みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第7話 恋は人身事故のあとで

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 唐突だが、俺シロウオオカミは、ラブコメが3度のメシより大好きだ。

 とくに学校へ登校中『ちこく、ちこくぅ~♪』と、食パンを咥えながら美少女とぶつかるシーンなんか、胸が震えるほど大好きだ。

 愛していると言ってもいい。

 今どきそんなオードソックスなラブコメなど流行らないことくらい、百も承知だ。

 自分が懐古厨かいこちゅうの大バカ野郎である事も、先刻承知だ

 それでも、いや、それ故にっ!

 男たるもの、1度は十字路でパンを咥えた美少女と、全力でぶつかって、素敵な出会いがしてみたい。

 なんてことを、常日頃から思っていたからだろうか。

 神様のいきな計らいとしか思えない出来事が、急に俺の身に降りかかってきたのだ。

 それは古羊姉妹の家で作戦会議をした、次の日の早朝に起きた。



 ぶつかったのだ。



 美少女と。

 十字路で。

 何の前触れもなく。

 本来であれば、ここで、



『ははーん? さてはとうとう俺も、二次元の世界へと異世界転生する時がキタようだな?』



 と、ほくそ笑むところなのだが、ここで1つ、とんでもない大きな問題が発生した。



 ――そう、くだんの美少女が徒歩通学ではなく、バイク通学であったのだ。



 まぁ単的に言ってしまえば、小鳥がさえずる爽やかな早朝、俺は原付バイクにねられたのである。

 ……つまり、人身事故である。



◇◇



「ちょっ!? 危ない、危ない!? そこをどいてぇぇぇぇぇっ!?」

「バイクッ!?」



 女の子の甲高い悲鳴と共に、俺のシロウ・オオカミボディが宙を舞った。

 キラキラ☆ と朝日に照らされながら、綺麗な弧を描き吹き飛んで行く、マイボディ。

 それはさながら、天空を駆けるイカロスのように、雄々おおしく、重力という名の鎖を置き去りして空を闊歩かっぽする。

 ……はい、詩的に表現してみましたけど、普通に交通事故ですね。

 ありがとうございます。

 通学途中の住宅街の十字路で、颯爽と走ってきた原付バイクにねられる、午前7時50分。

「ゴルバチョフ!?」と、リアクション芸人顔負けの悲鳴をあげながら、自由落下スタート。

 そのままアスファルトの上に、背中から着地成功。



「ブハッ!? な、なんだ? 何が起きた? 異世界転生か……?」



 自分の体に何が起きたのか分からず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、ムクリッ! と、気合で身体を起こす。

 そのまま、ビキビキっ!? きしむ身体を優しく撫でながら、数秒前の記憶を必死に呼び覚ます。

 えっと確か、「ちこく、ちこく~♪」と、遅刻でもないのに食パンをくわえて走っていたら、曲がり角から急に原付が突っ込んできて……てぇっ!?



「思い出した! テメェ、運転手この野郎!? もう少しで三途の川をバタフライするところだったじゃねぇか! あぁん!?」



 俺は月に代わってオシオキするべく、俺を轢殺れきさつして異世界へ転生させようとしたライダーの方へ、勢いよく振り返った。
 
 そこには俺の鞄と鞄の中身、他にはひっくり返った原付と食べかけの食パン、そして――



「……うわぁ」



 ソレを見た瞬間、思わず変な声が唇からまろび出た。

 十字路のド真ん中。

 そこには見慣れた制服に身を包んだ女の子が、大の字で倒れていた。

 ピクリとも動かない彼女を見て、ゴクリッ! と生唾を飲んでしまう。

 事故の衝撃でスカートの裾がめくれ上がっているせいか、眩しいばかりの純白のふとももが、コンニチハ!

 あと少し俺の身長が低ければ、パンツが見えてしまいそうだ。



「おっ! パンツが見えそう、ラッキー☆ ……じゃない、ヤバい!?」



 ムラムラッ! している場合じゃないぞ、俺!?

 アレ、たぶん異世界転生しちゃってるよね……?

 きっと来世は破滅フラグしかない悪役令嬢に違いない!

 なんて事を考えている場合じゃない!?



「ちょっ、大丈夫ですかぁ!? い、生きてますかぁ!?」



 慌てて彼女に近づき、頬をペチペチッ! と叩いてみるが……返事が無い。ただの屍のようだ。

 おぉ少女よ、死んでしまうとは情けない。



「いや、ふざけてる場合じゃないぞ、コレ!?」



 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!?

 このままじゃ、俺、捕まっちゃう!?

