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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!
第1話 パンスト@マスター~死んでろやボーイズ~
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パンスト――正式名称パンティ&ストッキング。
女性のブラジャーやパンティーに並ぶ、三大究極扇情増強補助道具の1つだ。
人類が生んだ発明品の中で、これほどまでに男心をくすぐる代物が、この世に存在しただろうか? いや、していない。
10代半ばにして、簡単な魔法なら使えるじゃないか? と巷でもっぱらの噂の未来のテロリストこと三橋倫太郎、通称アマゾンが世に解き放った、
『パンストとは1%の閃きと、99%のナイロンとポリウレタンの混合である』
は、みなの記憶に新しいと思う。
さて、では何故俺、大神士狼が突然パンストについて語り始めたか、みな疑問に思っていたことだろう。
理由は至極単純。
――我らが同士アマゾンが、女子更衣室のゴミ箱から、伝線したパンストを発見したからだ。
……いや待ってくれ、通報しないでくれ。
とりあえず、その取り出したスマホはポケットに戻そうか?
まぁまずは1回落ちつて、俺の話を聞いて欲しい。
別に盗撮とか盗みに入ったとか、そういう話じゃないから。ほんとだから!
これにはちゃんとした理由があるんですよ、いやマジで?
そう、事の発端は5分前に遡る。
◇◇
12月26日。
それまで忍者のように息を潜めてクリスマスをやり過ごしていた独り身たちが、一斉に息を吹き返すこの日。
我が森実高校では、2学期の終わりを告げる終業式が開催されていた。
と言っても、ウチの学校は他の学校と違って少し特殊らしく、1限だけ授業をしたのち、2、3限を使って、校長の長いうえにまったく身にならないブラック企業の副社長のような言葉を延々と聞かされる苦行を行い、各教室で通知表を返却。4限目で大掃除開始という段取りだった。
我が2年A組も、もう気分は冬休みなので、ダラダラとやりたくもない体育に精を出し、校長の、
『いいですか、みなさん? 何にとは言いませんが、ナニにはゴムをつけましょうね? ハメを外すのは構いませんが、ハメるのはダメですよ?』
と、最高にエキサイティングなことを言ってしまったがために、ヤマキティーチャーに無言で檀上の隅へと引きずられていく様を、涙ながらに敬礼で見送る素敵イベントが発生したりと、今日も今日とて森実高校は平常運転であった。
とくに校長が檀上の脇へ消えて行く最中に聞こえた「あぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!?」という叫び声は、今思い出しても胸が熱くなってくる。
闇へと消えて行く校長を前に、脳内で『ドナドナ』が流れ出したときは、とてつもない程の感動が胸に去来したのを、俺はきっと、この先忘れないと思う。
そして教室へと戻るなり、担任からさっさと通知表を受け取り、全学年通して大掃除が始まった。
問題児は一か所に集めて置きたいのか、元気とアマゾン、そしてこの2人の見張り役の為に選ばれたと思われる俺は、ヤマキティーチャーの独断と偏見により、無駄にクソ広い体育館を掃除していくことになったのが、全ての始まりだった。
タラタラと体育館内を掃除していた俺と元気の鼓膜に、アマゾンの焦ったような声音が貫いたのだ。
「た、大変だ2人とも!」
と、勢いよく女子更衣室から飛び出してきたアマゾン。
アマゾンは裁判所から飛び出してきた弁護団が掲げる『勝訴』の文字のごとく、伝線した黒のパンストを両手で高々と掲げながら、鼻息を荒くして、俺たちのもとへと駆けてきた。
その姿はさながら、風の谷あたりで『その者、黒きパンストを纏いて、森実の体育館に降りたつべし』とか言い伝えてられそうなくらい、威風堂々であった。
「女子更衣室のゴミ箱に、伝線したパンストが捨てられていたぞ!」
「猿野元気、三橋倫太郎――集合っ!」
「「はいっ!」」
瞬間、気がつくと俺達は、全員体育館の隅へと移動し、円陣を組むように、その真ん中にパンストをセッティングしていた。
そして現在に至る、というワケだ。
アマゾンは日頃見せない真剣な眼差しで、この世ならざるパンストの手触りを堪能しつつ、
