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第8部 ぽんこつMy.HERO
第10話 甘えベタな古羊さん!
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「――はい。そういうわけで、大和田ちゃんのスパイもすることになりました」
「……相変わらずアタシの予想の斜め下をいく男ね、士狼は」
大和田ちゃんと別れて10分後。
俺はお昼ごはんを抜きにして、某ネコ型ロボットに助けを求めるメガネの少年のように、生徒会室の扉を叩いていた。
そこには、いつもの会長席で珍しくお弁当を作ってきた芽衣と、俺の前の席で同じく手作りのお弁当をチマチマ食べる爆乳わん娘の姿があった。
「な、なんだか大変なことになってきたね、ししょー」
「ほんとにな。どうしよう……。どうしたらいい、ボス?」
「誰がボスよ」
でもそうねぇ。
と、芽衣がしばしムッツリと黙り込んでしまう。
「……よしっ! じゃあここは1つ、彼女の策略に乗ってみましょうか」
「えぇっ!? いいの、メイちゃん!? ひ、秘密がバレちゃうかもしれないんだよ!?」
「そうだぜ! おまえが実はAカップの、嘘と虚栄で塗り固められた、哀れな貧乳であることが、バレちまうかもしれねぇんだぞ!?」
「安心して洋子。別に彼女の策略に、そのまんま乗るって訳じゃないから。それから士狼、後で覚えておきなさいよ?」
おやおやぁ?
何故か急に背筋が寒くなってきたぞぉ?
俺の全細胞が『はやく逃げろ!』と警報を鳴らしていたが、きっと気のせいだろう。
……気のせいだよね?
気のせいだよね!?
よし、気のせいってことにしておこう!
そうしよう!
芽衣は、よこたんにだけ優しい瞳を向けながら。
「士狼が彼女の要求通り、バカ正直にアタシの弱味を教えなくても、こっちがちょっと改変した情報を流せば、それでいいだけの話じゃない」
「で、でもでも! それじゃオオワダさんが怒っちゃうんじゃ?」
「大丈夫よ。こっちが嘘の情報を彼女に伝えようが、大和田さんには、その情報がホントか嘘か分からないわけだし、問題ないわ。むしろ、逆にこっちがニセの情報を流して、彼女を操ることも出来るわけだし……うん! 中々悪くない提案だわ」
「うわぁ……。相変わらず、考えることがエゲツネェなぁ……」
「ふふっ♪ 褒め言葉として、受け取っておくわ」
ふわっ! と、背景に桜の花びらをまき散らしながら、楽しそうに微笑む芽衣。
ほんと、悪いことを考えているときは、イキイキッ! した表情をするよなぁコイツ。
「さぁ楽しくなってきたわよ! 士狼は今後も、彼女に協力するフリをしながら、適度に選挙活動の妨害。及びに、情報収集ね! 頼むわよ!」
「うん。絶対に敵に回したくない女だわ、おまえ」
この女には二度と逆らわないでおこう。
俺がひっそりと決意している隙を縫うように、我がポンポンが「ぐぅ~」と、情けない音を生徒会室に響かせた。
「あぁ……。そういえば結局、大和田ちゃんからお昼ごはんを貰ってないんだった。うぅ、お腹減った……。ひもじい……」
「ししょー、ししょー。そんなにお腹が減ってるなら、購買でパンでも買ってくればいいんじゃないかな?」
「分かってないなぁ、よこたんよ。この時間の購買は、ロクなもんが売ってねぇから」
大体売れ残りのコッペパンあたりしか残っていないのは、長年の経験から分かりきっている。
う~ん?
さてさて、今日のお昼はどうするべきか?
男子高校生の胃袋は、一食抜いただけで、飢餓(きが)感に近い衝動が襲ってくるので、出来ればお昼は抜きたくないんだが……。
はてさて、どうしたものかなぁ。
なんて思考を巡らせていると、芽衣がこれみよがしに「ハァ……」と、ため息をこぼした。
「どうせそんな事だろうと思って、今日は特別に、このアタシがアンタにお弁当を作って――」
「あっ! そういやぁ確か、棚の所にカップラーメンが常備されていたハズ!」
ピコーン! と、頭の上で豆電球が光り輝く。
俺はすぐさま真後ろにある棚へと移動し、ガサゴソと中身を捜索する。
よっしゃ、カップラーメンゲットだぜ!
