みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第14話 アタシが『誰より』1番なんだから!

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 大和田ちゃんと話し合った、その日の晩。

 キラキラとお星さまが騒ぐ、夜の8時。

 俺は我が家の自室でスマホを握り締めながら、すがるような気持ちで【とある人物】へと電話をかけていた。

 数回の呼び出し音の後、お目当ての人物の澄んだ声音が、俺の鼓膜を優しく撫でた。



『――もしもし? どうしたのよ士狼、こんな時間に? アンタから電話してくるなんて、珍しいわね』

「あぁ芽衣。バストアップ体操中にすまない」
『ハハッ! 殺すぞクソガキ?』



 某夢の国のマスコットキャラクターを彷彿とさせる声音で、女神さまから殺害予告を口にされる俺。

 お、おやおやぁ?

 いきなり芽衣ちゃんのる気スイッチがОN! になっているんだけど、どういうことだぁ?

 延々えんえんと耳元で『コロス、コロス、コロス、コロス……』と素敵なハーモニーが垂れ流され、自然と背筋がゾクゾクしてくる。

 うっひょ~、通話切りてぇ~♪ 

 このままじゃ夢の国じゃなくて、黄泉よみの国へ連れて行かれそうだぁ!

 俺は今スグ通話を切って、お布団ふとぅぅぅぅんにダイブしたい気持ちをグッ! と堪え、誰も居ない部屋の中、ペコリッ! と頭を下げた。



「す、すいません。お、俺なりに気を使ったつもりだったんです……」

『チッ。謝罪だけはいつも素直なのよねぇ、コイツ。……まぁいいわ。それで? どうしたのよ、士狼? こんな時間に電話だなんて? ……もしかして、さっきのことが言いたかっただけ、とか言うんじゃないでしょうね?』

「ち、違う違う! ちゃんと理由があるから! だからそんなドスの利いた声音で喋らないで! 地味に怖いんだよ、ソレ?」



 ズモモモモっ! と、通話越しからでもにじみ出る芽衣の殺意。

 少しでも油断すると気を失いそうだ。

 何なアイツ?

 覇王的な覇気の使い手なの?

 ウソっ、超カッコいいじゃん。

 俺が少しだけ心をトキメかせていると、芽衣は『はよ話せ』と無言の圧力をかけてきた。



「えっとさ、その……もうすぐ生徒会長選挙じゃん?」
『そうね』
「でさ、どうやったら一気に票が集まると思う? なんか画期的なアイディアとか無い?」
『無いわね』



 即答だった。

 もうバッサリ♪

 未練すら残してくれることなく、バッサリである。



「やっぱ無い?」
『当たり前よ。そういうのは日々の積み重ねからくるものなんだから。むしろあったらアタシが教えて欲しいくらいよ』



 やはり完璧超人の芽衣でも、人の心を動かすのは容易ではないらしい。

 う~ん、困ったなぁ。

 ほんと、どうしようか?