 女の子をぶっ殺した犯人として、お茶の間を騒がせちゃう!?

 逮捕されちゃうフルスロットル?



「ど、どどどどどっ!? どうすれば!? どうすればぁ~~~っ!? ――ハッ!?」



 まるで白雪姫のように眠っている彼女の唇を見下ろしながら、ふと閃く。

 そう言えば昔、童話でコレに似た展開の物語を読んだ事があるぞ。

 確かあのときは……



「王子様が、眠れるお姫様にキスをして、目を覚まさせていたっけ?」



 という事は、だ。



 これは俺の熱烈なキッスで、目が覚めるパターンのヤツでは?



 理解した瞬間、シロウ・オオカミボディに稲妻が駆け巡った。

 そうだよっ!

 きっと俺の愛のキスで彼女は目を覚まし、そのまま2人は結婚。

 子ども2人と孫4人に囲まれながら、騒がしくも楽しい、幸せな家庭を築きあげるに違いない!

『いや、まずは脈の確認とか、呼吸の有無なんかを調べろや?』なんて、俺の中の悪魔がささやいていた気がしたが、所詮は悪魔の囁きだ。

 俺は悪には屈しない、正義のナイスガイなのだ。

 よってナイスガイ士狼は、彼女を助けるために、ファーストキッスを今、捧げます!



「シロウ、いっきまぁぁぁぁぁぁすっ!」



 ゆっくりと俺の唇発、彼女の唇行きの愛のロケットが、発射されて気がつく。

 あれ?

 この子、大和田おおわだ信菜のぶなちゃんじゃね?

 我が心のあにぃの妹であり、司馬ちゃんと1年生男子の人気を二分する、森実高校1年生の期待の美少女、大和田信菜ちゃんじゃね?



「……まっ、いっか♪」



 シロウオオカミは、ちっちゃいコトを気にしない、懐の大きい男なのだ。

 だから彼女のふわふわ♪ ウェーブがかったピンクの髪とか、『思ったよりまつ毛長いなぁ』とか『やっぱり整った顔してるな大和田ちゃん』とか、心底どうでもいい。

 大事なのは、彼女のプルプルの柔らかそうな桃色の唇に、俺の唇がパイルダーオンするという事実だけ。

 そう、これは別にやましい気持ちなど一切ない。

 人命救助の一環なのだ。

 ゆえに迷う必要ナシ!

 と、顏を近づけた瞬間。
 


 ――パチリ。
 


 と、彼女の目蓋まぶたが見開いた。

 結果、超至近距離で見つめ合う俺たち。



「……えっ?」
「おはようございます。よく眠れましたかな?」
「えっ? えっ? お、おはようございます?」



 にっこり♪ と、爽やかに微笑む俺を、彼女の猫っぽい瞳が捉える。

 そのまま、覆いかぶさっている俺の身体から、自分の身体に視線を落とし、



「……ひぃっ!?」



 サァ! と、顏から血の気が引いていった。

 はい。叫ばれますね、コレは。



「キャァァァァァァァァァッ!? れ、れれれ、レイプされるぅぅぅぅぅっ!?」

「違う違う!? レイプ違う!? 俺はただ、キミの唇に俺の唇をデジクロスさせようとしただけなんだ!」

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!? 確信犯ンンンンンッ!? 助けてお兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!?」



 あ、アカン!?

 何故か口を開けば開くほど、彼女との距離が離れていく気がしてならない。

 くそぅ!?

 本当に勘違いだというのに!

 俺はただ、大和田ちゃんとキスで温かい家庭を築こうとしただけなのに、どうしてこうなった?

 まるで変態に出会ったかのような叫び声をあげる彼女に、タラりッ! と、冷や汗が頬から流れ落ちる。

 ま、マズイ!

 このままじゃ、ポリスメンの『出張サービス』イベントが発生してしまう!?

 出張サービスどころか、送迎サービスまでされる展開が簡単に予想出来て、背中が嫌な汗が止まらなくなる。

 は、早く何とかしなければ!?

 頭の中でガンガン鳴り響く警報にかされるように、慌てて十字路に散らばった荷物を、鞄の中へしまっていく。



「だ、大丈夫、大丈夫! すぐ消えるから! すぐドロンする――」



 から、と言いかけた俺の視線が、彼女のスカートへと注がれる。

 いや正確には、彼女のふとももの間にある、俺のお守りに意識が向く。

 ヤベぇ!?

 アレ、どうやって取ろう!? 