戦利品片手に、2人の方に振り返ると、
「…………(ぶっすぅ~)」
「うぉっ!?」
そこには何故か不機嫌に顔を歪ませる、会長閣下の姿があった。
「な、なんだよ?」
「べつに……。ソレ、食べるの?」
「あたぼーよ! たまに食べるカップ麺と、深夜に食べる焼きそばの、背徳的美味さは天元突破! 上限知らずの、まさに合法麻薬!」
「あぁ~。確かに夜食べるカップラーメンって、すごく美味しいよねぇ。……太るから気をつけないといけないけど」
ラブリー☆マイエンジェルが、はにゃ♪ とした笑顔で、うんうん! と頷いてくれる。
その傍らで、何故か芽衣は冷めた眼つきで「ふぅん。そう、カップラーメンねぇ……」と、微笑みを浮かべていた。
なんだ、なんだ?
カップラーメン嫌いか、コイツ?
こんなに美味しいのに。
俺は何故か背筋に冷たいものを感じながら、さっそくポッドに水を入れに行き、お湯を沸かしはじめる。
まるで出張ヘルスサービスの到着を待つような、落ち着かない静けさに包まれながら、今か今かと、お湯が沸くのを待つ。
いやまぁ、頼んだことは無いんだけどね?
気分的にね?
心の中で言い訳をしつつ、待つこと数分。
旧式のポッドなので、少しだけ時間がかかったが、これでようやく食事にありつける。
俺はカップラーメンの蓋を開け、お湯を注ごうとし、
「お湯、少し貰うわね?」
「ん? お、おう?」
いつの間にか、すぐ傍に控えていた芽衣に、先をこされてしまう。
この女、俺が答えるよりも速く、水筒にお湯を注ぎこんでいやがる。
いやまぁ……別にいいけどさぁ。
「というか、おまえのソレ、何を注いでんの?」
「お茶よ。最近めっきり寒くなったし、必要でしょ?」
「それもそうか」
ドプドプドプッ♪ と、お湯を注ぎながら、ニコッ! と微笑む芽衣。
確かにもう肌寒いし、温かいお茶も必要か。
……ただそれにしても、水筒のサイズが、そこそこ大きいんだよなぁ。
でもまぁ、ポッドのお湯を全部使うほどじゃないか。
なんて考えている間に、水筒はお湯でいっぱいになっていた。
さて次は俺の番だな。
カップ麺片手にワクワクッ! していると、芽衣はそのまま流れるように水筒を脇に置き、今度はお椀にお湯を入れ始めた。
「……ねぇ芽衣ちゃん? ソレは何かな?」
「インスタントみそ汁よ。やっぱり日本人たるもの、食事にはお味噌汁がないとね!」
「それもそうか」
こぽこぽこぽっ♪ と、コップに注がれるお湯を見ながら、少々残量が心配になってくる。
う~ん、さすがにそろそろヤバいか?
でもまぁ次は俺の番だし、問題ないか。
なんて考えている間に、お椀にお湯を注ぎ終わっていた。
よし、今度こそ俺の番だな!
カップ麺をスタンバイ――させようとした矢先、今度はどこからともなく大きめのコップを取り出す芽衣。
「……ねぇ芽衣ちゃん? 今度はなんだい?」
「インスタント・タピオカミルクティーよ。やっぱり食後のデザートって、必要じゃない?」
「それもそうか」
「いや『それもそうか』じゃないよ、ししょーっ!? 気づこう? 嫌がらせされてるって、気づこうよ!」
純粋すぎるよっ!? と、なにやら爆乳わん娘がワケの分からない事をほざいているが、一体どうしたのだろうか?
別に日本人ならお茶も飲むし、味噌汁だっていただくし、食後のタピオカミルクティーだって普通だろうに。
何かおかしな点でもあったのだろうか?
しかし、さすがにそろそろ交代してもらわないと、お湯が無くなっちゃうなぁ。
なんて思っていると、ようやく満足したのか「もういいわよ」と、自分の席へと戻って行く女神さま。
そんな彼女と入れ替わるように、妙に軽くなったポットを抱き寄せる。
そのまま真下へカップメンをスタンバイさせ、いざ給油ボタンをポチっとな!