「今日体育があったのは、ウチの学年だけ……。つまりっ! このパンストは、2年A組の女子の『誰か』ってことになる!」
「おいおい、アマゾン……おまえ名探偵かよ?」
「あぁ、ジッチャンもドン引きの名推理やで」
俺と元気がアマゾンを口々に褒めちぎると、アマゾンは照れ臭そうに「へへっ、よせやい」と、鼻の下を擦った。
そのプリティ極まる姿を前に、今すぐ眼球を取り外してガンジス川で洗濯したい衝動に駆られるが、そこは大人の対応ということで、グッと堪える。
その間にも、クラス1の頭脳派たる元気が、必死に記憶の底を漁っていた。
「朝はパンスト着用で、帰りは素足だった女子生徒かいな……アカンッ! どういうワケか記憶にモヤがかかって、思い出せへん!」
「落ち着け、元気。大丈夫だ。逆算すれば問題ない」
逆算? と首を捻る2人を前に、俺は「あぁ」とシリアス全開の声音で頷いてみせた。
「今日パンストを履いて来た女子生徒は、全員で3人。1人は蛇塚女子、もう1人は中川女子、そして最後は我らが『双子姫』の姉君、古羊芽衣サマだ」
俺がそう口にした瞬間、3人が3人とも、ほぼ同時に芽衣について思考を馳せた。
古羊芽衣――おそらく森実高校に通っている生徒ならば、全員知っていると言っても過言ではない伝説的美少女、それが古羊芽衣である。
太陽の光を一身に受け止めた亜麻色の髪に、濡れた紅玉のような瞳。
誰に対しても分け隔てない柔らかな物言いに、グラビアモデルのようなナイスバディな巨乳女の子。
……を2人とも想像しているだろうが、残念ながら本性はまったくの真逆。
ズボラで、腹黒で、おまえに計算高く、終いには超パッドで胸をギガ盛りしている、悪魔のような猫かぶりの女こそ、古羊芽衣の本質なのだ!
まぁこのことを知っているのは俺を含め、あと1人だけなんだけどね。
なんてことを考えている間に、さらに鼻息を荒くしたアマゾンが、興奮したように口をひらいた。
「と、とととと、ということはアレか!? このパンストは、こ、ここっ、古羊さんのヤツか!?」
「いや違う、よく見ろ。芽衣のパンストは60デニール、だがこのパンストは110デニール。今日110デニールを履いて登校して来た女生徒は全校で33人。そしてウチのクラスではただ1人……出席番号31番! 蛇塚同級生だ! つまりこのパンストは現役女子校生、蛇塚女子の脱ぎ捨てパンティ&ストッキングである! Q.E・D証明終了」
「さすが大神……いやパンスト@マスター。その観察眼はダテじゃないってことか」
「まったくや。何気に全校生徒のデニール数まで確認済みの、その情報収集能力……やはり相棒は天才か?」
「――いいえ、変態ですよ?」
「「「ッ!?」」」
突然。
突然である。
まるでこちらの心臓を握り締めるかのような鋭く、冷たい視線が俺たちの鼓膜を射抜いた。
俺たちは弾かれたように、声のした方向へと視線を向けた。
そこには呆れたような瞳をして俺たちを見下す件の美少女、古羊芽衣の姿があった。
芽衣は呆れを通りこして哀れみすら抱きかねない瞳で、俺たちを見下ろしながら、今日も今日とて、その美脚をパンストに納めていた。
その姿はまさに、名刀を鞘に納めるが如し。
なんならずっと見ていられそうなくらい、照り返すパンストのコントラストが美しい。
俺は「なっ? 言った通り、芽衣じゃなかっただろ?」と、その愛らしい唇を仲間たちに向けて動かそうとした寸前、芽衣が先んじてため息をこぼした。
「ハァ……。あまりにも遅いので心配して来てみれば……何をしているんですか、3人とも?」
「「犯人は大神士狼です」」
「あっ、テメェら!?」
その薄汚ねぇ口からハーモニーでも奏でるかのように、いけしゃあしゃあと嘘をぶっこむ元気とアマゾン。
その麗しき友情に、涙がちょちょぎれそうになる俺を尻目に、芽衣がヒョイッ! と身軽な動きで、俺たちの中心に供えられていた神器を取り上げてしまう。
途端にアマゾンと元気の口から「あぁっ!?」と悲痛な声が漏れる。
「コレはわたしが処理して置きますから、3人は早く帰る準備をしてください。とくに士狼と猿野くんは今年最後の生徒会活動があるんですから、チンタラしているヒマはありませんよ?」
と、俺たちに発破をかけてくる60デニール。
ふと時計を確認すると、確かにもう大掃除が終わっている時間だった。
チラッ! と体育館の外に視線をやれば、みなウキウキ♪ しながら帰りの家路へとついている姿が目に入った。
こ、こうしちゃいられねぇ!
