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第9部 聖夜に水星は巡航する
第29話 聖夜に水星は巡航す
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冬の訪れ07ホール事件から2週間を空けた、日曜日の今日。
時刻は夕方の4時に迫ろうかとしている時間帯。
もうこの頃には東から夜が這いよってきているのか、辺りは薄暗く、寒さが足下へとやってくる。
そんな魔法の夜に、ここ森実高校の体育館は、多数の生徒で異様な賑わいをみせていた。
「うぉぉっ……。ちょっとトイレで着替えている間に、メッチャ人増えてんじゃん」
「おぉっ! 相棒、相棒! コッチやで、コッチ!」
体育館の入口で呆然と立ち尽くす俺の鼓膜に、妙に聞き慣れたアホっぽい声音が飛び込んでくる。
俺は素直に声のした方向に視線を向けると、そこには何故か真っ赤な服を着た――というか、サンタのコスプレをした元気が「コッチちやで、コッチ!」と、手をブンブン振っていた。
「うーす、元気。15分ぶり。元気だった? というか、アレ? 司馬ちゃんはどうした?」
「マイハニーやったら、大和田はんと一緒に昇降口前で『受け付け』をしとるで。それにしても、今日はゴッツ人が集まったなぁ」
元気は俺から視線を切るなり、ザワザワッ! と騒がしい体育館を軽く見渡し始めた。
そう、今日は12月24日。
俺たちが夢に見るほど待ちに待った、クリスマス会当日なのだ!
中央には輝くツリーが据えられ、暗幕を引かれ、ライトとイルミネーションで飾りつけられた体育館内は、1年生から3年生に至るまで、たくさんの生徒の笑顔で、ごった返していた。
クリスマスイブのパーティーという非日常感のせいで、浮かれ気分も絶頂なのだろう。
あちこちで浮かれポンチな奴らが、早くも調子に乗り始めていた。
……まぁ全員2年A組男子一同なのだが。
「お、アマゾン発見。って、あぁ~……。なんか3年の先輩とモメてんなぁ」
「多分先輩の女にちょっかいかけて、しこたま怒られとるんやないか、アレ?」
キラキラのとんがり帽子に、鼻眼鏡を装着した我がクラスきっての天才は、半ベソをかきながら、ペコペコッ!? と頭を下げまくっていた。
いや、アマゾンだけではない。
多くの2A男子たちが、彼氏持ちの女子生徒に声をかけ、撃沈。
もしくは説教されているのが凄く目に入った。
う~ん。すごいなぁ、アイツら?
まだパーティーは始まってすらいないのに、もう終わりを迎えてるじゃないか。
その無駄な行動力だけには、賞賛を送りたい。
「それにしても、相棒のその恰好も中々やなぁ」
「いや、全身サンタ・コスチュームのおまえには言われたくねぇよ。しょうがねぇだろ? 芽衣に『コレを着てこい!』って言われたんだから」
軽口を叩きながら、改めて自分の服装を見下ろしてみる。
ブラックスーツに身を纏い、緩めに作ったネクタイの結び目と、3つのボタンのうち真ん中しか留めていない着こなし。
最後に自慢の赤髪のリーゼントをオールバックへと変更すれば、あら不思議☆
シロウもすっかり王子さま☆ ……裏世界のね。
「いやぁ、でも色も上品で黒やのに、喪服っぽくなくて、よく似合っとるで若頭?」
「誰が若頭だ。跡目でもねぇから。裏世界の貴公子でもねぇから」
なんてくだらない応酬を繰り広げていると、とある1組のカップルが、俺たちの前へとトコトコやってきた。
そのカップルの片割れは、飼い主を見つけた犬のように笑顔で「若がし――大神せんぱぁ~いっ!」と手を振っている。
「よかった! 大神先輩も、やっぱり参加してたんすね、クリスマス会!」
「ねぇ今『若頭』って言いかけなかった?」
そんなまさかぁ~! と、ケラケラ楽しそうに笑うこのカップルの片割れは、例の『冬の訪れ07ホール事件』の真犯人にして、今や幼馴染の新垣ちゃんと付き合っている浮かれポンチ日本代表こと、亀梨頭介1年生だった。
これみよがしに新垣ちゃんの肩を抱きしめ「はッはっはっはっはっ!」と、快活に笑うその汚ねぇ口に、俺の使用済みパンツでもネジ込んで黙らせてやろうかと、本気で考えてしまう。
ちなみに新垣ちゃんは亀梨少年に肩を抱かれて、満更でもない表情を浮かべていた。
可愛いな、チクショウめ?
