みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第16話 この世にヒーローは居ない……

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「パイセン。ウチの半径3メートル以内には、絶対に近づかないでね?」
「すげぇ警戒してんじゃん。それじゃ道案内出来ないよね?」
「ぬぅ……!? じゃあ1メートルでいいし。――って、ちょっとぉ! さっそく軍事境界線超えてる!」



 グチグチ! と文句を垂れ流す愛しの後輩、大和田信菜ちゃんと、放課後デートよろしく、商店街をトロトロ闊歩(かっぽ)する。

 まだ5時前だというのに、すっかり日が落ちるのも早くなったようで、まぶしいばかりのオレンジがアスファルトを照らし、目が痛くなる。

 そんな俺の傍らをキッチリ1メートル離れて、トコトコと着いてくる大和田ちゃん。

 う~ん?

 やっぱりいつ見ても可愛いんだよなぁ。

 彼女の横顔をマジマジと見つめながら、1人うんうん! と納得する。

 そりゃもちろん、双子姫ほどの暴力的なまでの美貌とまでは言わない。

 言わないが……それでもやっぱり、他の子と比べて圧倒的に可愛いと思う。

 ゆで卵のようにプルプルした唇。

 アーモンド型の大きめの瞳。

 メリハリのついた女性らしい体型。

 ほんと外見だけなら120点だ!



「……ジロジロ見んなし。目が変態っぽい、キモイ」

「ほんと、コレで性格がまともならなぁ……」



 そっと心の中で盛大にため息をこぼす。

 なんで美少女という存在は、みんなキツイ性格をしているんだろう? 

 俺がドMだったら今頃、涙を流して狂喜乱舞しているところだぞ?

 大和田ちゃんはその桃色に染め上げたふわふわ♪ の髪を風にさわらせながら、ぷいっ! と俺から顔を背けた。

 が、その瞬間。



「あっ……」



 と小さく声をあげた。



「ん? どったよ?」

「な、何でもないし! ただちょっと甘いモノが食べたくなったから、コンビニでお菓子買ってくる!」

「おっ! なら俺も今月発売の『月刊クノイチ~人妻お尻忍法帳~』を買いてぇから一緒に――」

「それ絶対にロクでもない本でしょ? というか、パイセンはここで待ってて!」



 動くな! と、俺を指さしながら、けっこう強めに言い含められる。

『待て!』と命令される犬のような気分だ。

 こういう理不尽なところも、芽衣アイツと似ているよなぁ。

 なんてことを考えているうちに、大和田ちゃんはピュ~ッ! と、コンビニに向けて駆けて行ってしまう……って、あれ?



「おいおい、そっちにコンビニなんてねぇぞ?」



 コンビニとはまったく別方向へと駆けて行く我が後輩。

 方向オンチさんなのかな?

 しょうがないので、彼女の後を追う。



「まったく、手のかかる後輩ですこと」



 タッタカ、タッタカ♪ 大和田ちゃんの後を追いかけるべく、駆け足で移動する俺。

 それにしても、後輩の身を案じて追いかける俺……マジでデキる男過ぎて怖いな。

 なんてことを考えながら、道中をスタスタと足を進めていたら、道の真ん中で小さな少年が「ママ~ッ!?」と、泣き叫んでいるのを発見した。

 少年は嗚咽おえつこらえきれないのか、何度もしゃっくりをあげながら「ママ、ママ~ッ! ドゴ~ッ!?」とわめいていた。

 どうやら迷子らしい。

 俺はキョロキョロと辺りを見渡すが、男の子の母親らしき人は見当たらない。

 人通りの多い道のなか、少年は癇癪を起したように泣きわめく。

 近くを通る通行人たちは、そんな男の子を『さわらぬ神に祟りなし』とばかりに、声をかけるどころか、気がつかないフリをして通り過ぎていく。

 まあ今の世の中、子どもに声をかけるだけで捕まる時代だし、関わりたくないのは嫌というほど理解できる。

 ……でも、だからと言って気づかないフリをすることは、俺には出来なかった。



「チッ、しょうがねぇなぁ」



 俺はボリボリと頭をかきながら、少年のもとまで移動しようとして、



「――ねぇボク? 大丈夫? もしかして迷子さんかな?」



 泣きじゃくる子どもを前に、優しい微笑みを浮かべる大和田ちゃんが、そこに居た。

 あ、あれ?