俺らも早く帰る準備をしなければ!
冬休みをロケットスタートするべく、俺たちは慌てて掃除道具を片付け始めるべく動き出す。
俺は元気達と別れて舞台袖に設置されている掃除道具入れへと、いそいそと移動した。
……のだが、何故か芽衣はトコトコ♪ と、俺の後ろをついて回ってくる。
おいおい、完全に俺ロックオンですやん!
狙い撃ってるや~ん!
ちゃんと片付けるから、そんな心配しないで大丈夫ですわよ?
なんて内心俺がおどけている間に、芽衣は俺たち2人しか居ないことを確認するや否や、生徒会長の仮面を取っ払い、素の口調に戻って、
「ねぇ士狼、ちょっとした疑問なんだけどね? なんでアタシが60デニールのストッキングを履いているって気づいたの? 教えてないわよね?」
「そんなの一目見ただけで分かるだろ? 常識的に考えて」
「いや分からないわよ……。どこの世界の常識よ、ソレ?」
何故か若干引いている女神さま。
まるでその身を守るかのように俺から1歩身を引くと、そのパンストに包まれた『おみ足』が、神々しく姿を現した。
う~ん?
1度でいいから、その60デニールのパンストを引き千切って楽しみたい。
ハァ、何故サンタさんは俺に『芽衣の60デニールのパンストを引き千切る』権利をプレゼントしてくれなかったのだろうか?
あの肥満老人どもは、ちゃんと仕事をしているのだろうか?
「はいはい。サンタへの風評被害はそこまでにして、さっさと片付けちゃいなさい」
「な、なに!? 何故俺の心の声が……!? さてはキサマ、見ているな!」
「普通に気持ち悪くニヤニヤしながらブツブツ呟いていたじゃない……」
何言ってんのよ? と、肩を竦める我らが女神さま。
あれぇ?
声に出てましたか、今の?
おいおい、どうやら俺のお口の警備員も冬休みに突入したらしい。
思考回路がただ漏れじゃないか。
コレは普通に怒られるなぁ、なんて考えていると、俺の予想に反して、芽衣のお叱りがない。
いつまで経ってもこない『お叱り』に、俺が「はて?」と首を捻りながら、おそるおそると言った様子で芽衣の顔を覗きみる。
そこには珍しく頬を赤く染めながら、言いづらそうに口元をもにょもにょ♪ させる女神さまが居た。
「芽衣?」と俺が彼女の名前を呼ぶと、我がビックボスは、チラチラと俺の顔色を窺うように、こう言った。
「その……そんなに破りたいの? パンスト?」
「破りたい。超絶破りたい」
ほんと、お口の警備員は一体何をしているのか?
ちゃんと仕事をして欲しいものだ。
もはや反射的にそう言ってしまい、すぐさま後悔。
分かってる……ビンタ(拳)コースでしょ?
知ってる、知ってる。
俺が菩薩のような瞳で右頬を差し出すと、芽衣は拳を振り上げる……ことなく、顔を真っ赤にして、スカートの裾を、
――ちょいっ!
と摘み上げた。
すると、どうだ?
彼女の美しい肉感を伴った脚線美が、太ももまで『こんにちは♥』
あと少し身を屈めば、スカートの向こう側に存在する楽園が拝めそうじゃないか!
――って、そうじゃい、そうじゃないだろう俺!?
えっ!?
なにしてんの、コイツ!?
痴女なの?
痴女さんなの!?