どこまでもクレバーに抱きしめてやろうか?
「ほんと大神先輩が『あのとき』背中を押してくれたおかげで、ガッキーとこうして付き合うコトが出来たっす! ほんと、先輩には感謝してもしきれないっすよ!」
「うるせぇ、うるせぇ。声がデケェよ」
どっか行きなさいっ!
シッシ! と犬でも追い払うように手首をプルプル振ると、亀梨少年たちは「しょうがない」とばかりに、俺たちから離れて行った。
そんな少年たちの後ろ姿を眺めていると、元気がポロリと愚痴でも溢すように、小さく呟いた。
「まったく、呑気なもんやなぁ。クリスマス会を潰そうとした、張本人のクセに。そんなコト、もう忘れたとばかりに、コロッ! と態度を変えて、彼女はんと楽しみやがってからに……。ほんと1発ドツいたろか、アイツ?」
「そう言うなって。アレでも反省してるらしいんだからさ」
「相変わらず相棒は甘いなぁ。反省しとるからって、今までやったことは変わらんやろ? 大体、あの事件の後処理だって、ワイらがやったんやで? それのせいで、クリスマス会の準備だって遅れて……。ほんともうギリギリやったのに、当の本人はそんなこと忘れたみたいに楽しみよってからに」
許せんわい! と、珍しく憤慨する我が親友。
今回の件に関しては、あまり関係ない話になるのだが、元気は普段は竹を割ったようなサッパリした男だが、この種のことに関しては、結構根に持つタイプだったりする。
苦労は人に押しつけて、自分は美味しいところだけ持っていく。
そういう利口な人間が、コイツはあまり好きじゃない。
頑張った人間は、キチンと評価されるべきだ! というのが、元気の考えなのだ。
俺は厳しい瞳を亀梨少年に向ける元気に苦笑を浮かべながら、「気持ちは分かるが、落ち着けって」と、肩を竦めて言ってやった。
「確かに亀梨少年のしでかしたシワ寄せが、コッチ来たけどさ? その分、亀梨少年も芽衣たちに『お灸』を据えられたみたいだし、どっこいどっこいだろ?」
あの『冬の訪れ07ホール事件』の後、亀梨少年と谷垣同級生は、ヤマキティーチャーと芽衣によって、コッテリ絞られたらしい。
と、よこたんが言っていた。
あの2人の説教の恐ろしさは、俺が文字通り、身を持って1番分かっている。
それを同時に喰らうだなんて……並みの精神じゃ耐えられない。
その証拠に、亀梨少年と谷垣はしばらくの間、幽鬼のような足取りで罰掃除の校内清掃をしていた。
「ぶっちゃけ、谷垣の3股がどうなったのかとか、亀梨少年と新垣ちゃんの交際の経緯についてとか、今の亀梨少年の『気持ち』とかも、詳しく知りたいと思ってはいるのだが。……もうそんなこと、どうでもよくなったわ」
もう俺の頭の中には、亀梨バカップルや谷垣のことなど、綺麗サッパリどこかへ消えていた。
代わりに、俺の瞳は、さっきから体育館内をチョロチョロ♪ と動き回る、1人の金髪ロリ巨乳へと注がれていた。
いや、正確には、その下半身に全神経を集中させていた。
「なぁ元気よ? あのうさみんのサンタコス……下は何か穿いているのか?」
「やっぱ相棒もそこが気になったか。実はワイもソレが知りたいと思っとった所や」
俺と元気は真顔で仁王立ちしながら、ジュースを配り歩いているパツキン巨乳の下半身をガン見する。
現在のうさみんは、元気と同じサンタクロースの格好に身を包んでいるのだが、サイズが若干大きいのか……上着が腰の下まであり、そのなんだ? 超ミニスカートのような有様になっているのだ。
そこから真っ白でしなやかな生の太ももが伸びていて、中々に男子高校生の目を惹く、卑猥な格好になっている。
