みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第25話 この世で1番厄介なのは、自分のコトを『頭がイイ』と思っているバカ野郎である

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「「えっ!? た、退学!?」」



 ずっと沈黙を貫いていた大和田ちゃんと、声がハモってしまう。

 大和田ちゃんは焦ったように自分の父親の顔を見て、



「そ、そんな!? そんな話ウチは……私は聞いてません!」
「当たり前だろう? 今初めて言ったんだから」



 大和田ちゃんの目を合わすことなく、あっけらかんとした様子で、とんでもないことを口にする大和田のパパ。

 えぇっ!?

 娘にナイショで、勝手に決めたの!?

 そういうのはもっとこう、家族で話し合って決めた方がいいんじゃ……?

 俺の中でさらに黒いモヤモヤが大きくなっていく。

 もちろん、そんな事なんぞ知らない大和田のパパ様は、相変わらず尊大な態度で、大和田ちゃんに向かって、



「言っておくが、これは確定事項だ。お前には学校を辞めて、わたしが決めた相手と結婚してもらう。来月には挙式を開く。相手はウチと懇意こんいにしていただいている会社の息子さんだ。問題ないな?」

「あの大和田さん? 親子の間に口を挟むようで申し訳ないのですが、そういう事は1度、キチンと娘さんと話し合ったうえで……」

「必要ない。たかだが一教師が、生徒の家庭事情に首を突っ込もうとしないで貰いたい」



 バッサリ! と、ヤマキティーチャーの言い分を一刀両断するパパ上。

 俺的には至極もっともな意見だったのだが、パパ上にはそうではなかったらしく、不愉快そうに眉根を寄せながら、出されたお茶をズズズッ! と不味そうに飲んでいく。

 な、なんだ、このおっさん?

 言葉遣いは丁寧なのに、この横柄な態度たいど……。

 なんか……凄く嫌。



「信菜も今週中には身辺整理を終わらせておきなさい。退学届はコチラから出しておく。それから――」

「い、いやです……」
「……なに?」



 ふるふる!? と、身体と声音を小刻みに震わせながら、ぎゅっ! とスカートの裾を握り締める、大和田ちゃん。

 俺たちから顔を伏せているので、今、どんな表情をしているのかは、分からない。

 分からないが……何故だかこのとき、俺は容易よういに彼女の顔を想像することが出来た。



「わ、私は退学も、結婚もしたくありません!」
「ダメだ。結婚は絶対してもらう。これは確定事項だ」
「で、でも!」
「ハァ……。どうやらおまえは、何か勘違いしているようだな」



 大和田のパパ上は、これ見よがしに溜め息をこぼすなり、



「いいか? おまえの意志など関係ない。これは大和田家が今より繁栄するために必要な処置なのだ」




 ――瞬間、俺の中で『ナニカ』が急速に冷めていくのを感じた。


 大和田の親父は、相変わらず傲慢不遜ごうまんふそんと言わんばかりの態度で、自分の娘を見下ろしている。

 その瞳は少なくとも、血を分けた家族に向けるには、あまりにも冷たく、温度が無い。

 それが酷く俺の心をかき回す。



「信菜。落ちこぼれのお前が、とうとう役に立つ日が来たのだ。さいわいにも、お前は容姿がいい。向こうもの息子さんも、お前の容姿を気に入っている。アソコの会社の息子は、将来有望だ。まず間違いなく、我が家に損はない」



 その娘をモノのようにしか思っていない台詞に、ヘドロのような黒い感情が胸を支配していく。

 それが不愉快でたまらない。

 スカ●ロプレイだって許容可能な俺に、不快感を与えるなんて……相当だぞ?



「……わ、私、生徒会長選挙に立候補しているんです」



 ぽつり、ぽつり。

 大和田ちゃんは、実の父親に対して、言葉を積み重ねていく。



「何をやってもダメダメで、家を追い出された私ですけど……。こんな私でも、生徒会長になったら、今度こそ、お父さまに認めて貰えると思って……。家族に戻れると思って……。喜んで貰えると、思って……」

「? 何故わたしが、お前なんかのために、喜ばなければならないんだ?」
「――ッ!?」



 本当に純粋なまでの疑問が返ってきた。

 それはまるで『別におまえが何をしようが、わたしには興味がない』と突っぱねているように、俺には聞こえた。

 聞こえてしまった。

 こめかみに痛いくらい血が流れる。

 ぶつけたい言葉は、いくらでもあった。

 それでも、ソレを何とか統率し、ギリギリの所で飲み込む。

 握りしめた俺の拳が、ブルブル! と震えている中、大和田の親父は『気にいらない』とばかりに、眉間にシワを寄せて吐き捨てるように、こう呟いた。



「まったく、親に口答えするとは。相変わらず度し難いほど愚かな娘だよ、お前は」



 わたしがこの結婚のために、いくらお金を投資したと思っている?

 実の娘にそう吐き捨てる大和田の親父の顔は、軽蔑するみたいに酷く歪んでいた。



「これでは、わたしが悪者みたいではないか。まったく。わたしからすれば、お前の方が悪者だぞ?」

「わ、悪者……?」

「そうだ。優秀な人間の足を引っ張る、醜悪しゅうあくな寄生虫だ。わたしのような優秀な才能を食い散らかしてダメにする、愚鈍な民衆そのものだ」

「そ、そんな!? わ、私はお父さまの足を引っ張ろうとは思ってないです! ほ、本当です!」



 実の父親に『醜悪』とまで言われた大和田ちゃんが、泣きそうな顔で言い募ろうとする。

 が、大和田の親父はそれを遮るかのように、ハッ! と乾いた笑みを浮かべ、



「お前は、わたしに喜んで欲しいらしいな? なら、今すぐ学校を辞めて、結婚してくれ。頼むから、わたしたち家族のジャマだけはしないでくれよ」

「~~~~っ!?」



 ――邪魔。



 そう告げられた瞬間、大和田ちゃんの顔が絶望に染まった。

 大和田ちゃんは自分の唇を噛みしめるなり、ガタッ! と勢いよく立ち上がって、何も言わずに職員室を後にしようと駆けだした。

 刹那ヤマキティーチャーが「待て、大和田!?」と制止をかけるが、俺の後輩はその声すらも無視して走り出す。

 バタンッ! と、乱暴にしまっていく扉。

 大和田の親父を除いて、職員室に居た全員が去って行った彼女の後ろ姿を、呆然ぼうぜんと眺めていた。

 誰も彼女を追いかけることが出来ず、立ち止まっている中、大和田の親父は至極迷惑そうに。



「まったく、相変わらず五月蠅うるさい娘だ。本当にわたしの子どもなのか、今でも信じられないくらいだ」

「っ!? 大和田さん、あなた!?」



 ヤマキティーチャーが眉根を吊り上げて、大和田の親父に詰め寄ろうとして……瞳を見開く。

 その瞳は、大和田の親父ではなく、隣に居た俺に注がれていた。


 ――このどうしようもないクソ野郎の襟首を握り締める、俺に注がれていた。
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