驚愕の瞳で芽衣を見つめる俺。
そんな俺のことなどお構いなしに、芽衣は羞恥で真っ赤になった頬のまま、震える声で。
「じゃ、じゃあその……破って、みる?」
「マジすか、いいんすか!?」
「――ううん、全然いいワケないよねぇ?」
ビックーンッ! と、俺と芽衣の肩が2人同時に跳ね上がる。
俺は「あぁ……最近この展開が増えてきたなぁ」なんて、どこか達観した様子で自分の現状を分析しながら、芽衣と共にゆっくりと声のした方向へと視線を向けた。
そこには、さっきまで誰も居なかったハズの暗闇から、瞳孔が完全に開き切ったマイ☆エンジェルこと古羊洋子が、氷のような微笑を浮かべて佇んでいた。
芽衣の双子の妹にして、母性の塊のような優しさを兼ね備えた現役女子校生、古羊洋子さまの登場である。
巷では彼女が触れるだけで、ドブ水が富士の雪解け水並みの清流に浄化される、現代に蘇った妖精、いや天使だともっぱらの噂だが、きっと間違いないだろう。
今日も今日とて、お胸のバイオ兵器は健在のようで、冬服だというのに、彼女のブレザーを押しのけて、その存在感を大いに主張していた。
が、今はそんなこと、どうでもよかった。
さぁ、想像してごらん?
人気の居なくなった舞台袖で、絶世の美少女が、頬を赤らめながら、スカートを捲し上げる光景を……。
しかもその美少女は、自分の半身とも呼べる片割れで、同級生に至っては、師匠と慕っている男子生徒だ。
……うん、よくて3時間、悪くて6時間のお説教コースかな?
「よ、よよよよ、洋子!? ど、どうしてココに!? 生徒会室で待っててって言ったのに!?」
「そうなんだけどね? なんとなぁ~く、本当になんとなぁぁぁぁぁぁく、嫌ぁ~な予感がしたからさ。着いてきちゃった♪」
テヘ♪ と可愛く舌を出す、よこたん。
だが体から発散されている怒気は、全然可愛くなかった。
う~む? 軽く俺を3人殺せそうなくらい、怒気が膨れ上がっているなぁ。
ヤダなぁ、死にたくないなぁ。
よこたんは聖女かと見間違うほど、慈愛に満ちた表情でニッコリ♪ と微笑み。
「さて、2人とも? ボクが何を言いたいか……分かるかな?」
途端に俺と芽衣は視線をクロスさせる。
どうやら考えていることは同じらしい。
俺たちは爆乳わん娘と同じように、ニッッッッコリ♪ と笑い合いながら、お互いに指を差し合い、ハッキリとこう言った。
「「犯人はアイツです!」」
気がつくと、俺は芽衣と一緒に正座していた。
女性のブラジャーやパンティーに並ぶ、三大究極扇情増強補助道具の1つだ。
人類が生んだ発明品の中で、これほどまでに男心をくすぐる代物が、この世に存在しただろうか? いや、していない。
10代半ばにして、簡単な魔法なら使えるじゃないか? と巷でもっぱらの噂の未来のテロリストこと三橋倫太郎、通称アマゾンが世に解き放った、
『パンストとは1%の閃きと、99%のナイロンとポリウレタンの混合である』
は、みなの記憶に新しいと思う。
さて、では何故俺、大神士狼が突然パンストについて語り始めたか、みな疑問に思っていたことだろう。
理由は至極単純。
――我らが同士アマゾンが、女子更衣室のゴミ箱から、伝線したパンストを発見したからだ。
……いや待ってくれ、通報しないでくれ。
とりあえず、その取り出したスマホはポケットに戻そうか?
まぁまずは1回落ちつて、俺の話を聞いて欲しい。
別に盗撮とか盗みに入ったとか、そういう話じゃないから。ほんとだから!
これにはちゃんとした理由があるんですよ、いやマジで?