――チョロロ……
僅かなお湯が降りかかり、ストップ。
う~ん、ラーメンはふやける一方だ。
「……最後の一滴は、切ない」
「あぁっ!? な、泣かないで、ししょーっ!?」
「どれだけそのカップ麺を楽しみにしてたのよ、アンタは……」
ツツーっ! と、頬に流れる涙を、ラブリー☆マイエンジェルが慌ててハンカチでぬぐい取ってくれた。
俺はポンポンッ! と、優しく目尻を拭いてくれるマイ☆エンジェルをそのままに、ジトッ!と湿った眼つきで、ふんぞり返っている芽衣を睨みつけた。
芽衣は大げさに肩を竦めながら、
「まったく。たかだがカップラーメン1つで泣くなんて、大人げないわよ?」
「うるせぇっ! こちとら、お腹がペコペコペコリヌスで、今にも背中とタイマンしそうなんだよ! どうすんだ!? マジで俺、昼飯抜きじゃねぇか!?」
チクショウ!?
こんなしょうもねぇ嫌がらせしやがって……っ!
これが元気だったら、パイルドライバーを決めているところだ。
俺がざめざめと泣いていると、芽衣が「しょうがないわねぇ」と嘆息しながら、自分の鞄から少し大きめのお弁当をドンッ! と、取り出してみせた。
「そこまで言うなら、アタシのお弁当を分けてあげるわよ」
そう言って、芽衣は俺の机に彼女の手作り弁当と思しき物体を置いて来た。
俺は何故か頬を赤らめ、そっぽ向いている芽衣から視線を切り、お弁当を凝視しながら、
「何コレ?」
「見て分かるでしょ。お弁当よ、お弁当。今日はたまたまオカズを作り過ぎちゃったから、何となく、本当に何となぁ~く、2つ作っておいたのよ。……あによ、文句ある?」
「おいおい? 男に手作り弁当とか……俺に惚れてんのかぁ~?」
「どうやら要らないみたいね。それじゃ、コレはアタシが食べるわ」
「ゴメン、ゴメン! 冗談、冗談! 美味しくいただくから、持って帰らないで!?」
慌てて芽衣にすがりつき、うるうる!? と潤んだ瞳で彼女を見上げる。
そんなキュートな俺の仕草に心を打たれたのか、「最初からそう言えばいいのよ」と、呆れた様子で持って帰ろうとしたお弁当を、再び俺の机に置く芽衣。
「ひゃっほーい!」と奇声をあげながら、いそいそと、お弁当箱をオープン!
そこには、綺麗に整えられたダシ巻き卵にタコさんウィンナー。
ニンジンのお星さまが鎮座しているホウレンソウのお浸しなど、男子高校生の心とお腹を刺激するラインナップに、つい「おぉ~」と感嘆の声を漏らしてしまう。
「すげぇ! お店で出てくる、お弁当みてぇ。やっぱ料理は上手いよな、おまえ」
「ふふんっ♪ 当然よ! この古羊芽衣様は、完全無欠のウルトラ美少女なんだから!」
「おぉっ! このホウレンソウのお浸し、ほんのり甘ぇっ! 超うめぇっ!」
「そうでしょう、そうでしょう!」
得意げにその虚乳をバルン♪ と揺らす、我らが会長。
そんな会長の喜色満面の様子を尻目に、お弁当を貪っていく俺。
う、うめぇ!?
マジでうめぇよ、この料理!
気がつくと、自然と涙がポロポロとこぼれていた。
いや、だってさ?
母ちゃんが出張から帰ってきてからというもの、我が家の料理は基本的に飲み物が全てプロテインに変わり、主食がブロッコリーとサバ缶オンリーになっていた手前、こういうバラエティに富んだご飯は、本当にありがたいんだよ?
そりゃ思わず泣いちゃうのも、仕方がないよね!
いやぁ、危うくこのまま『毎朝、俺のために味噌汁を作ってください!』と、プロポーズしちゃうところだった。
あぶない、あぶない♪
「あ、あのあの!? し、ししょーっ! ぼ、ボクのお弁当も、食べてみない!?」
「食べるも何も、洋子のお弁当も今日はアタシが作ったから、同じラインナップでしょうに」
「あぅぅ……。そ、そうだった……」
何故か『しゅん……』と、肩を落とす爆乳わん娘。
そのままチマチマと気落ちしたまま「おいしい……」と、タコさんウィンナーに齧りつく。
その表情は、美味しいモノを食べている顔じゃない。
どうしたんだ、アイツ?
