みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第8部 ぽんこつMy.HERO

第26話 見下してんじゃねぇぞ、クソジジィ?

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「――見下してんじゃねぇぞ、クソジジィ?」


 気がつくと俺は、大和田の親父の襟首を、力のかぎり握りしめていた。

 そのあまりに自然な行動に、ヤマキティーチャーはおろか、大和田の親父ですら呆気あっけとられて、反応が出来ないでいた。

 口をパクパクと動かし、「な、何を……!?」とつぶやく、大和田のクソ親父。



「き、キサマ!? 自分が何をしているのか、分かっているのか!? 暴力だぞ、暴力!?」

「うるせぇよ。自分の娘をモノみたいに扱いやがって……そういう言葉の暴力は許されるのか? あぁん!?」



 俺の後輩をまるでゴミクズでも見るかのように見つめる、あの冷たい目。

 思い返すだけで腹が立つ!



「大和田家の繁栄? 上等じゃねぇか。そんなに繁栄したいなら、自分の嫁さんでも愛人でも構わねぇから、ベッドの上でヘコヘコパコパコしてりゃいいさ」



 テメェの人生だ、好きにすりゃいい。

 どこぞの女とよろしくシコシコしてようが、どっかのJKと淫行してようが、どうぞご勝手にすればいいさ。



「でもな? テメェ、自分の娘を喰いモンにしたな?」



 彼女の親を名乗っておきながら、俺の後輩の信頼を、喰いモノにしたな?

 小さい頃がずっと信じて、努力してきたアイツを……アイツの気持ちを踏みにじり、あまつさえ自分の道具にしようとしたな?

 ふざけるな!



「そんなモン、父親とは言わねぇ。そんなモン、家族とは言わねぇ!」
「うぐぅっ!? ……く、苦し……っ!?」

「――せろ」



 あぁ? と、僅かに漏れる呼気が、不愉快そうな音色を奏でる。

 俺はそんな大和田のクソ親父の襟首を、グッ! と握り締め、射殺すような視線でまっすぐ睨みつけた。



「今すぐその薄汚ねぇツラを引っげて、この場から失せろって言ってんだ、このウスラトンカチ!」

「お、大神!? 落ち着け!」



 それ以上はマズイ! と、クソ親父の襟首から俺の手を引き離す、ヤマキ先生。

 締め上げられていた気道がようやく自由になった途端に、金魚のように口をパクパクさせながら、肺いっぱいに空気を吸い込む、大和田の親父。

 ゲホッ、ゴボッ!? と咳きこみつつも、酸素が身体中に行き渡るなり、今度は敵意がこれでもかと籠った瞳で、俺を睨みつけてきた。



「な、なんて奴だ!? 人様の襟首を握り締めるどころか、偉そうに説教なんかれてからに! わたしは年長者だぞ! もっとうやまわんか!」

「たかだが親のセックスが数十年早かっただけのヤツを、なんで敬わなきゃならねぇんだよ? 敬わってほしけりゃ、それ相応の振るまいでもするんだな、オッサン」

「~~~~っ!? こ、こ、こ、こんな侮辱を受けたのは生まれて初めてだ! このことは教育委員会に報告して、必ず問題にしてやるからな!?」



 リンゴのように顔を赤くしたクソ親父が、ギリギリと!? と奥歯を噛みしめる。

 そんな親父の反応を見て、ヤマキ先生が「まぁまぁ、そうカッカしないでくださいよ」と、なだめにかかった。



「子どもの言うことなんですから、こんなことにイチイチ目くじらを立てていたら、胃に穴が空きますよ? 私みたいに」

「こ、『こんなこと』だとぉ!? わたしよりも一回りも年下の小僧に、ここまでコケにされておいて、腹を立てるなと言いたいのか!?」



 ふしゅーっ! と、鼻の穴をこれでもかと大きく広げながら、ジロリッ! とヤマキ先生を射抜く。

 そんな大和田の親父に、ヤマキ先生は真剣な表情で見つめ返し、



「それから退学の件なんですが、学校側としては、彼女の退学を容認することは出来ません。もう1度、キチンとご家族と話し合ってから、彼女も納得したうえで、またお越しください」