そう、事の発端は5分前に遡る。
◇◇
12月26日。
それまで忍者のように息を潜めてクリスマスをやり過ごしていた独り身たちが、一斉に息を吹き返すこの日。
我が森実高校では、2学期の終わりを告げる終業式が開催されていた。
と言っても、ウチの学校は他の学校と違って少し特殊らしく、1限だけ授業をしたのち、2、3限を使って、校長の長いうえにまったく身にならないブラック企業の副社長のような言葉を延々と聞かされる苦行を行い、各教室で通知表を返却。4限目で大掃除開始という段取りだった。
我が2年A組も、もう気分は冬休みなので、ダラダラとやりたくもない体育に精を出し、校長の、
『いいですか、みなさん? 何にとは言いませんが、ナニにはゴムをつけましょうね? ハメを外すのは構いませんが、ハメるのはダメですよ?』
と、最高にエキサイティングなことを言ってしまったがために、ヤマキティーチャーに無言で檀上の隅へと引きずられていく様を、涙ながらに敬礼で見送る素敵イベントが発生したりと、今日も今日とて森実高校は平常運転であった。
とくに校長が檀上の脇へ消えて行く最中に聞こえた「あぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!?」という叫び声は、今思い出しても胸が熱くなってくる。
闇へと消えて行く校長を前に、脳内で『ドナドナ』が流れ出したときは、とてつもない程の感動が胸に去来したのを、俺はきっと、この先忘れないと思う。
そして教室へと戻るなり、担任からさっさと通知表を受け取り、全学年通して大掃除が始まった。
問題児は一か所に集めて置きたいのか、元気とアマゾン、そしてこの2人の見張り役の為に選ばれたと思われる俺は、ヤマキティーチャーの独断と偏見により、無駄にクソ広い体育館を掃除していくことになったのが、全ての始まりだった。
タラタラと体育館内を掃除していた俺と元気の鼓膜に、アマゾンの焦ったような声音が貫いたのだ。
「た、大変だ2人とも!」
と、勢いよく女子更衣室から飛び出してきたアマゾン。
アマゾンは裁判所から飛び出してきた弁護団が掲げる『勝訴』の文字のごとく、伝線した黒のパンストを両手で高々と掲げながら、鼻息を荒くして、俺たちのもとへと駆けてきた。
その姿はさながら、風の谷あたりで『その者、黒きパンストを纏いて、森実の体育館に降りたつべし』とか言い伝えてられそうなくらい、威風堂々であった。
「女子更衣室のゴミ箱に、伝線したパンストが捨てられていたぞ!」
「猿野元気、三橋倫太郎――集合っ!」
「「はいっ!」」
瞬間、気がつくと俺達は、全員体育館の隅へと移動し、円陣を組むように、その真ん中にパンストをセッティングしていた。
そして現在に至る、というワケだ。
アマゾンは日頃見せない真剣な眼差しで、この世ならざるパンストの手触りを堪能しつつ、
「今日体育があったのは、ウチの学年だけ……。つまりっ! このパンストは、2年A組の女子の『誰か』ってことになる!」
「おいおい、アマゾン……おまえ名探偵かよ?」
「あぁ、ジッチャンもドン引きの名推理やで」
俺と元気がアマゾンを口々に褒めちぎると、アマゾンは照れ臭そうに「へへっ、よせやい」と、鼻の下を擦った。
そのプリティ極まる姿を前に、今すぐ眼球を取り外してガンジス川で洗濯したい衝動に駆られるが、そこは大人の対応ということで、グッと堪える。
その間にも、クラス1の頭脳派たる元気が、必死に記憶の底を漁っていた。
「朝はパンスト着用で、帰りは素足だった女子生徒かいな……アカンッ! どういうワケか記憶にモヤがかかって、思い出せへん!」
「落ち着け、元気。大丈夫だ。逆算すれば問題ない」
逆算? と首を捻る2人を前に、俺は「あぁ」とシリアス全開の声音で頷いてみせた。
「今日パンストを履いて来た女子生徒は、全員で3人。1人は蛇塚女子、もう1人は中川女子、そして最後は我らが『双子姫』の姉君、古羊芽衣サマだ」
俺がそう口にした瞬間、3人が3人とも、ほぼ同時に芽衣について思考を馳せた。
古羊芽衣――おそらく森実高校に通っている生徒ならば、全員知っていると言っても過言ではない伝説的美少女、それが古羊芽衣である。
太陽の光を一身に受け止めた亜麻色の髪に、濡れた紅玉のような瞳。
誰に対しても分け隔てない柔らかな物言いに、グラビアモデルのようなナイスバディな巨乳女の子。
……を2人とも想像しているだろうが、残念ながら本性はまったくの真逆。
ズボラで、腹黒で、おまえに計算高く、終いには超パッドで胸をギガ盛りしている、悪魔のような猫かぶりの女こそ、古羊芽衣の本質なのだ!
