みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第20話 俺のお兄様がこんなにシスコンなワケがない!

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「――なるほど、そういうことでしたか。どうやら、わたくしの早とちり――でも何でもないですねコレ。なにウチの妹に手を出してんだ、ゴルァ? あぁんっ!?」



 荒ぶるお兄様を説得すること、約15分。

 大和田ちゃんと俺とチンピラ兄上は、3人仲良く大和田家のちゃぶ台を囲いながら、楽しく談笑していた。



「まぁまぁ! 落ち着いて、兄様? 将来は俺も家族の一員になるワケだし、そうカッカしないで、仲良くやろうぜ。なっ、ノブリン?」

「誰がノブリンだし? ウチに同意を求めるな。つぅかパイセンが家族になるとか、死んでも嫌だからね、ウチ」

「ほらっ、妹もこう言ってることだしさぁ」

「いや、全力で拒絶していましたよね? なんで『同意を得た』みたいな言い方をしているんですか?」



 耳どうなってるんですか……と、あきれた声をあげる大和田のあにあに。

 そんな兄上の隣で、救急セットを取り出した大和田ちゃん改めノブリンが、かいがいしく兄の傷を手当していく。

 ちなみに鷹野は「な、生の喧嘩狼サイコーッ!」と、ドルオタのような謎の奇声を最後に、玄関で気を失っている。

 ほんとアイツに至っては、何がしたいのか皆目見当がつかない。

 というか、純粋に怖い。

 マジで怖い。

 アイツを見ていると何故か気が引き締まる思いだ。

 ……いやケツの穴的な意味じゃないよ? 勘違いしないでね?



「それにしても生徒会長選挙ですか……」
「もしかして、お兄ちゃ……アニキは反対だったりする?」
「いえ。信奈さんが決めたことなら、わたくしは反対しませんよ」
「そっか……ありがとう」



 はにかむ大和田ちゃんの顔は、どういう訳か何か言いたげな顔に、俺には見えた。



「というか、俺たちのことよりも、タマタマの方こそ、どうしたんだよ? すげぇケガじゃん」

「誰ですか、タマタマって……? こんな事になったのも、アナタ達のせいでしょうに」

「へっ? 俺たちのせい?」



 いきなりトチ狂ったことを口にするお兄やんに、眉をしかめてみせる。

 なんだ、なんだ?

 どういうことだ?

 被害妄想の塊かぁ?

 ハッ!?

 そ、そうか!

 光源氏もかくやと言わんばかりの珠(たま)のようにイケメンな俺の姿を前にして、自分の矮小わいしょうさに傷ついてしまったのか!

 くぅ、あにあにを傷つけてしまう自分の美貌が憎い!



「俺がイケメンでごめん、兄さん……」

「なに訳の分からない謝罪をしているんですか? 違いますからね? 大神様の美貌は関係ないですからね?」

「つぅかサラリと自分をイケメンとか呼ぶあたり、すげぇ気持ち悪いし」



 大和田兄妹の息の合ったコンビネーションプレイに、思わず口笛を吹いてしまう。

 さすがは兄妹といったところか。

 俺に向ける侮蔑ぶべつの瞳がソックリだ!

 思わず下半身の大神ダムが決壊するところだったぜ♪



「……このケガは、ウチの生徒にやられたんですよ」

「九頭竜高校の? なんで? 仲間割れですか、お兄ちゃん?」

「まぁ似たようなモノです。度重なる敗北の結果、タカさんの求心力が低下し、彼に成り代わって九頭竜高校のテッペンを獲ろうと躍起になっている、『おバカさん』が現れているんですよ」



 ソレを粛清しゅくせいするために、日々喧嘩に追われているんです。

 と、やややつれた様子でそう答える、大和田の兄上。



「まぁそれも一時的なもので、もう一月ひとつきもすれば落ち着くでしょうけどね」

「それはつまり、逆に言えばあと一月ひとつきは生傷が絶えない生活ってワケか……。大変っすね、兄者」

「……その多種多様な呼び方が、やめてくださいと前に言いましたよね?」

「お兄ちゃ……アニキ? あまり危ない事はしないでね?」



 ズズズッ! と、呑気に緑茶をすする俺とは対照的に、大和田ちゃんの心配そうな視線が、兄者の生キズを這っていく。

 そんな愛らしいお兄ちゃん想いの妹に、つい顔がほころんだのか、普段と違う優しい表情で「大丈夫ですよ」と微笑む、お兄たん。

 そしていつの間にか意識を取り戻した鷹野が、玄関先に置いてある俺の靴底に鼻先を突っ込んで、恍惚こうこつとした表情を浮かべていた。

 ……マジで何やってんだ、アイツ?

「うっほほ~い♪」と、お尻を左右にプリプリ♪ 動かしながら、俺の靴底の臭いを堪能たんの)している謎の存在。

 あれ絶対にヤベェ薬キメてるだろ?

 日本の警察は一体何をしているんだ?



「むしろ危ないのは、わたくしより信菜さんですよ。なんですか、このチラシに写っているきわどい写真は? さすがに兄として、こんなビラを配りまわるのは看過できないのですが?」

「ち、違う、違う! それはウチがしたんじゃなくて、パイセンが勝手に作ったヤツだから! つぅか、新しいチラシはこれから作るつもりだったし!」



 大和田ちゃんがそう言うと、あからさまに『ほっ』とした表情を浮かべる兄様。

 まるで結婚式前日、嫁に風俗へ行った事がバレずに結婚式をやり遂げる事に成功した、近所のマサシ兄ちゃんみたいな顔をしていた。



「……そうですか。ただ、新しく作るのは構いませんが、あまりスケベすぎる写真は使わないでくださいね? 兄として普通に心配してしまうので」



 わかった、と素直に頷く大和田ちゃん。

 兄様の前だとどうやら素直に言うことを聞くらしい。

 なんだ、なんだ?

 ブラコンかぁ?

 と軽口を叩いてやりたかったが、何故かすごく自然に兄上に俺の襟首を握られているので、呼吸するだけで精いっぱいの現状。

 ちょっ!? お兄様!?

 首、締まってる!?

 首、締まってるよぉ!?



「力にはなれませんが、生徒会長選挙、頑張ってくださいね、信菜さん。心の底から応援していますから」

「ありがとう、お兄ちゃ……アニキ。ウチ、頑張るよ!」

「……お取込み中のところ悪いんやが、流石にそろそろ喧嘩狼が限界っぽいわ。そろそろ離してやりぃや、ノブ」

「「あっ」」



 大和田兄妹の間抜けた声音を耳にしながら、俺はゆっくりとその場で意識を手放した。
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