みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第17話 突撃! キサマが晩御飯!

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 ――焼肉。

 この僅か2文字が放つ、圧倒的なまでの魂の熱量は、一体なんなのだろうか?

 それは育ちざかりの子どもたちを狂喜乱舞させ、仕事で疲れたサラリーマンの頬を、これでもかと緩ます魔法の言葉。

 熱々の鉄板の上に、ジュージューッ! と焼かれたソレを、ホカホカご飯と一緒に食す。

 ただそれだけの行為なのに、脳内麻薬はどっぴゅどぴゅのびゅるる♪

 それはまさしく、幼少の頃、海で仲間たちと遊んでいたら、爆裂ボディをしたお姉さんを見つけたときの高揚感に似ている、と言えば誰しもが『なるほど!』と頷くことだろう。

 嫌なこともツライことも、お肉と一緒に胃袋へ流し込まれるような、その感覚。

 気力と体力を充実させ、また明日も頑張ろう! という気にさせてくれる、まさに神のゴッドドフード

 …うん?

 なんでいきなり、焼肉の話をしているのかって?

 それはもちろん――




「第1回! 嵐を呼べ! チキチキ! 栄光の大神ヤキニクロォォォォォドッ!」

「「いえぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!」」




 ――今夜の我が家の食卓が、焼肉パーリーだからだ!



「愛してるよぉ~、母ちゃぁぁぁぁぁ~~んっ!」
「お母さん、サイコ―ッ! 抱いてぇぇぇぇぇ~~~っ!」
「あッはッは! よせよせ、我が子たちよ♪」



 母ちゃんの号令とともに、俺と姉ちゃんの拳が天高く突きあげられる。

 その様子を、何故か1人戸惑った様子で見守る我が愛しの後輩、大和田ちゃん。

 大和田ちゃんは私服に着替えた俺の裾をクイクイッ! と引っ張るなり、そっとその潤んだ唇を我が耳元まで近づけ、ささやくように口をひらいた。



(ちょっ、パイセン!? コレはどういう事だし!?)

(うん? どういうことって何が? あっ、ごめん!? もしかして、タレは『レモン』より『塩派』だった?)

(いやレモン派ですけど……って、そうじゃなくて!? なんでポスターの材料を取りにきたハズのウチが、パイセンの家で晩御飯を食べる事になってるし!?)

(えっ? だってご飯は、みんなで食った方が美味しいだろ?)

(答えになってない……)



 意味が分からない……、と困惑した表情を浮かべる大和田ちゃん。

 そんな彼女を差し置いて、ジュージュー♪ とお肉と野菜を焼いていく、マイマザー。

 香ばしい匂いが鼻腔を突き抜け、俺の腹の虫へと直撃する。

 あぁ、はやく貪り喰いてぇ!



(ちょっとパイセン? 人の話、ちゃんと聞いてるし?)
(聞いてる、聞いてる。別にいいじゃん、母ちゃんが『喰え!』って言ってんだし。晩御飯くらい、ご馳走になれば)



 そう、事の発端は1時間前。

 大和田ちゃんを家に連れてきたと同時に、母ちゃんが仕事から帰宅。

 双子姫以外の女の子を家に連れてきたという事実が、母ちゃんの顔面を歓喜の涙で包み込みこんだ。

 結果、玄関前で膝から崩れ落ちるビックマザー。

 そのまま駅前でナンパするヤリチンのごとく、言葉巧みに家へと連れ込まる大和田ちゃん。

 そして最終的に「よかったら晩御飯でも食べていって!」という母ちゃんの殺し文句により、現在に至るのであった。

 う~ん、相変わらず行動力だけはズバ抜けている母親だ。

 押し売りセールスマンの営業トークよろしく、その薄汚うすきたねぇ口から発せられる、鮮やかな言葉ペテンの数々は、我が母ながら思わず拍手しそうになったくらいだ。

 ママンの気合の入れようからして、これは下手すると、お泊りコースもあるんじゃないか? 

 女の子の後輩が我が家にお泊り……ヤベェ、最高かよ!? 

 今度こそ、しっかりCG回収しなきゃ!



「信菜ちゃんだっけ? 食べられないお肉ってある?」
「あっ、いえ。大丈夫です。基本的に、好き嫌いとかは無いので」
「ほんと? なら何か食べたいお肉はある?」
「あっ、ブタ! 俺、ブタ! ブタ、喰いてぇ! ブタ、ブタ!」
「ブヒブヒうるさいわよ、愚弟ぐてい? アンタは野菜でも食ってな」
「野菜はブタさんが食ってるから、大丈夫だ!」
「パイセ――先輩? 豚さんが食べてるのは、野菜じゃなくて穀物こくもつだと思うんですが……?」



 えっ?

 野菜と穀物って、何か違うの?