「ほらほらっ! もう時間が無いんだし、士狼もさっさと食べちゃいなさい。あっ、でもよく味わって食べなさいよ?」
「えっ? 速く食べればいいの? それともゆっくり食べればいいの? どっち?」
そんな軽口の応酬を繰り返しながら、芽衣が作ってくれたお弁当をパクパクッ! 胃袋に納めていく。
そんな俺の姿を芽衣は、自分の食事すら手をつけることなく、食べ終わるまで、ずっとニコニコ! と見守り続けていた。
「……相変わらずアタシの予想の斜め下をいく男ね、士狼は」
大和田ちゃんと別れて10分後。
俺はお昼ごはんを抜きにして、某ネコ型ロボットに助けを求めるメガネの少年のように、生徒会室の扉を叩いていた。
そこには、いつもの会長席で珍しくお弁当を作ってきた芽衣と、俺の前の席で同じく手作りのお弁当をチマチマ食べる爆乳わん娘の姿があった。
「な、なんだか大変なことになってきたね、ししょー」
「ほんとにな。どうしよう……。どうしたらいい、ボス?」
「誰がボスよ」
でもそうねぇ。
と、芽衣がしばしムッツリと黙り込んでしまう。
「……よしっ! じゃあここは1つ、彼女の策略に乗ってみましょうか」
「えぇっ!? いいの、メイちゃん!? ひ、秘密がバレちゃうかもしれないんだよ!?」
「そうだぜ! おまえが実はAカップの、嘘と虚栄で塗り固められた、哀れな貧乳であることが、バレちまうかもしれねぇんだぞ!?」
「安心して洋子。別に彼女の策略に、そのまんま乗るって訳じゃないから。それから士狼、後で覚えておきなさいよ?」
おやおやぁ?
何故か急に背筋が寒くなってきたぞぉ?
俺の全細胞が『はやく逃げろ!』と警報を鳴らしていたが、きっと気のせいだろう。
……気のせいだよね?
気のせいだよね!?
よし、気のせいってことにしておこう!
そうしよう!
芽衣は、よこたんにだけ優しい瞳を向けながら。
「士狼が彼女の要求通り、バカ正直にアタシの弱味を教えなくても、こっちがちょっと改変した情報を流せば、それでいいだけの話じゃない」
「で、でもでも! それじゃオオワダさんが怒っちゃうんじゃ?」
「大丈夫よ。こっちが嘘の情報を彼女に伝えようが、大和田さんには、その情報がホントか嘘か分からないわけだし、問題ないわ。むしろ、逆にこっちがニセの情報を流して、彼女を操ることも出来るわけだし……うん! 中々悪くない提案だわ」
「うわぁ……。相変わらず、考えることがエゲツネェなぁ……」
「ふふっ♪ 褒め言葉として、受け取っておくわ」
ふわっ! と、背景に桜の花びらをまき散らしながら、楽しそうに微笑む芽衣。
ほんと、悪いことを考えているときは、イキイキッ! した表情をするよなぁコイツ。
「さぁ楽しくなってきたわよ! 士狼は今後も、彼女に協力するフリをしながら、適度に選挙活動の妨害。及びに、情報収集ね! 頼むわよ!」
「うん。絶対に敵に回したくない女だわ、おまえ」
この女には二度と逆らわないでおこう。
俺がひっそりと決意している隙を縫うように、我がポンポンが「ぐぅ~」と、情けない音を生徒会室に響かせた。
「あぁ……。そういえば結局、大和田ちゃんからお昼ごはんを貰ってないんだった。うぅ、お腹減った……。ひもじい……」
「ししょー、ししょー。そんなにお腹が減ってるなら、購買でパンでも買ってくればいいんじゃないかな?」
「分かってないなぁ、よこたんよ。この時間の購買は、ロクなもんが売ってねぇから」
大体売れ残りのコッペパンあたりしか残っていないのは、長年の経験から分かりきっている。
う~ん?
さてさて、今日のお昼はどうするべきか?
男子高校生の胃袋は、一食抜いただけで、飢餓(きが)感に近い衝動が襲ってくるので、出来ればお昼は抜きたくないんだが……。
はてさて、どうしたものかなぁ。
なんて思考を巡らせていると、芽衣がこれみよがしに「ハァ……」と、ため息をこぼした。
「どうせそんな事だろうと思って、今日は特別に、このアタシがアンタにお弁当を作って――」
「あっ! そういやぁ確か、棚の所にカップラーメンが常備されていたハズ!」
ピコーン! と、頭の上で豆電球が光り輝く。
俺はすぐさま真後ろにある棚へと移動し、ガサゴソと中身を捜索する。
よっしゃ、カップラーメンゲットだぜ!