 と言った。

 途端に「んなっ!?」と、変な声をあげる大和田の親父。

 そのままワナワナ!?と身体を小刻みに動かし、ガタッ! と勢いよくその場で立ち上がった。



「たかだが一介いっかいの教師風情が、わたしに逆らうというのか!? キサマにそんな決定権があると思っているのか!?」

「ないでしょうね。ですが、どんなことがあっても、彼女が納得しない限り、私が退学なんかさせません」

「き、き、き、キサマぁっ!? こ、こ、こ、このことを教育委員会に言いつけてもいいのか!?」



 ブルブル!? と震える指先をヤマキ先生に向ける、大和田の親父。

 ヤマキ先生は、そんな怒声などどこ吹く風とばかりに、涼しい表情で、



「どうぞご自由に」



 と答えた。



「大和田さん? 我々大人のやることは、常に正しいんですか?」

「なっ、何を突然? あ、当たり前だ! 優秀な大人である我々だからこそ、愚かなる子どもたちを導いてやらなければならないのだ!」

「なら、大人は絶対に間違えないと言うんですか? ……私はそうは思いません」



 先生は確固たる信念の炎を瞳に宿しながら、まっすぐ、どこまでもまっすぐに、大和田の親父を射抜いた。



「大人だって間違えるんです。子どもたちと同じように、間違えるんです。私もあなたも、そこに居る大神くんも、間違えるんです。でも、間違えることは悪いことではありません。そこから学びは生まれ、また1つ、人は賢くなっていくのですから。だからこそ、子ども達がいつでも間違っていいように、学校があるんです。いつでも間違えられるように、我々教師がついているんです」



 それでも、間違えてはいけないことが、1つだけあります。

 そう言って、ヤマキ先生は大和田の親父に厳しい視線を送った。



「それは『子ども達の気持ち』を踏みにじることです」

「子どもの気持ちを、踏みにじる……だと?」

「はい。ですから、もう1度だけ。もう1度だけで構いませんので、娘さんと真正面から向き合ってあげてはくれませんか?」

「…………」



 その切実なる声音は、大和田の親父に届いたのかは、俺には分からない。

 ただ親父は、少しだけ何かを考えるように沈黙し、



「……ハッ! くだらない」



 と、心の底から侮蔑のこもった眼差しで、一蹴いっしゅうした。



「高校教師ごときが、わたしに説教など、何様のつもりだ? このことは絶対に教育委員会に報告させてもらうし、娘は必ず退学させるからな!」

「……そうですか、残念です」

「こちらも残念だよ。もっと優秀な人かと思っていたんだがね」



 失礼する。

 ツカツカ! と職員室を後にする、大和田のクソ親父。

 そんな親父の背中を見送りながら、ヤマキ先生は「はぁ~」と、深いため息をこぼしながら、ソファーの背もたれに身をあずけた。

 全身脱力する情けない先生の姿に、俺は何故か誇らしい気持ちになった。



「ん? 何を笑っている大神?」

「先生さ、ちょっとカッコいいんじゃねぇの?」

「バカたれ。先生はいつだってカッコいいわい。……それよりも、ほれ」



 先生は、おもむろにポケットから小さな鍵を取り出すと、


 ――ひょいっ!


 と俺の方に投げ渡してきた。

 片手でソレをキャッチしながら、「なんだコレ?」と首を傾げる。

 そんな俺にヤマキティーチャーは、あっけらかんとした様子でこう言った。



「職員専用の自転車の鍵だ。ママチャリだけどな。どうせ大神、おまえのことだ。大和田を探しに、街まで行くんだろ? なら使え。足は必要だろ?」

「あっ、やっぱり分かっちゃいます?」

「分かるに決まっているだろうが。こっちは1年も『おまえ』を見てきたんだぞ?」



 大神の考えている事くらい、お見通しだ。

 と笑って見せる、ヤマキ先生。

 誰かに『自分』を見てもらっている、見守ってくれていると分かるだけで、心の奥が温かくなってくるし、勇気が湧いてくる。

 自分はこの世界に居ていいんだと、肯定して貰えているような、そんな気がして、安心できるのだ。

 ……だからこそ、今はすごく胸が痛い。

 きっと大和田ちゃんは、実の父親から『自分』を見て貰えていなかったのだろう。

 それはきっと、俺が想像しているよりも孤独で、辛かったに違いない。

 なんてことを今考えたところで、詮無きこと。

 今は1秒でも早く、彼女を見つけてあげる事が先決だ!



「ありがとうございます、先生! それじゃ少しだけ『マジックミラー号』をお借りしますね!」

「大神……おまえという男は、まともに感謝の言葉も口に出来んのか? あと、その名前はやめろ? 死んでもやめろ?」



 先生の湿った視線を背中に感じながら、俺はデリヘル号の鍵を握り締め、職員室を駆けだした。



「さて、ちょっくらパラリラして来ますかな!」
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