 大和田ちゃん!?

 コンビニはどうしたの!?

 大和田ちゃんは猫を被っているときの笑顔とはまた別の、素の彼女の表情のまま、心配そうに泣き続ける少年をあやし続けていた。



「うぐっ!? えぐっ!? あ、あの、あのっ!?」

「大丈夫。お姉さんはどこにも行かないから、ゆっくり話してごらん?」



 彼女の優しい雰囲気に当てられたのか、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻す少年。

 改めて少年を見てみると、身長は俺の腰よりも大分低い。多分4,5歳児だと思う。

 半ズボンに長袖と、未来へ生きている格好をした少年は、鼻をふぐふぐ!? と鳴らしながら、


 ――チマッ!


 と大和田ちゃんの制服の裾を、こっそりと握りしめた。



「あ、あのね? ま、ママが『まいご』になったのぉ~っ!?」



 いや、迷子になったのは、おまえだよね?

 とは、さすがに言わないでおいた。

 大和田ちゃんは、ポロポロと大粒の涙を流す少年に対して、「そっかぁ~」と優しく頭を撫でながら、



「それじゃ、お姉さんが一緒にママを探してあげるね?」
「ふぐっ!? いぐっ!? ……い、いいの?」
「もちろん! ボク、お名前は?」

「――大神士狼です。趣味は(アダルト)映画観賞、特技は右耳が鳴ること。好きな4文字熟語は『情熱大陸』です! 絶賛彼女募集中です! よろしく!」

「うわっ、ビックリしたぁ!? って、パイセン!?」



 ビクッ!? と、その場で器用に小さく跳ねた大和田ちゃんが、弾かれたように背後に立っていた俺を睨みつける。

 その顔は何故か羞恥しゅうちの色に染まっていた。



「な、なんでココに!?『待ってて!』って言ったのに!」

「だって大和田ちゃんが全然違う方向に走って行くから、つい、ね。いやぁ、それにしても、見直したぜ? まさか迷子の男の子を助けるために、ここまでするなんてよぉ」

「~~~~っ! ち、違うし! これは、その……そう! アピール! 生徒会長選挙に向けてのアピールだし!」

「俺以外、ここに森実高生なんて誰もいないけど?」



 ボッ! と、顏を赤くしながら「うぅ~っ!」と唸る大和田ちゃん。

 どうやら本気で照れているらしい。

 おいおい?

 天邪鬼かよ、この子?

 ますます俺の知ってる虚乳生徒会長に似ているわ。

 そんな俺たちのやりとりをキョトン? とした顔で見守る少年。

 突然のイケメンの登場に、どうやら涙も引っ込んだらしい。



「おじちゃん、だれ?」
「ハハハッ!『お兄さん』と言え、クソガキ?」
「子どもを威圧するんじゃないし!」



 ゲシッ! と、弁慶をキックされる。

 いやいや?

 威圧でも何でもなく、俺はただ、社会の厳しさを教えてやろうとしているだけだって!?



「おじちゃん、お姉ちゃんのカレシさん?」

「おっ、よく分かったな少年! 5万シロウポイントを贈呈してやろう!」

「ん~ん、全然違うよぉ? このおじちゃんはね、お姉ちゃんのペットだよぉ」

「……どっち?」



 困惑する少年と、笑顔で俺の足を踏む後輩。

 おいおい?

 なんだ、なんだぁ?

 照れてんのかぁ?