 なんて考えていると、



「??? ……ッ!? ~~~~~~~ッッ!?!?」



 俺の視線に気がついたのか、大和田ちゃんはバッ! と自分のスカートの裾を押さえて、キッ! と鋭く俺を睨みつけてきた。



「こ、この変態! どこ見てるし!?」



 顔を真っ赤にしながら、お尻だけ器用に動かして、俺と距離をとろうとする彼女。

 結果、スカートという名のブラックホールの中に隠されてしまう、我がお守り。

 い、イカン!?

 一刻も早く、アレを回収して、戦況を離脱しなければ!

 しかし、自分から手を突っ込むのは、さすがに変態チックすぎるし、何より『おまわりさん』に見つかったら、1発レッドカードだ。

 しょうがない、背に腹は代えられん。

 心苦しいが、彼女に取って貰おう。



「な、なになに? 何でそんなにウチのスカートばっかり見るし?」
「まずは落ち着いて、俺の話を聞いて欲しい。俺はキミのスカートの中にあるモノが欲しいんだ」
「スカートの中って……ハァッ!? こ、こんな住宅街のど真ん中で、何言ってるし!?」

「ま、待ってくれ!? 勘違いしないで欲しいんだが、俺にやましい気持ちは一切ない! 純粋に、心の底から、君のスカートの中のモノが欲しいんだ!」

「曇りなきまなこで、ヤベェこと言ってるコイツぅ!?」



 オープンスケベじゃん!?

 と、赤面しながら威嚇するように吠える、大和田ちゃん。

 スケベ?

 お守りを取ることが、スケベな行為なのか?

 おいおい、どういう価値観してんだ彼女は? 



「ただ、さすがに俺じゃ回収しようとしたら、その……ね? 場所が場所だけに、『おまわりさん』が特殊召喚されかねないからさ? YOUが取ってくれると、嬉しいな」

「ウチが!? 自分で!? ぬ、脱いで渡すの!?」



 脱ぐ?

 何を言ってんだ、彼女は?

 言い間違いか?

 コテン? と首を傾げながら、とりあえず「そうだよ」と、小さく頷いた。

 途端に、何故か彼女の瞳の奥に宿る敵意が、膨れ上がったような気がした。



「そ、そんなこと、いきなり言われても困るし……」
「そんなことって、超簡単な事じゃん。こんなモン、いまどき保育園児でも出来るよ?」
「ほ、保育園児にそんな事やらせてんの!?」



 まるで化け物でも見るかような、怯え切った瞳で、俺を見つめる大和田ちゃん。

 その視線は、ヤベェ変態と遭遇したように冷たく、恐怖に満ち満ちていた。

 えっ?

 なんでそんなヤベェ奴を見る目で、俺を見るの?

 高校生なら、それくらい出来るだろ、普通?

 高校受験の面接の日の朝、うっかり家に忘れて来たときは、姉ちゃんに届けに来てもらったこともあるし、ウチの精神年齢幼稚園児の姉に出来るのなら、保育園児にだって出来るハズだ。

 ……いや、今のは保育園児に失礼だったな。

 謝ろう。



「ごめん。保育園児は大げさに言い過ぎたわ」
「だ、だよね! あぁ~、ビックリしたぁ……」
「姉ちゃんに出来たから、保育園児にも出来ると思って、ついさ」
「うぇっ!? じ、実の姉にやらせてるの!? こんな事を!?」



 嘘でしょっ!? と、驚いた表情を浮かべる、大和田ちゃん。

 そんなに驚くようなコト言った、俺?



「い、一応確認なんだけど? コレを手に入れて、どうするつもりなの?」
「??? どうするもこうするも、そんなもん、もちろん身に着けるに決まってるけど?」
「身に着けるの!? マジで!?」



 信じられない! と絶叫する、あにぃの妹。

 何が信じられないのだろうか?

 お守りは身に着けないと、効果は無いんだし、当たり前じゃないの?

 何故か彼女の視線が俺の下半身に集まった気がしたが、俺は気にせず、ズイッ! と大和田ちゃんの方へ、右手を差し出した。



「時間も時間だし、はやく取ってくれると嬉しいな」
「さ、爽やかな笑顔でヤベぇこと言ってる、コイツ……」



 完全にドン引きしている大和田ちゃん。

 なぜ?

 大和田ちゃんは、カァ~ッ!? と耳まで真っ赤にしながら、小さく唇を噛みしめて見せた。

 数秒の静寂。

 やがて大和田ちゃんは覚悟を決めたのか、羞恥に顔を歪ませながら、ゆっくりと自分のスカートの中に手を伸ばして――



「やっぱムリ! 助けてお兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」



 スカートの裾をまんだところで、大☆号☆泣。

 一瞬でノブナ・オオワダのワンマンライブへと姿を変える十字路――って、ちょっとぉ!?