「こう、見えそうで見えないギリギリのラインが、男心をくすぐるよなぁ」
「分かる。メッチャ分かるでぇ相棒。常時見えそうで見えないという、ある意味で丸見えより一層男心をくすぐるよなぁ」
「うんうん。しかもコレが合法っていうね。もう……何なのアイツ? 俺らの心を弄ぶなんて、魔性の女なの? 将来は銀座で出稼ぎに行きながら、都心の高層マンションでセレブな生活でもするのアイツ?」
「あの男を好きにする爆乳といい……ほんま末恐ろしい女やで」
「な? 身体だけなら100点満点だよな」
俺は元気の言葉に同意するように、首を縦に振った。
ほんと末恐ろしい女だ。
なんせ現在進行形で、うさみんの裾の向こう側に広がるワンダーランドを確認しようと、床に額をこすりつけ、全力で覗き見しようとしている2年A組男子一同を惹きつけるくらい、爆裂ボディを惜しげもなく晒しているんだから。
いやぁ、ほんと恐ろしいわ……。
うさみんのミラクルボディも、俺のクラスメイトたちも。
「マジで身体だけなら、ドストライクなんだよなぁ」
なんてことを呟きながら、仲間たちのその行動力の高さに、もはや驚きを通り越して恐怖すら抱いていると、ふと『ある人物たち』が居ないことに気がつく。
「あれ? そういや双子姫はどこ行った?」
姿が見えねぇけど? と、俺が口をひらくと同時に、突然スルスルと舞台の幕が上がった。
その瞬間、腹の底に響くような音楽と、矛盾したように木漏れ日の中で微睡むような軽やかな歌声が俺の身体を、いやこの場に居る全員を駆け抜けていった。
途端に全員、弾かれたように舞台へと視線を向ける。
そこには、少し前に文化祭で演奏して結構上手いと評判になった女子軽音部の面々と、そんな彼女たちを引きつれて、マイクスタンドの前で有名なクリスマスソングを歌う女子生徒が2人――てぇ!?
「おわっ!? 芽衣とよこたんじゃねぇか! なんで!?」
「こりゃ驚いた……」
目を白黒させる俺と元気。
そう、そこには同じ膝上丈のブラックドレスに、これまた同じ髪型に纏め上げた、我らが双子姫が、檀上でその歌声を遺憾なく発揮していたのだ!
深い赤の口紅に、肘まで届くグローブ、そして演奏に合わせて声を重ねる2人。
スタンドマイクの前で右に左にとステップを踏みながら、小首を捻り、可愛くウィンク♪
そして歌声は淡くハーモニーを奏でる。
そんな彼女たちに引きずられるように、歓声があちこちから重なり、熱狂の色を帯びて狂おしく弾けていく。
「すげぇ……。あいつら、この短い時間に、こんなこと考えてたのかよ……」
「な? まさかワイらに内密でこんなコトを進めとったやなんて、ほんまいい性格しとるで。ワイらのリーダーは」
うさみんのお尻から、ステージに釘づけになった元気が、頬を緩まして、うんうん! と頷く。
確かに司会進行は古羊姉妹に任せてあるため、何をするのかは詳しく聞いてはいなかったが……いやはや。
まさか俺たちにナイショで、こんなサプライズを用意しているとは。
思わず俺も釣られて頬が緩んでしまう。
そんな今夜限りのスペシャルな演出を前に、足下から響く振動が、全身の血を震わせる。
そのとき、ふいに舞台の上で歌って踊っていた歌姫こと、古羊芽衣と視線がかち合う。
芽衣は途端にニンマリ♪ と、『してやったり!』という笑みを浮かべ、
――どう? 驚いた? すごいでしょ!
と、目がこれでもかと語っていた。
クルリッ! と、よこたんと同時に背中を向け、数拍置いてから振り返る。
その瞬間、パチン☆ と芽衣は小さなウィンクを飛ばしてきた。
他の誰にも気づかれないくらい素早く、俺にだけに。
「ふっ……バーカ」
ミスしても知らねぇぞ?
