みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第15話 おいでよ! センパイの家♪

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 生徒会長選挙には、5日間の選挙活動期間というものがある。

 毎朝午前8時に解禁し、放課後の午後8時まで活動することが許されている。

 ただし、市街での活動、及び生徒の家に訪問する行為は禁止。

 もしコレらを破ってしまえば選挙管理委員の名目のもと、選挙活動を禁止させられてしまうだけでなく、最悪、出馬自体が取り消しになりかねない。

 ゆえに活動には細心の注意を払ってやらなければならない。

 また最終日は午後の授業が全部潰れて、体育館で全校生徒を相手に演説を行ってもらうことになっている。

 そこでどれだけ生徒達の支持を集められるかが、勝負のキモとなってくるらしい。



「そして、その日のうちに票を開示し、一番得票数が多かった生徒が――おめでとう! キミが生徒会長だ!」

「……いや、その説明、初日で聞いたし。今さら説明されなくても知ってるし」



 選挙活動期間を3日前に控えた、放課後。

 ここ数日で通い慣れた感のある空き教室で、ふんぞり返っている我が愛しの後輩、大和田ちゃんに昨日芽衣から教えて貰った内容を簡単に伝えてみた。

 というのに、何故か大和田ちゃんの反応はかんばしくない。



「まぁまぁ、そう睨まないで。興奮してくるだろう?」
「うひぃ……マジでキモイよぉ」
「おぉ、気持ち悪がる演技も中々上手いじゃないか」
「いや、正真正銘、心の底からの表情だし……」



 まるで廃棄物でも見るかのように視線に、背筋がゾクゾクしてくる。

 ほほぅ? 今日は中々、サービス精神が旺盛じゃないか?

 きっと頑張った俺をねぎらおうとしてくれてるんだな!

 中々どうして、いい所があるじゃないか。

 これは余計に気合を入れて、説明に臨まなければ!

 俺は持って来ていた紙袋の中から1枚、カラー印刷されたペラ紙を大和田ちゃんに差し出した。



「さて、先日の作戦が失敗に終わったので、今回はこんなものを用意してみました!」

「……なんだしコレ? チラシ?」

「そう! やはり地道な積み重ねこそ、得票に繋がると思うので、わたくし、選挙用のチラシを作ってまいりました! もちろんポスターも作成済み! コレを3日後の選挙活動期間中に生徒たちに配り周って行こうぜ!」

「まぁ、それが一番無難な方法なんだろうけど……ねぇ、パイセン? 1つ、質問してもいい?」



 そのチラシのあまりの完成度の高さからか、フルフルと身体を震わせる我が後輩。

 ふふっ♪ 賛美の言葉なら、別にいらないのに。

 まぁ、大和田ちゃんがどうしてもって言うのなら、聞いてあげてもいいけどさ!

 さぁ、存分に俺を賞賛するがいい!

「どうぞ!」と、笑みを噛み殺す俺に向かって、大和田ちゃんは虫でも見るかのような無機質な瞳で、



「……なんでウチの写っている写真が、全部ローアングルだし?」



 そこには森実祭で彼女が着ていた超際どい衣装を、下から撮影した写真が、デカデカと映し出されていた。

 ちなみにポスターも同じ写真を使ってある。

 彼女の肉感をともなった太ももから、小ぶりなキュッ! と引き締まったお尻が、なんともキュートに映える、アマゾン一押しの神画像である。

 ほんと、森実祭が終わった後に、アマゾンから購入しておいてよかった。



「俺のパソコンに入っている写真が、ソレしか無くて」
「や☆り☆な☆お☆し♪」



 バサッ! と、机の上に俺が徹夜で完成させたチラシを、無造作に置く大和田ちゃん。



「えっ!? 何か気に入らなかった!? 結構自信があったんだけど?」

「気に入る、気に入らない以前に、なんかもう……純粋に気持ち悪い」



 おっとぉ?

 どうした、そんなゴミ虫を見るような目をして? 

 この数秒の間に、一体何があったんだ?

 大和田ちゃんは机の上に静かに鎮座しているチラシを指先でコンコン! と叩きながら、顔をしかめてこう言った。



「まず1つ。こんなパンツが見えそうな性的な写真を校内にバラ撒いたら、確実に女性票は入らない、という点が1つ」

「で、でも男にはウケがいいと思う!」

「それでもう1つは、こんなモノを配り歩いていたら、確実に出馬取り消しになる。もう間違いなくね」

「……せっかく頑張って作ったのになぁ」



 いそいそと机の上に置かれたチラシを回収しつつ、しょぼんと肩を落とす。

 せっかく男達を前かがみに出来るシロモノが完成したと思ったのになぁ……。



「でもまぁ、確かにチラシを配り歩くのが一番地道で手っ取り早い方法か。……よし、決めた! パイセン! 今日はチラシを作るし!」

「チラシなら、ほら。ここにあるけど?」

「それはボツ! ウチが言っているのは、新しいチラシを作ろうってことだし!」



 ぴょんっ! と、椅子から跳ねるように飛び降りる、大和田ちゃん。

 そっかぁ、まぁしょうがないか。

 大和田ちゃんが嫌というなら、俺は素直にそれに従うだけだ。

 俺は心の中でひっそりとため息をこぼしながら、教室のドアの方へと歩を進めた。



「了解。そんじゃま、とりあえず我が家に行こうか」

「ちょっと待つし? なんでさも当然のように、ウチがパイセンの家に行く前提で、話が進んでいるワケ?」

「えっ、行かないの?」

「死んでも行かない! 何か変なことされそうだし」



 自分の身体を抱いて、数歩背後へ後ずさる大和田ちゃん。

 その瞳は、何故かケダモノを見るように辛辣であった。

 おいおい?