「えっ、嘘!? まさかのガチ泣き!? ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!?」
「こ、怖いよぉぉぉぉ!? お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」
「怖い!?  お守りを取るのが怖いの!? どういうこと!?」
「うぇぇぇぇぇぇぇ――へっ? お、お守り?」



 えんえん!? と、泣き腫らしていた彼女の涙が、ピタリと止まった。

 そのまま、おそるおそると言った様子で、下から俺の顔を窺うように覗き見て、



「お、お守りってナニ? ぱ、パンツの隠語か何か?」

「いや、普通に『お守り』ですけど? そのスカートの中に落ちている『お守り』を、取ってほしいだけなんですが……」

「……」



 大和田ちゃんはピラッ! と、スカートの裾を少しだけ持ち上げる。

 と同時に、俺のお守りが『おはようございます!』と顏を覗かせてみせた。



「……あ、あぁ~っ! そういうこと」
「そういうことも何も、最初からそう言ってんじゃん。何と勘違いしたわけ?」
「そ、それは、だから……。うぅ……って、あれ?」



 ぎゅぅぅぅぅぅっ! と、スカートの裾を握り締めていた大和田ちゃんが、俺の顔を見るなり、ハッ! とした表情を浮かべた。

 かと思えば、次の瞬間には、邪悪に唇を歪ませた。

 と思った瞬間には、今度は背後にお星さまを散らしながら、キャハ☆ と快活に微笑んだ。

 すげぇ、リアル百面相だ。

 芽衣以外に、こんな芸当ができる女子高生が居るとは……やっぱり世界は広いなぁ。

 なんて感心している間に、大和田ちゃんは急に甘ったるい声を出しながら、スリスリと俺ににじり寄ってきた。



「あれれぇ~? もしかして大神センパイですかぁ? 森実祭のときは、お世話になりましたぁ♪」

「えっ? えっ!? お、俺のこと覚えてくれてるの!?」

「もちろんですよぉ! なんせ古羊会長の番犬……じゃなかった。右腕として、超有名じゃないですかぁ! あっ、自己紹介がまだでしたね! ウチの名前は――」

「も、もちろん知ってるよ! 大和田信菜ちゃん、だよね?」

「えぇ~っ!? うっそ~っ!? ウチの名前も覚えてくれてたんですかぁ!? メチャンコ嬉ピーですぅ!」



 きゃるる~ん☆ と上目使いで俺を見上げながら、太ももに優しくフェザータッチをかましてくる大和田ちゃん。

 あっ、今なんとなく理解したわ。

 なんで芽衣が彼女のことを嫌っているのか。

 同族嫌悪だ、コレ。



「って、喜ぶ前に謝るのが先ですよね。ごめんなさい……ケガとかしなかったですか?」

「う、うん。ちょっと擦りむいた程度で、大したケガはしてないかな」

「そうなんですか!? ……あれ、おかしいなぁ? 間違えてブレーキじゃなくて、アクセル全開で突っ込んだハズなんだけど……。どういう身体してんだ、コイツ?」

「? なんか言った?」

「いいえ~、べつにぃ~☆」



 なにやらボソボソと1人呟いていたが、すぐさま再び『きゃっぴるんるん♪』な笑みを浮かべて、ポンッ! と胸の前で手を叩いた。



「そうだ! ぶつかっちゃった『お詫び』と言ってはアレなんですけど、明日のお昼、一緒にご飯でも食べませんか? ウチ、腕によりをかけて、美味しいお弁当を作ってくるので! ……ダメですか?」



 うるうる!? と、潤んだ瞳で下から俺の顔を覗き見る、大和田ちゃん。

 途端に俺の危機管理能力が『このお願いを聞くのはマズイ!』と、内容も聞いていないのに警報を鳴らし始める。

 あぁ、分かってる。

 きっとコレは、何かの罠に違いない。

 今年だけで、どれだけ女の子に騙されてきたことか。

 いくら俺がバカだからって、それくらい分かるわい。

 きっと彼女の誘いに乗ったが最後、またヘンテコリンなトラブルに巻き込まれるのがオチだ。

 シロウ・オオカミは、何度も同じ過ちは繰り返さない、クール&タフガイな男である。

 故に俺は、ニヒルな笑みを顔に貼り付けながら、ほんのりと頬を染める彼女に、凛とした声音で言ってやった。



「了解! めちゃんこ楽しみにしてるわ!」
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