「よしっ、そろそろOKだな! 総員、手を合わせろ!」



 姉ちゃんが珍しく他人に気を使うかたわらで、母ちゃんが再びファミリー全員に、王政復古の大号令をかける。

 待ってました! とばかりに、姉弟していそろって勢いよくパンッ! と手を合わせる。

 遅れて大和田ちゃんが、アワアワ!? した様子で、お手々のシワとシワを合わせた。な~む~♪



「よし、手を合わせたな? それじゃ……いただきます!」
「「いただきます!」」



 全員で血肉となってくる豚さんと牛さんに、感謝の言葉を伝える。

 刹那、俺と姉ちゃんは生産者のみなさまに感謝の念を送りながら、そっとお肉に手を伸ばす。


 

 ――ことなく、お互いの頬に、固い拳をめりこませていた。




「「パパスッ!?」」
「い、いただきま――えぇぇぇぇっ!? な、何やってるし、2人とも!?」



 大神一家から少し遅れて、感謝の言葉を口にしようとした大和田ちゃんが、後方へ吹き飛ぶ姉と弟を、驚きに満ちた目で見つめてきた。

 よほど驚いたのだろう、口調が素に戻っていた。

 が、今はそんなこと、どうでもいい!

 俺は唇の端から溢れ出た血を、乱暴に手の甲で擦りながら、同じく乱暴に唇の端から流れ出る血を、親指で拭うリトルボスに、不敵な笑みを向けてみせた。



「ブハッ!? さ、さすがは母ちゃんの血を受け継いでいるだけあって、パンチが重いぜ……。腕を上げたな、姉ちゃん」

「フッ。そういう愚弟だって、このお姉さまに一撃を与えるなんて……。どうやら、成長はしているようだな」



 ほのぼの♪ していた大神家の食卓が、一瞬で張りつめたモノに変わる。

 きっと今、我が家にヨネスケが突撃してきたら『勘弁してください……』と、裸足で逃げ出すに違いない。

 それくらい部屋に充満する殺気は、尋常ではなかった。



「ちょっ!? 待って、待って!? さっきまで、あんなに楽しい雰囲気だったじゃん! なんでいきなり喧嘩!? 意味分かんないし!」

「信菜ちゃん、これは喧嘩じゃない。喧嘩じゃないのよ」
「あぁ、これは交渉だ」
「こ、交渉……?」



 ピタリと動きを止める大和田ちゃんを尻目に、ゆっくりと立ち上がる姉と弟。

 そのまま拳を構えながら、再び戦闘態勢……いやネゴシエーションモードへと移行した。



「俺は1枚でも多く、肉を食したい」
「あたしも1枚でも多く、この愚弟よりお肉を食したい」
「ゆえにお互いの存在が邪魔で仕方ない」

「「よってこの弟(姉)を抹殺するのは、当然の摂理!」」

「なんだ、このヤベェ姉弟きょうだいは? 頭おかしいのか……?」



 あぁ、おかしいのか……。

 と、何故か1人納得している大和田ちゃんから視線を切り、大胆不敵に微笑む我が姉へと意識を向ける。

 まぁ大和田ちゃんが困惑するのも、無理はない。

 なんせあの一瞬で



『お肉食べたい → 弟が邪魔だなぁ→ よし! 抹殺しよう!』



 という思考回路に至る我が姉には、正直俺もドン引きをさない。 

 まったく?

 可愛い弟に拳を向けるなんて、相変わらず頭がおかしいとしか思えない。



「覚悟しなさい愚弟? 長きにわたる引きこもり生活で開発した、この『部屋番式へやばんしき小太刀こだち二刀流にとうりゅう』で息の根を止めてやるわ」

「ハッ、やってみろ! その前に俺の『ゴミクズ龍閃りゅうせん』が、姉ちゃんの意識を刈り取るぜ?」

「ごめんなさいね、ノブナちゃん? うちのバカどもが騒がしくて?」

「い、いえ、大丈夫です。ちょっと……いや、かなりエキセントリックな食卓ですけど、楽しいですよ?」

「ほんと? ムリはしないでね?」



 と、俺には向けたことがない優しい笑みを浮かべる母ちゃんに、大和田ちゃんは「無理なんてしてないですよ」と微笑で返した。

 その傍らで、壮絶な殴り合いを演じる、姉と弟。

 それにしても、現役男子高校生と本気の殴り合いを演じられるウチの姉は、肉体的にも精神的にも、おかしいんじゃないだろうか?

 どうして我が家の女性陣は、全員身体能力がアイア●マンなのだろうか? 

 もはや『女』どころか人間を辞めているとしか思えない。



「それに、誰かとこうやって食事をるのも、久しぶりなんで」
「あら、家族とは一緒にご飯を食べないの?」

「その、お義母かあさんは毎日仕事場で寝泊まりしているので……。お兄ちゃ――兄は外で食べる機会が多いから」

「お父さんは? お父さんはどうしたの?」
「お父様は……その……えへへ」



 そう苦笑を浮かべて、何かを誤魔化そうとする大和田ちゃん。

 途端に我が家の食卓の空気が、急激に重くなったのが分かった。

 あっ、これ、多分踏み込んじゃいけない類の話題だ!