まぁこのことを知っているのは俺を含め、あと1人だけなんだけどね。
なんてことを考えている間に、さらに鼻息を荒くしたアマゾンが、興奮したように口をひらいた。
「と、とととと、ということはアレか!? このパンストは、こ、ここっ、古羊さんのヤツか!?」
「いや違う、よく見ろ。芽衣のパンストは60デニール、だがこのパンストは110デニール。今日110デニールを履いて登校して来た女生徒は全校で33人。そしてウチのクラスではただ1人……出席番号31番! 蛇塚同級生だ! つまりこのパンストは現役女子校生、蛇塚女子の脱ぎ捨てパンティ&ストッキングである! Q.E・D証明終了」
「さすが大神……いやパンスト@マスター。その観察眼はダテじゃないってことか」
「まったくや。何気に全校生徒のデニール数まで確認済みの、その情報収集能力……やはり相棒は天才か?」
「――いいえ、変態ですよ?」
「「「ッ!?」」」
突然。
突然である。
まるでこちらの心臓を握り締めるかのような鋭く、冷たい視線が俺たちの鼓膜を射抜いた。
俺たちは弾かれたように、声のした方向へと視線を向けた。
そこには呆れたような瞳をして俺たちを見下す件の美少女、古羊芽衣の姿があった。
芽衣は呆れを通りこして哀れみすら抱きかねない瞳で、俺たちを見下ろしながら、今日も今日とて、その美脚をパンストに納めていた。
その姿はまさに、名刀を鞘に納めるが如し。
なんならずっと見ていられそうなくらい、照り返すパンストのコントラストが美しい。
俺は「なっ? 言った通り、芽衣じゃなかっただろ?」と、その愛らしい唇を仲間たちに向けて動かそうとした寸前、芽衣が先んじてため息をこぼした。
「ハァ……。あまりにも遅いので心配して来てみれば……何をしているんですか、3人とも?」
「「犯人は大神士狼です」」
「あっ、テメェら!?」
その薄汚ねぇ口からハーモニーでも奏でるかのように、いけしゃあしゃあと嘘をぶっこむ元気とアマゾン。
その麗しき友情に、涙がちょちょぎれそうになる俺を尻目に、芽衣がヒョイッ! と身軽な動きで、俺たちの中心に供えられていた神器を取り上げてしまう。
途端にアマゾンと元気の口から「あぁっ!?」と悲痛な声が漏れる。
「コレはわたしが処理して置きますから、3人は早く帰る準備をしてください。とくに士狼と猿野くんは今年最後の生徒会活動があるんですから、チンタラしているヒマはありませんよ?」
と、俺たちに発破をかけてくる60デニール。
ふと時計を確認すると、確かにもう大掃除が終わっている時間だった。
チラッ! と体育館の外に視線をやれば、みなウキウキ♪ しながら帰りの家路へとついている姿が目に入った。
こ、こうしちゃいられねぇ!
俺らも早く帰る準備をしなければ!
冬休みをロケットスタートするべく、俺たちは慌てて掃除道具を片付け始めるべく動き出す。
俺は元気達と別れて舞台袖に設置されている掃除道具入れへと、いそいそと移動した。
……のだが、何故か芽衣はトコトコ♪ と、俺の後ろをついて回ってくる。
おいおい、完全に俺ロックオンですやん!
狙い撃ってるや~ん!
ちゃんと片付けるから、そんな心配しないで大丈夫ですわよ?
なんて内心俺がおどけている間に、芽衣は俺たち2人しか居ないことを確認するや否や、生徒会長の仮面を取っ払い、素の口調に戻って、
「ねぇ士狼、ちょっとした疑問なんだけどね? なんでアタシが60デニールのストッキングを履いているって気づいたの? 教えてないわよね?」
「そんなの一目見ただけで分かるだろ? 常識的に考えて」
「いや分からないわよ……。どこの世界の常識よ、ソレ?」
何故か若干引いている女神さま。
まるでその身を守るかのように俺から1歩身を引くと、そのパンストに包まれた『おみ足』が、神々しく姿を現した。
う~ん?
1度でいいから、その60デニールのパンストを引き千切って楽しみたい。
ハァ、何故サンタさんは俺に『芽衣の60デニールのパンストを引き千切る』権利をプレゼントしてくれなかったのだろうか?
あの肥満老人どもは、ちゃんと仕事をしているのだろうか?