 なんて考えていると、芽衣が『というか士狼』と呆れたような、ふて腐れたような、何とも言えないブスッ! とした声音で口をひらいた。



『アンタ、何で本気で大和田さんに肩入れしようとしているのよ?』
「あっ? やっぱ気づいちゃう、ソレ?」
『そんな質問されたら、バカでも気づくわよ。このバカ』



 普段の凛とした声とはまた違う、いじけたような幼さが残る口調に、面を喰らってしまう。

 と同時に、何故か俺の脳裏に、お気に入りのオモチャを取られた子どもの姿が浮かび上がった。

 芽衣は『説明して』と、有無を言わさぬプレッシャーをスマホ越しから発しつつ、俺の次の言葉を待っていた。



「あぁ~……。なんていうかさ? 彼女、昔のおまえを見てる気がして、ほっとけないんだよ」
『昔のアタシ?』

「おう。こう風船に空気がパンパンに入った状態って言うの? 常に気を張っているっていうかさ、今にも爆発しちゃいそうで、目が離せねぇんだわ」

『…………』
「あぁ~、やっぱダメ?」



 女神さまはムッツリと口を閉ざしたまま、何も喋らない。

 不気味なまでの静寂が自室を包み込んだ。

 自分の部屋なのに、何とも居心地が悪い。

 俺は「やっぱさっきのは忘れてくれ!」と、お願いしようとした矢先、電話口からため息にも似た吐息が、小さく吐き出された。



『……チラシとポスター』
「はえっ?」

『だから、チラシとポスターを作りなさい。もちろん、どっちにもキチン大和田さんの写真をせてね。公約もしっかり書きこんだモノを、生徒たちに渡していけば、多少は票を獲得できるんじゃない? まぁ、公約の内容にもよるけど。あとは――』

「ちょっ!? ちょちょちょっ!? ちょっと待ってくれ! メモ! メモするから!」



 俺は慌てて鞄を引っ張り出し、適当なノートを開いて、芽衣の言葉を一言一句、聞き逃さないようにシャーペンを走らせる。

 なんやかんや言いながらも、コイツは根っからのお人好しなのだ。

 困っている人がいたら、例え敵対者であっても手を差し伸べてしまうような女なのだ。

 まぁだからこそ、生徒会長に選ばれるワケなんだけどさ。

 おっと、余計なことを考える前にメモメモっと!

 それから俺は30分ほどかけて、芽衣から生徒会長選挙についてのアドバイスを受けた。



『――とまぁ、こんなところかしらね。あとは魅力的な公約をいくつ用意出来るかで、かなり票を獲得出来るハズよ』
「な、なるほど……。ところで芽衣?」
『んっ、なに?』
「そのさっきから口にしている【公約】って何?」



 さも当たり前のように連呼していたが、【公約】とは一体なんぞや?

 と、電話越しで可愛く小首を傾げていると、芽衣が『例えば』と口を開いた。



『もし仮に、士狼が生徒会長になったら、まず学校の何を変えたい?』
「俺が生徒会長になったら?」



 そうだなぁ~?



「とりあえず、体育の授業などで使用する更衣室は男女兼用にして、男女の不平等を是正ぜせいするかな」

『よく間髪入れずに、そんなおぞましい事が思いつくわね、アンタ……』



 何故か会長閣下のドン引きした声音が、俺の耳朶を叩いた。
 
 えっ? おぞましい?

 おぞましかった、今の?

 やっぱり《ニーソ&パンストの内申点爆上げ》の方が良かった?

 それとも《純異性交遊の促進》の方が良かったかな?

 いや待て?

 女子トレイの便器を全て廃止し、代わりに男子を設置する《男子生徒だんしせいと女子便器化じょしべんきか計画けいかく》も捨てがたいな。



『色々と言いたいことはあるけど、まぁつまり、そういう事よ。公約って言うのは、自分が生徒会長になったら《必ずこういう事をしますよ!》っていう事を皆に伝える、約束事みたいなモノね』

『メイちゃ~ん、お風呂空いたよぉ』

『はいは~いっ! すぐ入るわよぉ……っと。それじゃ士狼、アタシはお風呂に入るから、今日はここでお開きね』

「おう! ほんと助かった! ありがとう!」



 やっぱり持つべきものは女神さまだよな!

 俺はシャーペンを筆箱にしまいながら、もう1度だけお礼の言葉を口にしつつ、いそいそと通話終了ボタンをタップしようとして、



『あっ、ストップ! ちょっと待ちなさい、士狼!』
「ん? なに?」



 ピタリ! と画面をタップしようとしていた親指が、その場で止まる。

 芽衣は『あ~……』とか『うぅ~……』とか低く唸るばかりで、中々本題を切りだそうとしない。

 そんな芽衣の姿に「はて?」と、首を傾げてしまう。

 珍しいな、この女が言いよどむなんて?