思わず笑顔で悪態を吐きながら、俺は舞台の上で輝き続ける彼女たちを見守り続けた。
胸に湧き起こる高揚感と共に、笑い声と歓声に身を任せながら。
時刻は夕方の4時に迫ろうかとしている時間帯。
もうこの頃には東から夜が這いよってきているのか、辺りは薄暗く、寒さが足下へとやってくる。
そんな魔法の夜に、ここ森実高校の体育館は、多数の生徒で異様な賑わいをみせていた。
「うぉぉっ……。ちょっとトイレで着替えている間に、メッチャ人増えてんじゃん」
「おぉっ! 相棒、相棒! コッチやで、コッチ!」
体育館の入口で呆然と立ち尽くす俺の鼓膜に、妙に聞き慣れたアホっぽい声音が飛び込んでくる。
俺は素直に声のした方向に視線を向けると、そこには何故か真っ赤な服を着た――というか、サンタのコスプレをした元気が「コッチちやで、コッチ!」と、手をブンブン振っていた。
「うーす、元気。15分ぶり。元気だった? というか、アレ? 司馬ちゃんはどうした?」
「マイハニーやったら、大和田はんと一緒に昇降口前で『受け付け』をしとるで。それにしても、今日はゴッツ人が集まったなぁ」
元気は俺から視線を切るなり、ザワザワッ! と騒がしい体育館を軽く見渡し始めた。
そう、今日は12月24日。
俺たちが夢に見るほど待ちに待った、クリスマス会当日なのだ!
中央には輝くツリーが据えられ、暗幕を引かれ、ライトとイルミネーションで飾りつけられた体育館内は、1年生から3年生に至るまで、たくさんの生徒の笑顔で、ごった返していた。
クリスマスイブのパーティーという非日常感のせいで、浮かれ気分も絶頂なのだろう。
あちこちで浮かれポンチな奴らが、早くも調子に乗り始めていた。
……まぁ全員2年A組男子一同なのだが。
「お、アマゾン発見。って、あぁ~……。なんか3年の先輩とモメてんなぁ」
「多分先輩の女にちょっかいかけて、しこたま怒られとるんやないか、アレ?」
キラキラのとんがり帽子に、鼻眼鏡を装着した我がクラスきっての天才は、半ベソをかきながら、ペコペコッ!? と頭を下げまくっていた。
いや、アマゾンだけではない。
多くの2A男子たちが、彼氏持ちの女子生徒に声をかけ、撃沈。
もしくは説教されているのが凄く目に入った。
う~ん。すごいなぁ、アイツら?
まだパーティーは始まってすらいないのに、もう終わりを迎えてるじゃないか。
その無駄な行動力だけには、賞賛を送りたい。
「それにしても、相棒のその恰好も中々やなぁ」
「いや、全身サンタ・コスチュームのおまえには言われたくねぇよ。しょうがねぇだろ? 芽衣に『コレを着てこい!』って言われたんだから」
軽口を叩きながら、改めて自分の服装を見下ろしてみる。
ブラックスーツに身を纏い、緩めに作ったネクタイの結び目と、3つのボタンのうち真ん中しか留めていない着こなし。
最後に自慢の赤髪のリーゼントをオールバックへと変更すれば、あら不思議☆
シロウもすっかり王子さま☆ ……裏世界のね。
「いやぁ、でも色も上品で黒やのに、喪服っぽくなくて、よく似合っとるで若頭?」
「誰が若頭だ。跡目でもねぇから。裏世界の貴公子でもねぇから」
なんてくだらない応酬を繰り広げていると、とある1組のカップルが、俺たちの前へとトコトコやってきた。
そのカップルの片割れは、飼い主を見つけた犬のように笑顔で「若がし――大神せんぱぁ~いっ!」と手を振っている。
「よかった! 大神先輩も、やっぱり参加してたんすね、クリスマス会!」
「ねぇ今『若頭』って言いかけなかった?」
そんなまさかぁ~! と、ケラケラ楽しそうに笑うこのカップルの片割れは、例の『冬の訪れ07ホール事件』の真犯人にして、今や幼馴染の新垣ちゃんと付き合っている浮かれポンチ日本代表こと、亀梨頭介1年生だった。
これみよがしに新垣ちゃんの肩を抱きしめ「はッはっはっはっはっ!」と、快活に笑うその汚ねぇ口に、俺の使用済みパンツでもネジ込んで黙らせてやろうかと、本気で考えてしまう。
ちなみに新垣ちゃんは亀梨少年に肩を抱かれて、満更でもない表情を浮かべていた。
可愛いな、チクショウめ?
