みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第6話 敵に回すと恐ろしいが、味方にすると頼りない男

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 よこたんが人間に戻って1時間。

 俺は破れた制服の代わりに、体操服という名の戦闘服ドレスを身に纏い、彼女が淹れてくれた温か~いお茶をすすっていた。

 場所は打って変わって、古羊邸のバカデカいマンションの1室。

 そこで古羊姉妹の3人で、机を囲むように座りながら、まったりと一服を楽しんでいた。

 う~ん?

 それにしても、どうして女の子の家は、こんな甘い匂いがするのだろうか? 

 我が家にも一応【女の子】にカテゴライズされる姉貴が住んではいるが、あの人の部屋からは、酸っぱい臭いしか感じられない。

 だからだろうなぁ。

 こういう『ザ・女の子!』みたいな部屋に来ちゃうと、テンションが上がっちゃうのは。

 もう何度も訪れたハズなのに、妙にソワソワ!? して仕方がない。



「さてっと。ほどよく身体も温まったことだし! それじゃ今後の生徒会長選挙を、どう戦っていくかについて、話し合うわよ」

「あ、あのメイちゃん? いきなり話の腰を折るようで悪いんだけど、今回はメイちゃん以外に立候補者は何人居たの?」

「ん? そうね、まずはそこから話をしていきましょうか」



 芽衣は近くに置いてあった鞄から、数枚のプリントを取り出して、机の上にポンッ! と置いた。



「アタシを入れて、今回の候補者は4人。1人は2年B組の山本やまもと辰雄たつおくん。もう1人は2年D組の田中たなか竜司りゅうじくんね。まぁぶっちゃけ、この2人には負ける気はしないわ」

「す、すごい自信だねメイちゃん」



 たはは……と、苦笑を浮かべるラブリー☆マイエンジェルの横で、俺は1人物思いにふけっていた。

 確か2年B組の山本って、アマゾンに『俺、生徒会長になったらさ、女子の制服を全員シースルーにしてやるんだ……』って、瞳をキラキラさせながら語っていたヤツだよな。

 ふむ、なるほどな……。

 どうやら今年の俺の清き1票を入れる相手は、決まったようだ。



「問題は最後の1人。といっても、多少の不安材料ってだけで、脅威ではないんだけどね」

「ふぅ~ん。誰だよ、その期待の新人は?」

「士狼も知ってるでしょ。司馬さんに並んで1年生の超有名人よ」

「司馬ちゃんに並ぶ有名人で、1年生? ……ハッ!? も、もしかして!?」



 俺の脳裏にピンク色に染め上げられた、ふわふわ♪ の髪をした、とある1年生女子がよぎった。

 芽衣は『正解!』と言わんばかりに、小さくコクンと頷いて、



「そっ。アタシたち姉妹に次いで、男の子から絶大な人気を誇る、超ぶりっエセ天然ビッチ少女――大和田おおわだ信菜のぶなさんよ」

「あ、あれ? もしかしておまえ、彼女のこと嫌い?」

「別に嫌いじゃないわ。ただ生理的に受け付けないだけで」

「メイちゃん……それは嫌いって言ってるようなものだよ?」



 芽衣はわかりやすく顔を歪ませながら「チッ」と舌打ちをかます。

 う~ん?

 学校に居るときと違って、親しみやすさゼロですねぇ~。

 ほんと、なんで昔の俺は、こんな女のことを女神さまだと認識していたのだろうか?

 脳がバグっていたのかな?



「彼女の参加で、多少男子生徒の票を持っていかれる事にはなるでしょうが、おおむね問題ないわ」

「相変わらずスゲェ自信だな。そんなに余裕なら、別に作戦会議とかしなくても、よかったんじゃねぇの?」

「バカねぇ士狼は。獅子はウサギを狩るときも、全力を尽くすでしょ? 何事も万全をきっして望むのが、アタシのポリシーなの」



 ふふんっ! と、不敵に微笑む、我らが女神さま。

 敵に回すと恐ろしいが、味方にすると、これほど頼りになる存在はいない。

 俺が女なら、間違いなく惚れているところだわ。

 芽衣は俺から視線を切るなり、隣に座る爆乳わん娘の肩をポンッ! と優しく肩を叩いた。



「というわけで洋子。応援者演説、頼むわよ? 洋子の知名度なら、確実に過半数以上の生徒が、アタシに票をぶちこむわ」

「う、うん、わかった。どこまで出来るか分からないけど、全力で応援するよ!」

「えぇ、頼りにしてるわ」



 ニッ! と、少年のように笑う芽衣の姿に、一瞬だけ心を奪われる。

 やっぱコイツ、邪気のない笑顔だと、すこぶる可愛いなチクショウ。

 なんて思っていると、双子姫たちは2人だけで今後の活動について話し合い始めた。

 ――って、おい?



「ちょっと芽衣さん? 俺は? 俺は何をすればいいわけ?」

「士狼? 士狼はね、黙って息をしながら、小鳥のようにアタシの隣に居ればいいわ」

「すげぇ。こんな遠回しな戦力外通告、初めて受けたわ」



 この役立たず! と、直接ののしられるより、心が痛いわ。



「正直に言って、手伝ってくれる意志はありがたいんだけど、士狼が動くと、大抵ロクなことにはならないでしょ? 今までの経験上ね」

「あぁ~、確かに。ししょーって、敵に回すと恐ろしいけど、味方にすると頼りないよね」

「ねぇ2人とも、もしかして俺のこと嫌いですか?」



 おいおい?

 俺の心がもう少し弱かったら今頃、俺が主人公の凌辱ゲームが幕を開いている所だったぞ?

 気を付けてくれよな?

 まったくもう!



「さぁ、明日から忙しくなるわよ、2人とも! ポスター作りに、公約作成。有権者への挨拶周りに、自由演説の位置取りやら、やることは山ほどあるわよ! 選挙まで残り1カ月。全力で駆け抜けていくぞぉぉぉぉぉぉっ!」



「お、おーっ!」と、可愛らしく雄叫びを上げるマイ☆エンジェルと、アイドルの追っかけのような血走った瞳で、天高く拳を掲げる女神さま。

 おいおい?

 可愛さが夜逃げしてんじゃん、自称乙女さん?

 そんなこんなで、芽衣の生徒会長選挙に付き合わされることになった俺たちだったが、このときの俺達は、まだ知らなかったのだ。






 彼女――大和田信菜ちゃんの登場が、俺たち3人の間に波紋を投げかけることを。
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