戦利品片手に、2人の方に振り返ると、
「…………(ぶっすぅ~)」
「うぉっ!?」
そこには何故か不機嫌に顔を歪ませる、会長閣下の姿があった。
「な、なんだよ?」
「べつに……。ソレ、食べるの?」
「あたぼーよ! たまに食べるカップ麺と、深夜に食べる焼きそばの、背徳的美味さは天元突破! 上限知らずの、まさに合法麻薬!」
「あぁ~。確かに夜食べるカップラーメンって、すごく美味しいよねぇ。……太るから気をつけないといけないけど」
ラブリー☆マイエンジェルが、はにゃ♪ とした笑顔で、うんうん! と頷いてくれる。
その傍らで、何故か芽衣は冷めた眼つきで「ふぅん。そう、カップラーメンねぇ……」と、微笑みを浮かべていた。
なんだ、なんだ?
カップラーメン嫌いか、コイツ?
こんなに美味しいのに。
俺は何故か背筋に冷たいものを感じながら、さっそくポッドに水を入れに行き、お湯を沸かしはじめる。
まるで出張ヘルスサービスの到着を待つような、落ち着かない静けさに包まれながら、今か今かと、お湯が沸くのを待つ。
いやまぁ、頼んだことは無いんだけどね?
気分的にね?
心の中で言い訳をしつつ、待つこと数分。
旧式のポッドなので、少しだけ時間がかかったが、これでようやく食事にありつける。
俺はカップラーメンの蓋を開け、お湯を注ごうとし、
「お湯、少し貰うわね?」
「ん? お、おう?」
いつの間にか、すぐ傍に控えていた芽衣に、先をこされてしまう。
この女、俺が答えるよりも速く、水筒にお湯を注ぎこんでいやがる。
いやまぁ……別にいいけどさぁ。
「というか、おまえのソレ、何を注いでんの?」
「お茶よ。最近めっきり寒くなったし、必要でしょ?」
「それもそうか」
ドプドプドプッ♪ と、お湯を注ぎながら、ニコッ! と微笑む芽衣。
確かにもう肌寒いし、温かいお茶も必要か。
……ただそれにしても、水筒のサイズが、そこそこ大きいんだよなぁ。
でもまぁ、ポッドのお湯を全部使うほどじゃないか。
なんて考えている間に、水筒はお湯でいっぱいになっていた。
さて次は俺の番だな。
カップ麺片手にワクワクッ! していると、芽衣はそのまま流れるように水筒を脇に置き、今度はお椀にお湯を入れ始めた。
「……ねぇ芽衣ちゃん? ソレは何かな?」
「インスタントみそ汁よ。やっぱり日本人たるもの、食事にはお味噌汁がないとね!」
「それもそうか」
こぽこぽこぽっ♪ と、コップに注がれるお湯を見ながら、少々残量が心配になってくる。
う~ん、さすがにそろそろヤバいか?
でもまぁ次は俺の番だし、問題ないか。
なんて考えている間に、お椀にお湯を注ぎ終わっていた。
よし、今度こそ俺の番だな!
カップ麺をスタンバイ――させようとした矢先、今度はどこからともなく大きめのコップを取り出す芽衣。
「……ねぇ芽衣ちゃん? 今度はなんだい?」
「インスタント・タピオカミルクティーよ。やっぱり食後のデザートって、必要じゃない?」
「それもそうか」
「いや『それもそうか』じゃないよ、ししょーっ!? 気づこう? 嫌がらせされてるって、気づこうよ!」
純粋すぎるよっ!? と、なにやら爆乳わん娘がワケの分からない事をほざいているが、一体どうしたのだろうか?
別に日本人ならお茶も飲むし、味噌汁だっていただくし、食後のタピオカミルクティーだって普通だろうに。
何かおかしな点でもあったのだろうか?
しかし、さすがにそろそろ交代してもらわないと、お湯が無くなっちゃうなぁ。
なんて思っていると、ようやく満足したのか「もういいわよ」と、自分の席へと戻って行く女神さま。
そんな彼女と入れ替わるように、妙に軽くなったポットを抱き寄せる。
そのまま真下へカップメンをスタンバイさせ、いざ給油ボタンをポチっとな!