どこまでもクレバーに抱きしめてやろうか?
「ほんと大神先輩が『あのとき』背中を押してくれたおかげで、ガッキーとこうして付き合うコトが出来たっす! ほんと、先輩には感謝してもしきれないっすよ!」
「うるせぇ、うるせぇ。声がデケェよ」
どっか行きなさいっ!
シッシ! と犬でも追い払うように手首をプルプル振ると、亀梨少年たちは「しょうがない」とばかりに、俺たちから離れて行った。
そんな少年たちの後ろ姿を眺めていると、元気がポロリと愚痴でも溢すように、小さく呟いた。
「まったく、呑気なもんやなぁ。クリスマス会を潰そうとした、張本人のクセに。そんなコト、もう忘れたとばかりに、コロッ! と態度を変えて、彼女はんと楽しみやがってからに……。ほんと1発ドツいたろか、アイツ?」
「そう言うなって。アレでも反省してるらしいんだからさ」
「相変わらず相棒は甘いなぁ。反省しとるからって、今までやったことは変わらんやろ? 大体、あの事件の後処理だって、ワイらがやったんやで? それのせいで、クリスマス会の準備だって遅れて……。ほんともうギリギリやったのに、当の本人はそんなこと忘れたみたいに楽しみよってからに」
許せんわい! と、珍しく憤慨する我が親友。
今回の件に関しては、あまり関係ない話になるのだが、元気は普段は竹を割ったようなサッパリした男だが、この種のことに関しては、結構根に持つタイプだったりする。
苦労は人に押しつけて、自分は美味しいところだけ持っていく。
そういう利口な人間が、コイツはあまり好きじゃない。
頑張った人間は、キチンと評価されるべきだ! というのが、元気の考えなのだ。
俺は厳しい瞳を亀梨少年に向ける元気に苦笑を浮かべながら、「気持ちは分かるが、落ち着けって」と、肩を竦めて言ってやった。
「確かに亀梨少年のしでかしたシワ寄せが、コッチ来たけどさ? その分、亀梨少年も芽衣たちに『お灸』を据えられたみたいだし、どっこいどっこいだろ?」
あの『冬の訪れ07ホール事件』の後、亀梨少年と谷垣同級生は、ヤマキティーチャーと芽衣によって、コッテリ絞られたらしい。
と、よこたんが言っていた。
あの2人の説教の恐ろしさは、俺が文字通り、身を持って1番分かっている。
それを同時に喰らうだなんて……並みの精神じゃ耐えられない。
その証拠に、亀梨少年と谷垣はしばらくの間、幽鬼のような足取りで罰掃除の校内清掃をしていた。
「ぶっちゃけ、谷垣の3股がどうなったのかとか、亀梨少年と新垣ちゃんの交際の経緯についてとか、今の亀梨少年の『気持ち』とかも、詳しく知りたいと思ってはいるのだが。……もうそんなこと、どうでもよくなったわ」
もう俺の頭の中には、亀梨バカップルや谷垣のことなど、綺麗サッパリどこかへ消えていた。
代わりに、俺の瞳は、さっきから体育館内をチョロチョロ♪ と動き回る、1人の金髪ロリ巨乳へと注がれていた。
いや、正確には、その下半身に全神経を集中させていた。
「なぁ元気よ? あのうさみんのサンタコス……下は何か穿いているのか?」
「やっぱ相棒もそこが気になったか。実はワイもソレが知りたいと思っとった所や」
俺と元気は真顔で仁王立ちしながら、ジュースを配り歩いているパツキン巨乳の下半身をガン見する。
現在のうさみんは、元気と同じサンタクロースの格好に身を包んでいるのだが、サイズが若干大きいのか……上着が腰の下まであり、そのなんだ? 超ミニスカートのような有様になっているのだ。
そこから真っ白でしなやかな生の太ももが伸びていて、中々に男子高校生の目を惹く、卑猥な格好になっている。
「こう、見えそうで見えないギリギリのラインが、男心をくすぐるよなぁ」