「おじちゃんも、迷子なの……?」

「う~ん、難しい質問だな。確かにおじちゃんは、人生という名の道で迷子になってはいるけれども……う~む?」

「子どもに対して、何を言ってるし……」



 哲学か? と、呆れた瞳で俺を射抜く後輩ちゃん。

 そんな深いようで浅い会話を繰り広げていると、



「シュウちゃん!」



 と若い女性の声が、俺たちの間に割って入った。

 3人とも声のした方向へと視線を向けると、そこには顔をクシャクシャにした年若い女性が、こちらに向けて駆け寄って来ている姿が目に飛び込んできた。

 途端に少年が「ママぁっ!」と嬉しそうな声をあげ、一直線に母親の方へと駆けて行く。

 母親は少年をギュッ! と抱きしめると、俺たちに向かってぺこぺこ! と頭を下げた。



「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」



 息が切れて、真っ赤な顔には、大粒の汗が浮いている。

 なんだか泣きそうに見えてしょうがない。



「い、いえ……ウチ――じゃなくて、私たちはホント何もしてないんで……」

「な? やった事と言えば、俺の弁慶を蹴り抜いたことくらいだし」

「パイセンはうるさい! 少し黙ってるし!」

「本当にありがとうございます! 私、もう、どうなる事かと……」



 ポロポロと、その場で泣きはじめてしまう母親。

 見ただけで心の底から安堵しているのが分かった。

 対称的に少年は、母親に抱きついたまま、俺たちにむかって手を振っている。

 子どもの方が落ち着いているのが、変な感じだった。

 おいおい、子どもが迷子になったくらいで大げさな。

 と思ったが、すぐにその考えを改める。

 きっとそれだけ、この人にとって、息子は大切な存在なのだろう。



「いやぁ、それにしても、無事に息子さんが見つかって良かったっすね! なぁ大和田ちゃんよ?」

「へっ? あっ、うん。よかった……」

「? どうした大和田ちゃん? 顔色悪いぜ?」

「……何でもないし」



 ぷいっ! と、俺から視線を外す彼女。

 だが、その顔色は、どうみて正常なソレではなかった。

 血の気が完全に引き、二の腕に指先がギュッ! と食い込むくらい力強く握られている。

 その酷く怯えきった表情は、何故か俺に迷子の子どもの姿を彷彿とさせた。

 大和田ちゃんは「それでは失礼します」と短く親子にそう告げるなり、クルリッ! と身をひるがえし、俺を置いてさっさと歩いて行ってしまう。



「ちょっ!? 待って、待って! そ、それじゃ、俺もこの辺で失礼します!」



 親子に頭を下げつつ、慌てて可愛い後輩の後を追う。

 スタスタ! と、我が家の道順すら知らない癖に、堂々と肩で風を切って歩いて行く大和田ちゃん。

 う~ん、男らしい。

 俺が女だったら、今頃胸がトゥインクル☆ しているところだ。

 やっべ、プリティでキュアキュアしそう。



「それにしても、意外だったなぁ。まさか大和田ちゃんに、あんな一面があっただなんて」

「……何だし? そのニヤニヤした表情は?」

「うん? 別に? ただ、子どもには優しいんだなぁって思って。その調子で先輩にも優しくしてくれても、いいんですよ?」

「うっざ! 別にあんなの気まぐれだし」



 肩を並べて歩く俺から視線を切って、スッ! と自分のつま先を見つめる大和田ちゃん。

 そのままその場で立ち止まると、今はもう姿が見えない迷子の親子の方へと振り返った。



「……ただ、今の世の中、大人が子どもを見捨てるのは仕方がないっしょ? こんな時代だし。しょうがないとすら思う」



 でも、と彼女は小さく付け加えるように、



「でも……子どもが子どもを見捨てたら、それは『おしまい』だと思う」
「大和田ちゃん?」



 その瞳はどこか寂しげで、諦観ていかんしたような、それでいて羨望のような不思議な色合いをしていた。

 俺は彼女が放つその瞳の光が妙に気になった。



「――なんて、ね。ほらっ、パイセン! さっさと家に行くし。時間は有限なんだから」



 数秒の静寂の後、ニパッ! と不自然な笑みを顔に張りつけた大和田ちゃんが、グイグイ!と俺の背中を押していく。

 結局俺は、気の利いたことなど何も言うことが出来ず、大人しく彼女を我が家まで案内する事しか出来なかった。
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