語気を強めて彼を睨んでしまった。



「イカれてんのか、おまえ? 妹を殴る兄貴が、どこに居る?」
「血も繋がっていないのに、妹もクソもないだろう?」



 その突き放したような言い方に、寅美先輩の顔は青くなる。



「お、お兄ちゃん……?」
「やめろよ、気持ち悪い。オレに妹なんかねぇよ」



 至極迷惑そうに表情を歪める龍見。

 瞬間、寅美先輩の顔から感情が抜け落ちた。

 そんな先輩を目にした途端、俺の血液がカッ! と、一瞬で沸騰したかのように熱くなる。



「テメェ!? 寅美先輩がどんな想いでオマエを探してたか、知ってんのか!?」
「知らん。興味ない」



 オレの興味は、と蛇のように唇の端を歪めながら、龍見は姉ちゃんの方へと視線を切った。



「――おまえだ、鉄腕チワワ。おまえを手に入れて、俺は名実ともに西日本を制圧する」

「……奇遇だな。さっきまでテメェに興味なんて無かったが、今、興味が沸いたわ」



 姉ちゃんが、今にも人を殺さんばかりの鋭い眼光で、龍見を睨む。

 俺と同じく、姉ちゃんも静かにブチ切れていた。



「覚悟しろよ? 引き金を引いたのは、おまえだからな?」

「上等。1週間後、町はずれのスクラップ工場まで来い。そこで決着をつけようぜ?」



 にやっ……、と不敵な笑みを溢す龍見。

 その瞳には、もう寅美先輩は映っていなかった。

 龍見は停めていたバイクにまたがるなり、俺たちの前から姿を消そうとして、慌てて寅美先輩が声をかけた。



「お、お兄ちゃん!? ま、待ってけろ!? せ、せめてオイラの話を――」



 聞いてけんろ? と、こぼれた先輩の声音は、バイクの排気音によってき消された。

 龍見はそのまま、寅美先輩を一瞥いちべつすることもなく、バイクを走らせる。

 寅美先輩は、小さくなっていく特攻服をいつまでも眺め、その場を動こうとはしなかった。
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