 いつもは快刀かいとう乱麻らんまバリに、ズバズバッ! 言うくせに。

 どうしたよ? と、こっちから声をかけようとした矢先、芽衣はやけに切羽詰まった口調で、



『その……彼女に肩入れするのは構わないけど……ほ、本気になるんじゃないわよ?』



 と言った。



「は? 何が?」
『~~~~っ!?』



 純粋に意味が分からず、そう聞き返した瞬間、スピーカーから声にならない悲鳴が鼓膜を激しく揺さぶった。

 キンキンッ!? と痛む耳からスマホを少しだけ遠ざけると、今度は捲くし立てるような芽衣の声音が、部屋の中で反響した。



『あ、アタシは士狼のご主人様なんだから! 士狼はアタシの許可なく、他の女の子にフラフラしちゃダメって言ってるの! 分かった!? 分かったわね! よし! それじゃオヤスミ!』




 ――ぶつんっ! 



 一方的に通話を切られてしまう。

 えっ、なに?

 どういうことだってばよ?

 つまり、これからは俺がイチイチ女の子と何かするときは、芽衣に許可を取らないといけないってこと? 

 えぇ~、なにそれ?

 何なのアイツ?

 理不尽の塊か?



「まぁアイツが理不尽なのは、今に始まったことじゃないか」



 それよりも、芽衣に教えて貰ったことを反復しなければ!

 俺はさっそく書き込んだノートを読み返そうとして、



 ――お兄ちゃん、電話だにょん♪ お兄ちゃん、電話だにょん♪


 再びブルブルッ! と、スマホが激しく震えた。



「おっ? なんだ、なんだ? また芽衣か? ……って、よこたんか」



 スマホの画面には『こひつじようこ』と、デカデカに表示されていた。

 こんな時間に何の用だろう?

 なんてことを考えつつ、俺は素直に通話ボタンをタップしてみせた。



「ほいほ~い。いつもニコニコ、あなたの隣にいよるイケメン♪ 大神士狼さんですよぉ~?」

『こんばんはぁ~。って、ソレ? ししょーのキャッチコピーか何かなの?』



 相変わらずだねぇ、とまったりした口調でふふっ! と笑う、ラブリー☆マイエンジェル。

 その妙にしっとりした声音に、思わずドキリんこ♪ と心臓が高鳴った。

 俺は自分の心の動きがバレないように、いつもの軽薄そうな口調を心けながら、爆乳わん娘に声をかけた。



「そうですよ、相変わらずのシロウさんですよ~。んで、どったよ? 急に電話なんかかけてきて? 何かあった?」

『あ~。えっと……その、ね?』



 モゴモゴと、スマホ越しで言い淀むマイ☆エンジェル。

 コイツがモゴモゴするのはいつものことなので、心の整理がつくまで、大人しく待ってやる。

 数十秒ほどして、ようやく用件が纏まったのだろう。

 よこたんは、いつものモジモジした様子で、



『きょ、今日はししょーとあまりお喋りできなかったから、その……ね? こ、声が聞きたくなっちゃって……。ダメ、だったかな?』

「なんだ、おまえ? 可愛さの塊か?」



 危うくプロポーズして、盛大にフラれるところだった。

 目を閉じれば、上目使いでこちらを窺う爆乳わん娘の姿が、容易に想像出来てしまう。

 おいおい?

 俺のメンタルがあと少し弱かったら、キュン死していたぞ? 

 まったく、芽衣とは別ベクトルで困った女の子だ。

 流石は【古羊ファンクラブ】が崇拝するレディーなだけあるぜ。

 こりゃ確かに、ニトログリセリンより繊細な心を持つサクランボーイたちには、刺激が強すぎるわな。



「よし! そういうことなら、師匠に任せろ! 俺の耳が幸せイケメンボイスで、素敵な夜をお届けしてやるぜ! それじゃ本当にあった怖い話でも――」

『そ、それ以外でお願いします!』
「……なら、今テキトーに作った、長い話しで」
『ふ、普通にお喋りしよ! 普通に!』



 こうして、俺の波乱万丈な1日は、よこたんの雑談と共にけていったのであった。
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