(お、おい母ちゃん! どうすんだ、この空気!?)
(あたし嫌よ! こんなよどんだ空気の中で、お肉を食べるなんて!?)

(ええぃ、うるさいぞ! もとはと言えば、おまえらが喧嘩を始めたのが悪いんだろうが!? 責任をとって、何とかしろ!)



 いそいそと自分の席に戻りながら、大神式アイコンタクトを飛ばし合う、マイファミリー。

 なんとかって……しょうがねぇなぁ。

 どうやらここは『アナタのお耳の恋人』、シロウ・オオカミ先生の出番のようだな。



(母ちゃん、姉ちゃん。ここは知的でクールなナイスガイな俺に任せてくれ)
(よっ、待ってました! 我が家が誇る、口先だけの男!)

(『全日本! 口先だけコンテスト~男子高校生の部 個人優勝~』を果たしたその実力、お母ちゃんたちに見せてみろ!)



 たまに思うんだが、俺はもしかしたら、この家の子じゃないのかもしれない。

 今も心の隅で


『愚息、実はアンタ、ウチの子じゃないの……。そう、あれは17年前のことよ――』


 なんて、シリアス全開なカミングアウトを口にしつつ、俺の出生には異世界の国の王族が関係していたりして、そのままその異世界に転移して、偶然もらったチートでハーレムを築きながら、現地人にドヤ顔で説教する未来を期待している自分がいる。

 さらに欲を言うのであれば、なんやかんやで俺の異世界転移に巻き込まれた大和田ちゃんが、普段はツンケンしつつも、だんだんと俺に心を開いて、最終的にマリッジしちゃって……ふふふふっ。



「? パイセン、どうしたし? そんなデレッ♪ とした顔をして?」
「ねぇ大和田ちゃん、子どもは何人ほしい?」
「キメェ!? なに突然トチ狂ったことを口にしてるし!?」



 一体どういう思考回路してんだ!? と、大和田ちゃんどころか家族全員から、非難がましい視線を浴びるマイボディ。

 なんだ、なんだ?

 その明らかにバカを見るような目は?

 不愉快極まりないじゃないか。

 特に大和田ちゃんの瞳は、今にも性犯罪を犯そうとする、とんでもない変態を見るように冷たい。

 待て待て? 誤解だ!

 全日本オフィシャルチキン協会名誉会長である俺が、そんなチキンなマネをするワケがないだろう?



「ナシナシ、今のナシ! もう1回! もう1回チャンスちょうだい! 俺に汚名おめい万来ばんらいのチャンスをちょうだい!」

「嫌なチャンスね」
「我が息子ながら、見てられないわ」

「パイセン、それを言うなら『名誉めいよ挽回ばんかいのチャンス』では?」



 何故だろう?

 口を開けば開くほど、俺の株が落ちている気がする……。

 俺はなんとか言いつのろうと、再び口を開きかけたそのとき、突然クスクスッ! と、大和田ちゃんが控えめに吹き出した。



「大和田ちゃん?」
「あぁ、ごめんなさい。いやだって、パイセンがおかしくて……ぷふっ!?」



 はっはっはっはっはっ! と、彼女の笑い袋が爆発!

 そのまま目尻に涙の粒を浮かべながら、ひとしきり爆笑し続ける、我が後輩。

 ……いやまぁ、重っ苦しい空気にならずに済んで、よかったんだけどさ?

 ……何とも釈然としない。

 ぷくぅ! と、自然と俺の頬が膨らむのと同時に、大和田ちゃんは初めて見せる、心からの笑顔を浮かべたまま。



「ひぃ~、面白かった! ウチ、こんなに笑ったの、久しぶりかもしんない!」
「……それはようござんしたね」
「ふて腐れんじゃないわよ、愚弟。男のねた顔なんて、気持ち悪いだけよ?」
「ほらほら! 口より手を動かせ、おまえら? せっかくの肉が焦げるぞぉ」



 はぁ~い! と全員で声をハモらせながら、お肉へと手を伸ばす。

 モシャモシャと肉を咀嚼する俺の隣りで、大和田ちゃんは、やけに清々しい表情のまま、



「パイセン」



 と、俺を呼んだ。



「うん? どったよ? ご飯おかわり?」
「違うし。……誰かと食事をするって、こんな楽しいモノだったんだね」
「? そんなの、あたりめぇだろうが。どうした急に?」
「『あたりまえ』……そっか」
「??? 大和田ちゃん?」
「ううん、なんでもないし!」



 ニカッ♪ と微笑みを浮かべたまま、豚肉を頬張る大和田ちゃん。

 その顔はまるで、宝物を見つけた子どものように、無邪気であった。
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