「分かる。メッチャ分かるでぇ相棒。常時見えそうで見えないという、ある意味で丸見えより一層男心をくすぐるよなぁ」
「うんうん。しかもコレが合法っていうね。もう……何なのアイツ? 俺らの心を弄ぶなんて、魔性の女なの? 将来は銀座で出稼ぎに行きながら、都心の高層マンションでセレブな生活でもするのアイツ?」
「あの男を好きにする爆乳といい……ほんま末恐ろしい女やで」
「な? 身体だけなら100点満点だよな」
俺は元気の言葉に同意するように、首を縦に振った。
ほんと末恐ろしい女だ。
なんせ現在進行形で、うさみんの裾の向こう側に広がるワンダーランドを確認しようと、床に額をこすりつけ、全力で覗き見しようとしている2年A組男子一同を惹きつけるくらい、爆裂ボディを惜しげもなく晒しているんだから。
いやぁ、ほんと恐ろしいわ……。
うさみんのミラクルボディも、俺のクラスメイトたちも。
「マジで身体だけなら、ドストライクなんだよなぁ」
なんてことを呟きながら、仲間たちのその行動力の高さに、もはや驚きを通り越して恐怖すら抱いていると、ふと『ある人物たち』が居ないことに気がつく。
「あれ? そういや双子姫はどこ行った?」
姿が見えねぇけど? と、俺が口をひらくと同時に、突然スルスルと舞台の幕が上がった。
その瞬間、腹の底に響くような音楽と、矛盾したように木漏れ日の中で微睡むような軽やかな歌声が俺の身体を、いやこの場に居る全員を駆け抜けていった。
途端に全員、弾かれたように舞台へと視線を向ける。
そこには、少し前に文化祭で演奏して結構上手いと評判になった女子軽音部の面々と、そんな彼女たちを引きつれて、マイクスタンドの前で有名なクリスマスソングを歌う女子生徒が2人――てぇ!?
「おわっ!? 芽衣とよこたんじゃねぇか! なんで!?」
「こりゃ驚いた……」
目を白黒させる俺と元気。
そう、そこには同じ膝上丈のブラックドレスに、これまた同じ髪型に纏め上げた、我らが双子姫が、檀上でその歌声を遺憾なく発揮していたのだ!
深い赤の口紅に、肘まで届くグローブ、そして演奏に合わせて声を重ねる2人。
スタンドマイクの前で右に左にとステップを踏みながら、小首を捻り、可愛くウィンク♪
そして歌声は淡くハーモニーを奏でる。
そんな彼女たちに引きずられるように、歓声があちこちから重なり、熱狂の色を帯びて狂おしく弾けていく。
「すげぇ……。あいつら、この短い時間に、こんなこと考えてたのかよ……」
「な? まさかワイらに内密でこんなコトを進めとったやなんて、ほんまいい性格しとるで。ワイらのリーダーは」
うさみんのお尻から、ステージに釘づけになった元気が、頬を緩まして、うんうん! と頷く。
確かに司会進行は古羊姉妹に任せてあるため、何をするのかは詳しく聞いてはいなかったが……いやはや。
まさか俺たちにナイショで、こんなサプライズを用意しているとは。
思わず俺も釣られて頬が緩んでしまう。
そんな今夜限りのスペシャルな演出を前に、足下から響く振動が、全身の血を震わせる。
そのとき、ふいに舞台の上で歌って踊っていた歌姫こと、古羊芽衣と視線がかち合う。
芽衣は途端にニンマリ♪ と、『してやったり!』という笑みを浮かべ、
――どう? 驚いた? すごいでしょ!
と、目がこれでもかと語っていた。
クルリッ! と、よこたんと同時に背中を向け、数拍置いてから振り返る。
その瞬間、パチン☆ と芽衣は小さなウィンクを飛ばしてきた。
他の誰にも気づかれないくらい素早く、俺にだけに。
「ふっ……バーカ」
ミスしても知らねぇぞ?
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