「はいはい。サンタへの風評被害はそこまでにして、さっさと片付けちゃいなさい」
「な、なに!? 何故俺の心の声が……!? さてはキサマ、見ているな!」
「普通に気持ち悪くニヤニヤしながらブツブツ呟いていたじゃない……」
何言ってんのよ? と、肩を竦める我らが女神さま。
あれぇ?
声に出てましたか、今の?
おいおい、どうやら俺のお口の警備員も冬休みに突入したらしい。
思考回路がただ漏れじゃないか。
コレは普通に怒られるなぁ、なんて考えていると、俺の予想に反して、芽衣のお叱りがない。
いつまで経ってもこない『お叱り』に、俺が「はて?」と首を捻りながら、おそるおそると言った様子で芽衣の顔を覗きみる。
そこには珍しく頬を赤く染めながら、言いづらそうに口元をもにょもにょ♪ させる女神さまが居た。
「芽衣?」と俺が彼女の名前を呼ぶと、我がビックボスは、チラチラと俺の顔色を窺うように、こう言った。
「その……そんなに破りたいの? パンスト?」
「破りたい。超絶破りたい」
ほんと、お口の警備員は一体何をしているのか?
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もはや反射的にそう言ってしまい、すぐさま後悔。
分かってる……ビンタ(拳)コースでしょ?
知ってる、知ってる。
俺が菩薩のような瞳で右頬を差し出すと、芽衣は拳を振り上げる……ことなく、顔を真っ赤にして、スカートの裾を、
――ちょいっ!
と摘み上げた。
すると、どうだ?
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えっ!?
なにしてんの、コイツ!?
痴女なの?
痴女さんなの!?
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そんな俺のことなどお構いなしに、芽衣は羞恥で真っ赤になった頬のまま、震える声で。
「じゃ、じゃあその……破って、みる?」
「マジすか、いいんすか!?」
「――ううん、全然いいワケないよねぇ?」
ビックーンッ! と、俺と芽衣の肩が2人同時に跳ね上がる。
俺は「あぁ……最近この展開が増えてきたなぁ」なんて、どこか達観した様子で自分の現状を分析しながら、芽衣と共にゆっくりと声のした方向へと視線を向けた。
そこには、さっきまで誰も居なかったハズの暗闇から、瞳孔が完全に開き切ったマイ☆エンジェルこと古羊洋子が、氷のような微笑を浮かべて佇んでいた。
芽衣の双子の妹にして、母性の塊のような優しさを兼ね備えた現役女子校生、古羊洋子さまの登場である。
巷では彼女が触れるだけで、ドブ水が富士の雪解け水並みの清流に浄化される、現代に蘇った妖精、いや天使だともっぱらの噂だが、きっと間違いないだろう。
今日も今日とて、お胸のバイオ兵器は健在のようで、冬服だというのに、彼女のブレザーを押しのけて、その存在感を大いに主張していた。
が、今はそんなこと、どうでもよかった。
さぁ、想像してごらん?
人気の居なくなった舞台袖で、絶世の美少女が、頬を赤らめながら、スカートを捲し上げる光景を……。
しかもその美少女は、自分の半身とも呼べる片割れで、同級生に至っては、師匠と慕っている男子生徒だ。
……うん、よくて3時間、悪くて6時間のお説教コースかな?
「よ、よよよよ、洋子!? ど、どうしてココに!? 生徒会室で待っててって言ったのに!?」
「そうなんだけどね? なんとなぁ~く、本当になんとなぁぁぁぁぁぁく、嫌ぁ~な予感がしたからさ。着いてきちゃった♪」
テヘ♪ と可愛く舌を出す、よこたん。
だが体から発散されている怒気は、全然可愛くなかった。
う~む? 軽く俺を3人殺せそうなくらい、怒気が膨れ上がっているなぁ。
ヤダなぁ、死にたくないなぁ。
よこたんは聖女かと見間違うほど、慈愛に満ちた表情でニッコリ♪ と微笑み。
「さて、2人とも? ボクが何を言いたいか……分かるかな?」
途端に俺と芽衣は視線をクロスさせる。
どうやら考えていることは同じらしい。
俺たちは爆乳わん娘と同じように、ニッッッッコリ♪ と笑い合いながら、お互いに指を差し合い、ハッキリとこう言った。
「「犯人はアイツです!」」
気がつくと、俺は芽衣と一緒に正座していた。
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