 なんて目で先輩を見るんだ、この可愛い後輩は?

 まるで俺が幼気いたいけな後輩を言葉巧みに連れ込んで、口では言えない『あんなコト』や『こんなコト』をしようとしている変態を見る目じゃないか。

 紳士の俺が、そんな事をするワケが無いだろう?

 まったく、失礼しちゃうぜ。

 せいぜい大和田ちゃんが使ったクッションやマグカップを大切の保管し、我が家の家宝にするくらいだ。



「ほら! 今まさに変なことを考えてるし!」

「考えてない、考えてない! 世界平和のことしか考えてない!」

「それはそれで何か気持ち悪いし……」



 俺は一体何と答えるのが正解なのだろう?



「でも、ここでチラシを作るにしても、材料は何もないぜ? それとも大和田ちゃんの家でやる?」

「うぐっ!? た、確かに材料はここには無いし、パイセンを家にあげるなんて、死んでも嫌だし……ぐぬぬっ」

「えっ? 今、俺、ナチュラルに罵倒された?」



 もしかしたら彼女は、生理的に俺のことが嫌いなのかもしれない。

 ほんのちょっぴり傷ついていると、大和田ちゃんが『しょうがない』とばかりに、小さくため息をこぼした。



「ハァ……。それじゃ、パイセンの家で材料だけ受け取って、ウチが家で作ってくるし」

「いやでも、結構な量があるから、原付で乗せて帰るのはムリがあるんじゃねぇの?」

「むぅ~……。それじゃ、一体どうしろって言うし?」



 文句ばかり言うなら、何か案を出せ!

 と、半眼で睨まれる俺。

 どうして美少女の半眼は、こう……背筋がゾクゾクするのだろうか? 

 俺、Mじゃないハズなのに。



「じゃあ、とりあえず原付は1回学校へ置いて、荷物だけ受け取って帰るか」

「パイセンはバカなの? それじゃウチが家に帰れなくなるし」

「大丈夫、大丈夫。帰りは俺がバイクで送ってやるから」



 と言った瞬間、彼女の瞳が驚愕に満ちた色をはらんで、大きく見開いた。



「えっ!? パイセン、免許持ってんの!? うそ……似合わない、気持ちワル」

「えっ、ウソ? まさかのドン引き?」



 ザザッ!? と、俺から距離をとる後輩。

 お、おやおやぁ?

 今、ドン引きする要素なんてありましたか? 



「だ、だって、パイセンみたいな男の人って、制服の下に裸の女の子が描かれたTシャツを着てるんでしょ? ネットで見たし」

「すげぇ偏見へんけん極めてるじゃん……」



 あきれてモノが言えないとは、まさにこのこと。

 俺は大きくため息をこぼしながら、結構強めの語気で、彼女の言葉を否定した。



「まったく。男が全員、そんな猥褻(わいせつ)極まりないTシャツを身に着けているワケじゃねぇよ。勘違いすんな」

「ご、ごめんなさい……」

「たくっ、反省してくれよな? ……まぁ正解だけどさ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 本当に着てるぅぅぅぅぅっ!?」



 ガバッ! と制服を脱いでみせると、中から飛び出してきたのはほぼ半裸の女性がプリントされたTシャツであった。

 いや、正確には裸ではなくスクール水着なのだが。

 ちなみに俺が今着ているTシャツは、去年の誕生日に自分へのご褒美として買った代物である。

 正式名称は『はじめてのスク水・ミミちゃんTシャツ』だ。

 地上波のくせに、ギリギリまで追求した幼女のスク水アニメということで、今もなおマニアの間では続編が熱望されている、最高にイカす作品である。

 そんなことなどつゆとも知らない大和田ちゃんは、まるで化け物に遭遇したかのように、生まれたての小鹿よろしく、足をぷるぷる!? と震えさせながら、必死に俺から距離をとろうとしていた。



「さて、どうする? このまま大人しくお家へ帰るか? それとも変態の巣窟そうくつへ宝をとりに行くか?」



 どっちにする? と、新婚ホヤホヤの夫婦のようなやりとりを口にする俺。

 大和田ちゃんは「くっ……っ!?」と、しばし迷うように表情を曇らせたが、やがて覚悟を決めたのか、「よしっ!」と可愛く気合を入れ、



「分かった。じゃあパイセンの家に行く。でも! 家には上がらないから! 絶対に上がらないから!」

「俺も嫌われたものだなぁ……」



 敵意剥き出しでファイティングポーズをとる、我が後輩。

 仮にも一緒に生徒会長選挙を戦い抜こうとする同士に向ける感情じゃない。

 ふと爆乳わんの優しい笑顔が脳裏をよぎった。

 あぁ、きっと今、アイツに電話すれば、優しく俺を慰めてくれるんだろうなぁ。

 ヤベエ、涙が出て来たわ……。

 はたして彼女が俺に心を開いてくれる日は、やって来るのだろうか?

 そんなちょっぴりの不安を残しつつ、俺と大和田ちゃんは学校を後にするのであった。
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