――チョロロ……
僅かなお湯が降りかかり、ストップ。
う~ん、ラーメンはふやける一方だ。
「……最後の一滴は、切ない」
「あぁっ!? な、泣かないで、ししょーっ!?」
「どれだけそのカップ麺を楽しみにしてたのよ、アンタは……」
ツツーっ! と、頬に流れる涙を、ラブリー☆マイエンジェルが慌ててハンカチでぬぐい取ってくれた。
俺はポンポンッ! と、優しく目尻を拭いてくれるマイ☆エンジェルをそのままに、ジトッ!と湿った眼つきで、ふんぞり返っている芽衣を睨みつけた。
芽衣は大げさに肩を竦めながら、
「まったく。たかだがカップラーメン1つで泣くなんて、大人げないわよ?」
「うるせぇっ! こちとら、お腹がペコペコペコリヌスで、今にも背中とタイマンしそうなんだよ! どうすんだ!? マジで俺、昼飯抜きじゃねぇか!?」
チクショウ!?
こんなしょうもねぇ嫌がらせしやがって……っ!
これが元気だったら、パイルドライバーを決めているところだ。
俺がざめざめと泣いていると、芽衣が「しょうがないわねぇ」と嘆息しながら、自分の鞄から少し大きめのお弁当をドンッ! と、取り出してみせた。
「そこまで言うなら、アタシのお弁当を分けてあげるわよ」
そう言って、芽衣は俺の机に彼女の手作り弁当と思しき物体を置いて来た。
俺は何故か頬を赤らめ、そっぽ向いている芽衣から視線を切り、お弁当を凝視しながら、
「何コレ?」
「見て分かるでしょ。お弁当よ、お弁当。今日はたまたまオカズを作り過ぎちゃったから、何となく、本当に何となぁ~く、2つ作っておいたのよ。……あによ、文句ある?」
「おいおい? 男に手作り弁当とか……俺に惚れてんのかぁ~?」
「どうやら要らないみたいね。それじゃ、コレはアタシが食べるわ」
「ゴメン、ゴメン! 冗談、冗談! 美味しくいただくから、持って帰らないで!?」
慌てて芽衣にすがりつき、うるうる!? と潤んだ瞳で彼女を見上げる。
そんなキュートな俺の仕草に心を打たれたのか、「最初からそう言えばいいのよ」と、呆れた様子で持って帰ろうとしたお弁当を、再び俺の机に置く芽衣。
「ひゃっほーい!」と奇声をあげながら、いそいそと、お弁当箱をオープン!
そこには、綺麗に整えられたダシ巻き卵にタコさんウィンナー。
ニンジンのお星さまが鎮座しているホウレンソウのお浸しなど、男子高校生の心とお腹を刺激するラインナップに、つい「おぉ~」と感嘆の声を漏らしてしまう。
「すげぇ! お店で出てくる、お弁当みてぇ。やっぱ料理は上手いよな、おまえ」
「ふふんっ♪ 当然よ! この古羊芽衣様は、完全無欠のウルトラ美少女なんだから!」
「おぉっ! このホウレンソウのお浸し、ほんのり甘ぇっ! 超うめぇっ!」
「そうでしょう、そうでしょう!」
得意げにその虚乳をバルン♪ と揺らす、我らが会長。
そんな会長の喜色満面の様子を尻目に、お弁当を貪っていく俺。
う、うめぇ!?
マジでうめぇよ、この料理!
気がつくと、自然と涙がポロポロとこぼれていた。
いや、だってさ?
母ちゃんが出張から帰ってきてからというもの、我が家の料理は基本的に飲み物が全てプロテインに変わり、主食がブロッコリーとサバ缶オンリーになっていた手前、こういうバラエティに富んだご飯は、本当にありがたいんだよ?
そりゃ思わず泣いちゃうのも、仕方がないよね!
いやぁ、危うくこのまま『毎朝、俺のために味噌汁を作ってください!』と、プロポーズしちゃうところだった。
あぶない、あぶない♪
「あ、あのあの!? し、ししょーっ! ぼ、ボクのお弁当も、食べてみない!?」
「食べるも何も、洋子のお弁当も今日はアタシが作ったから、同じラインナップでしょうに」
「あぅぅ……。そ、そうだった……」
何故か『しゅん……』と、肩を落とす爆乳わん娘。
そのままチマチマと気落ちしたまま「おいしい……」と、タコさんウィンナーに齧りつく。
その表情は、美味しいモノを食べている顔じゃない。
どうしたんだ、アイツ?
「ほらほらっ! もう時間が無いんだし、士狼もさっさと食べちゃいなさい。あっ、でもよく味わって食べなさいよ?」
「えっ? 速く食べればいいの? それともゆっくり食べればいいの? どっち?」
そんな軽口の応酬を繰り返しながら、芽衣が作ってくれたお弁当をパクパクッ! 胃袋に納めていく。
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